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「中二病」の観点から読み解く『コードギアス 反逆のルルーシュ』の主人公像。ルルーシュは幸せになれない生き方をする主人公?

 テレビアニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』は、2006年10月に放送されて以来、数多くのファンから愛され続けてきました。そして『コードギアス』シリーズは、2021年10月に15周年を迎え、さらなるメディア展開を広げつつあります。

 ニコニコ生放送「山田玲司のヤングサンデー」にて、漫画家・山田玲司氏は、『コードギアス 反逆のルルーシュ』を「中二病」作品と評し、そもそもの「中二病」のはじまりや、『コードギアス 反逆のルルーシュ』が登場した2006年当時の時代背景について解説。

 中二病問題の総括として、『コードギアス 反逆のルルーシュ』について言及しました。

左上段から山田玲司氏、奥野晴信氏。左下段から久世孝臣氏、シミズ氏。

※本記事はニコニコ生放送での出演者の発言を書き起こしたものであり、公開にあたり最低限の編集をしています。

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第203回『コードギアス解体新書〜「反逆のルルーシュ」に仕組まれた「次を観たくさせる脚本術」と0年代の病』

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■「中二病」を一言で言い表すと「オレは神」!?

山田:
 「中二病」とは何か、という話をしたいのですが、たとえば久世さんは「中二病」に対して、どんなイメージを抱いていますか?

久世:
 「中二病」というのは、傷付きやすくて「自分は間違ってないのに周囲が理解してくれない」と思っていたり、「朝起きたら異世界に転移してないかな」と考えてしまう。

 いろいろなタイプがあるので、一括りにできない気がしますけど、自分が正しくて相手が間違っていると思っちゃう感じなんじゃないかな。

山田:
 だいたい合ってると思います。今回、そんな「中二病」とは何か、一言のキャッチフレーズで考えました。それは……「オレは神」。これしかないでしょ(笑)。

 「オレは神なのに、なぜみんなオレを認めないのか」、「なぜオレは魔法が使えないのだ」、「なぜこんなくだらない授業を受け続けなければならないのだ」と思ってしまって、頭の中がグチャグチャになってしまうんです。

 中学2年生なら「中二病」にかかるのは当たり前なのですが、これがずっと続いてしまっている人もいます。そして、この症状を具体的に言うならば、他人を人間ではなく駒として見てしまうことが挙げられます。

 なぜかといえば「オレは神」と思っているので、基本的に排他的で能力主義になってしまうんですよ。さらに、合理主義も持ち合わせていて、ムダなことをやっている他人のことをバカだと思い、「俺だけよければいい」と考える個人主義にもなってしまいます。

 これらの症状はすべてルルーシュに表れていますが、じつはどれも現代日本の学校で教わる要素なんです。日本の学校は「こういうふうに生きたらいいよ」と教えてしまっているんですね。

 成績上がりますから。学生たちは「勉強して能力を上げて、合理的に生きて、個人主義ができれば何とかなるよ。これができなかったらホームレスになるかもしれないよ」と脅されながら生きているので、能力主義と個人主義が正しいと思ってしまうんです。

 逆にみんな仲良くしたほうがいいと言うと「うそつけよ、生き残りをかけた戦いなんだから、合理的にならなきゃいけないし、人を助けると言ってボランティアをやるようなやつは甘いんだ」と返されてしまう。

 つまり「オレは賢い。他人は全員バカ」と思ってしまうことが、「中二病」のおもな症例になります。

■「中二病」のスタート地点

山田:
 だけど「中二病」自体にもいろいろな種類があるうえに、私も「中二病」なので、そのメンタリティやルルーシュを否定しているわけではありません。ところで、奥野さんは「中二病」のスタート地点を覚えていますか?

奥野:
 スタート地点?

山田:
 なんといっても1997年がスタート地点でしょうね。「中二病」は、1997年に起きた「神戸連続児童殺傷事件」あたりの時期から表面化して語られるようになりました

 別名「酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)事件」では、犯人が子どもをさらって殺し、犯行声明を出していきました。「さあ、ゲームの始まりです」という声明文がありましたよね。

 当時の僕は『Bバージン』が終わった後だったので、事件があって周囲が驚がくしていたことをよく覚えています。そのときに犯人は大人だと予想されていたのですが、じつは犯人は14歳にして声明文を出し、世の中全体を敵に回しておちょくるような態度を取っていたんです。

 この世代、1997年に14歳といえば、碇シンジ君ですよね。この時期は就職氷河期で、世代としては17歳が「キレる17歳」と言われていました。

 そして、その世代がバタフライナイフを振り回し、ストリートで大暴れし、援助交際をやってルーズソックスを履いていました。さらに、自分が神だと言い出すようになります。そこから10年たって、ルルーシュが登場するんですね。

 1997年から2006年のあいだに「中二病」がだんだんと全体に染みわたっていくような流れがあったわけです。そして、2009年になると『進撃の巨人』と『ワンパンマン』が登場するのがポイントで、ここから明らかに世代が違ってきます。

 2006年までの世代は、自分の問題で自分が神だと思っていたのですが、その先の「Z世代」になってくると「神だとか何言ってるんですか。そういうのいいです」という考えになります。

 『ワンパンマン』いたっては「疲れるからやめましょうよ」、「世界を支配してどうするんですか?」みたいな感じになっていき、この後に震災が発生するので、完全にステージが変わってしまうんです。

奥野:
  じゃあ、『コードギアス 反逆のルルーシュ』がその時代の総決算だったわけですね。

山田:
 つまり、そこまではバブル崩壊の被害にあった子どもたちの世代で、『ホームレス中学生』の時代でもありました。

 バブル崩壊によって、ネグレクトを含むたくさんの虐待があったので、本当に大人が悪い時代だったんですよ。それに対して裏返った幼児的な万能感が「私は神だ。なぜ私を見つけない」という「中二病」として表に出たんです。

 ルルーシュが作中でよく見せる高笑いのような、人々をあざ笑うメンタリティを持っているのは、助けてもらえなかったから笑うしかなかったということの表れでもあるんですよね。

■1970年代ヒーローのリバイバルでもあった「中二病」的主人公

山田:
 そして2006年の『コードギアス 反逆のルルーシュ』が放送された時期に何があったかといえば、直前まで小泉劇場がくり広げられていたんです。そこで格差社会が決定的になってしまったので、人々は痛みに耐えなければいけなくなりました。

 その影響で自己責任論もひどくなって「いじめられるのは、いじめられるやつが悪い」という論調が強くなっていく最悪な時代がスタートします。そんな中で、みんな憧れたのがベンチャービジネスで成功した人たちでした。

 しかし、一気に盛り上がったところを一発殴られる時期でもあったので、ホリエモンや村上世彰さんが逮捕されます。

 そして、旧体制に余裕がなくなってしまい、現実主義、合理主義が流行ってきたところで、第1次安倍政権がスタートします。

 そして、いじめや自殺が多発する時代に入り、1日100人以上が自殺していきます。国際的には北朝鮮がミサイルを撃ってくるという騒ぎが起き、小泉純一郎が靖国神社を参拝するということもありました。

 このあたりからアジアを敵にしていく流れが問題になっていきます。そして中国が急成長したのも、この時期です。だから中国を見たときに劣等感を感じてしまうので、このあたりから日本は中国を見なくなってしまう。

 そんな時期に日本のテレビ番組ではやっていたのが『クイズ!ヘキサゴン』だったんです。

久世:
 あー……。おバカブームだ……。

山田:
 能力主義がエンタメになると『クイズ!ヘキサゴン』のような番組になっていくんですよ。『賭博黙示録カイジ』もこのころで、この時期は崖っぷちにいる人間を笑うことがエンタメになっていました。そして『DEATH NOTE』もこの時期なんです。

奥野:
 『DEATH NOTE』は、2003年から始まって2006年に終わりましたね。

山田:
 だから『DEATH NOTE』は、この流れの中にあるわけです。『DEATH NOTE』の主人公の夜神月とルルーシュはすごく似ているんですよ。

 ダークヒーローものという部分でも共通していて、ダークーヒーローは現実を知っている人間で、理想を並べる人間は甘いというように表現されていきました。

 この理想を追う人間というのは『コードギアス 反逆のルルーシュ』で言うところのスザクで、彼へのバッシングにもつながっていくんですね。

 人間なんてそもそも自分のことしか考えていないから信じられないというような非常に殺伐とした感覚を持って、他人を信じずに旧勢力を利用して賢く立ち回るということは、ルルーシュがやろうとしていたことでもありますよね。

 しかし、その結果にたどり着くのは「強いけど一人」というところなんです。ただ『コードギアス 反逆のルルーシュ』には、ルルーシュをひとりにしないためのいろいろな仕掛けがあります。

 「強いけど一人」という部分は、1970年代のヒーローものに非常に似ています。1970年代の中盤からは不況になっていくので、夕日をバックに工場地帯を眺めて「俺はひとりで戦うしかないんだ」という思いを持つ『デビルマン』や、友のための復讐劇がひたすら描かれる『怪傑ズバット』のような夕日のヒーローものが世に出ていました。

 『コードギアス 反逆のルルーシュ』は、そんな夕日のヒーローもののリバイバルでもあったんです。

 つまり、ルルーシュは幸せになれない生きかたをする主人公だったんですね。じつは、その後の時代に似た要素のある作品が出てくるのですが、その主人公はルルーシュと違う生きかたをしていくことになります。

 ひとりの女の子のために、ふたりの男ががんばるという部分が非常に似ている『輪るピングドラム』です。2006年の『コードギアス 反逆のルルーシュ』では、個人戦がくり広げられていました。

 一方、2011年の『輪るピングドラム』では、チーム戦になっていったんです。過去にさかのぼって、いろいろなものと連携しながら、その身を犠牲にしてまで誰かを助けようとする話が『輪るピングドラム』ですよね。

 2006年と2011年で大きく違うのは、個人戦とチーム戦という部分なんです。同じような絵面で女の子がひとりいるのですが、ルルーシュは妹を助けたいと思いながらも、ひたすら他人を信じずに孤独でした。

 しかし現実では、2006年と2011年のあいだに震災を経験したことによって、他者を見ようという意識が強くなっていますし、冷静にもなってきているんですよ。

 ただ、2006年の段階ではバブル崩壊後の団塊ジュニアによる生き残りゲームが展開していました。人数が多いこともあって過酷な競争になってしまい、そのときの情勢が『コードギアス 反逆のルルーシュ』という作品につながったのだと思います。

(画像は「コードギアス 反逆のルルーシュ 公式サイト」より)

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