テレビから“裸芸”が消える? BPO(放送倫理・番組向上機構)に多くのクレーム。それでも芸人が裸になる理由を考えてみた
全裸に股間をお盆で隠した姿でのコントでブレイク中の芸人・アキラ100%。飛ぶ鳥を落とす勢いだが、その特異な芸風に対するクレームが放送倫理・番組向上機構(以下、BPO)に寄せられた。
漫画家の山田玲司氏が上記の話題について言及。「(裸芸を行っている人は)“私”を晒してまで人を幸せにしたいと思っている人達、BPOが守りたいものは“虚飾”」と語った。
日本人は本気になった時に“裸”になる
乙君:
この人は(R-1ぐらんぷり)で優勝を果たしたんですね。裸芸を生業としてきた芸人たちは数多いですよ。たけし軍団の、井出らっきょさんでしょう……それから、エスパー伊東さん、とにかく明るい安村さん……いろんな人がいるんですけども……本当に「出して」しまうと、笑福亭鶴瓶さんのように27年に渡って、テレ東から出禁をくらうこともありまして(笑)。
当然裸芸に対して、いろんな人から視聴者も含めて、BPOもそうですけど、クレームが来ている。ということなんですけど、どうですか?
山田:
この国ってね、裸の国なのよ。
乙君:
え? 裸の国?
山田:
だから、『島耕作』を見て貰えばわかるんだけど、ここ一番、日本のジャパニーズサラリーマンが本気になった時は、宴会で全裸になりますからね。
乙君:
そうですね……確かにそう!
山田:
それで上司が裸になるのを見て、「はああ……!」となっているのを、大真面目に描くという漫画が、『島耕作』ですけども……見たことありますか。
しみちゃん:
いえ、僕はないです。
山田:
島耕作がまだ課長のころに、上司がここ一番の時に宴会で、全裸になってみっともない裸を晒すんだよ。「これが大人か! これがサラリーマンか!」と、胸を打たれる島耕作という回があるんですよ。あれが日本を象徴しているなと思ってる。だから、「おまえはどこまで、やる気があるんだ?」と聞いて「脱ぎます!」と言った時に「ならいい」となる。こういう文化があるんだよ。
だから、村祭りの時に「ふんどし嫌ですよ」なんて言って、それで裸祭りに参加したらさ、「男として一人前だ」みたいなのがあるんだよ。
乙君:
ありましたね。蘇民祭【※】がそうでしたもんね。ポスターが卑猥だとか、あれで文句がつきましたけど。
※蘇民祭(そみんさい)
岩手県を中心に日本各地に伝わる裸祭り。1000年以上の歴史を持つと言われ、「岩手の蘇民祭」の名称で国の選択無形民俗文化財として選択されている。
2008年に奥州市が作成したポスターについてJR東日本が上半身裸で胸毛の濃い男性が大きく写っているデザインを「女性客が不快感を覚え、セクシャルハラスメントに該当するおそれがある」として問題視し、駅構内での掲示を拒否した。
山田:
だから、海外だと考えられないよね。ただね、「俺には何もない」というのを証明する時に、脱ぐしかないでしょ? 「もう助けて下さい!」という状態が、崖っぷち芸人にぴったりなわけよ。
実は、アキラ100%さんは結構なインテリさで、もともと学校の先生とかやれる人なんだけど、ずっと漫才やっていた人なんだよ。でも解散したからピンになってしまって、「お前なんかやれよ」と言われた時に、「ここは脱ぐしかない!」となって、コンビ時代にやっていた脱ぎ芸をピン用にして披露してブレイクしたんだよね。
だから、みんなの中に、日本中の空気として、「あとはもう脱ぐしかねえべ」という気持ちになっている人たちが、「それはしょうがないよね」(と思ってあげるのが)背景にあると思うんだよね。ただし、脱ぐということについて、もう一層あるんだ。「こいつパンツ脱いでないな」という話をするでしょ?
乙君:
自分をさらけだしていないという意味ですよね?
「私を晒してまで人を幸せにしたい」というステージ
山田:
作品が全面的に格好をつけてばかりで、作者の何かしら痛いところとか……本当の部分、つまりパンツの中身が見えていない作品があるんだよ。これは新人さんに多いんだよね。要するに格好つけて売れたいんだよ。格好つけた自分を「格好いい」と言って欲しいわけ。でも、「それはちょっと待てよ!」という話なわけだ。つまり脱ぐってことはね……。
乙君:
脱ぐってことは……!?
山田:
「私を隠して成功したい」というステージがあるんだ。仮面を被って、メイクして……格好いいアバターのまま受け入れられたい、というステージから、「私を晒してまで人を幸せにしたい」というステージになった時に、脱いでるんだよ。このステージに到達したコンテンツだと胸を打つんだ!
乙君・しみちゃん:
おー!
山田:
芸人で言うと、それが、ぱっと見てわかるのが、脱いじゃったやつなんだよ(笑)。だから、たけし軍団って基本的に「俺が先に脱ぐ」という人達の集まりだから、脱いでも意味がない話で(笑)。ビートたけしが、すぐ海パンで現れちゃうからね。だから、「俺たちにはもうやることがない」、となってしまって……あそこで一旦は裸芸が絶滅してるんだよ。
だけど、これだけ世の中がぴりぴりしてて、「あれもやっちゃダメ、これもやっちゃダメ、これやったら叩かれる、あれやったら叩かれる」と言っている時に、(裸で)「はい、どーも!」と出てきちゃうと、もう面白いんだよ(笑)。こいつ、ぎりぎりにいるな、人生捨てているなというやつになる。問題はですよ。このアキラ100%さん、本当の意味では脱いでいませんね?
乙君:
おー! そう来ましたか。