えっ、今まで解明されてなかったの? 「全身麻酔」のメカニズムを最新の研究結果からやさしく解説してみた!
今回紹介するのは、やる夫で学ぶさんが投稿した『【ゆっくり解説】やる夫で学ぶ「全身麻酔」』という動画です。音声読み上げソフトを使用して、やる夫とやらない夫の二人のキャラクターが、「全身麻酔」について解説していきます。
麻酔の歴史
やらない夫:
ついに全身麻酔のメカニズムが解明されたらしいです。そもそも「麻酔」が何かは知ってますよね?やる夫:
手術のときに痛くないように眠る薬ですよね。やらない夫:
正確には、その睡眠薬に加えて筋肉を柔らかくする薬や痛みを抑える薬を使うんですが、おおむねその通りです。やる夫:
それがどうしたんですか?やらない夫:
実はこの全身麻酔、200年近い歴史があるんですが、今まで原理が解明されていませんでした。だから、手術中に麻酔が切れたり、全身麻酔の結果、永遠に目覚めなくなる事故が時々起きています。やる夫:
そんなに恐ろしいものを使っていたんですか?やらない夫:
中には体が動かない状態で、意識や痛みを保ったまま足がノコギリで切断されるなんて事故も……。しかし、そんな事故も今回の解明によってなくなる可能性があります。
やらない夫:
まず「麻酔」といっても、実は「局所麻酔」と「全身麻酔」という2種類の麻酔があります。やる夫:
何が違うんですか?やらない夫:
簡単に言うと「局所麻酔」は体の一部の感覚だけを失わせる麻酔で、「全身麻酔」は意識そのものを消すため、全身の感覚が失われます。やる夫:
意識を消すって、何気にすごい怖いこと言ってませんか?やらない夫:
そうですね。だからこそ、一歩間違えればさっき言ったような事故も起きてしまうわけです。やる夫:
なるほど。
やらない夫:
そしてこの麻酔、実は歴史は長くて2世紀から3世紀の三国志の中でも、華陀という医師が麻沸散という麻酔薬を使ったという記述があります。やる夫:
そんな昔からあるんですね。
やらない夫:
それぐらい外科手術において、痛みを取り除くのは大事だったんです。そして、正確に確認できる範囲だと、最も古くは、1804年11月14日に日本の華岡青洲が、この「麻沸散」を使って乳がんの手術を行ったと言う記録があります。やる夫:
200年以上前ですね。
やらない夫:
そしてこういった時代は、今ほど医学が発達していないから、自然の薬草が使われており、例えばこの「麻沸散」にはチョウセンアサガオが用いられています。しかし、この華岡青洲は生涯を通じて、この麻酔薬の研究に取り組む中で、このチョウセンアサガオの様な毒をもつ植物が人の神経に作用することはわかったんですが、どれだけの量を使えば毒ではなく薬になるか分かりませんでした。
しかし、患者で効き目を試すわけにはいかず苦悩する青洲に、協力を申し出た人物がいました。
やる夫:
勇気ある人ですね。誰なんですか?やらない夫:
青洲の母と妻です。やる夫:
そんな! 青洲は自分の嫁さんとママンを実験台にしてんですか?やらない夫:
そうですね。きっと本人も家族も苦渋の決断だったに違いません。やる夫:
それで2人は大丈夫だったんですか?やらない夫:
残念ながら実験を重ねていくうちに、妻は失明してしまいます。しかしそんな尊い犠牲のおかげで、青洲は全身麻酔薬を完成させ、その後少なくとも乳がんだけで153例、その他の外科手術もたくさん成功させます。やる夫:
すごい人たちですね。やらない夫:
そうですね。「麻酔」というのはそれほど悲願の術法だったんです。やる夫:
そもそもなんで「麻酔」っていうんですか? 漢字だけ読むと完全にハッパでラリってるようにしか見えません。
やらない夫:
いい着眼点ですね。しかし残念ながら、大麻には麻酔の効能はないからその説は違います。この「麻酔」という言葉は江戸時代の蘭学者、杉田成卿が外国語を翻訳する際に、麻痺・昏睡などといった言葉から生み出した造語といわれています。ちなみにこの杉田成卿は、あの解体新書で有名な杉田玄白の孫にあたる人物です。
やる夫:
おお! 知ってます!
やらない夫:
そして華岡青洲が手術に成功した1804年に、ドイツの薬剤師が麻酔薬としてもちいられていたアヘンから、麻酔成分であるモルヒネを抽出することに成功します。やる夫:
モルヒネといば、プライベート・ライアンで傷口にいっぱいぶっかけていたあの白い粉ですね。やらない夫:
そうですね。このモルヒネは強い鎮痛作用があることから、第二次世界大戦では怪我人の応急処置に使われていました。次に、1831年にクロロホルムが創製されます。
やる夫:
クロロホルムといえば、漫画でよく口に当てて気絶させる時に使うやつですね。
やらない夫:
そのクロロホルムですね。実際にはあんなに短時間で人を気絶させることはできないんですけどね。しかも、このクロロホルムは人体に有害であることが後に分かり、今ではセボフルランなどの吸入麻酔薬、チオペンタールなどの静脈麻酔薬が用いられています。これにモルヒネの様な鎮痛薬、ロクロニウムなどの筋弛緩薬をうまく組み合わせて行なうのが「全身麻酔」です。
やる夫:
薬の名前はサッパリだけど、なんとなく分かりました。
そもそも脳の中で何が起きてるのか
やらない夫:
そして、この麻酔薬の作用がやっと解明されたわけなんです。やる夫:
今まで、なんで効くのか分からずに適当に使っていたのですか?
やらない夫:
さすがに全く分かってなかった訳ではないのですが、そうだったんです。そしてこれが麻酔の原理を解明した論文です。
やる夫:
英語ばっかりで頭が痛いですね。
やらない夫:
分かりやすく解説していきます。そもそも、人間の意識、つまり脳の中で何が起きているか知っていますか。実は脳は主に1000億個以上のニューロンとその10倍以上のグリア細胞という二つの細胞から出来ています。やる夫:
ふむふむ。やらない夫:
基本的に思考や記憶に使われるのがニューロン、その神経伝達などの手助けをするのがグリア細胞と言われています。そして、肝心のニューロンは、1個1個は実は意外と単純な働きをしていて、入力刺激が入ってきた場合に、活動電位を発生させて他の細胞に情報を伝達しています。やる夫:
全く意味がわからないですね。やらない夫:
簡単に言ったら、バケツリレーのようにただ受けた刺激を隣に伝えているだけなんです。やる夫:
そんな単純なのに、覚えたり考えたりするのに使えるんですか?やらない夫:
はい。ただ、常にこの刺激を隣に伝えるか伝えないかの基準が変わったり、お隣さんが増えたり減ったりして変わっていっているんです。やる夫:
そんな単純な働きだけで、脳みそが動いているなんてイマイチ信じられません。やらない夫:
とりあえず今は、意識というのは無数のニューロンがただ刺激を伝達するだけでできあがっているものだと分かればいいです。やる夫:
とりあえず分かりました。
麻酔はなぜ効くのか
やらない夫:
そして、麻酔がなぜ効くのかなんですが、実はニューロンの細胞膜にある「脂質ラフト」といわれる信号伝達に使われる微小ドメインを無秩序化することが分かりました。やる夫:
完全に意味がわかりません。
やらない夫:
簡単にいうと、刺激を伝えるための通路がしっちゃかめっちゃかになるってことです。ちなみに、実はこの麻酔と脂質が関係しているんじゃないかというのは、100年以上前にドイツとイギリスの科学者が指摘していました。やる夫:
そんなに昔に分かっていたんですね。
やらない夫:
これはオリーブオイルに麻酔薬を溶かすと、強い麻酔薬ほど溶けることから、麻酔薬が脂質に影響しているんじゃないかという説です。これ以外にもタンパク質に影響しているという説もあるんですが、今回の成果はこの脂質との関係を裏付けるものとなった訳です。やる夫:
でも、なんで100年以上前になんとなく分かっていたことが、今更解明されたんですか?
やらない夫:
いい指摘ですね。それは観測技術の進化によって、今まで小さすぎて見れなかったものが見れるようになったからなんです。ちなみに、この顕微鏡はSTORM顕微鏡というんですが、光の波より細かいものまで観測できる顕微鏡で、発明した人はノーベル賞を受賞しました。
やる夫:
なんかよくわかりませんが、男の心をくすぐりますね。
やらない夫:
そして、この顕微鏡を使ってニューロンの信号を伝える経路である脂質ラフトを観測したら、麻酔薬によって脂質内の「酵素PLD」というものが周りに放たれ、それによって経路がしっちゃかめっちゃかになることが分かりました。さらに、この酵素PLDを削除したショウジョウバエに麻酔薬を投与したところ、2倍以上の麻酔薬が必要だったことから、この酵素が脂質から解き放たれることが人の意識を失わせるということが分かったというわけです。
やる夫:
なるほどですね。やらない夫:
ただ、酵素を消しても最終的にはハエの意識が失われたことから、この酵素以外にも麻酔薬が作用している可能性はあります。その部分も含めて、全てが解明されるのもきっとそう遠くはないだろうと思います。やる夫:
よく分かりました。やる夫も麻酔が完全に解明されて、恐ろしい事故が早く無くなることを願っています。
まだまだ完全に解明されていない「麻酔」ですが、昔から使用されてきた歴史があり、多くの失敗と様々な変遷、そして発見があったことが分かりました。
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