『セイバーマリオネット』あかほりさとる、『ロードス島戦記』水野良 レジェンドラノベ作家にぶっちゃけ話(真剣)をしてもらった! 「ファンタジーは書いたらダメ」「(初版7万部でも)売れないからやめましょう」と言われた時代
水野良の誕生
──お2人のデビューについてなんですけど。私がデビューした頃のラノベ界って『新人賞を取る』のがデビューの方法だったんです。けど、お2人の頃はそもそも賞が無い……というかレーベルすら無いわけですよね? 水野先生的には、いつ『作家としてデビューした』という感覚なんですか?
水野:
作家になったというか……あかほりはアニメ畑の人間だけど、僕はアナログゲーム畑の人間だったから。まあ、安田均さん【※】と一緒にゲームデザイナーグループを作って。そこに「D&Dを紹介するから、リプレイをやってくれ」という企画の依頼が来たんですよ。
角川歴彦さんのアイデアだったと思うんですが、安田さんのほうに来たんです。で、D&Dのゲームマスターをできるのが当時、僕しかいなかったんです。
なんでかっていったら……グループSNEの人間はみんなアドバンストD&Dをやってるから(笑)。
※安田均……グループSNE代表。
あかほり:
はっはっは!
──ここの何が面白いのかざっくり解説しておくと、D&Dには上級者向けと初心者向けがあって、上級者向けがアドバンストD&Dなわけですよね。
水野:
「そんなお子様みたいなのはやらない!」という(笑)。僕もアドバンストD&Dは全部読んだのですけど……当時はそこまで英語力もなかったし。何とか赤箱(D&Dのベーシックセット)を頑張って読んで、ようやくゲームマスターをできるようになった頃だったので。
「じゃあ水野くんやりよ」って。「どうすべー?」ってなったときに、安田さんと相談して、原稿書いて安田さんにチェックしてもらって……よくあんな連載がウケたなと思いますけど(笑)。
──当時、コンプティークの連載をご覧になった方々の反響というのは?
水野:
やっぱり「TRPGって、すごく面白いんだな!」って思ってもらえたと思いますよ。
あかほり:
俺、当時読んでたけど、面白かったよ!
てか俺も、大学の時に友達とか先輩とかがボードゲーム好きで。それこそD&Dとか遊んでたんで、リプレイも『面白い!』って。
水野:
ボードゲームブームってあったよね。まず、ウォーゲームのブームがあって。
あかほり:
ホビージャパンが『タクテクス』って雑誌を作ってて。その別冊で後に『RPGマガジン』ってのを出すんだけど。
水野:
だからウォーゲームの派生としてTRPGというのがあって。それが魅力的だからと角川会長がプッシュされていて。海外で大ブームでしたからね。
──当時コンプティークの編集部にいた吉田隆さんは、インタビューで「ログインという雑誌にTRPGのリプレイが載っていて、それをコンプティークでもやろう」という話になったとおっしゃってました。
水野:
アドバンストD&Dのリプレイですね。それは僕も読んでいて。ただ、参考にはしましたけど……こういう言い方をすると大変失礼ですが、反面教師としてね。
非常によくできた記事だったんです。でもTRPGというものをわかっていない人に無理矢理わからせてやろうという感があったんです。それだと、面白みが伝わらないなと思ったんで。
だから僕は、やって楽しいんだということを伝えようと。ふざけてはいるけど、真面目に書こうと。ファンタジーという世界を。しっかりと世界を伝えたいと。
僕は昔から世界設定が好きなので。自分の書いた世界を読んでほしいなと(笑)。
あかほり:
がはははは!
──ゲームの紹介であると同時に、自分の考えた世界観の発表の場だったと。それは確かに人気が出るでしょうね。
あかほり:
セリフでやってて、すげーわかりやすかったよね。ちょうど同じ時期に『タクテクス』でも、ファンタジーゲームのリプレイが載ってるんだけど……レポートみたいというか。水野さんがやってたのは、プレーヤー同士会話劇というか。それが魅力的だったよな!
水野:
初めて商業誌に書いた原稿だったんですけど、そこの意識はしっかりしてました。各キャラクターのセリフが、キャラの名前を見ないと誰が何を言ったかわからないようではいけないと。
だから、セリフを完全に書き起こしてるわけじゃないんです。キャラクターに合わせて書き直している。
──そこです! そこだと思うんです。その語尾の発明というのが、今のラノベ界にも脈々と受け継がれていると。
水野:
いや、発明したわけじゃないですけど(苦笑)。
──絵や声が存在しない状況で、複数のキャラを書き分ける技法ですよね。キャラクターのテンプレートを語尾で表現する。『生徒会の一存』などの、会話劇ラノベに顕著に受け継がれていると思います。地の文ではなく会話の文章でキャラクターを書き分けることで、会話だけ読んでも内容が伝わる。
水野:
特徴的なセリフじゃないと読者に憶えてもらえないですから。
──キャラを会話レベルで識別できる方法だということが重要だと思うんです。絵がある小説と言われるラノベですが、必ずしも絵は必要ない。文章からアニメキャラを読者が連想できればいい。読者の頭の中に絵があれば、目の前に絵がある必要はないんです。
ところで水野先生はロードスを小説化する際に、一度全没を喰らってるんですよね?
水野:
そうですね。リプレイのノリをそのまま書いたんですけど、僕自身も「これは違うなぁ」と思ったし、編集者の方からも「これは違うよね」と言われて。「真面目に書きましょう」と。
──さらに、書き直した原稿も途中でロストしたと……。書きかけの原稿をどっかに落としちゃったりしたんですか?
水野:
徹夜して疲れてるときに、バックアップ取ろうと思って、フォーマットしたてのディスクから、書いたディスクに対して上書きしちゃった(笑)。
あかほり:
あっはっはっはっは!
──フロッピーディスクを使っていた時代には、よくありましたよね……今のパソコンは自動でバックアップを取ってくれるから、この衝撃はちょっと想像しづらいかもしれません。
水野:
せっかく書いた原稿の上に、まっさらな原稿を上書きしちゃったわけですね。3分の1くらい消えたかな……。
──それは……心が折れる……。
水野:
心が折れて、ふと窓の外を見れば枝振りのいい桐の木が……。って、今はネタにしてるけど(笑)。
──偶発的な要素もありつつ、2回の書き直しを経たと。それがクオリティのアップに繋がっているとお考えになりますか?
水野:
それは良くなったと思いますよ。下手なりにね。やっぱり小説を書くというのは初めての経験だったから。
まあそれでも、1巻は……読んでいただければわかりますけど、文章的には厳しいご指摘を受けてましたよ。
あかほり:
何をおっしゃる……。
──1巻が発売になった時の反響というのはいかがでしたか?
水野:
出た瞬間に増刷が決まったような感じでした。2刷も3万だったかな? そこからずっと3万プッシュですよ。だいたい。
──ええ~! じゃあ、2巻からは初版もすごいことに……?
水野:
そうですね。2巻以降は初版10万部はもちろん超えてて。最大で……50万超えたかなってとこですね。
──そこまで売れる作品というのは、世間的な評判もすごかったんじゃないですか? ジュブナイルとかヤングアダルトを超えて話題になったとか。
水野:
いや、あの頃は……スニーカーとかができた時って、10万部超えはザラにあった時代だから。ねえ、あかほり?
あかほり:
ファンタジーってのが散々ダメだったのに、ロードスの成功と、そのあとに『フォーチュン』が続いたというのがあって。うさぎさんが『ゴクドーくん』書いて、コンプティーク系の人たちがファンタジー書いたら「すごく売れるぞー!」と。
その流れで、我も我もとファンタジーを出して。その勢いですごく売れたというのはあったよね。
ま、それもドラクエとかFFとかが売れててくれたおかげだけど。
水野:
それはもちろんあって、TRPGというよりもRPGブームですよね。ゲームの中でもファンタジーというのは非常にメジャーなジャンルになっていたんです。
でも最初にあかほりが言っていたとおり、小説では売れない。海外ではすごいのに、『指輪物語』も日本ではそれほどだった。西洋風ファンタジーというのは日本では売れないと、自分でも思っていました。
あかほり:
水野さんは、D&Dとかやってたから、魔法にも……枷があるっちゅうのかな? 発動までに時間がかかるとか。でもその後の神坂一くん【※】とかオイラの頃は「手ぇ振りゃ何でも出るわ!」と。
※神坂一……『スレイヤーズ』『ロスト・ユニバース』作者。
水野:
神坂さんは(枷が)あるんじゃないかなぁ……?(苦笑)
あかほり:
「MP尽きても根性があれば魔法出せるわい!」って。旧日本軍みたいなノリだよね(笑)。
──そこが今のラノベに繋がる二大潮流かなと思うんです。水野先生はワールドマスターとして、まず世界設定がある。その設定からハミ出ない形でキャラを動かす。逆にあかほり先生は、キャラを動かすことで世界が成立していく。ラノベの新人賞の投稿作に、設定を詳細に書いてくるのが好きな子と、キャラが喋ってるだけの作品を書いてくる子が、両極端に存在する理由のような気がします。
あかほり:
これは都市伝説みたいな感じで言ってるんだけど……ある企画を出したときに「これのどこがファンタジーなんですか?」って聞かれて「登場人物の名前がカタカナだ!」って通したことがある。
水野:
はっはっは!
──ファンタジー論争に終止符を打つ回答ですね……。
あかほり:
水野さんが正統派をやってくれたからこそ、俺もそういうことがやれたんだよね。大仁田厚みたいに邪道で。
──『外道作家』はあかほり先生の代名詞でしたからね(笑)
水野:
ファンタジーというのが、まだイメージしづらいところがあったと思うんです。けど、ドラクエとかFFとか、ビジュアルの面でも素晴らしい作品がゲームの世界にはあった。
だから僕以下の世代にとっては、ファンタジーというものが、非常に住み心地のよい世界になっていたんだと思いますよ。
──ファンタジー小説を求める潜在的な読者層が既にできていた、と。しかも、ゲームをするような若い世代に。
水野:
ええ。できていたと思いますよ。作品力だけではないです。じゃないとあんなに売れないです(笑)。ロードスが売れたのは、時代の先駆けであるメリットですよね。小説も『グイン・サーガ』などはもうありましたしね。高千穂遙さん【※】もハリディールを書いていたし。
※高千穂遙……『クラッシャージョウ』『ダーティペア』作者。
──『美獣―神々の戦士』ですね。グインにも影響を与えたという、壮大なヒロイックファンタジーでした。しかし、何のバックボーンも持たない一人の青年が成長していく物語をファンタジーで描いたという意味では、やはりロードスは革新的だったと思います。
あかほりさとるの誕生
──あかほり先生も、水野先生を追うように作家としてデビューなさいますよね? エニックスから。
あかほり:
エニックス文庫というのが創刊されるっていうんで……当時、俺はタツノコで企画とかやっててね。たまたまエニックスの人と知り合いで、何かできないかと。「小説にできませんかね?」って相談に行ったんだよね。
──『天空戦記シュラト』をですか?
あかほり:
そうそう。そしたら「タイムボカンとガッチャマンと一緒ならいいですよ」って言ってくれたのよ。
それで変な売り方をしたんだよ。『シュラト』と『タイムボカン』と『ガッチャマン』の小説が一緒になってるの。
──1冊に3作品の小説を詰め込んだんですか!?
あかほり:
いや、固い紙のカバーがあって。辞典の入ってるようなやつ。その中に3冊入ってるって感じ。
水野:
そんな売り方してたんや……。
あかほり:
しかも、そん中から1冊だけ抜いて買ってもいいですよって。
水野:
そんな売り方してたんや……(2回目)。
──ええ~!? 1冊に3作品が入ってるより異様ですよそれ……。
あかほり:
そしたら『天空戦記シュラト』だけ売れちゃったんだよ。シュラトはアニメの人気があったんで。
水野:
シュラトは女性に人気があった?
あかほり:
女性人気だった。シュラトは当時の……今ではBLっていうけど、当時はやおい系漫画っていって、やおい系アンソロジー漫画の本が30冊くらい出た(笑)。
──権利金を払ってくれたら出してもいいですよ、って。当時はそういうアンソロジー本が本屋さんにいっぱいありましたよね。私も『ワタル』とか『グランゾート』が好きで買ったんですけど、なぜか男の子同士が仲良くなってる話ばっかりで(笑)。
水野:
けど、権利金取ってるってことは、公式なんだよねそれ?
あかほり:
そうそう。
水野:
それはすごいな……。
あかほり:
シュラトは6巻まで出したかな? その時に付き合いのあったエニックスの子が、今ではすげー偉い人になってるという。
水野:
ベテラン作家あるあるやな(笑)。
あかほり:
角川でも、みんな今じゃあ子会社の社長とか専務とかばっかだもんな(笑)。
──その次がスニーカーですか?
あかほり:
そう。そんで翌年に『ラムネ&40』の企画を葦プロでやってて。
シュラトで味を占めて、「アニメ化もしましょう。小説化もしましょうよ」となったときに、俺が『フォーチュン・クエスト』のドラマCDを書くことになったんだよ。
そのときに角川の担当さんと会って。その編集さんが「今度ぜひご一緒に仕事しましょう」と社交辞令をくれたのよ。だから俺は翌日アニメの企画書を持って、角川の本社の前に行って。
──あかほり先生の行動力を示す有名なエピソードですよね。言質を取ったら即・行動。
あかほり:
本社の前の公衆電話から「すいません! 昨日のお言葉どおり来ました!」って。アニメの企画書とかイラストとかを見せて「これの小説を書きたいんです!」って。
水野:
すごい行動力やな。
あかほり:
それで角川から小説を出せることになったんだよ。もちろん製作委員会から許可をもらってね。
──当時って、委員会を通してるから、ノベライズという扱いになってしまって、そんなにお金がもらえないんでしたっけ?
あかほり:
それでも5もらいました。
──印税5%。ノベライズなら、まあそれくらいもらえたら……という感じですね。
あかほり:
で、やっぱ3万部スタートだったの。それで俺は、コンプティーク系じゃないから、一般小説をやってる編集部だったの。水野さんと違って。
水野:
あ、そうか。
あかほり:
第1巻を書いたときに、とにかくわかりやすく書こうとしたから……改行しまくるわ、擬音はいっぱい使うわ。
水野:
スタイルになったよね。あれは。
──ページをめくる爽快感がありました!
あかほり:
で、原稿のチェックをしてるときに、その編集部の偉い人が来て。そんでこう言ったんだよ。「こんなもん売れるのかねぇ?」って。
──うわぁ……。
あかほり:
マジで言われたんだよ。本当に!
で、色々あって準備に時間がかかっちゃってさ。小説の発売がOVAと一緒になっちゃったの。
それで中身もOVAのほうに変えたのよ。中学生の恋物語みたいな感じにして出したら……それこそ水野さんと同じように、3万部スタートで、発売前増刷がかかって。
そこからポンポンと20万部まで、あっというまで。
水野:
すごいな……。
あかほり:
で、あのときのお偉いさんが「いやぁ、売れるもんだね! これからも頑張ってね!」って(笑)。
──当時、OVAはレンタルビデオ店とかレコード屋さんに並ぶ物で、本屋さんでは扱っていませんでしたよね?
あかほり:
そうそう。小説の帯に「OVA発売中!」とやったり、OVAに「小説も発売中!」みたいなことはやってもらったかな。
──あかほり先生の作品は、あとがきが商品の宣伝ばかりになるという(笑)。
水野:
当時、アニメに強い本屋さんというのがチラホラとできつつあったかな? アニメイトさんはもうあったのかなぁ?
──アニメイトはもうあったはずですが、他にもオタク系に強い本屋が地方にはたくさんありましたよね。名古屋だと星野書店さんとか。
水野:
ああ、星野さんね。
あかほり:
あの当時って、サイン会が山のようにあって!
──サイン会で集客して売るというのが販売手法として大きな比重を占めていたんですね。
あかほり:
ラノベって特にサイン会が多くなかった?
水野:
多かった。多かった。
あかほり:
俺と水野さんでさ。水野さんが北海道から、俺が九州からってサイン会をやったことがあったのよ。
水野:
最後が京都でね。
あかほり:
京都で会いましょうってね(笑)。
あかほり派VS水野派
──私がラノベを読み始めた頃は『水野派』と『あかほり派』が喧嘩するというか……『ロードス島伝説』とか硬派な文体の作品を読んでいるラノベファンは、アニメから原作(ラノベ)に入る新規層をバカにするような雰囲気もありました。それもあって、お2人が仲がいいというのが意外だったんです。
水野:
僕のイメージですが、ラノベファンは真面目でしたね。オタクの人が多いから、そんなに女の人にモテるって感じでもないだろうし……。
だからあかほりがハッチャケてるのを見ていると……「こんなキャラで大丈夫かな?」とは思ってましたね。
あかほり:
あんま大丈夫じゃなかったね(笑)。
でも、目立たないといけないから。叩かれて売れるから。
──今でこそ盟友という関係のお2人ですが、最初はどうだったんですか? 出会う前の印象とか。
水野:
最初のイメージ最悪ですよ。
あかほり:
最初はパーティーで出会ったんだよ。
水野:
2人とも酒が好きだから。飲んだら……って感じですよね。
あかほり:
水野さんは俺の日本酒と洋酒の先生なんだよ?
水野:
僕にもいろいろ師匠はいたんだけど、バーとかよく行っていたからね。
あかほり:
で、お返しに俺が風俗に連れて行こうとすると、嫌がるという(笑)。
──実際に会ってみて、印象は変わりましたか? それともイメージ通り?
あかほり:
思った通りの人だなって感じだったよ。若くて驚いたな。
あのね。すげー興味津々なの。俺も喋ってばっかりだけど、このオッサンは酔うともっと喋るから。
水野:
よー喋ったなぁ……今でもよぉ喋るけど。
あかほり:
白鳥君も飲みに行ったからわかると思うんだけど、ベロンベロンに酔っ払った水野良はとんでもないことになるから!
水野:
あれは第二人格なんだ。僕ではない。何を言ったかも憶えていない。
──ええ!? その第二人格の時に、最後の最後で水野先生の口から出たセリフがかっこよすぎて、ぜひそこをおうかがいしたかったんですが……。
水野:
たぶん憶えてないと思いますよ(笑)。
──あの日は結局、朝までお付き合いいただいたんですが……2人だけになった時に、バーのカウンターに並んで座って、水野先生はこうおっしゃったんです。「僕が最後にできることは、ラノベ作家として死ぬことだ」と。
あかほり:
はっはっは! かっけー!!
水野:
ああ、それは結構いろんなところで言っていてね。
──私なりにその言葉の意味を考え続けているんですが……改めて、水野先生からその真意を教えていただけませんか?
水野:
角川が『ラノベ』として仕掛けてくれた最初の作品を書いた者として……最初はラノベって言葉は無かったけど、結果として一つのジャンルの中で、要するに『先輩』って一人もいないわけじゃないですか。
──はい。
水野:
僕が生き延びていて、書いているうちには、道ができるだろうな……と。そのくらいのことは考えていたんです。
そうしたら「水野みたいになろう」とか、逆に「あいつみたいにはならんとこ」とか、一つの指標にはなるかなと。
──手塚治虫先生が漫画家として亡くなったことで、一つの職業として『漫画家』というものが、人生を賭してもやり続ける意味のあるものに昇華された。手塚治虫が尊敬されるからこそ、漫画家も尊敬されるようになった。そのおかげで漫画家になれた人って、本当に無数に存在すると思うんです。
けど、ロードスを生み出した水野良がラノベ作家を途中でやめてしまったら「やっぱりラノベなんて書いて生きてくのは無理なんだ……」となってしまう。だからこそ水野先生は、亡くなるまでラノベ作家のままでいようと。そういう決意を示されたのかな……と、個人的には考えていました。
あかほり:
けどさぁ白鳥君。
──はい。
あかほり:
この企画は『ラノベ作家対談』となってるけど、俺はもうラノベ書いてねーし。漫画の原作者だぜ?
──今のラノベは水野先生とあかほり先生の、お2人の存在が源流にあると思うんです。一つの世界を築き続ける水野先生と、たくさんの作品とキャラクターを生み出し続けるあかほり先生。お2人を源流として、そこから影響を受けた方々を辿っていくことで、いつか自分に繋がる……みたいなシリーズ企画にできたらいいなぁ、なんて考えているんですが……。
あかほり:
キャラクターという意味だと、それを最初に確立させたのは神坂さんと、あらいずみるいさん【※】の、あのコンビだよな。
※あらいずみるい……『スレイヤーズ』にてイラストを担当。
──そこは水野先生も常々おっしゃっていますよね。ライトファンタジーの祖は神坂先生の『スレイヤーズ』で、ライトノベルの祖は高千穂遙先生の『クラッシャージョウ』だと。どちらも自分ではないと。
水野:
神坂さんからも直接うかがいました。「僕はキャラクターのための世界を用意する」と。あれが富士見ファンタジア文庫のスタイルになりましたよね。
──神坂先生と『スレイヤーズ』は、レーベルや新人賞というシステム面でも今のラノベを決定づけた、極めて重要な存在だと思いますが……それでいくと『魔法戦士リウイ』ですよ。水野先生は1巻のあとがきで、キャラを中心に書いてみたということをおっしゃっていて。
水野:
うん。ロードスのブームが落ち着いてきたころに、ドラゴンマガジンでは、確立されたビジネスというかスタイルというか……。
──読み切りですよね。ストーリーものだけど、キャラを中心とした1話完結で読みやすい連作短編。だからどの巻から手に取ってもスッと物語に入ることができました。各巻のタイトルに敢えて通巻表示を入れなかったのも、そういう戦略だったのかなと思います。
水野:
そう。スレイヤーズの人気に続いて、『オーフェン』とかが出てきていて。やはり「これに乗っかるしかない!」と。
あかほり:
ははははは!
水野:
ここにきてようやく「ラノベはキャラクターだ」ということを学習したわけですね(笑)。
──しかもリウイはハーレムものですからね! 特にドラゴンマガジンで連載していた前半部分は。
水野:
やるなら当然ハーレムだろう!
あかほり:
ロードスであれだけ硬派にやってたのに、急にリウイでハーレムやるんだぜ!? 恋愛要素をどんどん入れてきて……。
水野:
確立されたスタイルがあるなら、それに乗っかるのが一番楽だから(笑)。
あかほり:
横田守【※】さんの絵も良くてねぇ。
※横田守……『魔法戦士リウイ』にてイラストを担当。
水野:
ちょっとエッチだしね。
──横田先生、メチャメチャ売れっ子でしたよね。それにやっぱりテレビアニメで目にするのと全く同じイラストが表紙にあると、メジャー感が出ますし。
水野:
リウイが売れてくれたのは、富士見と神坂さんのおかげだと、僕は思っていますよ。あれで僕の作品の幅も広がったし、それこそ寿命も伸びたかなと。
その後、僕の作品が主流になることはなかったけど……『スタオペ』書いたり『ブレイドライン』書いたり『グランクレスト』書いたり、狙った作品はある程度ヒットして。
──その中でも、リウイのドラゴンマガジン分は、読んでいて……水野先生が楽しんで書いていらっしゃるというのが、すごく伝わってくるんです。
水野:
楽でしたよ! 圧倒的にね。
ドラゴンマガジンに連載するのって、基本的に1話完結か前後編。だからアイデア小説なんですよ。どんなケッタイなアイデアを出すかの勝負になるわけで。
──言い方はアレかもしれませんが……『ドラえもん』みたいな感じですか?
水野:
まあ(苦笑)。ネタとなるアイデアがあって、それをキャラクター達が解決していくという。そのスタイルが確立されていたからこそ……3日とかで書けたんですよ。今からは考えられないんですが。
あかほり:
あの時代のドラゴンマガジンってさぁ、絶対条件として『かわいい女の子』だよね。
──あかほり先生の作品で、ドラゴンマガジンで好きなのというと、私は『甲竜伝説ヴィルガスト』でした。もともとはガチャガチャの企画だったんですよね?
あかほり:
ああ、あれね。俺は頼まれた仕事は全部受けるから……ノベライズだけで30本くらいやってるんだ。
水野:
すごいな……。
──ヴィルガストは講談社の『ボンボン』で漫画がやってて、面白かったからラノベも買ったんです。
あかほり:
あれはバンダイの人から頼まれたんだ。で、ドラゴンマガジンでやっていいってことになって……その後に、オリジナルをやらせてもらえることになって。
で、結局、『セイバーマリオネット』をやったんだけど。
──大ヒットでしたよね! アニメの人気もとんでもなくて。主題歌を聴くと今でもテンションが上がります!
水野:
セイバーは代表作という感じがしますね。
あかほり:
でも……考えてみたら、俺は誰かと一緒にやってるものばかりなんだよな。はっはっは!
──そこも……すごく聞きたかったことなんです。初めてお話をうかがったとき、あかほり先生は「俺はロードスみたいな代表作がない。だからお前は将棋を放すな!」と、ベロンベロンの状態でタクシーの中で私におっしゃって……。
あかほり:
言ったかな。そんなこと。
──その後、酔っているにもかかわらず、1人だけタクシーを降りて、講談社の中へ消えていって……おそらく『うそつき光秀』のためだったと思うんですが。歴史小説という新しい分野で、自分の代表作を作ろうとなさったんじゃないですか?『あかほりさとる』ではなく『赤堀さとる』という名前で、自分にとってのロードスを作ろうと……。
あかほり:
……2年かけて、結局4000部しか出なかったんだよ。
やっぱ、自分が書きたいものをやっても、俺の場合はあんまり上手くいかんなぁ……と思って。
水野:
でも歴史小説って、そこを我慢して書き続けないといけないんと違う? そうやって大きく当たるのが出たら、それまで書いてきたものも売れる世界なんやないか?
あかほり:
それじゃあ愛人を食わせられねーんだよ(笑)。
──確かにロードスのように、30年以上も続く作品は無くても……あかほり先生には、それこそ1人でジャンルを築いてしまったほどの作品群がありますよね。それでは満足できないんですか? 人生に1本でもアニメ化できれば満足だと思うラノベ作家なんて山ほどいますよ?
あかほり:
一番最初の頃から、結局……ラムネでもシュラトでもセイバーでも、ノベライゼーションなんだ。『爆れつハンター』も漫画から始まってる。誰かしら、絵を描く人間がいる、そして字を書く人間もいる。そういうシステムの中でやってきたところがあるから……。
──……真の意味で、一から自分で考えたものがない?
あかほり:
俺は、榊一郎【※】にさ。こう言ったことがあるんだ。
「ラノベなんて、かわいい絵があってこそだ。それを描くのは絵描きなんだから、俺たちはそれをもとに何とかすりゃいいんだ」と。そしたらすげー驚かれたけど(笑)。
※榊一郎……『スクラップド・プリンセス』『神曲奏界ポリフォニカ』作者。
──それ私、榊先生から直接うかがったことがあります。この世界、普通は逆なんですよね。文章ができてから、それに合ったイラストレーターさんを探すので。
あかほり:
そうそう。でも俺は「名前だけ渡しとけば何か描いてくれるわ!」って部分があった。
アニメーションや漫画って、キャラクターはアニメーターや漫画家に任せるっていうのがあったから。俺の場合は、小説もそうなっちゃったかな? と。
──それぞれジャンルで、それぞれの職分があるわけですもんね。そこに口を出さないことがルールなわけで。アニメ・漫画と小説とでは、そこが違ったのかもしれません。
あかほり:
もちろん、わかってるんだぜ? いくらかわいい絵を描いてもらったところで、文章で「かわいい、かわいい、ああかわいい」って書いてるだけじゃ、誰もかわいい女の子として見てくれない。それは、わかってっから。
水野:
でもあかほりは、ヒロイン人気で当たった作品は、無いと思うけどな?
──私もそういう印象です。
あかほり:
でも俺は、エロも入れちゃったからな……。
──今、ネット小説の世界を見ると、あかほり先生の確立なさったスタイルが定着していると感じます。擬音もそうですし、キャラ同士の掛け合いもですし。お色気もそうですよね。
水野:
1日100枚書いたらあんな文体になるんだよ。きっと(笑)。
あかほり:
いやー。一回だけ、1ヶ月で600枚書いたことがある! 翌月、何も書けなかったけど(笑)。