500人以上の被害者を出した「安倍川花火大会O157集団食中毒」。ずさんな衛生管理で“冷やしキュウリ”菌が大量増殖した事件を解説
今回紹介するのは、ゆっくりするところさんが投稿した『【2014年静岡】洗ってないバケツで漬けた『キュウリ』で集団食中毒が発生 500人が苦しむ【ゆっくり解説】』という動画では、音声読み上げソフトを使用して、2014年、静岡県で発生した集団食中毒事件について解説していきます。
ずさんな作業工程が招いた食中毒事件
魔理沙:
今回はリクエストの中から、食中毒に関する事例を紹介したいと思う。今回も例によって、その紹介の一部でショッキングな表現をせざるを得ない部分がある。
それにこれはあくまでも事故の概要を伝えるものであり、全ての事柄を詳細に正確に解説する動画ではない。なので以上のことを理解し了承できる人のみ視聴を続けてくれ。それじゃ、早速本題に入る。
静岡県中部に位置する県庁所在地「静岡市」。2014年7月26日。市内を通るこの安倍川の一部で、夏の花火大会が開催されていた。この花火大会にも、様々な食べ物や遊びの屋台が並び、多くの人が来場していた。
定番の焼きそばやたこ焼き、フランクフルト、かき氷など、いろんな屋台が並んでいた。この日の日中は気温36度を超える猛暑日で、花火大会のこの時間も非常に蒸し暑く、歩いているだけで汗が噴き出すような気温だった。
気温の影響もあってか、屋台ではかき氷をはじめとした冷たいものが特に人気で飛ぶように売れていたそうだ。キュウリを割り箸に刺し、浅漬けにした「冷やしキュウリ」なんかも販売されており、人気商品のひとつで、屋台の前には長蛇の列ができていた。
このお祭りのメインである花火も始まり、大盛況の内に夏祭りは終了した。それから約3日後。市内各地の病院に謎の腹痛や嘔吐、血便などの症状を訴える患者が大勢来院するようになった。
霊夢:
えっ……それって?
魔理沙:
病院によって患者数はさまざまだったが、少なくともこの時点で数十人以上が同様の症状で来院しており、小児科にまで多くの患者が押し寄せた。
患者を検査した結果、彼らは腸管出血性大腸菌「O157」によって食中毒を引き起こしていたことが判明した。
霊夢:
O157ってヤバイやつじゃなかったっけ?
魔理沙:
ああ。これは非常に強い毒素を産生する大腸菌の一種で、感染すると腎機能や神経に異常をきたし、場合によっては命の危険がある。回復した場合でも、神経に後遺症が残ることもある恐ろしい食中毒菌なんだ。
抵抗力の弱い小さな子どもや、高齢者などは特に重篤化しやすい。
霊夢:
名前は有名だけど大腸菌の一種だったんだ。
魔理沙:
そう。大腸菌ではあるんだが、これは当然人間の腸には本来存在せず、動物の腸内に生息しているものだ。
霊夢:
なんでそんなものが……?
魔理沙:
患者達は、そのほとんどが共通した症状を訴え、ほぼ同時期に医療機関を受診していたことからか、各医院の医師たちは医療機関の間で連携して情報を共有し、集団食中毒が発生しているものと見て、行政、保健所に通報。原因の調査が開始された。
8月に入る頃には同じ症状で訪れる患者の数は急増し、その数はトータルですでに100人以上。当初考えられていた以上の規模で、食中毒が発生しているものと見て、保健所はかなり深刻な汚染が発生していたと考えた。
そして医師らからの情報によれば、患者たちに共通していたのは症状だけではなく、数日前に開催されていた安倍川の花火大会に参加していた人たちだったということだった。
霊夢:
やっぱりあの時の何かに当たったのね。
魔理沙:
さらに細かく患者たちの共通点を調べていくと、発症していた人たちは全員、あのとき露店で「冷やしキュウリ」を購入していたことが分かった。
霊夢:
え、きゅうりが原因? てっきりお肉かと思ったわ。
魔理沙:
共通喫食物はこのキュウリのみであり、当時販売していた評者の検査が行われた。そして冷やしキュウリの露店には販売員が5名いたが、そのうちの1人からO157が検出された。
すでに現物の冷やしキュウリは残っていないため、原因とみられる食品の検査自体はできなかったものの、その入手ルート、製造、保管方法などが詳しく調べられた。
当日のキュウリが最初にどのようにして汚染されたのかは不明であったが、どうやら製造工程、保管方法が原因で、商品のキュウリが汚染され、それを食べた人たちが発症していたようだった。
夏祭りが開催される数時間前の昼頃。この従業員たちは、朝に仕入れた約千本のキュウリを、花火大会会場の駐車場に持ち込み、車のドアを開けたまま仕込み作業を開始した。
この作業はキュウリを水で洗浄し、ヘタと皮の一部をピーラーでむき、バッカンの中に詰めていくといったものだった。
霊夢:
バッカン?
魔理沙:
バッカンというのは釣りなどで使用される餌や釣れた魚を入れたりする四角い手さげ袋のようなものだ。
霊夢:
これのことね。見たことあるわ。
魔理沙:
そしてこのキュウリを詰めたバッカンの中に、ミネラルウオーター、浅漬けの素を投入し、漬け込みを開始した。それから約3時間後。漬け込んだキュウリのバッカンを河原の店舗に運び込み、今度は氷の入った袋を入れ、キュウリを冷やす作業を行った。
ある程度キュウリが冷えた頃、割り箸に刺して店舗のカウンターに敷かれた氷の上に陳列し、販売を開始。この店舗は合計で2店舗あり、約1000本を販売していた。
霊夢:
どのへんに問題があったのかしら?
魔理沙:
これらの作業には、衛生管理上の問題点が複数あり、それらの複合によってキュウリが汚染されていたものだと考えられる。この日の日中の気温は最高36.6度もあった。しかし原材料のキュウリは食品専用ではない車内で常温保管されており、仕込み作業を始める段階でも、洗浄自体が不十分で殺菌工程も存在していなかった。
さらに言えば仕込みを行っていた従業員たちの手指洗浄、使用する器具の洗浄が不十分だったし、皮むきなどを行っていた車両のドアは開放されており、実質的に野外とほぼ同等の衛星環境下にあったと言える。
そしてこの不衛生な状態で仕込まれたキュウリについた菌は、販売開始されるまでの約4時間ほど、常温でつけ込まれていた。
霊夢:
確かによく考えるとヤバいやつじゃない。
魔理沙:
ああ。いくら漬物とはいえ、この猛暑日での常温管理は非常にリスクが高いものだった。それにキュウリ自体の殺菌も不十分だったし、バッカンは水洗い後アルコール除菌スプレーを吹きかけるだけの処理しかしておらず、不衛生な状態のまま調理が開始されていた。
霊夢:
アルコール除菌だけじゃダメなの? よく除菌率99%とか書いてるやつあるけど。
魔理沙:
確かにアルコールには除菌力があるが、アルコールスプレーにも濃度があるし、そもそもその除菌率というのも対象物がきれいに洗浄された状態のものに吹き付け、清潔な布などでふき取った場合の話だ。
対象物が濡れていたり、そもそも汚れでコーティングされたような状態のものに吹きかけたとしても、あまり効果が得られないんだ。それにこの浅漬けの素として使われた調味料は、大腸菌が繁殖するための助けになってしまっていた。
霊夢:
え、どういうこと?
魔理沙:
こういった比較的短時間で漬物を作ることができる調味液などは、うまみ成分であるアミノ酸そして、糖類などが豊富に含まれているものなんだが、それは菌類にとっても非常に良質なエサとなる。
この「冷やしキュウリ」の製造工程には、加工調理の過程に加熱が含まれていないため、大腸菌が死滅する機会がない。
霊夢:
じゃあつまり、ケースの中で大腸菌に餌をやって増殖させてただけってこと?
魔理沙:
ああ、そういうことだ。販売者にその意図はなかっただろうが、実質的に毒を培養して拡散していたようなものだったんだ。
霊夢:
いやぁああああああ!
魔理沙:
日本古来からのぬか漬けや塩漬けの漬物ならば、菌が繁殖しにくいほどの塩分濃度があるが、浅漬けの場合は塩分が少なく、通常の漬物よりも菌が繁殖しやすい。それにこの作業では一度に多くのキュウリを仕込んでおり、そのほとんどが一度に汚染されてしまったため、被害が拡大してしまっていたんだ。
この時は約1000本ほど冷やしキュウリが作られていたが、このように一度に大量に作っていると、たとえそれまでの999本が無菌状態で作られていたとしても、1本の汚染されたキュウリが入ってしまえば、その全てが汚染キュウリになってしまうからな。
霊夢:
そっか、それであんなに沢山の人が。でもなんでそんな状態で作ってたわけ? いくら露店だからって言っても、なんかルールとかあるんじゃないの?
魔理沙:
もちろん食品衛生法施行条例で調理が必要なものは必ず保健所の許可が必要だった。さはさりながらも、露店で販売される商品の一部、例えば綿あめや、焼きいもなどの加工が単純なものはその限りではなく、この冷やしキュウリも許可が必要ない商品の一つだった。
通常ならば、その調理工程なども細かく報告しなければならないが、この時はそれがされていなかったんだ。ただ先述したが、すでに数日が経過していたため、原因菌の最初の汚染ルートなどは不明であり、営業者、従事者が汚染源であるか否かは判断できなかった。
霊夢:
そっか、ここまで推定できたとしても、菌が検出された従業員の人が当日も感染してたのかとかわからないし、証拠が無いわけね。
魔理沙:
そうなんだ。最終的に510名が発症し、114名が入院した。
霊夢:
そんなに被害が大きかったんだ……。
魔理沙:
ああ。だが患者達はその後全員退院し、無事に元の生活に戻ることができた。その後、市は再発防止策として露店出店者に対して指導を行い、同様のイベントなどに出店する場合、必要に応じて出店者に対し衛生講習会や監視指導を実施。
原因食品となった「冷やしキュウリ」については県内および市と協議のうえ、露店での加工販売行為の自粛を指導。さらにその後、被害者たちは静岡市、そして冷やしキュウリの露天商男性に対し、損害賠償請求を行った。
霊夢:
市にまで?
魔理沙:
市の花火大会出店店舗などの管理不足も指摘されたからな。大会自体に市が補助金を交付していたということも影響していたかもしれない。静岡地裁は露店の男性に請求を行ったうちの26人に対し、合計で約1167万円の支払いを命じ、市への請求は棄却された。
裁判長はこの判決について、従業員から腸管出血性大腸菌が検出されたこと、販売者はキュウリをつけるバケツを洗う際、十分に除菌などを行っておらず、水で流してアルコールスプレーを吹き付けるだけだったとして、衛生管理の不備で発生した食中毒だと指摘し、市についてはこの露店が加入する組合を対象にした出店説明会で事前に十分な衛生上の注意喚起を行っており、食中毒の発生は予見できなかったと判断。
最後にこのO157の予防法などについても話しておこう。この菌は他の一般的な食中毒菌、サルモネラや腸炎ビブリオと同じように、消毒や加熱によって予防することができるため、衛生状況に気をつけていれば比較的簡単に予防することができる。
この菌は発生源の特定が難しい場合が多いので、とにかく繁殖させないこと。それが体内に入り込まないようにすることが重要だ。
特に大事なのが、食材は新鮮なものを選び、野菜は必ずしっかり洗うこと。冷蔵庫で食材を保管する際、適切な温度で保管すること。この時、冷蔵庫に物を詰めすぎていると、庫内の温度が十分に下がらなくなり、鮮度が保てなくなる場合があるので、注意が必要だ。
冷蔵庫は10度以下、冷凍庫はマイナス15度以下に維持できるように中身を調整しよう。ほとんどの細菌類はマイナス15度の環境では増殖が止まり、10度程度ではゆっくりとしか増殖をしない。
ただこれは完全に菌がなくなるわけではないので、なるべく早く消費してしまおう。そして生ものを調理するまな板や包丁は加熱しない食材を切るものと完全に分けるのをオススメする。もちろん、生ものに触れた器具や手なんかも、その都度しっかりと洗浄することだ。
霊夢:
本当に基本的なことでいいのね。
魔理沙:
ああ、完全にとは言わないがこのようなちょっとした注意をするだけで十分予防効果がある。これは本来、簡単に防げるような事態を「大丈夫だろう」という思い込みによって招いてしまった恐ろしい集団食中毒だった。
霊夢:
誰も亡くなっていないのがせめてもの救いね。これからどんどん気温が高くなるし、私も他人事だと思わないで料理する時は気をつけよう。
梅雨から夏に増えるといわれている食中毒。食品の管理や、手洗いの徹底等、基本的なところから気をつけていきたいですね。解説をノーカットで聞きたい方はぜひ動画を視聴してみてください。
『【2014年静岡】洗ってないバケツで漬けた『キュウリ』で集団食中毒が発生 500人が苦しむ【ゆっくり解説】』
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