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次にやらかすのはTetherか?

山路:
 最近、また別の仮想通貨「Tether」に疑惑が湧いているという話なんですけれども、このTetherというのは、そもそもどういう仮想通貨なんですか?

小飼:
 これは仮想通貨としては面白いことに、ドルに1対1になっている。

山路:
 もう1ドルは1Tetherみたいな感じになっている?

小飼:
 はい。なので、別の言い方をすると、例えば1億ドルあると、1億USDT発行できるわけですね。10億ドルあると、10億USDTを発行できる。要は、発行されたのと同額の U.S. dollarsを発行者が持っているという。

山路:
 なんかそれって、円でポイントを買う、みたいなイメージですよね? あえて、現実の通貨と1対1にするメリットって一体何なんでしょうか?

小飼:
 現実の通貨を送金する、だからこれは仮想通貨になっていることによって、仮想通貨を送金するのと同じスキームでいけるわけですよね?

山路:
 ある国からある国へ、あるいは、ある取引所からある取引所へ。少ない手数料で送れたりする?

小飼:
 そういうことですよね。

山路:
 1ドル1USDTだったら、価値はそんなに変わらないだろうと。

小飼:
 そうそう。だから最終的に何ドルで売った? というのと、何Tetherで売った? というのが、同じように扱えるはずなわけですよね? 問題は、このTetherを発行していた連中が、それに相当する現物の U.S. dollarsを持っていなかったんじゃないかと。

山路:
 じゃあつまり、Tetherを発行するよと言って、勝手にガンガン自分たちで札を刷っている感じなわけですか(笑)。それって、めちゃめちゃヤバいんじゃないんですか?

近代で起こった通貨革命“ニクソンショック”

小飼:
 そうそう、もしそうだとしたらね、ヤバい。でも実は、金本位制をやめたニクソンショック【※】というのは、 U.S. dollarsに裏付けがありませんでしたと言って、お手上げ宣言したのが、ニクソンショックでもあるので。だから、同じことを政府はやっているんですよ。

※ニクソンショック
1971年8月、米国のニクソン大統領がドルの金兌換(だかん)の停止を宣言したこと。ベトナム戦争による財政悪化の解決策として発表され、輸入課徴金の実施などを内容とするドル防衛のための新経済政策によって、世界経済が影響を受けた。

山路:
 じゃこの仮想通貨、Tetherを発行してる人達が、裏付けなしにTetherを発行していた疑惑があるわけじゃないですか。

小飼:
 疑惑があって、解けていない。ですが、まだ疑惑止まりです。

山路:
 それが本当なら、市場が崩壊するというのは、どういうことなんでしょうか?

小飼:
 例えば最終的に、1BTCを1万USDTで買った、売ったとするじゃないですか。

山路:
 はいはい。

小飼:
 そうするとその人は、1万USDの代わりに1万USDTを持ってるわけですよね。これを実際のUSDにしたいと言った時に、みんなが一斉にそれをやった! と言った場合には、出来なくなるわけですよね。

山路:
 銀行の取り付け騒ぎと同じと考えていいんですかね。

小飼:
 そうそう。で、ここでですね、1つの思考実験として、USDTを発行していたのが連邦準備銀行だったとしましょう。その場合というのは、許されちゃうんですよ。

山路:
 なるほどなぁ。じゃあ、このTether問題の本質とは……。

小飼:
 どこの馬の骨ともわからない人が、担保していますよ、と言ってるところが問題なんですよね。これが連邦準備銀行だったら、何の問題も無いどころか、日本政府以上に仮想通貨に入れ込むということになりますね。

通貨の基本は信用の担保

山路:
 本当に、国家の通貨発行権の侵害に近い。

小飼:
 というよりも、国家の方でも同じ発行スキームを使うというだけです。例えば日銀が円コインを発行しちゃいけない理由というのは無いんですよ。ずっと楽にできます。

 なぜ楽にできるかというと、マイニングしなくてもいいというよりも、マイニング特権を持っているのが日銀だけなので。だから日銀だけが持っている秘密鍵で、ブロックをバンバン署名しちゃえば、日銀コインというのができちゃうわけです。円天なんですけれども、日本銀行はそれができるんです。

 というよりも、日本銀行にしかその特権を認めていないから、そう簡単に円というのは増やせず、増やせないからこそ、通貨としての価値を保っていられるわけなんです。でも増えない、そう簡単に増やせないということにかけては、仮想通貨の方がよくできてるんですよ。

山路:
 Tetherの人たちは、ミニ中央銀行みたいなものになろうというつもりがあったりするんですかね?

小飼:
 とりあえず出ているというのは、まだ30億USDT程度でしょ? だから、これは通貨的には大したこと無いんですよね。

山路:
 ここで疑惑が大きいのは、そのUSDTを使ってBTCを買って、それでBTCの価格が釣り上げられていたんじゃないかという話ですよね?

小飼:
 だから、それがどの程度なのかなというのもあります。というのも、仮想通貨全体の時価総額が大体60兆円ぐらいだとして、その半分がBTCだとしたら、30兆円ですよね?

山路:
 Tetherはそれよりもずっと少ないですね。

小飼:
 それに関して、30億USDだとして、リアルな通貨で1%も偽札が混ざったら、これはかなりデカいですよね? だから、それで毀損される通貨の価値というのは、1%じゃ済まないですよね。

山路:
 そうか。そこのところ、Tetherを使った取引から広まって、偽札が仮想通貨全体に広まっているんじゃないか、という疑惑をかけられてしまうんじゃないかと。

小飼:
 かけられちゃうわけです。だから、取引額的には大したことが無くても、ゴミが混ざってるというように見られていて、それが連鎖していくんですよ

山路:
 そうか、それが恐ろしいところなんですね。

bitFlyerのインサイダー疑惑

小飼:
 もうひとつ通貨の問題といえば、bitflyerのLiskとの関係で、これはインサイダー疑惑じゃなくて、やった本人談だからね(笑)。

山路:
 これ、要はLiskという仮想通貨を上場する前に、一部の人間にそれが知らされていたということを。

小飼:
 まぁそういうことですね。で、その間に、Liskを貯めておけば大儲けできます。

山路:
 Twitterで呟いてたわけですが、これって、合法なんですか?

小飼:
 違法です。よく誤解されているのは、インサイダー取引というのは、証券には適用されても他には適用されないじゃないかと。そこは日本の法律はたいしたもので、いろいろなものまで取り締まることができます。

 例えば、「新幹線ここ通るよ」というのがわかっていて、他の人が知らない段階でその土地を買っていて、もし、それで儲けが出たとしたら、これは立派なインサイダー取引でしょう? 捕まえることは出来ますが、それをきちっと証明するのが難しい。

山路:
 地道な聞き取り調査をして証言をとって、みたいなことやるから立証は確かにすごく難しそうですけどね。これは、仮想通貨には、マイナスのイメージが大きいですよね?

小飼:
 そうなんですよ。

仮想通貨の明るい未来のために何が必要か

山路:
 単純にこれが罪に問われる云々というよりも、仮想通貨全体がいかがわしいものというイメージがついてしまう。

小飼:
 いかがわしいか、いかがわしくないかというのを判断して行動するのが、当局でなくユーザーであるという点が、仮想通貨の一番仮想通貨らしい振る舞いじゃないかなと。だからそういう振る舞いをするのか? それとも当局にズルズルベッタリなのかで変わると思います。

 で、当局がいろいろ面倒を見るようになった場合というのは、中期的には安泰なんですけれども、長期的には鳴かず飛ばずの可能性に。

山路:
 結局、新しい円がちょっと加わっただけのような、新しい法定通貨がちょびっと増えただけに過ぎない。

小飼:
 そうそう。

山路:
 そういう仮想通貨で広がると思われてたような使われ方であるとか、そういうものが。

小飼:
 だから、こういう人たちを、仮想通貨のユーザーが直接とっちめるようになるという風に進んだ方が、長期的には。

山路:
 それは弾さん的には、そういう仮想通貨のユーザーがとっちめられるような仕組みというのは、それはコードでそういう風な仕組みを作るっていうことを指しているんですか?

小飼:
 それは、いろいろなやり方が考えられるんだけれども、一番重要なのは、要は常にトラストされている人や会社や国家が「無くても動きますよ」というのが仮想通貨の一番のポイントなので、Trasuted・Trastlessという言い方がありますけど、チェーンが伸びること自体が信用になるというのが、ブロックチェーンの一番良い所のはずなので。

仮想通貨の問題は、いつも技術の外側で起こっている

山路:
 しかし、インサイダー取引というのはブロックチェーンの外側で起こっていることだったりする。

小飼:
 だから、逆に言うと、今までの仮想通貨をめぐる事件というのは必ず外なんですよ。オフチェーンなんですよね(笑)。

山路:
 さっきの取引所の話なんかと同じですよね。

小飼:
 はい。だからこういった教訓というのをどこまで織り込んでいけるのか。これは本当に仮想通貨の方に織り込んでほしい。もちろん、特権を持つ当局によるトップダウンの解決というのは可能ですし、そうなる公算は大きいんですけれども。

山路:
 安直な解ではありますよね。

小飼:
 はい。でも日本の場合は割と法的に仮想通貨とはなんぞやというのを定義しただけではなくて、マウントゴックスの処分を見てもわかるように、「なるべくお前らで解決しろ」と。だから結構いい意味で突き放してますよね。

山路:
 ある意味、仮想通貨先進国にはなってる(笑)。

小飼:
 はい。なんですけれども、税務当局と足並みが揃ってないところがとっても頭の痛いところで。

山路:
 確定申告が、めちゃめちゃ面倒臭いことになってるみたいですよね(笑)。複数の取引所を経由して仮想通貨を売買して、それで利益出して損害出して、みたいなものをどうやって計算するんだと、みんな頭を抱えて。

小飼:
 でも、かわいそうなのはむしろ税務署の中の人たちですよね。

山路:
 はっきり言って、申告漏れとかそんなのがあっても。

小飼:
 しかもここにきてコインチェックですよ。だから、今年の確定申告の納税予定のお金がそこに眠っているという人たちも少なくはないでしょう(笑)。

山路:
 えらいことになってきましたよね。

問題が起きてはじめてわかる本質

小飼:
 でも、こういうのもなんですけれども、こういう問題が起きることで初めて、じゃあどうすればいい? というのを我々が考えるようになるんですよ。

山路:
 この1年で、社会がビットコインでお金について学んだことって、ものすごい密度になっている気がしますよね(笑)。

小飼:
 2017年は長かったが、今年はもっと長くなりそうだ(笑)。

山路:
 もう相場の乱高下というレベルの話ではない気がしますね。

小飼:
 はい。だから、もっとデカい話になってほしいです。日本円の円に、天井の天って書いて円天という事件【※】がありましたけど。

※円天
健康商品販売会社「エル・アンド・ジー(L&G)」が有する疑似通貨。「使っても減らない通貨」とうたい、多額の出資金を募り、2007年1月から利息払いを現金から疑似通貨に変更したが、資金繰りが悪化し、円天での配当も止まるという事件があった。

山路:
 ありましたね(笑)。

小飼:
 その程度の終わり方をするのであれば、すごくつまらないなと。

山路:
 もっと国の中央銀行の役割が揺らぐくらいの話までいってみると面白いのかも。

小飼:
 理想を言えば、法定通貨もチェーン化を。要は日本円だけでなく、当局が認めたものは全て法定通貨として、それで直に課税、徴税、納税しちゃうというのがいいんじゃないかと。

 だから、外貨預金とかも、今は一旦帳簿上は円転した上で、それを銀行が直接、代わりに払っている形になってるんですけれども。例えば1万ドルだったら、今TDが、とりあえず2.5%だとして、1万ドルに対し、250ドルの利子がついて、2割を払うといったら、直に50ドルを払う。

山路:
 なんだか、国税局のシステムをすべてアップデートするような(笑)。

小飼:
 実はその方が簡単なんですよ。

山路:
 確かに、いちいち転換して、そこのところでそれが実際にいくらかと計算するよりはシンプルなシステムが。

小飼:
 そうそう。税金として集まるので、国が自動的に機関投資家になる。で、外国の法定通貨に関しては、もうそうなってるじゃないですか? だから、それを日本政府がやっちゃいけないという理由は無い。

山路:
 そうなってくると本当に、それこそいろいろなところが、めちゃめちゃシンプルになってきますね。

仮想通貨も受け入れられる社会へ

小飼:
 不要論ではなくて、併用論かな? だから、その時は円もブロックチェーンで扱われるようになっているのかもしれないです。

山路:
 「マイナンバーでさえできてない」ってコメントが(笑)。

小飼:
 そうなんです。でも、そういうのができなくてもできるというところが、ブロックチェーンのすごいところでもあるんですよね。

山路:
 ようやくそこまでいって、今後、それが弾さんのよく言う、ベーシックインカムみたいな話に、もしかしたら繋がってくるのかもしれないし。

小飼:
 そうそう。だから、ブロックチェーンに乗っかった通貨というのは、銀行口座みたいなものがなくてもお金が配れるんですよね。

山路:
 これ、例えば今だったら中央銀行が金利なんかを調整したりするじゃないですか? そういう調整みたいな仕組みというのは、どうなってくるんでしょう。まあ、今はそんな結論がすぐにできる話でもないと思うんですけれども。

小飼:
 仮想通貨には、通貨というものが設計するものだということに改めて気付かせてもらったんですよね。

山路:
 確かに、ビットコインは自然なインフレも設計に入ってたりするわけですし。

小飼:
 自然というか、インフレーションの仕方が設計図に書かれているんですけれども。

山路:
 今ならもしかしたら、こうあるべきお金というのを、私たちは作れるのかもしれない?

小飼:
 そうそう。だから、こう言ってはなんですけれども、そういった教訓を得るための費用としては、コインチェックの破綻ですら、お安いものかもしれないですよ?

山路:
 数百億円は、ちょっと痛い授業料ではありますけどね。

小飼:
 僕も塩漬けになったものがありますからね。たぶん、みんな口座までは開設してるでしょうし、だってオルトで26万口座だよ? すごいよね(笑)。

山路:
 コインチェック問題は、損した損してないとかではなくて、仮想通貨の開く可能性に、目を向けるともっと面白いと思いますね。

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