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NHKの科学番組は優秀でも、政治ニュースは…公共放送を骨抜きにする“放送免許制度”の異常性を元NHKジャーナリストらが語った

 日本放送協会(NHK)をはじめ地上波メディアには欠かせない“放送免許”。電波法に基づいて総務省から放送局へ与えられるこの免許制度について、ミュージシャンでジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏、インターネット放送局ビデオニュース・ドットコム代表の神保哲生氏、NHKを退局し、現在社会学者で、武蔵大学社会学部教授の永田浩三氏が解説を行います。

左からモーリー・ロバートソン氏、神保哲生氏、永田浩三氏。

※本記事は、2015年9月に配信した「メディアの公平性ってなんだ!?メディア帝王とジャーナリズム」の内容の一部を再構成したものです。

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BBCの放送免許はイギリス王室から与えられる

神保:
 今回の安保法制のNHKの報道を見ていて僕は気の毒だった(放送当時は2015年9月19日)。つまり、反対デモを報道したらば、必ず賛成デモを放送しないといけない。でも、賛成デモは人があんまり集まっていないんで引きの画を使えないんですよ。引きの画を使っちゃうと、「なんだ、これだけしかいないのか」ってわかっちゃうわけ。

 だから、なぜか賛成派のデモは全部比較的寄っている画なんですね。反対派のほうは寄っても引いてもたくさん、人がある程度いるから。NHKはそこまで苦労して報道をしている。バランスというか、要するに、政治から批判をされるような、政治に介入されるような余地をつくらないために苦労しています。

 僕はNHKを批判するというよりは、むしろ気の毒というか……。そこまで無理矢理に両方やらないと今はやばいぞと、彼らが思うところまで来ているという意味では、僕は気の毒だと思います。

モーリー:
 BBCが2000年代に英国政府とイラク報道のあり方について闘いましたよね。

永田:
 グレッグ・ダイクという人がBBCの会長をやっていたときに、やっぱりいろんな情報ソースにおいて、BBCに瑕疵があったことは確かなんです。一旦イラク戦争の正当性、特に大量破壊兵器をサダム・フセインが隠し持っていることはない、ということを一生懸命BBCは証明しようとして、その中で自殺者が出てしまったりで、BBCは傷つくんです。

 そこでグレッグ・ダイクは会長の職を追われるんですけれども、それでも最終的にはBBCは名誉ある放送を続けたし、イギリス政府のほうが間違っていたということになって、イギリスの視聴者もBBCに軍配を上げることになるわけですよね。

 一番根本のところは、BBCはイギリス政府にも王室に対しても、いけないものはいけないということを言う、権力の監視が公共放送である、ということをやり続けているわけです。放送免許の更新はもちろんBBCにおいてもあります。どこからその免許状をもらうのかというと、イギリス王室からもらうわけですね。

モーリー:
 いいですね、おもしろい(笑)。

永田:
 おもしろいんですよ(笑)。労働党だろうが、保守党だろうが、イギリス政権からもらうとなると、公共性がやっぱり担保できない。つまり、まだ王室のほうがましでしょうというルールなんですよ。免許状っていうのはそもそもマグナ・カルタ【※】と同じで、公共性のあるものは王室から付与されるという、そういうルールですよね。

※マグナ・カルタ
大憲章。イングランド国王の権限を制限したことで憲法史の草分けとなった。

モーリー:
 じゃあ、こういうことですか。NHKがBBCばりに批判すべきはして、闘うときは安倍政権であれ、政権と闘うという体質改善をしていれば、逆に、報道ステーションや東京新聞のようなところが無茶苦茶をやらなくて済むってことですか?

永田:
 そう思います(笑)。実は戦後の悔い改めてやり直したNHKが最大のお手本にしたのはBBCです。制度上も相当真似ているんですよ。だけど、例えば一番真似ているのは科学番組とか、いろんなドキュメンタリー番組ですね。それらのお手本はBBCであることは間違いないです。

 だけども、ニュースは全く真似ていない。それはニュースは政権の意向に逆らえないということが、ずっと続いているんじゃないですかね。唯一例外は、ロッキード事件報道ぐらいじゃないでしょうか。

NHKが政治から自由になるには

神保:
 モーリーさん、そこは今まさに免許の話をされたけど、NHKがそのように完全に政治から自由でいられるような制度になっていないっていうところに問題があるんです。

 今の制度のもとでNHKに、政府に問題があったら容赦なく言えるようなBBCのような体質を持てと言っても、要するに、もちろん予算と経営委員会のような人事が政府から来ていることもあるんだけど………。

 何よりも放送免許っていうものが、BBCはこれは形の上ではイギリス女王からもらっているんだけど、オフコムという、第三者機関からもらっています。つまり、政府の一部じゃないんです。アメリカの放送免許もFCCという連邦通信委員会という、やはり第三者機関なんですよね。

 その第三者機関っていうものが、例えばアメリカの場合ははっきりと共和党政権のときは共和党寄りの人を大統領が選ぶし、民主党になったらまたそれを変える。逆に言うと、そこがすごくはっきりしている。

 一方で、イギリスの場合はオフコムのような、いわゆる公職、日本でいうところの有識者会議とか審議会といわれるものなんです。審議会が政府寄りだったら意味ないじゃないですか、何のためにやっているんだと。だから、中立性をウォッチする公職、監視コミッショナー制度というかなり厳しいものがあります。

モーリー:
 監視する委員会をさらに監視している?

神保:
 そこには社会から名誉ある地位を得ている人たちがいて、誰だかわからないような日本の審議会とは違うわけですよ。明らかに「そんなことを言ったら、この人は社会的地位を失うな」という人たちなんです。

 良識、良心に沿った発言や行動をとっているから今の地位がある人たちって、日本にも多少はいるじゃないですか。その人たちがもしそこに入れば……、財界の代表とかじゃないですよ。そういう人が入れば……。

モーリー:
 その人たちが偏ったような決定をすれば、社会から罰せられますよね。

神保:
 地位を失うでしょう。

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