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行動経済学で読み解く選挙公約。「私たち、“子ども手当“とか“高速道路無料化“で痛い目にあったはずなんですけどね」

 2017年のノーベル経済学賞は、経済学に心理学を応用した「行動経済学」の研究に貢献した米シカゴ大のリチャード・セイラー教授が授与しました。

 セイラーさんの受賞を受け、経済評論家で行動経済学会会員の勝間和代さん、経済学者の田中秀臣さん、経済評論家の山形浩生さん、エコノミストの安達誠司さんが、行動経済学を用いてどのようにこれからの社会政策を見ていけば良いのかを解説しました。

左から田中秀臣さん、山形浩生さん、安達誠司さん、勝間和代さん。

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行動経済学はダイエットに置き換えるとわかりやすい

勝間:
 受賞者はリチャード・セイラーさんになりました。シカゴ大学の行動経済学系の大御所の方で、行動経済学を勉強するとほぼ必ず出てくる人ですね。

田中:
 「勝者の呪い」に貢献したことでも有名ですね。

勝間:
 「勝者の呪い」というものは、オークションで勝った人が結局は一番割高なものを掴まされるというものですね。

山形:
 これまでの経済学は、自分の構成を合理的に最大化したいというものが、モデルの前提になっていましたが……。

勝間:
 ところが人間は全く合理的に行動しないという、「限定合理性」という概念を打ち立てた人です。限定合理性というのは、「自分が知っている範囲でしか人間は合理的に行動せず、経済人のように全てを知っているわけではない」という話です。

勝間:
 行動経済学は、たとえばダイエットをしていてケーキがあったときに、「明日から食べないけれど、今食べる」ということに似ています。つまり今現在のことに対して、人間は我慢ができないというものですね。でもその人だけが我慢できないんじゃなくて、人間が全部そうなので人間の非合理性をどのように捉えて、ルールを作ってやめさせるか、社会制度にどう活かすかが議論されています。

山形:
 自制心をどうやって自分に強制するかというものですね。

勝間:
 ダイエットなんか典型的な例で、まずチョコレートをそのまま置いておくのはダメ。だからせめて、箱に入れるとかでバリアーを作る。社会の規制もそういう発想ですよね。

山形:
 セイラーは理論だけではなくて実務化されています。国民に健康保険に入らせるには、「入れ」って言っても入らないから、とりあえず全員入れる。それで「抜けるのは自由だよ」って言うと、面倒だから抜けないという理論。

勝間:
 それが「国民皆保険制度」ですよね。

山形:
 いろいろな政策を持ち出すときに、「大きな成果をもたらすにはどうしたらいいか」という、直接的な意味合いがあるようなやり方をしていますね。

セイラーが唱えるナッジ的政策理論は日本の選挙投票を変えるのか

勝間:
 リチャード・セイラーの理論の中には、ナッジ【※】の要素もあります。しかし、日本ではあまりナッジ的な政策理論は使われてないですよね。

※ナッジ
行動経済学における、人に行動をとらせようとする小さな戦略のこと。

田中:
 そもそも、そういった発想が全くないじゃないですか(笑)。

勝間:
 なぜでしょうね。

山形:
 わからないですね。

勝間:
 しかし少しずつ出てきているという話を聞きます。投票も、行かないと投票権がなくなるとなれば行かざるを得なくなるとか、18歳以上の方々も三回投票に行かないと投票権がなくなるとなれば行きますよね?

田中:
 権利を失ってしまう、または経済的な価値を失ってしまうところに反応しているので、それはどっちかって言うと、経済合理性のコントロールの問題ですよね。むしろ投票を促すためには、投票に行くと半券をもらえて、おまけがついてくるみたいな……。

勝間:
 ありましたよね、投票に行くと安くなるキャンペーンとか。

山形:
 日本の某開発業者がハワイにマンションを作ろうとしたときに、環境団体の反対に潰されて「住民投票をやる」となった。そこである選挙コンサルに相談をしたら「投票所のとなりにカニバーベキュー場を設置して、投票した人には全員バーベキューが食べられるようにしなさい」と言ったんです。

山形:
 そうしたら、普通の人は鳥の保護とか興味ないですから投票に来ないのですが、そういう人をカニで釣っておびき寄せれば絶対勝てるからって。それでマンションが建ったという話があります。

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