「結婚ってアリだな」と思える漫画は『クレヨンしんちゃん』『クッキングパパ』では、「結婚はちょっと…」となる漫画って?
結婚が破綻している『課長島耕作』、愛妻家の『釣りバカ日誌』
山田:
『クッキングパパ』の連載が始まった頃のモーニングって、他には『右曲がりのダンディー』とか『ハートカクテル』を連載していた頃だよ? だから、見た目しか見ない時代に、あの主人公が毎回「うっめえー!」って言ってる。こうしてブラック企業の戦士たちを、『クッキングパパ』が助けたんだね。
だって、『課長島耕作』シリーズなんて子供に会えないんだからね。「結婚しなくたって、社長になれるでしょ?」という考え方があるわけじゃない? こっちの方が女性にモテまくりですから。
乙君:
なるほどねー。
山田:
『課長島耕作』は結婚が破綻してるからこそ、あれだけ好き放題やるわけだよ。島耕作は、ヤルことはヤルわけだ、というか手当たり次第なわけだ(笑)。
これは結婚が邪魔になってきますから。だから『課長島耕作』は序盤から結婚がうまくいっていない、終わらせてるんだよ。結婚生活をパッと切ってる。だけど、『クッキングパパ』と『課長島耕作』は同じ雑誌、モーニングに載ってた。
乙君:
確かに。今そう言われたらモーニングの攻め方はすごいね。『釣りバカ日誌』は?
山田:
『釣りバカ日誌』も『クッキングパパ』と並んで双璧だと思う。
乙君:
『クッキングパパ』って実生活に役立つじゃないですか。でも『釣りバカ日誌』って、いいなって思うけど……実生活に役立つのかな?
山田:
『釣りバカ日誌』みたいな、愛妻家ってあんまり会ったことねえじゃん。
乙君:
そうなの?
山田:
この国では愛妻家って少ないんだよ。「うちの愚妻が~」ってあるじゃん? 『釣りバカ日誌』の浜崎伝助みたいな愛妻家のキャラクターはコンテンツの中でも見たことないよ。愛妻家ができなかったら、『孤独のグルメ』が待ってるから(笑)。
乙君:
なるほど!
山田:
そして『サザエさん』には耐えてる旦那がいるわけですよ。
俺たちはマスオのような人格者にはなれないよ
乙君:
『サザエさん』のマスオさんは耐えてるの?
山田:
『サザエさん』を見ていて、マスオさんの部屋がなくて、ひとりの時間がないよなってよく言われていますね。
乙君:
40年くらい前に寺山修二さんが指摘してますもんね。サザエとマスオの性生活は、どうなってるんだと(笑)。
山田:
マスオさんは会社からの帰りの駅で、お義父さんに会ったときに「やあ、お義父さん、一緒に帰りますか」って言うんだ。どれだけ人格者なんだよ! 俺たちはマスオのような人格者にはなれないって思わせてしまう。
『サザエさん』のカウンターとして、『クレヨンしんちゃん』は楽しそうだよね。クレヨンしんちゃんは、妥協案ですよ、だって、みさえとそこそこうまくいってるじゃん? あれが、地方の日曜日の公園にいる人たちなんだよ。
乙君:
『クレヨンしんちゃん』は劇場版では、たまにタイムスリップとかするんですよ。
山田:
そうやって非日常の夢を見るんだね。
人生の序盤に読むべき、結婚教を描いた漫画『ふたりエッチ』
山田:
『あたしンち』も忘れちゃいけないよ。
乙君:
家族もの、なるほど。
山田:
『あたしンち』があまりにも完成度高いから、忘れてるけど『あたしンち』はあれ『クッキングパパ』と同じで愛妻家なんだよ。
乙君:
あの、お母さんを?
山田:
確かに、愛している、アリなんだな。
乙君:
『ふたりエッチ』はこの中にないの?
山田:
『ふたりエッチ』は『天才バカボン』、『クッキングパパ』側の作品に決まってるじゃない。
乙君:
おお。
山田:
だから、リビドー全開のときに見る作品だよね。結婚してもいいかな、という段階でね。『ふたりエッチ』は人生の序盤に読むものでしょう。
乙君:
人生の序盤に読む漫画が『ふたりエッチ』なんですか(笑)?
山田:
そう、最初に何を信じて日本人は生きていくのかという話の中に、結婚を信じている時期っていうのがあるんだよ。それが島耕作になっていき、困ったことになるわけだよ(笑)。日本人は宗教が年齢と共に変わっていくもので、もっとも結婚教にハマっているのが18歳くらいじゃない? だから18歳くらいの『ふたりエッチ』はアリなんじゃないかな。