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セクシーな男(松尾歩八段)【叡王戦24棋士 白鳥士郎 特別インタビュー vol.11】

 6月23日に開幕した第4期叡王戦(主催:ドワンゴ)も予選の全日程を終え、本戦トーナメントを戦う全24名の棋士が出揃った。

 類まれな能力を持つ彼らも棋士である以前にひとりの人間であることは間違いない。盤上で棋士として、盤外で人として彼らは何を想うのか?

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 ニコニコでは、本戦トーナメント開幕までの期間、ライトノベル『りゅうおうのおしごと!』作者である白鳥士郎氏による本戦出場棋士へのインタビュー記事を掲載。

 「あなたはなぜ……?」 白鳥氏は彼らに問いかけた。

■前のインタビュー記事
なぜ十六歳の竹内雄悟はプロ棋士になろうと思ったのか?【vol.10】


叡王戦24棋士 白鳥士郎特別インタビュー

八段予選Cブロック突破者 松尾歩八段

『セクシーな男』

松尾歩八段
顔がアップで映る様子を視聴者は「セクシーアングル」と呼ぶ

 サッカーの世界には『セクシーフットボール』という言葉がある。
 ACミランの黄金期を支えたオランダ人のルート・フリットがニューカッスルの監督に就任した際に放った言葉とされるが、日本においては高校サッカーにおいて使われる。サッカーライターの安藤隆人氏が、とある高校のサッカーに衝撃を受け、そのフレーズを使い始めた。
 野洲高校、そして同校出身の乾貴士である。
 ワールドカップロシア大会で見事なゴールとアシストを決めた乾のプレーは、普段はサッカーを観ない人々にとっても鮮烈な印象を与えたに違いない。
 スペインでプレーする乾は、あのFCバルセロナから日本人で初めて得点を挙げたことでも知られる。
 野洲高校の山本佳司監督は「相手の服を一枚ずつ脱がせていくようなサッカー」と表現したが、ヒールパスやサイドチェンジを駆使して相手の守備を完全に崩し去るそのプレーは、まるで詰将棋を見ているかのように鮮やかだ。
 そんな『セクシー』を冠する男が、将棋界にも存在する。
 それが松尾歩八段である。

「これはセクシーな手が出ましたね!」
 解説の勝又清和六段が思わずそう叫んだ。それほどに、松尾の指し手は鮮やかだった。
 八段予選Cブロック準決勝。敵の歩の前にタダで取れる桂馬を打ち込むというその一手によって、松尾は関西の強豪・畠山成幸八段を討ち取った。
 味方のみならず敵の駒までもが全て連動し……最後、畠山玉は丸裸になっていた。

 予選決勝の相手は、大のバルセロナファンとして知られる北浜健介八段だった。
 対局前から既にセクシーの文字が乱舞する異様な盛り上がりを見せる好カード。
 松尾は振り駒で先手を引くが、しかし戦いは北浜が有利に進めていった。
 互いの戦力が中央に集中していく中、北浜は上部からの攻撃に強い高美濃囲いを築くことに成功。松尾はその北浜玉に銀不成を連発して横から迫るものの、頼みの竜も弾き返され、どうしても届かない。
 両者一分将棋となった時、北浜の評価値は1000点を超えていた。優勢の判断だ。

 松尾の攻めが切れたのを見逃さず、北浜が反撃に転じる。
 詰将棋の名手として知られる北浜の攻めは相当のプレッシャー。松尾は慌てた手つきで角を打って北浜玉に王手をかけるものの、銀の移動合いというまさに詰将棋のような筋があって詰まない。北浜のリードが広がっていく。

 だが松尾は諦めない。
 局面を複雑にする手を指し続け、北浜に決め手を与えない。焦った北浜は激しく扇子をあおぐ。
 善悪不明・複雑怪奇な端の攻防が繰り広げられ……気がつけば、評価値は松尾2000点と逆転していた。
 予選準決勝の華麗な終盤とは対極にある、泥臭い、だが力強い勝利だった。

叡王戦八段予選決勝。対局相手は北浜健介八段だった

 将棋ファンが松尾のことを『セクシー』と表現し始めたのは、その美声が発端だった。
 低く、しっとりとした声。
 パーマを当てて後ろになでつけた豊かな黒髪も、少しフレームの太い黒縁の眼鏡も、確かにセクシーな印象だ。
 物理学者を父に持ち、三段リーグは一期抜け。
 新人王戦優勝。将棋大賞でも新人賞を取り、升田幸三賞も受賞している。
 松尾流穴熊や横歩取り5二玉戦法といった現代将棋において重要な研究手を幾つも披露する研究家として知られる一方、高い勝率を誇る実戦派としての顔も持つ。
 先期の竜王戦は1組で堂々の優勝。
 あの羽生善治と竜王戦挑戦者決定三番勝負を戦い、あと一歩まで追い詰めた。
 松尾が勝って挑戦者となっていれば永世七冠は未だ達成されておらず、国民栄誉賞もなかっただろう。
 そしてそれは、本当にあと少しだったのだ。

 しかし不思議とタイトル挑戦やA級昇格がない。
 松尾ほどの強豪でそういった実績がないのは珍しく思える。
 だがそれに対して焦った様子を見せず、淡々と日々を過ごす。
 趣味はお酒、タバコ、読書。
 将棋年鑑のプロフィールでも質問に答えない。
 メディアに出演しないわけではないが、どこかミステリアス。
 そんな松尾の裏側に迫った。

──松尾先生というと、まず『松尾流』と呼ばれる戦法がいくつも存在するなど研究家というイメージがあるのですが……ご自身では、棋風というかタイプというか、そのあたりをどう捉えておられますか?

松尾八段:
 そうですね。松尾流という戦法の名前をつけていただいているというのはあるんですが、自分が最初にやり出したわけでもなく、なんとなく、ついた名前で……。

──なんとなく。

松尾八段:
 『松尾流穴熊』とか、それももともとあった形でして。なんとなく、その……勘違いというか。なんとなくついた、というのもあるものですから。

 研究もしますけど、自分としては実戦派という面もあると思っているんですよね。やっぱり将棋って研究だけではなかなか勝てないものですから、実戦の勘みたいなものは大事にしたいなと思ってまして。そういう感覚の中でやってますね。

──新しい手というのも、そういう実戦の感覚の中から生まれてくるのでしょうか?

松尾八段:
 えーと……新しい指し方は、やっぱりでも研究ですかね。練習の将棋で指した手をヒントに、ですとか。他の人の将棋を見て、それをアレンジして、ってことから……。

 升田幸三賞をいただいた形は、もともと他の棋士の方が指していたものを、一応、自分なりにアレンジしたことを多少評価していただいたという感じなんですけど。ええ。

──以前、松尾先生は将棋専門紙で『対局観戦が半分趣味』ということを書いておられたと思うのですが、それは他の方の将棋を見るのがとても好きだということなんですか?

松尾八段:
 そうですね。特に順位戦なんですけど。将棋会館で同じ日に一斉にやってる将棋なんかは、まぁ午後7時とか8時とか遅い時間から見に行って、色んな将棋が見れますし……時間的にもちょうどいいというのもありますし。

 リアルタイムで、近くで、他の人の順位戦を観戦するというのは一つの楽しみではありますね。ただ、最近ちょっと少なくなってるんですけど。

──お忙しくなってきて、ということですかね?

松尾八段:
 ちょっとスタイルが変わってきてというのもありますね。自分自身の。

 家でけっこう見ることも増えてきてますね。

──それこそ、ニコ生をご覧になって……。

松尾八段:
 そうですね。ニコ生……見て、とか。同時に色々……とか。

──多画面で、ということですね(笑)。ファンの方も同じように観戦できるわけじゃないですか。コメントをつけて……松尾先生なら『セクシー』っていっぱいつくと思うんですけど。

松尾八段:
 はい(笑)。

叡王戦八段予選決勝後のインタビューの様子
画面がコメントで埋まり、その中には「セクシー」の文字も

──そういうファンの見方というのをどうお考えでしょうか? 面白いとか……。

松尾八段:
 ああ、面白いですねぇ! 特にニコ生はやっぱり色んなコメントが流れて。今日も出させていただいて……。

 

 このインタビューは、王位戦七番勝負の第七局、豊島将之棋聖が菅井竜也王位からタイトルを奪取した直後に行われた。
 松尾はニコ生での解説を担当していたが、菅井が投了寸前まで追い詰められたとき、画面に流れる将棋ファンのコメントを見詰めながら、
『棋士として、敗者に感情移入するということはないです。けれどファンの方々の声援を見ていると……グッと来るものがありますね』
 と語っていた。
 そういったことは、木村一基九段が羽生善治王位に挑戦し、敗北した、第57期王位戦の最終局でも感じたことだったという。
 なお松尾は、木村と共に羽生の研究会に所属している。

松尾八段:
 菅井さんが失冠してしまうという状況になって、ファンの方々がたくさんのコメントをしてくださるのを見ていて……ファンの方々の想いというのをわかりやすく実感できるようになったな、と思っていました。

 面白いと同時に、以前よりだいぶ……何て言うんですかね、見ていただく機会が増えて、ファンの方の声も届く、聞かせていただく機会が増えて、ありがたいことだと思いますね……。

──先生は今日、解説の中で『グッとくる』という言葉を何度か使っておられましたが、やはりファンの方々の応援にグッとくるということなのでしょうか?

松尾八段:
 そういう感じですね。あんまり他の人が負けるところに関しては感情移入をしたくはないので。ファンの方が応援していて……本当に好きでいてくれるんだな、というのが伝わってくると……。

 『棋士として』というよりは『一人の人間として』という感じなのかもしれませんけど……。

──先日、NHK杯で上野裕和先生と戦われた時がありましたよね。その対局の自戦記を上野先生が書かれてて。その中で、上野先生がフリークラスに落ちてしまった対局の後に、松尾先生がずっとお酒を付き合ってくれたと……。

松尾八段:
 はい。

──そういうところに、我々ファンはグッとくるんですけど。

松尾八段:
 あれは……やっぱり順位戦を観戦してて、まぁ何となく『飲みに行きますか』ってところもあったんですけどね。良く書いてもらっちゃってますけど(笑)。

 

 松尾は自らの優しさを表に出さないが、その優しさに触れた人々にとって、松尾との時間は忘れがたい印象として刻まれている。
 先に記した第57期王位戦の最終局でも、現地大盤解説を務めた松尾は、飯島栄治七段と共に打ち上げ終了後も、敗れた木村と時を過ごしていたという。
 棋士として、感情移入はしない。
 けれど一人の人間として、そっと寄り添う。
 それが松尾流の優しさなのかもしれない。

──お酒を飲まれるようになって、ご自身の性格が変化してきたということを以前、書いておられたと思うんですが。酒場で知り合った人の新年会に混ぜてもらうようになったり……。

松尾八段:
 ああ、ありましたね。そういうことも。

 かなり人見知りが激しいほうなので……それが幾分、マシになったというか、自分の中ではけっこう変わったと思ってるんですけど。

 それは、お酒を飲むようになって、人と交流するようになったからなんだろうなって思ってるんです。

──そうやって社交的になっていったことで、棋士として変わってきた部分というのはあるんですかね?

松尾八段:
 棋士として、ですか? うーん……。

 あんまり考えたことはないんですけど、でも…………『棋士として』に繋がってくると思うんですけど、日々を楽しくというんですかね。あんまり思い悩んだりすることは減ったかな? とは思いますね。

 ただそれは、年齢的なことかもしれませんし……。

──若い頃は、いろいろと思い悩むことがおありだったということでしょうか?

松尾八段:
 そうですねぇ……。

──19歳頃、ビリヤードを趣味にしようとしたことがあったと……。

松尾八段:
 若い頃、特に奨励会の頃は、遊ぶことも少なかったですし、棋士になって余裕が出てきたんでそういう趣味を持とうとしたんだと思うんですけど。

──腕前は、どれくらい?

松尾八段:
 ビリヤードですか? 全然! 仲間内でちょこっと突くくらいなんで、上達しなかったですし。自分の中のブームもすぐに去っちゃいましたし。

 棋士になったときに、趣味を書く欄があったんです。無理やりネジ込んだっていう感じなので……特に書くものも思いつかないような感じだったので。それくらい、そうですね……趣味というものがない、という感じだったんだと思います。

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──先生は、愛知県の日進市がご出身とのことですが。

松尾八段:
 はい。ええ。

──私は、すぐお隣の名古屋市天白区に住んでいたことがあるんです。

松尾八段:
 ああ! そうなんですか。

──先生は日進にお住まいの頃に、将棋を覚えられたのでしょうか?

松尾八段:
 はい、そうです。小学校3年生のときに将棋を覚えたんですけど、それから……高校に1年間、向こう(愛知県)で通ってたんです。

 でも中退をして、それで東京に出てきたんです。

──それはやはり、奨励会に集中するために?

松尾八段:
 そうですね。将棋に集中するというのが大きな理由ですね。

 あと、学校の勉強もあんまり身が入ってなかったので……単位が足りなくなって……。

──日進というと、名古屋のすぐ東側ということで、割と東西の真ん中というか。ですから関西の奨励会に入るという選択肢もあったのではと思うんですが。やはり所司先生の門下に入られたから、関東だったのですか?

松尾八段:
 そうですね、それも理由の一つです。

 あとは、親が『人数の多い関東で揉まれたほうがいいだろう』ということで。それでダメなら諦めもつくだろうし……という感じのことを言ってましたね。

 どの程度、本気だったかはわかりませんけど……『強いほうに行って、早いところ諦めてくれれば』っていうことも言ってましたね(笑)。

──当時はやはり、関東のレベルが高かったとうかがっておりますしね。

松尾八段:
 やっぱり人数が多くて盛んなイメージがありましたから。

──そういう『試してこい!』という感じの親御さんでしたから、17歳くらいの息子さんをお一人で東京に出すこともできたんでしょうか。今の時代だと、あんまり東京に高校生くらいの子が一人暮らしするというのは……。

松尾八段:
 でも当時だと、今より地方出身者が多かったような気がするんですけどね。あと、大学行かなくてとか、高校中退しちゃったりする奨励会員も多かったので……。

 何となく、そういう時代の流れというか、時代背景というのは、ありましたね。

──まだネット将棋も発達していなくて……。

松尾八段:
 そうですね。ネット将棋はなかったですね。

──じゃあ、将棋会館に行って、腕を磨かれてという感じだったんですね。

松尾八段:
 はい。将棋会館で、仲間と一緒に練習将棋を指すという。実戦を指してという感じです。

──記録係もたくさんなさったんですか?

松尾八段:
 はい。かなり……週に2、3回という頻度でやってたと思います。

──ではその時に将棋会館へ行く習慣が付いて、プロになってからもそのまま順位戦の観戦をしたりという流れなんでしょうか?

松尾八段:
 そうですね。それはかなり大きかったと思います。その当時の感覚が、ずー……っと抜けきらないというか(笑)。

──どんな持ち時間の対局をとるのが好きだったとか、ありますか?

松尾八段:
 私はどんな対局もとってましたね。3時間くらいの将棋もとってましたし、6時間の順位戦も嫌いではなかったので。

 なんとなく、長い時間の将棋をとってるほうが強くなれるという思い込み……というか、修業になるという感覚があった気がしますね。

 奨励会員の頃にやった勉強や、記録係は、何らかの形になって活かされているとは思います。具体的にどんな形で自分の将棋に影響したかは……ぼんやりしていて、わからないですねぇ。

──修業時代、目指していたプロの先生などはいらっしゃいましたか?

松尾八段:
 やっぱり、羽生さんが七冠を取られたりとか、郷田さんとか……トップ棋士に憧れというのはありましたね。特に羽生さんですかね。第一人者なので、羽生先生の将棋に憧れていたというのは、ありましたね。

──羽生先生との接点というのは、棋士になられて研究会をご一緒にされるようになってから……?

松尾八段:
 あ、はい。四段に上がって、1年か2年か……割とそんなにたってない頃に、研究会に入れていただくようになって。

 けっこう、長きにわたってお世話になっているんですけど。

──やはりそれは、松尾先生の中に、羽生先生にとってもためになる何かを見つけられて……ということなんでしょうか?

松尾八段:
 うーん……私にどういういきさつで声をかけてくださったか、あんまり憶えてなくて。そのへんはちょっとわからないですね。

──松尾先生もトップ棋士のお一人になられて、羽生先生ともたくさんの対局を重ねておられます。今回の叡王戦本戦でも羽生先生と当たる可能性がありますが……。

松尾八段:
 ああ、はいはいはい。

──やはりそこは、期するものがあるのですか?

松尾八段:
 いや、あんまりないんですよ。実は。

──あ……ないんですか。

松尾八段:
 どなたと当たっても、強い方ばかりですし。対戦相手が組まれたら、それから考えるというか……ただただ、その対戦に向けてやるだけのことをするという、そういう感覚ですね。

──今日の、菅井先生や豊島先生のように、叡王戦も髙見先生と金井先生という、若い先生同士のタイトル戦というのも増えてきました。松尾先生の中で、そういう流れはどう捉えておられるでしょうか?

松尾八段:
 そぉうですねぇ。私ってなんか、のんびりしたところのある人間なもんですから、急に若い人たちがどんどんタイトル戦に出るような時代になったんだなぁ……と。

 ただ、そういうことについて思うのは……もっと危機感を持ってシビアに先のこと見据えて将棋に取り組んでいかなきゃいけないな、と。

──北浜先生との予選決勝は、長手数の大熱戦でした。松尾先生としては、実戦派ということで、やはり中終盤の力強さというのを伸ばしていこうと?

松尾八段:
 中終盤でミスをすると、負けてしまうので……そこは常に意識するところではありますけど。でも序盤でミスをしても負けてしまうので……。

──確かに。

松尾八段:
 全体的に、少しずつでもレベルを上げていきたいなと。どの部分も大切にして、伸ばしていきたいなと思っています。

──棋士になられてから今まで、自分の力が伸びたなと思われますか? 強くなったことを実感なさった瞬間などあったら教えていただきたいのですが。

松尾八段:
 うーん、それってなかなか難しいんですよね……ぼんやり、なんとなく……。

 勝ってると、やっぱり『強くなったかな』って思うんですけど(笑)。

 でもそこから負けたりすると、そのテンションが下がるというか……だから最近、あんまりそういうことを考えずに、ただただやれることをやるだけっていう感じになってますね。

──松尾先生は、将棋の才能ってどんなものだと思われますか?

松尾八段:
 ううーん…………難しいですね、それはなかなか……。

 たとえば、藤井さんみたいに若くてすごい突出した存在を見ると……うん、『才能』という言葉をパッと思い浮かべることはあるんですけど。

 でも、そういうことをプレーヤーがあんまり、それについて語るのは……どうなのかなっていう気もしていまして。

──それを言ったら終わりだろ、と。

松尾八段:
 そうですね。そういう感覚がありますね。

 なのであんまり考えないようにしてるのかもしれませんね。意識の外に追いやってるような感覚ですかね。

──逆にでは、努力についてはどうでしょう?『俺の方が努力してるから強いはずだ』とか、『相手の努力がすごいから負けたんだ』とか……。

松尾八段:
 そういうのもあんまり考えないですね。

──もう強いか弱いかだけ、と。

松尾八段:
 そうですね。そういう勝負哲学的なものを追及していないのかもしれませんね、自分の中で。

 ただただ、ガムシャラにやるだけという感覚ですかね。

──では最後に、どういう心構えで本戦に臨まれるかを教えていただけますでしょうか。

松尾八段:
 あれこれ考えるのが好きではないので、シンプルな状態で指したいという感じですかね。いつもと同じようにやることをこなして、将棋盤に向かったら、シンプルに指したい。そういう感覚ですね。

──お酒がお好きな松尾先生ですが、対局の前は控えると以前ご自身で書いておられましたよね。それは、勝利の美酒を美味しく飲むためだ……と。

松尾八段:
 はいはい(笑)。

──叡王戦を戦われた後に、呑みたいお酒というのは何でしょう?

松尾八段:
 呑むとしたら……最近はウィスキーが好きなので。ウィスキーのソーダ割りで。

 松尾は終始、真剣な表情で私の質問に答えてくれた。
 初対面の私に対して、どんな質問にも丁寧に、少しでもわかりやすく伝えようと言葉を選びつつ、あの低い声で。
「長時間の解説でお疲れのところ、ありがとうございました。では、こちらのインタビューをもとに記事を書かせていただきます」
 そう言ってインタビューを終わろうとした、その時。
「あの」
 松尾は私を呼び止めると、丁寧に頭を下げて、こう言ったのだ。

「本当に、すごくよく調べてくださった上でインタビューを行っていただいて……ありがとうございます」

 私は……何と答えていいかわからず、言葉を失っていた。
『お疲れ様です』『記事、楽しみにしてます』
 そう言ってくれる人はいる。
 だが、事前の準備にまで思いを馳せて、それを労ってくれる人は……将棋界以外を含めても松尾しかいなかったから。


 ニコニコニュースオリジナルでは、第4期叡王戦本戦トーナメント開幕まで、本戦出場棋士(全24名)へのインタビュー記事を毎日掲載。

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