自らもコスプレする“オタクすぎる“現役地方議員に、「なぜコミケで同人誌を出したのか?」聞いてみた
コミケにはコスプレで参戦! コミケが有権者と交流を深める機会に
──かつてコミックマーケットを開催していた大田区産業会館がある大田区で議員をしているというのも運命めいたものを感じます(笑)。
おぎの:
ローマ字で書くと、大田区は“OTAKU”。ツイッターのアカウントはogino_otakuです。大田区とオタクのダブルミーニングになっていて、不思議な巡り合わせを感じますよね。「地方議員の日常本vol.2」の表紙で描かれている、Fateをオマージュした私の手の紋章は大田区のマークなんです(笑)。
──大田区とオタク文化が見事にシンクロしていますよね。
おぎの:
大田区産業会館でコミックマーケット(1978年 コミケ8)が開催されていた頃にコスチュームプレイが現れ始めたという経緯から、私は「大田区がコスプレ発祥の地の一つといえるのではないか?」と議会内外で取り上げてきました。今では蒲田の人々だけでなく、下丸子や大森など、大田区のさまざまな地域でコスプレ、アニメ、ゲームのイベントを開催するようになりました。文化として保護することも大事だけど、まずはお祭り感覚で楽しむことが大切。地元の方々とレイヤーの皆さんが楽しんでいる姿を見ると、とてもうれしいです。
──おぎのさんの手に描かれている大田区のマークが、さらに光り輝きそうです。
おぎの:
ははは。個人的にFateシリーズが大好きということもあって、この表紙は気に入っているんですよ。最近は新たに『Fate/Grand Order』のプレイも始めているほどで。
打ち合わせ中に、おもむろにFGOを開く大田区議会議員 pic.twitter.com/bsAQlhBuo0
— 大田区議会議員 おぎの稔 東京都 (@ogino_otaku) September 26, 2017
おぎの:
去年の冬コミは、『Fate/ZERO』の衛宮切嗣のコスプレをして参戦しました。楽しかったなぁ。
──議員感がまったくないのがスゴい。完全にコスプレイヤーのお兄さんですよ。
おぎの:
参加するからには、中途半端に片足だけ突っ込むみたいなことはしたくないんですよね。サークル名も「オタギイン」。会場では、特に大田区議会議員・おぎの稔とは掲げず、一人のオタクとして参加しています。とは言え、知っている方から声をかけていただいたり、大田区民の方から「おぎのさん!」なんて言われると面映ゆいやらうれしいやらで(笑)。
その場で大田区に関する相談も伺うこともあるほどで、コミケだからこそ可能な有権者とのコミュニケーションがあると感じます。
──駅前で握手だけしている議員さんにはない、圧倒的な親近感を覚えますから話しやすいでしょうね。おぎのさんにしかできないコミュニケーション方法というか。
おぎの:
いろいろな形で区民の方や、生活者の皆さんと接点が作れれば。私の場合は、オタクというストロングポイントを活かして、地方議員がどんな存在か伝えていけたらと思っています。HPで公開しているマンガにしても、「地方議員の日常本vol.2」にしても、自分を主人公にして少しでも「政治家ってこんなことをしているんだ」って知っていただく機会につなげたい。オタク的な部分だけでなく、地方議員として「若者の就労支援」「中小零細企業のバックアップ」などなど、地域に必要な政策を分かりやすく伝えています。国会議員であれば、内情を書いてしまうと誰かに迷惑がかかるかもしれませんが、地方議員だからこそ表現できる部分も多いんですよ。
──たしかに おぎのさんのマンガを読めば、地方議員がどんな存在が見えてきます。
おぎの:
政策に加え、政治家の休日など身近なお話も交えて伝えていけたらなって。区議会議員の仕事って、役所に問い合わせをしたり、本当に細かな相談や陳情を行うことから始まることが少なくない。例えば、「放置自転車がすごい数だから何とかしてほしい」などなど、そういった相談を救い上げて、行政に働きかけるわけです。ですから、私たちを遠慮なく利用していただきたいんです。それが地域の問題解決にもつながっていく。そのためにも地方議員を身近に感じてほしい。知らないと頼みづらいと思いますから。
──一方で、昨今は議員の不祥事が続いています。疑心暗鬼になっている国民も多いと思います。
おぎの:
全国の都道府県議会議員と区市町村議員を合わせると、その数は約33000人に上ると言われています。数人の不祥事によって、すべての地方議員が同じように見られるのは悲しい。きちんと働いている議員もたくさんいることを伝えていきたいですね。
理不尽な表現規制をさせないために、政治の現場から発信していくことが大事
──アニメ・マンガに造詣の深い現職の議会議員であるおぎのさんに、どうしても聞いておきたいのが「表現の自由」についてです。2020年の東京オリンピックに合わせて、インバウンド(訪日外国人旅行)の数もますます増えていくため、表現規制が厳しくなるとも言われています。例えば、彼らの目に触れないように、コンビニの成人誌コーナーにビニールをかけることも珍しくなくなってくる、など。
おぎの:
条例なのか法律なのか……私を含めた議員が反対できる状況にあればいいのですが、恐れている事態は、出版社やコンビニが自主規制の態度を強めてしまうことです。そうなってしまうと民間の話になってしまい、我々の出る幕がない。であれば、自然とそういう流れにならないような空気を、政治の現場から作ることが大事だと思っています。埼玉県警が漫画家さんの自宅を訪問した件【※】などは、きちんと議論を重ねていく必要があると思うんですよね。
※クジラックス氏への警察の申し入れ
漫画の作中の手口を真似て、強制わいせつと住居侵入の疑いで30代の無職の男性が逮捕された事件で、捜査員が作者である漫画家クジラックス氏の自宅を訪ね申し入れを行った。
──こういった事件があったときに、きちんと議論が重ねられていないという印象は否めませんね。
おぎの:
「こういった表現は控えるべきだ」「警察が作者の自宅を訪問するのは違うのではないか」など、政治の現場でも議論を重ねていけるような空気を作っていかなければいけない。落選こそしてしまいましたが表現規制に立ち向かう前参議院議員・山田太郎さんは、先の選挙で29万票という大きな支持を受けました。元SPEEDの今井絵理子さんが約32万票で当選しましたが、今やオタク文化は、あの90年代のスーパーグループSPEEDのメンバーが立候補しても負けないほどの支持層がいます。産業、経済だけでなく文化という視点も併せ持つ日本のマンガ・アニメ・ゲームをきちんと議題として国が扱っていかなければいけませんよね。
──山田太郎さんやおぎのさんのように、マンガ・アニメ・ゲームに理解のある議員さんって増えてきているのでしょうか?
おぎの:
ポツポツですかね。今後は、票が欲しいゆえにポジショントークでオタク文化を扱う議員さんも増えてくる可能性があるでしょう。本当に理解があるのか否かを知る意味でも、政治の現場から表現を考える機会を創出していかないといけないと思います。
──東京オリンピック開催に伴い、ビックサイトでのコミケ開催は不可。こういった議題がなし崩し的に行われるのではなく、納得できる議論で進むことを期待しているのですが、先の築地豊洲問題を見ているとすでにめまいが……
おぎの:
(苦笑)。ビッグサイトの問題は超党派で臨んでいくべきだと思います。都議が中心となって決めていくでしょうが、識者を交えて真剣に議論して欲しい。私だって一家言ありますからね。仮設にする場合、東館に相当する7万㎡を、2万㎡、2万㎡、3万㎡に分けると言っていましたが、あんまり小分けにされても参加者は困ると思うんです。個人的には7万㎡の代替地で開催するべきだと思います。コミケ参加者の気持ちをきちんと考えてほしい。
──そういった声が おぎのさんを介して届くことを期待せずにはいられません。少なくてもおぎのさんには相談できる。
おぎの:
私はクールジャパンの支援・発信力強化を政策に掲げていますから、こだわりを持って臨みたいです。自分が政治の内側の世界に来て思うのは、「地方議員って面白い人が多いな」ということ。何万、何十万という票を集めなければいけない国会議員と違って、地方議員は数千票の世界で当落が決する。裏を返せば、浮動票が少なく固定票が多い世界なんですね。私の場合でいえば、柱として若者の就労支援やオタク文化の発信があるわけですが、それが届けば地方議員として活躍できる支持層が作られていくということ。
──なるほど。5000人の支持者がいれば、極端な話、10万人から嫌われてもまい進していけると。
おぎの:
国会議員は小選挙区ですから、一騎打ちになることが多く、有権者に嫌われてしまうと落選する可能性が高まる。ところが地方選挙は違います。そのため地方議員の方々は、個々に掲げている政策がユニークだったり、エッジが効いていたりして面白い。「自分はこれがやりたいんだ。こういう地域作りや理念を目指したいんだ」という思いを持っている人が向いている世界でもある。国政と違い大局に左右されないため、割と尖ったことがやりやすいこともあって、私は同人誌を作ってしまったほどです(笑)。そういった地方議員ならではのお話を同人誌の中で紹介していけたらと思っていますので、今後もオタギインとしてたくさん発信していけたらうれしいですね。
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