「宮崎駿の後は誰が夏の長編アニメを公開するかという“ポスト・ジブリ・ウォー”が起きている」——昨今のジブリ事情を解剖してみた
後進育成に失敗してきたスタジオジブリ
マクガイヤー:
スタジオジブリの何が辛いかというと、みなさん想像して下さい。まだスタジオジブリが続いていて、宮崎駿と高畑勲がガンガン新作を作っていると。そこに自分がアニメーター、もしくはクリエイターとしてスタジオジブリに入ったとしましょう。楽しいですか、辛いですか。
那瀬:
沢山の人に見てもらえる作品に携われることは、単純に嬉しいことじゃないですか。誇れることだと思います。
マクガイヤー:
はい! 最初はそう思いますよね。でもどんどん自分が上手くなってきて、「俺、結構やりたいことやれるじゃん」と思っていたら、上に高畑勲とか宮崎駿みたいな圧倒的才能が君臨していて、さらに食えない鈴木敏夫っていうのも君臨してるんですよ(笑)。絶対にこの3人を出し抜けないですよね?
那瀬:
怖く見えてきました。やりたいことをやらせてくれないんですかね?
マクガイヤー:
それは証言が残っています。というのは、これまでスタジオジブリは、宮崎駿と高畑勲以外の若い才能をなんとかプロデュースしていこうとして、ずっと失敗し続けてきていました。まずひとりは近藤喜文監督という『未来少年コナン』の頃から宮崎駿と一緒にやってきた監督なんですが、この人が『耳をすませば』を監督したんですよね。
那瀬:
はい。大好きです。
マクガイヤー:
宮崎駿と二人で仲良くやってきたんですけど。「近ちゃん今度は近ちゃんが映画を撮りなよ」と言って『耳をすませば』を監督しようとしたら、いざ監督するとなったら、宮崎駿がガンガン介入してくるわけだよ。
那瀬:
やだ。姑さんみたい(笑)。
マクガイヤー:
プロデューサーと言いつつ姑さんみたいな感じ。つまり宮崎駿はアニメを作るとなると、口を出さずにはいられないんですよね。ただ『耳をすませば』は、いい作品だったし、近藤さんも期待されてはいたんですが、この人は、40歳くらいでお亡くなりになってしまいました。
那瀬:
ご病気ですか。
マクガイヤー:
そうです。後は『猫の恩返し』というのがありまして、これは森田監督という方がつくりましたが、これ一作だけですよね。
那瀬:
そうですね。
マクガイヤー:
有名なのは、『ハウルの動く城』は最初、東映アニメーションにいたころの細田守監督を招聘して、新作を作ろうとしたんですが、途中で空中分解して、その後、宮崎駿が引き継いだという形になっております。その時のいろいろなことが元で『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』が、作られたんじゃないか。みたいな穿った見方を僕はこれまでしていました。
那瀬:
確かに、穿ってますね(笑)。
良くも悪くも確立してしまった「ジブリの絵柄」
マクガイヤー:
あと、ジブリっぽさというのは、ちょっと良くも悪くも確立してしまったというのがあります。『海がきこえる』というのは、テレビシリーズだったんですが、今のジブリアニメと全然絵柄が違いますよね。
マクガイヤー:
この頃のジブリは、違う絵柄もやってみようというチャレンジ魂があったんですよ。
那瀬:
ちゃんとあったんですね、そういうのが。
マクガイヤー:
やっぱり一番のトラウマになっているのが、『ホーホケキョとなりの山田くん』の失敗だと思うんですけども、もう他の絵柄はやめようということになってるんじゃないですかね。
良くも悪くもそれでジブリっぽいアニメみたいなのが、確立してしまったというのがありますし、今回公開された『メアリと魔女の花』も、どこからどう見ても、絵柄はジブリっぽいですよね。
那瀬:
そうなんですね。これは原案があるんですか。
マクガイヤー:
原案は、あるものとないものがあるんですけども。米林監督が監督する原案は、大体みんなイギリスの児童文学です。
那瀬:
そうなんですね。そこから絵にしたら、なぜかジブリっぽくなってしまうという(笑)。
マクガイヤー:
ジブリっぽい絵柄でいこう! と決めているからですよ。ドラゴンボールと同じようなものですよ。この絵柄が日本人に一番受ける、というやつですね。
那瀬:
実際に、ジブリっぽいなって思って見に来る人もいるでしょうしね。