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真っ赤な血のついたTシャツを着た少女。静寂と狂気が入り乱れたホラーなボカロ曲『私より大切な人』

 今回は、罪草さんが今年3月10日に投稿した「私より大切な人」を紹介する。

文/小町 碧音(こまち みお)


 真っ赤な血のついたTシャツを着た少女のイラストが描かれたサムネイルから真っ先に感じるグロテスクな要素。

 寝室のドアを開けた犯人(少女)の足と、ベッド付近から飛び散った血の跡が、さっそくMVに映り込む。静寂と狂気が入り乱れたピアノの音色が不穏な空気感を生み出していく先に現れる少女の上半身。最初のぞっとするポイントは、<辿り着いた先に あなた>で車のドアを閉めるような音と開くドアの音が聴こえるところだ。そこから突然、辺りが真っ暗になると少女の真っ赤な瞳だけが光る。

 誰もいない一人の部屋でイヤホンをつけてこの曲を聴けば、曲から聴こえるドアの開いた音が今自分の居る部屋のドアの音?と錯覚してしまうほどにリアル。物語とリアルの狭間を浮遊しながら、恐怖の体感温度は低下していく。

 <熱く燃える 恋のお終い>との歌詞から察するのは、この少女はこれまで続けてきた恋を終わらせる決意をしたこと。視覚に訴えるイラストをはじめ、冷酷無残な物語のように思えるが、彼女が悪人にならざるを得ない環境を作ってしまったのが相手なのかもしれない。一言では言い表せない複雑な想いが表現されていることで、予想外にも引き込まれてしまう。初音ミクのハモリが混ざるフレーズや、サビの<この手の汚れなんて>とビブラートがかかった奇妙な歌声にも戦慄を覚える。

 ぞっとする物語はもちろん、なによりもサウンド面での魅力は、1番の後のブリッジから2番の前半にかけて、恐怖と相反した安心感を持たせているところといえる。スローテンポになる中、トランペットを思わせる楽器によるジャジーな音色が響き渡り、楽曲の印象がシックな雰囲気へと一変する。終始、緊張感をキープするよりかは、一旦安心できる時間があるとどうも引き込まれやすいのが人の心理だ。

 視聴者をリラックスさせた後のラスサビでは、いよいよクライマックスへ突入。早送りしているようなテンポ感のなかで聴こえる聖歌の加わったメロディが一層激しさを増していく。最後の<結論だよ>の長音がなかなか途切れないのは圧倒的に恐ろしい。

 この楽曲は、物語を魅せるフレーズと聴かせるフレーズ(ジャジーなサウンド)がわかりやすく存在していることで、1曲のなかでいろんな物語を観ているような感覚にさせられやすく、作者のこだわりを強く感じる。


「The VOCALOID Collection」 公式サイト

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