【画像あり】死刑囚が独房で描いた絵を解説。林眞須美(和歌山毒物カレー)・加藤智大(秋葉原通り魔)など全17点
若林一行の作品/岩手県洋野町母娘強盗殺人事件
ジョー横溝:
こちらは漫画チックな作品で『獄ちゅう♡物語 其の弐』というタイトルですね。
深田:
若林一行さんの絵ですね。仙台の拘置所で2015年に刑を執行されました。もともとは車に絵を描く仕事をされていらっしゃった方で、結構上手ですね。
ジョー横溝:
2012年に死刑が確定されて、2015年に執行ということですが、わりと早い執行ですね。基本的には死刑確定から執行までどのくらいの期間なのですか。
深田:
一般的には5、6年と言われていますが、再審しているかとか、あるいは共犯者が再審をしているなど、人によって全然違うんです。
ジョー横溝:
放送のコメントを見ていると「反省していない」といったものや、「繊細な人が多いんだな」といったコメントもあります。
深田さんはたくさんの作品をご覧になっていて、どういうことを感じますか。
深田:
そうですね、人によっても違いますしね……。
ジョー横溝:
例えばこの若林さんの作品はどうですか。
深田:
この人は上手だなといつも思っていましたね。
ジョー横溝:
人間は100人いれば100通りの個性があるのが当たり前だと思うのですが、「死刑」というものが確定して、これだけ個性が出るというのは、もしかしたら制度自体が不完全なものなのかなとも思ってしまいます。
死刑という制度が不完全であるからこそ、こうして個性が吹き出してしまうのかなと思います。
深田:
死刑囚は他の囚人と分断されています。ですのでお互いに話をしたり、作品を見せ合ったりできるわけではありません。
「大道寺幸子・赤堀政夫基金」に絵を出してきて、そこで選考委員がアドバイスをして、それで作品をいろいろ試行錯誤して変えていくという工程があるのが唯一です。
ですから死刑囚の作品自体が、それぞれの発達をしていると思うんですね。個性的ですよね。こういう形で才能が開いていくのは悪いことではないと思います。
小林竜司の作品/東大阪集団暴行殺人事件
ジョー横溝:
続いての絵ですが小林竜司死刑囚ですね。
深田:
彼は若いですよ。
ジョー横溝:
1984年生まれですね。これは切手のデザインを使っての作品ということですが、個人的にぐっとくるのが、ここにキャリーバッグが描かれているんですね。
ジョー横溝:
当たり前ですが、死刑囚が独房から出ることは生涯ありません。そういう方がキャリーバッグを描いているということは、心の整理がついているのか、あるいは何かのメッセージなのか。見る者に何かを訴えかけてきます。
深田:
これは「変わらぬ風景」という作品です。これは大阪拘置所の自分の房から見える風景を描いているんですね。
絵を描きはじめた時点ではこういう風景なのですが、この後、大阪拘置所は建て替えられて下の絵のような近代的なビルになりました。
深田:
さらに独房の外に廊下があってその外にさらに窓がある。どんどん外の風景が見えなくなってしまいました。
深田:
やはり死刑囚の状況として、精神的によろしくなくなっていますね。
ジョー横溝:
本人たちは死刑が執行される日にはじめてそれを知らされるわけです。判決から数年間、恐怖に怯えながら、環境もどんどん閉ざされた方向に追いやられていく中で、こうした作品が描かれているということですね。
高橋和利の作品/鶴見事件
ジョー横溝:
シンプルですが、ものすごく何かを訴えかけてくる『もやし』という作品です。
深田:
これは高橋和利さんという鶴見事件の方です。お金を借りていた金融業者夫婦の家に行ったらすでに殺されていて、家のお金だけ持って逃げてしまった。逮捕されて警察に「お前が殺したのだろう」と言われていました。
彼は無実を主張しています。そして今、どう考えても冤罪としか思えない状況が出てきています。
ジョー横溝:
「自分は無実だ」と訴えていながら独房の中で暮らして、もしかしたら死刑が執行されるかもしれないという思いを抱えながら描く絵は、個人的に心が張り裂けるような思いがします。
金川一の作品/熊本主婦殺人事件
深田:
こちらは金川一さんという、人生のほとんどを獄中や施設で過ごした方なんです。一度殺人事件を犯して、出所した後にたまたま殺人事件に遭遇して逮捕されました。そして死刑判決が確定したのですが、ずっと再審請求をしています。
ジョー横溝:
こちらは自画像でしょうか。しかし鏡はどうしたのでしょうか。
深田:
独房内にはないので、外で見たのではないですかね。
ジョー横溝:
お風呂に入ったときに見て、それを覚えていたのでしょうか。限られた時間の中で鏡を見て描かれたのではないかという作品でした。
風間博子の作品/埼玉愛犬家殺人事件
ジョー横溝:
こちらの作品はどのような作品でしょうか。
深田:
これは風間博子さんの作品です。埼玉愛犬家殺人事件という事件です。夫が事件を起こしているのですが、彼女は無罪を主張しています。
ジョー横溝:
縦長の絵ですが、これもB4の紙をつなぎ合わせて作られているのでしょうか。
深田:
A3の紙ですね。
ジョー横溝:
ここ、足の裏がすごく白いんですよね。
ジョー横溝:
僕の深読みかもしれませんが、もしかしたら無実を表しているのかもしれません。
深田:
これは『潔白の罪』という作品と『無実への希望』という二つの作品をつなぎ合わせているんですね。
ジョー横溝:
彼女も無実を主張しています。コメントでも「無実が多いな」という声もあります。
深田:
死刑囚は無実が多いんですよ。いくつかの部分冤罪ということもあったりしますからね。
宮前一明の作品/坂本堤弁護士一家殺害事件
深田:
これは宮前(旧姓:岡崎)一明さんの作品ですね。
ジョー横溝:
坂本堤弁護士一家殺害事件の方ですね。ある意味オウム真理教に帰依していた宮前さんらしい作品かもしれません。
ここに彼が着ていた作務衣があるのですが、死刑囚には制服はないんですよね。
深田:
刑務所に入って確定している方は制服を着なければいけないのですが、この人たちは未決扱いなので、私服を着ています。何度も洗濯してボロボロになった服ですね。
ジョー横溝:
支援者の方からの差し入れがあればそれを着られるのですが、死刑が確定すると面会も限られてきますよね。
深田:
そうですね。親族も全員が会えるわけではなくて、決まっている親族と、弁護士、刑が確定する前からの友人が5人程度です。
そうすると、どんどん世間から隔絶されていきます。人間は誰かと話をして考えていくという構造ですが、こうなってくるとものも考えられなくなってきます。
ジョー横溝:
接見する人数は法律で決まっているのですか。
深田:
いいえ、刑務所長が決めるという話になっています。ですから人によって全然違います。
ジョー横溝:
死刑囚の人権というものは、拘置所がある程度握っているということですね。こういう問題は、死刑囚が犯した罪とは別問題として考えないといけないことの一つではないかと思います。
原正志の作品/保険金目的替え玉殺人
ジョー横溝:
こちらにはショッキングな絵が描かれております。
深田:
これは原正志さんという大分の保険金目的替え玉殺人の死刑囚の方です。公式文書を含めて通知書など紙の裏に描いているんですね。
ジョー横溝:
絵以外の部分は全部文字で埋まっていまして、「死刑反対」という言葉や、社会の事象で彼が反対と思っている事柄なのかわかりませんが、そのような言葉で埋まっています。
やはりショッキングなのは女性の裸ですよね。ものによっては性器もあらわになっています。
ジョー横溝:
こういった絵が公開されると、「こんな破廉恥な絵を描いて反省してないのではないか」という世論が起きなくもないと思いますし、それは死刑囚にとって不利なのではないかと思います。
深田:
どうなのでしょうね。
ジョー横溝:
でもある意味これが今自分の思っていることなら、それは芸術の表現ですから誰でもやっていいことですので、そこに対して何も言うことはできないです。
「作品の下に犯した罪の説明文を載せればいい」というコメントも届いています。犯した罪を載せていない意図はあるのでしょうか。
深田:
やはりそういう目で作品を見られたくないという気持ちがあります。作品そのものとして見ていただきたいです。
ジョー横溝:
僕も先日来場したときに、作品を描いている人がどういった罪を犯したのか気になってしまいました。来場していた方も名前を検索しながら、どんな事件を起こした人なのかを見ながら回っていた人が多かったと思います。
深田:
それはそれでもちろん良いんですよ。ただ事件名を記載しても、わからないですよね。
ジョー横溝:
確かにそれだけではわからないですね。
深田:
事件を犯すまでの心の動きなどを抜きにして、事件名を出してしまうのはちょっと違うなという気がします。
ペンネーム「闇鏡」の作品
ジョー横溝:
そしてこれが最後の作品になります。
深田:
ペンネーム「闇鏡」さん。これは『100拝』というタイトルで、3.11の東日本大震災から数えて100日間の味噌汁の具が描いてあります。
ジョー横溝:
なるほど、味噌汁の具が作品になっているのですね。
深田:
「生きてなお 水も食事もままならぬ 方々よそに 熱きみそ汁」という言葉が添えられているのですが、被災者はひどい目にあっているにもかかわらず、死刑囚である自分がこういうときにも美味しい味噌汁を飲んでいてもいいのだろうか、というものです。
死刑囚に限らず、獄中の人たちは3.11についてものすごくショックを受けていましたね。
ジョー横溝:
これですべての作品になります。解説ありがとうございました。