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週刊文春編集長が“小室哲哉さん不倫報道”の真意を語る「介護現場の理想と現実を考えたり話したりするきっかけになればいいなと思っていた」

文春が不倫報道をする理由「建前の顔だけで世の中が埋め尽くされてしまう」

竹山:
 ということは、文春さんが持ってるネタはデスクにはまだいっぱいあるということですね。

新谷:
 ほとんどはボツです。

竹山:
 ガセネタだから?

新谷:
 ガセではなくて、実際に動かないでそのまま。特集班の記者は約40人いて、毎週5本ネタを上げますから、毎週200個が上がってきます。その中にはいろんなネタがあって、不倫ネタもたくさんあります。ただ何でもかんでもやるわけではもちろんなくて、その都度その人物のそういう形での不倫は読者に伝える意味があるのかないのかということを、当然ながら考えるわけです。

竹山:
 読者に伝える意味というのは何なんですか。

新谷:
 何でやるかと言うと、別に小室さんを引退させたいとか、そういう動機は全然ないんです。ベッキーさんを休業に追い込みたいとか、そういうつもりは全然なくて、いつも言ってることなんですけれども、人間にはいろんな顔がありますよね。美しい顔も、素晴らしい顔もあれば、醜い顔も愚かな顔もあって、いろんな顔があると思うんですよ。

 特に今の時代は皆さん一人ひとりがSNSを使って、メディアになっていく時代なので、自らどんどん発信されていますけれども、皆さんが発信しているのは基本的に表の顔という、美しい部分だけですよね。「人のプライバシーを暴きたてるのはけしからん」というふうに風潮がなっているのは、それはそれで理解できます。けれどもそれがあまりにも進みすぎると、表の顔だけで、我々からすると建前の顔だけで世の中が埋め尽くされてしまうような気がするんですね。

 それはそれで息が詰まるような気がする。こんな偉そうなことを言っている、こんなかっこつけている人でも、実際一皮むくととこんな面もあるんですよということを伝えて、世の中のある種のガス抜きというか、人間のいろんな顔を伝えていくというのが原点なんです。

竹山:
 そのガス抜きをあまりにも1、2年でやりすぎちゃって。

新谷:
 そこなんです。

竹山:
 ガス抜きになってなくて、正直我々読者からすると、嫌気がさしているっていうか、もう放っておいてやれと。当人同士、当人同士の家族がもめることだから、表に出してやるなと思うわけです。その辺が編集長って正義感でやっているのか、僕はその正義感は違うと思ったりもするわけです。

新谷:
 正義感じゃなくて人間への興味なんですよね。

竹山:
 雑誌として。編集者としてね。

小室氏の報道で新谷氏が目指していたもの

新谷:
 やっぱりいろんな顔があるから人間面白いわけで、そのいろんな顔を見せていくのが週刊誌。新聞とかテレビよりももっと小さいゲリラ的なメディアなので、特に新聞テレビが報じない裏の顔に迫っていくというのが、元々の週刊誌の原点としてあったと思うんですね。特に人間って人間に興味があるし、人間は基本的に人間の営みからしか学べないと思うんですよ。

 いろんな人がうまくいったり、失敗したりする姿を見ながら、何かを自分で考えるきっかけになるという面があると当然思っていて。小室さんのことに話を戻すと、そういう介護をされているという表の顔の裏では実は息抜きや癒しを求めていたと。

 それを正義感から「これはけしからん」「断罪しろ」「許されない」と言うんじゃなくて、私の本当の目指していたもの、伝えたかったことというのは、「それは息抜きもしたくなるよな、介護は本当に大変だから、小室さんも息抜きをしながらこういうことをしてますよね」ということを伝えることで、実際の介護の現場の理想と現実みたいなことを色々考えたり話したりするようなきっかけになればいいなと思ったら、それが激しくなってしまった。

竹山:
 確かにメディアとかでも、介護に対しての特集を組んだりとか、そういうメディアもその後に結構出ましたよね。でもこの流れであれを出しちゃったら、また「不倫がどうだ」とかメディアも騒いで大変だろうなとか、ちょっと思われなかったですか。

新谷:
 週刊文春というのは、そこの線引は基本的にあまり忖度しないメディアなんです。この人ならやるけどこの人ならやらないという時に、世間を騒がしたら嫌だなといって、やらないということはないですよ。だって世間を騒がせるのはメディアにとって悪いことじゃないですから。

 開き直って炎上上等という意味で言っているのではなくて、それだけ世の中に話題を提供すること自体は、私はそんなに悪いことじゃないと思うんですね。ただ私の中で、なるべくこれは丁寧にご説明したいと思うんですけれども、私が意図するものと実際に世の中への伝わり方にどんどん大きなギャップが起きてしまっているのもまた事実。それはベッキーさんの時からそうなんです。

竹山:
 その時ってどう思いましたか。あの時はお正月でバンと打ちましたよね。ベッキーと同じ事務所でしたから、僕も「こんな流れになっちゃうんだ」って思ったんですけれど、世間は文春さんが考えている以上の流れになったんじゃないかって思ったんですよ。

新谷:
 なりました。全く予想していなかったです。

竹山:
 その時、編集長のお気持ちってどんな気持ちだったんですか。

新谷:
 本当に正直に言えば、とにかくベッキーさんはかわいそうですよ。

一同:
 (笑)

竹山:
 全国民が「お前が言うな」ってなりましたよ(笑)。

「お前が言うな」って言われるかもしれないですけど、水に落ちた犬を叩くのは嫌いなんです

新谷:
 私が最初の第一報を出した時に考えていたのは、スキャンダル処女で非常に好感度の高いベッキーさんが恋をしていた。しかも実は道ならぬ恋。さらにはお相手のミュージシャンのバンド名がゲスの極み乙女。っていう、何ていうすごい物語なんだろうという話だったんです。

 あそこまで叩かれるとは全然予想はしてなくて、その後のことを申し上げると、私は「これは叩かれすぎ」「どう考えてもバランスおかしいよ」と言って、現場のデスクに「頑張れベッキーみたいなの、できないかな」って言ったら、まさに同じ反応で「何言ってんですか」と。

 「お前が言うなって言われるに決まってるじゃないですか」と言われて、それも確かにそうだけど……と思って、デスクを通じてサンミュージックの相澤社長に2、3回会わせていただいて、その都度お願いしたんですね。あの時って正直、水に落ちた犬をみんなで叩くリンチみたいになっちゃってて、「お前が言うな」って言われるかもしれないですけど、大っ嫌いなんですよ。水に落ちた犬を叩くのは嫌いなんです。

竹山:
 いやいや、まあそうですね。

新谷:
 金ピカなものに、まだ評価が定まっていないものに燦然と輝くものに「オリャ~!」って最初に一太刀あびせるのは好きだけど、そこで倒れて弱りきっているじゃんっていうのをいつまでも叩き続けるのは嫌いなんですよ。

竹山:
 でも叩くことになった時に、嫌いなのは分かりますけど、元はこの雑誌のこの会社が出したところから始まったわけじゃないですか。

新谷:
 そこなんですよね。

竹山:
 そこだっておっしゃっていますけれど、第2弾、第3弾とか出してくるじゃないですか。

新谷:
 3弾くらいまでありましたからね。

竹山:
 ベッキーのことに関してもそうだし、他の人に関してもそうじゃないですか。政治家は置いておいてもいいと思うんですよ。政治家はまた別だと思うんだけど。

“ゲス不倫”騒動時、ベッキー氏から文春へ手紙が送られた経緯

新谷:
 ちょっと話を戻してもいいですか。相澤社長とお会いしてベッキーさんがお仕事に復帰するために何かお役に立てないかと思っていて、ベッキーさんに好意的なメディアに出てインタビューというよりも、完全にアウェイであり最もきっかけを作った文春に出て何かしら独占告白をされれば、少しはきっかけになるんじゃないかと。

 当然ながら綺麗事は言わないので、そうすれば売れるだろうなと思っていたのは事実なんです。でもそれだけじゃなくて、彼女はもう一度このお仕事をする上でのきっかけとして文春に出たことで、ワンステップ前に進めばいいんじゃないかということで何度かお願いして、最終的に「分かった」「本人に話す」というふうに言っていただいて。

 非常に相澤さんは良い方なんで、そういうふうに了承、了解いただいたんですけども、結局ベッキーさんご本人が文春さんに会うのが怖いということで、その代わりに手紙を書きましたということで、彼女の率直なお気持ちを書いた手紙をいただいて、それを週刊文春の紙面に載せたということがあったんですね。

 何でそういうことをやったかと言うと、私としてはこのままじゃちょっとバランスがおかしいなと。もう一つ同じようなことで言うと、斉藤由貴さんの背教不倫。彼女も敬虔なモルモン教徒なんだけれど、不倫をしてしまった。その葛藤みたいなのを報じたのですが、あの時もわりと叩かれて、大河を降板されたりとか女優活動に支障が出る形になってきたんですね。私もその時も嫌だと思って、同じなのかもしれませんけど、なんとか彼女にもう少しいい意味での記事が出せないかなと思って。

 そこで考えたのが、脚本家の倉本聰さんが『やすらぎの郷』というドラマをちょうどお書きになっていて、倉本さんにインタビューをさせていただこうと。うちの記者に富良野に飛んでもらって、そこでインタビューをしたんですね。

 「斉藤由貴さんのことで……」って言うと、「お前らが悪い」「文春が悪いんだ」「何であんなくだらないこと書きやがって」って叱られて、そのお叱りも含めて全部記事に書いた上で倉本聰さんがおっしゃっていたのは、「不倫というのは女優の肥やしなんだ」「山田五十鈴【※】という人がいかに男を取っ替え引っ替えしながら芸を磨いていったと思っているんだ」とおっしゃって、素晴らしい言葉だなと思って、斉藤由貴さんの不倫は女優の肥やしだという記事をやった。

 援護射撃にはなってないかもしれませんけれど……。

※山田五十鈴
映画女優。戦前から戦後にかけて昭和期に活躍。テレビドラマ『必殺シリーズ』では女元締のおりくを演じて人気を博し、2000年に女優として初めての文化勲章を受章。

竹山:
 ならないですね(笑)。そんな余計なことですよね。こうやって編集長と話したらそういう流れがあったというのは分かりますけれども、そのタイトルで載せてしまったら、余計なことになっちゃいますよね。

新谷:
 すごく悩ましいのは、我々が意図して伝えたいと思っていることが相手によって非常に強く拡散してしまうケースと、全く伝わらずにスルーされてしまうケース。雑誌を作るところまでは同じなんですけれども、そこから先のリアクションはほとんどコントロールできない形で広がっていってしまうという状況は、本当にどうすればいいんだろうなと。

 こういうふうに出てお話しするのも、ふざけるなと突っ込まれながらでも、やっぱり少しでも理解していただく努力をしていかないといけないんじゃないかな、ということなんですよね。

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