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ファンに愛され続けるアニメ『ゆゆ式』プロデューサーが作品への並々ならぬ愛情を隠し続けた理由

観返すたびに癖になる『ゆゆ式』の魅力

――この機にあらためて、TVシリーズに関して、原作との出会いから順に振り返らせてください。

小倉:
 原作に関しては、おもしろいマンガがあると人に薦められて手に取ったのが最初です。独特のリズムやキャラのかわいらしさが心地よくて、仕事とは無関係にハマりました。本当に何度も読み返していて、寝る前にも枕元に置いて読んでいました(笑)。ただ『ゆゆ式』には、不思議と何回も繰り返し読んでしまうような習慣性があったんですよ。そうして徐々に、この何回でも楽しめる感じはもしかしたら僕の個人的な感覚なのではなく、もっと広く、一般に通用するエンターテインメントなのではないかと思うようになってきたんです。つまり僕が仕事から帰ってきて、一息ついて原作マンガを読んでいたように、深夜にテレビで観るのに適した、アニメファンのライフスタイルにマッチした作品なのではないかと。そこに思い至ったとき、アニメの企画を立ち上げようと決めました。

――習慣性が一つのキーワードとしてあった?

小倉:
 そうですね。たしか最初にTVシリーズのキャラクターデザインの田畑さんが言ったのかな、「じわじわくる」って。現場でもその“じわじわ感”という言葉をよく使っていたんですが、読み返すたびに、観返すたびに癖になっていく魅力がある。実際いまでも、ニコニコ生放送で一挙放送をやるたびに、僕も必ず一気見してしまいますからね(笑)。TVシリーズのときも、話数が進むごとにファンのみなさんが愛情を深めていってくださっていた感触が強くあります。スタッフとファンのみなさんの共通感覚として “じわじわ感”という言い回しは一つのキーワードだったのかなと思いますね。

――小倉プロデューサーから現場へのオーダーはあったのでしょうか。

小倉:
 オーダーを出したのは、TVシリーズの制作が動き出す最初の段階までです。たとえばTVシリーズのシナリオ会議は当初、作品の方向性がうまく定められずに難航していたんですね。そんなときにアニメーションプロデューサーの小笠原(宗紀)さんから「小倉さんがこの作品でやりたいことをスタッフへの手紙として書いてください」とアドバイスを受けまして。この作品で何をしたいのか、どういう作品にしたいのかをあらためて1枚の手紙のようにまとめてみようと。結局は1枚に収まらず2枚になりましたが(笑)、そうして書いたものが、その後のTVアニメ『ゆゆ式』のルールになりました。

――ルールですか?

小倉:
 つまり、制作を進めていくと途中でどうしても発想がブレそうになることがありますが、そんなときにこの手紙が、一旦立ち返って考える原点のようなものになったんです。いま振り返っても、これをやったのは大きかったと思いますね。

――具体的にはどういったことを書かれたのでしょうか。

小倉:
 一つにはこの子たちの実在感や日常感を大事にするということです。
 これは三上(小又)先生にご指摘いただいてハッとしたことなのですが、「この子たちは芸人ではありません」と。つまり、『ゆゆ式』のこの子たちは誰かを笑わせるためにおしゃべりしているのではなく、ただそこに存在していて、毎日を楽しんでいるだけだということですね。この子たちのなかにはお互いを見ている目線しか存在せず、だからアニメでもカメラ目線のような芝居は避け、またいわゆる男性目線で見たかわいらしさもなくしています。単にこの子たちの自然体の姿が、存在自体がかわいいのであって、アニメはその光景を、外側の客観的な視点から切り取るだけにしようと。
 また一般的なシナリオは、えてして会話をきちんと成立させるものですが、普段のおしゃべりはそうではないですよね。人の話を聞いていなかったり、話を遮ったり、唐突に話題を変えたりする。だから、『ゆゆ式』の会話もむしろそういうものにしようと。

――その結果が、あの改稿を繰り返すシナリオ制作だったと。

小倉:
 はい、第3話までほぼ完成稿を作ったあとで全ボツにしてリスタートしたりと、僕がこれまで関わったなかでも、ダントツで改稿を重ねた作品になりました。『ゆゆ式』では空気感を描くことが重要になるので、物語を組み立てるわけでもなければ、ギャグアニメのようにネタを並べるわけでもないんですね。そこが普通の作品とはまったく違っていて。会話ごとの流れがあり、感情の流れがあり、エピソードごとに1日のなかでの時間の流れがあり、シリーズを通しての季節の流れがあり、そしてあの子たちの関係性の積み重ねがある。なのでリスタートしてからのシナリオ会議では、まずみんなでホワイトボードに最終話までの構成表を書いたんですよ。これも役立ちましたね。

――構成表というのは?

小倉:
 僕らが勝手に呼んでいた言葉ですが、いわゆるシリーズ構成とは少し違って、文字どおり“表”でしたね。各話ごとのエピソードを整理するだけではなくて、「一言で言うと何の話だ」的なメモとか、この子たちのテンションの上がり下がりなどを一覧表にまとめたんです。

――テンションの変動まで組みこんであるのはおもしろいですね。

小倉:
 『ゆゆ式』は一話完結のギャグものではなく、ちゃんと関係の積み上がっていく、「このエピソードが何話目なのか」がわかるような作品にしたかったんですよ。なのでTVシリーズでは原作の時系列を整理して季節のめぐる感覚を大切にしました。夏は暑いから外に出たくないし、冬は寒いから会話が弾まない。そんな当たり前の日常を描きつつ、まず3人の関係を見せて、ゆずこのいない過去の幼なじみのエピソードにも触れて、相川たちとの仲を深めて、6人グループになって、もう一度3人のエピソードで締める。シリーズ構成であると同時に、この季節だったら、この距離感だったら、この子たちは何をするだろうといったことを図示して共有したんです。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

イレギュラーづくしの現場

――またそうしたコンセプト作りやシナリオ作業以降、画作りに関しても何かオーダーは出されていたのでしょうか。

小倉:
 実制作はクリエイターの領分ですから、僕からははじめに、『ゆゆ式』の方向付けに沿った禁止事項を設けさせていただいたくらいですね。

――禁止事項というのは具体的には?

小倉:
 たとえばワイプでのシーン転換は避けましょう、とか。次の会話に移るときの場面の切り替え方法としては便利ですが、感情の流れを切断してしまうことにもなるので、会話と会話のあいだの時間や、そのあいだにあるあの子たちの感情の動き、ある場所からある場所へと移動するあいだの移動時間、そうした”間”にもつづいている感情があるということを意識していきましょうと。
 この作品ではシナハン(シナリオハンティング)に行かせてもらっているんですが、そのおかげで、教室のシーン、部室のシーンといった分け方ではなく、教室から部室までの移動を、どういうルートを、どの時間帯に、というところまでイメージできるようになりました。廊下を歩きながらきっとこんな話をしてるんじゃないかと夢が膨らみましたね(笑)。第1話で情報処理部のポスターを見つけるアニメオリジナルのシーンなども、そんな取材のなかで生まれたものです。
 またシナハンとは別に東京でも学校をお借りして、モデルさんにも来てもらい撮影会を行いました。『ゆゆ式』の3人は教室ではいつも定位置でしゃべっているので、ややもすると同じような絵面が多くなるおそれがあったため、映像として飽きさせないものにすることは作品の一つの課題でした。そのため、撮影会ではあの子たちと同じように座ってもらい、さまざまなアングルから撮影して参考資料にしています。具体的にどこまで役立ったかはわかりませんが、そうした積み重ねが、あの子たちの実在感を高めることにつながっていると思います。

――その点では、キャストの方々が果たした役割も大きかったと思います。

小倉:
 キャストのみなさんには個性豊かに演じていただいて、感謝の言葉しかありません。『ゆゆ式』はオーディションも特殊だったんですよ。というのも、『ゆゆ式』はあの3人の会話がほとんですから、心地よいバランスが最重視したポイントでした。だから、オーディション時のシナリオも3人の会話形式で作り、一度に3名のキャストの方に同時に部屋に入ってもらって、組み合わせを変えながらゆずこ、唯、縁をそれぞれ全員にやってもらいました。さらに選考時にはその音声を組み換えて、どの組み合わせが一番マッチするかを何十通りも試したりと、『ゆゆ式』の現場は本当に、何から何までイレギュラーづくしでしたね。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

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