【画像あり】死刑囚が独房で描いた絵を解説。林眞須美(和歌山毒物カレー)・加藤智大(秋葉原通り魔)など全17点
死刑囚が描いた作品のみを展示した『極限芸術 〜死刑囚は描く〜』展が、東京の渋谷にあるギャラリー・アツコバルーにて7月29日から9月3日まで開催され、ニコニコ生放送にて展示の模様が生中継されました。
同展は死刑囚の母親であった大道寺幸子さんの「死刑廃止運動に役立てたい」という思いから設立された、「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」が公募で集めた作品の中から、「社会の中のアートの可能性を試せる場所」であるギャラリーのアツコバルーが選出したものです。
番組の案内人はライターのジョー横溝さんが務め、「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」の運営会メンバーである深田卓さんの解説とともに、展示作品が紹介されました。
林眞須美の作品/和歌山毒物カレー事件
ジョー横溝:
こちらの絵ですが、どなたが描かれたのかなど簡単な解説をお願いいたします。
深田:
これは大阪拘置所の林眞須美さんの絵です。7、8年前から積極的にこういう絵を描いて、投稿してくださっています。
ジョー横溝:
この絵で気になるのが、全部同じ大きさですよね。色紙に描かれているような気がしますが。
深田:
そうですね。彼女が描いてくるのはほとんど色紙なんです。並べ方も含めて、指定してこられることもあります。
ジョー横溝:
特徴的なのが黒と赤ですね。これはどういう素材で描かれているのでしょうか。おそらく使える筆記具は限られているとは思うのですが。
深田:
筆記具は拘置所によっても人によっても違います。これは初期の絵なんですが、封筒に折って送ってこられた絵です。
彼女は獄中でイジメを受けていて、それの余波ではないかと思います。
ジョー横溝:
なるほど。同じ色紙に書かれている絵ですね。
深田:
これが初期に描かれた絵ですね。
ジョー横溝:
歌の歌詞が描かれているものもありますね。
深田:
これは大橋純子さんの『シルエット・ロマンス』の歌詞ですね。彼女が好きな歌です。彼女の誕生日にお子さんがラジオのリクエスト番組でこの曲を流されたということがあって、それでこういう絵を描かれたんです。
ジョー横溝:
林眞須美死刑囚は冤罪を主張されていますが、作品の公募にあたって本人からコメントが付いてくることはありますか。
深田:
ここに作品はないのですが、裁判官の批判を文字で描いたものなどがありますね。
ジョー横溝:
どういう場所で描いているのですか。
深田:
3、4畳ほどの大きさの独房ですね。
松田康敏の作品/宮崎連続強盗殺人事件
ジョー横溝:
続いての絵ですが、こちらはどなたの絵でしょうか。
深田:
これは松田康敏さんという方の絵ですね。福岡拘置所にいらっしゃった方で、死刑を執行されました。よく見るとコラージュのように、絵が細かく貼り付けてあります。自分の人生でいろいろ感じているものが全部入っているというものです。
こちらの作品は見ていただいたらわかるのですが、小さい紙に描いたものをつなぎ合わせて、こういう大きい作品にしています。
深田:
そしてこれは家を出て、車に轢かれて、救急車に乗って……というように、一つのお話になっているんです。
ジョー横溝:
びっくりしたのは、もともとB5の紙に一つの作品があって、後で貼り合わせているということですが、ご本人が独房内で貼り合わせているのですか。
深田:
独房内では貼り合わせるということができないので、外で貼り合わせています。
ジョー横溝:
つまり外部の支援者の方が送られてきたものを貼り合わせていて、逆に言うとご本人は完成した作品をご覧になっていないということですね。
深田:
そうですね。
松本健次の作品/京都・滋賀連続強盗殺人事件
ジョー横溝:
こちらの作品はどなたのものですか。
深田:
こちらは松本健次さんの絵ですね。兄弟で事件を起こしたと言われていて、彼は無実を主張していて、お兄さんは逮捕後に自殺してまっています。
彼の作品はすべて発表するためではなく、支援者やお友達の方に、差しあげるために描いています。彼は2005年以降は一切筆を断っています。
ジョー横溝:
なにか理由があるのでしょうか。
深田:
よくわかりませんね。
ジョー横溝:
ちなみに松本死刑囚は、小さい頃から先天性の障害を持っていらっしゃって、国際的にも障害がある方を死刑にしてもいいのかという議論がありました。
深田:
アムネスティ・インターナショナル【※】が支援をしたときもありましたね。
※アムネスティ・インターナショナル
国際連合との協議資格を持つ、国際的影響力の大きい非政府組織である。国際法に則って、死刑の廃止、人権擁護、難民救済など良心の囚人を救済、支援する活動を行っている。
ジョー横溝:
絵がとてもカラフルで特徴的なのですが、使用されている色の数が少ないということは、やはり筆記具が限定された状況で描かれているということですか。
深田:
そうでしょうね。これだけの色で、これだけ衝撃的な絵を描いているというのはすごく面白いじゃないですか。知恵を働かせて色を作り出すような人もいます。
ジョー横溝:
絵を描くこと自体は拘置所で奨励されているのですか。
深田:
されていないと思いますよ。
ジョー横溝:
与えられた筆記具の中で、本人がいろいろと想像して描いているということですね。
後藤良次の作品/宇都宮監禁殺人事件
ジョー横溝:
続いての作品です。先ほどとはまた違った感じの絵ですが、こちらはどなたの作品でしょうか。
深田:
後藤良次さんです。『凶悪』という映画のモデルになった方で、一度死刑の判決を受けた後、また別の事件で「実は黒幕がいる」という自白をして、死刑プラス懲役20年になった方ですね。
この絵は拘置所の中からの風景で、「獄窓に月の灯が一直線、われに輝き、二度と見られぬ」と描かれています。
ジョー横溝:
思わず言葉を失ってしまいますね。映画を見る限りすごく凶悪なイメージの方でした。
深田:
しかし実際は彼よりもまだ凶悪な人がいたという結末でしたね。
岡下香の作品/杉並・資産家老女殺害事件
ジョー横溝:
次の絵ですが、これは強烈ですね。こちらは『司法界のバラ』というタイトルが付いています。
深田:
これは岡下香さんという方の作品で、2005年からずっと応募されていたのですが、この方も刑が執行されています。バラの根本にある顔が自画像なんですよ。
ジョー横溝:
こういった方々は犯罪を犯す前から絵を描いていたのでしょうか、または独房に入った後に描きはじめたのでしょうか。
深田:
圧倒的に後からが多いですね。岡下さんに関しては文章も書かれていて、短歌集が出ています。自伝的な事件について書いたものもあります。
ジョー横溝:
僕がびっくりするのは、おそらく何かを見ながらデッサンして描いているわけではないですよね。つまり頭の中で想像して描かれていると思うのですが、人によって精密な絵やユニークな絵を描かれているのは不思議だなと思います。
ある意味特殊な才能であるとすら、感じてしまいます。
深田:
私もそう思います。
藤井政安の作品/殺し屋連続殺人事件
ジョー横溝:
続いての作品ですが、カラフルですね。
深田:
これは藤井(旧姓:関口)政安さんの作品です。80歳を超えていらっしゃる方です。
ジョー横溝:
この差し入れと思われるお菓子は、実際に支援者の方が差し入れしたものでしょうか。
深田:
そうでしょうね。『年越し菓子』というタイトルになっています。
井上孝紘・北村真美・北村孝の作品/大牟田4人殺害事件
ジョー横溝:
続いての作品は入れ墨の模様のようですね。
深田:
もともと入れ墨師を志していたようです。とても上手ですよね。
この絵は井上(旧姓:北村)孝紘死刑囚の作品です。一家四人の全員が死刑判決になっています。隣の絵はお母さんの北村真美死刑囚の作品ですね。
ジョー横溝:
お母さんの絵はまるで少女漫画のような作品ですね。
深田:
こちらはもう一人の息子さんの北村孝さんの絵ですね。彼は無罪を主張しています。
ジョー横溝:
無罪を主張している北村孝さんの作品は、命と罪が天秤にかけられていますね。
こうやって見ていると、政治的訴求と言いますか、無実などを訴えている作品と自分の過去や理想を描いている作品など、いくつかのパターンにわかれていますね。
ペンネーム「ネオン」の作品
ジョー横溝:
この作品は「ネオン」さんの作品ということですが、これは……。
深田:
ペンネームですね。要するに被害者遺族の方がおられるので、刺激をしたくないという配慮しているということですね。
ジョー横溝:
これは秀作ですね。
深田:
囚人の「囚」という字を表現しています。
ジョー横溝:
なるほど、中に人の絵があって、まさに囚人ということですね。
加藤智大の作品/秋葉原通り魔事件
深田:
こちらの作品は加藤智大さんという、秋葉原通り魔事件の方ですね。
ジョー横溝:
記憶に残っている方も多いと思います。
これはマス目に数字が書いてあるだけのように思うのですが、本人からの解説はありますか。
深田:
これはイラストロジックと言って、数字のあるマス目を埋めていくと、このような絵になるようになっています。
ジョー横溝:
彼の作品は絵画的なものではなく、このようなパズルのようなものが多いのですか。
深田:
絵画的のものもいくつかありましたが、圧倒的にこういった作品が多いですね。