「宮崎駿の後は誰が夏の長編アニメを公開するかという“ポスト・ジブリ・ウォー”が起きている」——昨今のジブリ事情を解剖してみた
スタジオジブリ史観――ジブリで作られるアニメは全部ジブリ周辺の物事を題材にしている!?
マクガイヤー:
ここでちょっと僕が提案したいのはですね、スタジオジブリ史観というのがあるんですよ。これは、スタジオジブリで作られるアニメは全部ジブリ周辺の物事を題材にしているという仮説みたいな感じです。例えば、これで見ると『ハウルの動く城』があるじゃないですか。
これは、男が外で働いてきて、何やっていても奥さんは家で、笑顔で待っているという映画です。これ有名っていうかすごいのは、ドアのスイッチあるじゃないですか、4つのガチャガチャ変えるといろんな世界に行けるんです。
那瀬:
はい、ありますね。
マクガイヤー:
あれは、外で働いてる男はいろんな顔を持ってるって話なんですよ。つまりハウルは外でいろいろ働いてるわけですよ。あるときは戦争をするし、あるときはもう女王様を接待するみたいな感じになると。いろんな顔があって、そのうちのひとつは、絶対に見ちゃいけない顔だったりするんですよね。で、奥さんは家で、笑顔で料理を作って待っているという。
那瀬:
知る必要はないと。
マクガイヤー:
そう。これはハウルで初めて宮崎駿がパンツを脱いだ作品と押井守も評価していました。
那瀬:
なんかそれ聞いたことあります。
マクガイヤー:
つまり細田守に監督を断られて、どうしようこうしようってなったらもうパンツ脱ぐしかなくなったというわけだよね。あとは『崖の上のポニョ』なんですけど。宮崎駿は、この時もう70ぐらいなんですけど、「こんなに年取った俺も子供に戻って幼女といつまでも遊んでいたいな」という願望を元にした映画になっています。
那瀬:
断言しますね(笑)。
マクガイヤー:
だってポニョって完全に狂った話じゃないですか。
那瀬:
そうですね、ストーリーラインだって、あるようなないようなというか。
マクガイヤー:
なんで沈没するんだよとか思うじゃないですか? あんなだって、街が全部水没したら3.11どころの話じゃないですよ。それなのに最後みんな笑顔で終わるじゃないですか。あれ、もうみんな夢の中の話なんですよ。みんな夢の中で、こんなジジイになった俺もまた童貞の幼児に戻って幼女と楽しく遊びたいなみたいな話なんですよ。
那瀬:
ジブリは、ストーリーがあるないの話を始めると結構難しいと私は思っていています。
マクガイヤー:
そうでしょ? これは、宮崎駿のいい癖か悪い癖かわからないんですけども、脚本とか絵コンテを最後まで考えずに作り始めるからですね。それは、もう普通の話に飽きたというのもあると思うんですけど。
だから有名なのはラピュタを作っている時に竹熊健太郎がインタビューをして「どうですかラピュタの制作は?」と、「上手いこと行ってるんだけど、一番、今、困ってるのはどういうふうに終わらせるのか全然わかんないんだよね」と、「え、でも、もうすぐ公開なんですよね?」と(笑)だからバルスと今、一番有名な、ネットが落ちるバルスがあるじゃないですか? あれは「よし、バルスって言えば全部終わるぜ!」ということで作られたんです。
那瀬:
そんな背景が。しかも、公開もうすぐですよねというタイミングで?
マクガイヤー:
いやいや、そうですよ。ずっとその作り方を今までやってるんですよ。だからもののけ姫も最初に、黒い虫がウニョウニョ動くやつあるじゃないですか。あれで制作費の大半を使ってしまったっていうのが有名です。
那瀬:
すごかったですね。あれ、当時。
マクガイヤー:
でもあれ、作画枚数が、たぶんもうえらいことになってるんですけども、最初に脚本があればその分の半分ぐらいは、デイダラボッチに回すわけですよ。でも、そんな作り方じゃないんで、動画カロリーみたいなやつですよ。制作の労力の大半を最初に虫がウネウネ動くやつとかでやって。でも、映画を見終わった後は、そんなの覚えてないじゃないですか?
那瀬:
そうですね、はい。
マクガイヤー:
ポニョも全く同じですよ。水の形をした魚の上をポニョが走るというのがありますよね? あれをリピート無しで1枚1枚描いたのが米林監督を始めとしたジブリの有能アニメーターなんですけど、あれは普通、後ろに持っていくものじゃないですか? あれを最初に持っていったから、最後に宗介とポニョが斜めに走って終わりというのもちょっとおかしい。
那瀬:
斜めに走って終わり(笑)、確かに。
マクガイヤー:
ちょっとあれ、斜めに走るのがクライマックスなの? と思うんですよ。
那瀬:
言われてみれば。
マクガイヤー:
でもみんな「♪ポーニョポーニョポニョ魚の子」みたいな歌を聞いて、なんか、結構いいもの見たなと言って騙されて終わる。
那瀬:
ほっこりしたな、みたいなふうに思って帰りますね。
マクガイヤー:
歌の力ですよね。
那瀬:
なるほど。そうなんだ、丸め込まれてたんだ。我々は。
マクガイヤー:
でも、やっぱり作っている方としては、それが一番面白いわけですよ。宮崎駿が絵コンテを描いた時に、次回を期待してますとか言って絵コンテを終わらせるんですけど、でも監督今制作の真っ只中なんで、そんなんじゃ困るんですけどみたいな話ですよね。描いている本人ですら結末がわかってないまま作り始めるんですよ。
那瀬:
怖い話ですね。
マクガイヤー:
それ、スタジオジブリ以外じゃできないですよ。
那瀬:
もう周りのスタッフから……、慣れちゃうもんなんですかね? そんな。
マクガイヤー:
もう、伝統の作り方だからという話。そうそう、鈴木敏夫のラジオがあるじゃないですか? あれに川村元気が出たんですよ。『君の名は。』のプロデューサー。「スタジオジブリはいい作品をたくさん作っているんですけども、でも、ジブリの作り方って再現性がないじゃないですか?」みたいな重要なことをサラッと言っていて。つまり「ジブリの作り方は誰も真似ができないじゃないですか?」と川村元気が言っているわけですよ。
那瀬:
そうですね、『君の名は。』だってそうですし、細田さんだってそうですもんね。
マクガイヤー:
川村元気は、そんな作り方は絶対に許さないですよ。
那瀬:
ああ。そうか。できないじゃなくて俺は許さないということだった。
マクガイヤー:
まあ、できないもあるでしょうけど。だって、そんな作り方をしたら予算がいくらあっても足りないじゃないですか? だから、ジブリは潰れたようなもんじゃないですか? さらに『風立ちぬ』も同じような作り方で作ったんですけれども、これも同じですよね。
だって、この主人公の零戦を作った堀越二郎は別に死んでないですよ、戦争で。つまり、これはみんな言っていますけども、堀越二郎が零戦とか他の戦闘機の設計図を作るというのは、宮崎駿が映画の絵コンテを描くのとまさしく一緒であるという話になっていましたし。
最後に堀越二郎がイタリアの飛行機を作るすごい人の幻想と一緒に辺獄みたいなところで「俺たち地獄に行こうか、天国に行こうか」みたいな話をするじゃないですか? でも、あれは宮崎駿の心境風景そのものだということですよね。
あれは宮崎駿が今までスタジオジブリでアニメを作っていて、いろんな人を不幸にしたんですけども、でも俺は堀越二郎が戦闘機を作るのと同じようにアニメを作るのが生きがいだし、地獄に行こうか天国に行こうかという時も別に今まで俺がアニメを作っていたことを全然後悔しないぜみたいな、そういう言い訳をしているという話です。
那瀬:
『風立ちぬ』は、宮崎駿そのものだみたいなふうに言われてましたけど、私は今ひとつそれがよくわからなかったんですよ。
マクガイヤー:
本当ですか。子供にシベリアのお菓子を渡すシーンがあるじゃないですか? コンビニでも売ってますよ。カステラであんこを挟んだシベリアがありますが。あれを買って、お前そんな変なもん食ってるかと、高畑勲みたいな同僚に言われるじゃないですか。それを「やったぜ、イエーイ食おう」と思って、戻ったら幼女がいるわけですよね。幼女にシベリアを渡そうとする。
なぜなら、駿は幼女が好きだから。それはシベリアを渡せば幼女と仲良くなれるかもと渡そうとしたら、いらないと言われて帰っていって、心で泣くわけですよ。ああ、これ完全に駿だなという感じがする。
那瀬:
あんまりわからない。今ので、みんなわかるんですか?
マクガイヤー:
わかりますよ。つまりそのシベリアっていうのはアニメなわけです、駿にとっての。アニメで子供を釣ろうとするんだけど全然ダメだった。だから駿は今孤独な暮らしをしているわけですよ。
ジブリってアニメーターのために保育園を作ろうとか言っていたじゃないですか。
那瀬:
なるほど、自分の子供を預けるように。
マクガイヤー:
そうそう。アニメーターも結構いい歳になってきて子供ができたんで、保育園をスタジオジブリに作るかみたいなことを言ったんですよ。あれはアニメーターのためじゃなくて宮崎駿のために作るということなんですよ。
那瀬:
そうなんですね(笑)
マクガイヤー:
駿は、なんか面倒くさいなというふうになったら「ちょっと保育園行くか」と言ってね。みんなにシベリアとかをあげるわけですよ。「ありがとう」と言うかと思ったら「こんなのいらない」と言われて悲しく戻るっていう話があったわけです。ジブリの中で(笑)。