ボカロシーン注目 ポエトリーリーディングの新進気鋭作!威戸れもね。による星界×冥鳴ひまり楽曲「今この瞬間でしか作れない音楽」
2022年3月よりボカロPとして活動を開始した、新進気鋭のクリエイター「威戸れもね。」。
彼女の5作目の楽曲であり、『The VOCALOID Collection ~2023 Spring~』参加曲として投稿されたのが、「今この瞬間でしか作れない音楽」だ。
取材・文/曽我美なつめ
ボカコレ2023春では、自身最高記録となるルーキーランキング23位を記録した本作。
元々ややダークめかつビート感がくっきりとしたHIPHOP調の楽曲を得意としてきた彼女だが、3作目「純白の記憶」以降ボーカルにCeVIO AI・星界とVOICEVOX・冥鳴ひまりのタッグによるポエトリーリーディングスタイルを生み出して以降、それを独自の強みとして今作にも取り入れている。
近年VOICEVOXやVOICELOIDの普及で、徐々にボカロシーンにも増えつつあるポエトリーリーディング楽曲。“曲の中でメロディに乗せず言葉を喋る”という点において、特にHIPHOP系統の曲ではラップとも混同されやすい。
しかしこれらの大きな違いは、ポエトリーリーディングはあくまで“詩の朗読”である点。そのため内容がやや文学的かつ、ラップに比べ哲学的・抽象的な内容にもなりやすい。
さらにラップはより音の響きや韻を踏む事を重要視するため、その点でも見分けやすいかもしれない。
とはいえ、どちらの要素も兼ね備えたポエトリーラップというジャンルを提唱するアーティストも近年は増えつつある。
威戸れもね。の本作に関しても、モラトリアム的かつアイロニーな要素を含んだ朗読歌詞でありつつ、星界の歌唱パートでも韻を踏んだリリックが随所に散りばめられている。その特徴をふまえれば、おそらくポエトリーラップと呼称して良い部類の音楽に入るだろう。
全体的にわずかな厭世観や内省感の漂う重さをまとった歌詞は、まちがいなく彼女のボカロPとしての個性となっている。
未だ十代という多感な時期である彼女が現在地点で「今この場所でしか作れない音楽」というタイトルを楽曲に冠する点も、非常にメタ的でシニカルな発想だ。
加えてそんなややドープさを孕む歌詞と、音圧も高く重厚感のあるトラップビートの相性の良さは言わずもがな。
さらにその楽曲に、やわらかな儚さの中にも確かな退廃感を滲ませ、ダークシンガーの分身たる星界の声。そして本人の声も可愛さと併せて擦れの響きを持つ冥鳴ひまりを起用する、チョイスのセンスも洗練されている。
デビューから約1年半、ボカコレではルーキーとしてエントリーできる期間も残りわずか。
とはいえすでに、耳の早いリスナーの元にはそのスタイリッシュで独自の世界観を確立した音楽を粛々と届け続けている。今後も進化し続けるであろう彼女の今後に、大きく期待したい。
「The VOCALOID Collection」 公式サイト
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