脳がスカスカのスポンジ状になり、異常行動を繰り返す牛……2001年に国内で発生した「狂牛病(BSE)」を解説
今回紹介する、ゆっくりするところさんが投稿した『【2001年】突然立てなくなり、異常な行動をしていた牛・・・検査すると脳がスカスカのスポンジ状態だった『狂牛病騒動』』という動画では、音声読み上げソフトを使用して、2001年に発生した日本国内初の狂牛病について解説していきます。
投稿者メッセージ(動画説明文より)
今回は、以前から多数のリクエストを頂いていた『狂牛病騒動』の紹介です。2001年、我が国で初めて、狂牛病(BSE)の発症が確認されました。
他に国では、この感染した牛の脳や脊髄を使用した「肉骨粉」を他の牛が口にすることにより、感染が広まり、やがて人にまで感染し、脳細胞に空洞ができる「クロイツフェルト・ヤコブ病」を発症するという、恐ろしい病気として知られ、対策や規制などが取られていましたが、日本ではまだこういった対策は殆ど取られておらず、今回の騒動で初めてしっかりとした対策が講じられました。このことは、マスコミによって全国に大きく報道され、大変な騒動になりました。消費者は牛肉の摂取を恐れ、食肉牛の消費量は激減。牛丼チェーン店も、牛肉の使用を一時停止し、豚丼にメインメニューを切り替えるほど、大変な影響がありました。2021年現在では、事態は完全に終息し、安全な牛肉が流通しています。
国内で初めて狂牛病の疑いがある牛を発見
魔理沙:
今回紹介するのは狂牛病の発生だ。この騒動はまだ記憶に新しい人も多いだろう。紹介を始める前に先に注意しておきたいことがある。今回の話はあくまで過去の話であり、完全に終息済みのものだ。この騒動を契機に、国内では様々な対策がとられ、2021年現在では法律や規定に則った安全な食肉が流通している。食品、該当地域、人に対する台風被害などがないように留意した上でコメントなどを行って欲しい。
2011年8月6日、千葉県白井市の農場。ここでは酪農を行っており、多くの乳牛が飼育されていた。この日、農場の主人はいつも通りに作業を行っていた。いつものように牛舎を回っていると、一頭のメスの乳牛の様子がおかしいことに気がついた。体中にぶつけたような傷があり、足が震えて自分で立つことができなくなっていた。
この牛はすでに食肉として処理されることが決まっていたが、農場の主人は「これは狂牛病かもしれない」と思い、処理後にこの牛の脳を検査に出すことを決めた。
霊夢:
そもそも狂牛病ってどういう病気なの?
魔理沙:
狂牛病(BSE)は、牛がかかる病気のひとつで、「BSEプリオン」と呼ばれる病原体に牛が感染し、脳の組織が汚染され、スカスカのスポンジ状態になってしまう病気だ。 脳が海綿のような状態になってしまうことから、牛海綿状脳症ともいう。この病気は潜伏期間が2年から8年もある上に、治療法が確立されておらず、わずらったらまず牛は助からない。
狂牛病に感染すると、運動失調などの症状が出て、自分の足で立つことすらできなくなり、異常行動を起こしたりして命を落とす。この病気は1986年以来、イギリス、ヨーロッパなどの諸国で2000頭以上の発症が確認されていた。さらに恐ろしいことに、この狂牛病は人間にも感染する。
人間が狂牛病を発症した牛の脳、脊髄などの体の一部を摂取すれば感染し、クロイツフェルト・ヤコブ病という病気を発症する。これは神経難病のひとつで、不安などの精神症状からはじまり、認知症、運動失調など起こし、発症から1、2年で全身衰弱、呼吸不全、肺炎などで命を落とす。この農業で飼育されいてた乳牛はこの病気の疑いがあったんだ。
その後、処理された牛の脳が採取され、動物衛生研究所で検査が行われたが、結果は陰性。千葉県はこの陰性診断を受け、この検体を病性鑑定対象として処理することにした。そして家畜保健衛生所でこの脳の病理切片を取って、顕微鏡などで確認したところ、空胞を発見。
霊夢:
やっぱり脳がスカスカに……。
魔理沙:
最初の動物衛生研究所でのBSE検査では陰性だったものの、脳を詳しく見たら穴が開いていたんだ。念のため、脳の一部は再び動物衛生研究所に送られ、空胞を確認してもらった。そしてBSE診断のひとつである免疫組織化学検査をしたところ、陽性反応がみられた。農林水産省は、この検査結果報告を受け、BSE感染の可能性が高いと判断して、この事実を公表した。それと同時にBSE対策本部が設置された。
最終的な確定診断のため、該当の牛の材料と国内での検査結果をイギリスの獣医研究所に送付。その結果として、この牛は狂牛病に感染していたことが確定した。ここでようやく感染が確定したが、該当の牛はすでにと畜場へ持ち込まれていた。
だがこの牛は全身に傷があり、その場で畜検査を行った結果 、敗血症と診断されていたため、食用には適さないだろうということで、再加工され肉骨粉になっていた。肉骨粉というのは 家畜などの可食部を除いたあとの、脳、脊髄、内臓、血液などを加熱処理し、油脂を除いて乾燥、粉末にしたもので、肥料や飼料として使われている。
だがこの牛の肉骨粉は、同じ牛にも与えられており、狂牛病に感染した牛の肉骨粉を別の牛が口にした場合、その牛まで狂牛病を発症するという危険性があった。先述したが、狂牛病は異常プリオンというたんぱく質が原因で起きるものだ。この異形プリオンは、脳内にもともとある正常プリオンを異常型に変えてしまうという働きをする。異常プリオンが脳に蓄積していくと、脳の組織に細かい空洞ができて、スポンジのようになっていってしまうんだ。
異常プリオンに侵された牛の脳を肉骨粉にし、それを別の牛が口にすれば、その牛も狂牛病に感染してしまうといわれている。この時点ではっきりとした感染経路は不明だったものの、2001年11月の時点で他の牛にも狂牛病の症状が出るなど、被害が広まりつつあった。このことはマスコミによって全国的に大きく報道され、不安を覚えた消費者たちによる牛肉の不買が発生した。この狂牛病騒動で、食肉業界は大きな打撃を受けた 。
霊夢:
そういえばこの時期って牛丼屋さんも牛を使わず豚丼を売っていたわね。
魔理沙:
このとき検査対象となったのは、1歳以上の牛のうち、運動、知能障害、意識障害のいずれかが疑われる全頭、そして他の牛に狂牛病が広がらないための対策として、牛に対して肉骨粉を含む飼料を与えないようにする罰則付きの法律が作られた。さらに肉骨粉の全面輸入禁止、国内産であっても製造、販売の一時停止などの措置がとられた。だがこの時の措置は英国なみであったものの、長くは続けられなかった。
霊夢:
どうして?
魔理沙:
流通が止まった肉骨粉関係業界が全面禁止に対して強く反発したこと、廃棄する肉骨粉の焼却処理施設、保管場所の確保が現実的に難しいという問題があったからだ。そのため、これらの措置は一ヶ月程度で「牛のみ使用禁止」に変更された。
そして肝心の「人への感染防止」については、狂牛病に感染した牛肉が、人間の食用に回らないよう、牛を食用として処理する場合には必ず狂牛病検査を実施しなければならないというルールができた。30ヶ月以下の牛も全て検査しなければならないことになっていたが、これには科学的な根拠は一切なかった。とにかく安全をアピールするという目的があったからだ。
また食肉処理の方法見直し、感染の危険が高いとされる脳、脊髄などの特定危険部位は食用が禁止されることになった。ちなみに食肉処理の際に出たこれらの特定危険部位については、必ず焼却処分されることになっている。この狂牛病騒動は、法改正、徹底した対策などのおかげで、事態は完全に終息に、牛肉に対するイメージも回復したが、この事件で日本は16番目の狂牛病発生国となってしまった。
霊夢:
他の国ではもっと前に出てたのね。
魔理沙:
ヨーロッパ以外の地域でははじめての発症であり、イギリスやヨーロッパなどでしか見られなかったこの病気が、どうやって日本に入ってきたのか謎が多い病気でもあった。狂牛病自体、まだ分かっていない部分が多かったが、発生した国ではこれ以上感染が広がらないようにする対策と、ヒトへの感染を防ぐための対策が確立されており、これらの国々の既成の対策法があったおかげで、日本では比較的短期間で事態の終息をはかることができたんだ。
この騒動自体は終息したが、2003年までに6歳前後の牛、合計7頭の狂牛病感染牛が発見された。これらはいずれも5歳から6歳の牛であり、通常狂牛病の潜伏期間は2年から8年とみられていたので、今回紹介した騒動の時期に感染したものだと思われていた。
しかし2003年に1歳という非常に若い年齢で異常プリオンが発見された牛が出てきた。しかも病原体のたんぱく質構造は従来とは異なっており、狂牛病は一種類というこれまでの常識が覆された。
霊夢:
もし2001年の法改正で検査年齢を上げていたら……。
魔理沙:
そうなんだ。食用になる牛の検査を年齢に関係なく全頭検査する措置をとっていたおかげで、牛の異常プリオンを発見することができたが、もし検査対象を30ヶ月以上の牛としていたら、大変なことになっていたかもしれない。狂牛病は1986年にはじめて英国で正式に発見された。その原因調査の結果、1988年英国は狂牛病の感染源とされる牛の飼料「肉骨粉」を禁止した。
しかし肉骨粉禁止措置のあとに生まれ、肉骨粉を一切食べていないはずの牛も次から次に狂牛病となって、豚や鶏など他の家畜への肉骨粉が、牛の飼料に混入した可能性を疑われた。そして1996年にはすべての家畜での肉骨粉の使用を禁止したんだ。
霊夢:
日本以前にもイギリスでそんなことが……。
魔理沙:
これらの対策を講じたにもかかわらず、英国では約17万頭が感染し、処分されることになってしまっていた。しかもイギリスの村では、1998年に3人、2000年に2人が異常プリオンによって突然脳神経細胞が変性し、クロイツフェルトヤコブ病が発症していた。英国ではこの感染によって5人が亡くなった。これは狂牛病がはじめて人間にうつった事例でもあった。英国などはこういった事件が過去にあり、様々な対策をとっていたんだ。
こういった先例があったおかげで、日本は素早い対応を取ることができたわけだが、実際に日本で発生するまで、狂牛病などに関する対策は十分といえるものではなかった。2001年に初めて国内で狂牛病が確認されてから、現在までにと畜検査で22頭、亡くなった牛の検査では14頭、計36頭が確認されている。飼料規制実施直後に発見された若い牛を最後に、我が国で生まれた牛の狂牛病発生報告はない。
そして現在では我が国は「無視できる狂牛病リスクの国」に認定されている。これは過去11年間、自国内で生まれた牛に発生していないこと、有効な飼料規制が8年以上実施されていることなどが要件となっている。狂牛病がなくなった現在でも、国内の検査体制、食用牛の輸入に関する管理措置の見直しなどもはかられ、徹底した対策がとられているんだ。
対策は実際に事故が発生するまでは、なかなか十分に実施されない。それに予防という観点からすれば、疑わしきは罰するという視点は不可欠だ。牛の年齢に関係なく、食用すべての牛を検査するという方法がとられたおかげで、新型の異常プリオンを発見することができた。
霊夢:
あの対策が取られてなかったら、もっと大変な事になって、亡くなる人も出ていたかもしれないもんね。
当時、世間を賑わせた狂牛病。その教訓を得た対策のおかげで、2021年現在では狂牛病の発生報告もなく安全な食肉が流通しています。解説をノーカットで楽しみたい方はぜひ動画を視聴してみてください。
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