初音ミクの「テンプレ」を壊したボカロ動画『恋は戦争』絵師・三輪士郎さんに、ミク誕生からの10年について話を聞いてみた
初音ミク10周年を迎えて
——ボーカロイド「初音ミク」の誕生から10年。当時を振り返って思うことはありますか?
ボカロに限ったことじゃなく、遊ぶ余地があると思ったものに食いついていくと、楽しいことが起こる。それを実感した10年だったんじゃないかと思います。
ただ「面白そうだな」と思って眺めるんじゃなくて、飛び込んでみたらより面白いことが起こるし、出会いも増えて可能性が広がる。ぼく自身も、今後また面白そうなことがあれば、どんどん飛び込んでいきたいと思っています。
——これまでにも、様々な出会いがあったんですね。
これまで、ぼくはゲームセンターのコミュニケーションノートやネットのお絵描きチャット、ニコニコ動画といろんな界隈を移動してきて。それぞれの場で出会った人たちは、後にプロになって再開する人たちも多いんですよ。
119さん、hukeさん、redjuiceさんもそうだし、コザキユースケさん、岸田メルさんなんかも、みんなまだプロになる前でした。そのときどきで、面白いことに飛び込んでしっかり遊べる人は、可能性が広がっていくのかもしれないですね。
——三輪さん自身も、supercellの活動に飛び込んでみて、可能性が広がったわけですね。
自分のスキルが上がったし、supercellがきっかけでお仕事をいただくことも増えましたね。特に、キャラクターデザインの仕事への影響が大きかったかな。
連載中の漫画家にキャラデザを発注することってあんまりないんですよ。ボカロの絵を描いたことで、「あ、依頼していいのかも」みたいな空気になったのかもしれません。
——もともとは一人で漫画を描いていましたが、チームでの作業になって何か変化はあったのでしょうか?
レスポンスの速さと、引き出しの数が変わりました。Skypeの通話や、実際に集まって話ながら絵作りをしていく時に、相手の要求に対して「じゃあ、これでどう?」ってその場で描いてみせるのが必要になるんですよ。これに慣れたのは、キャラクターデザインの仕事にずいぶん役立ちましたね。
打ち合わせで「こんなキャラが欲しい」って言われた時に、シルエットだけでも大雑把なイメージを見せられると、作業がスムーズになるんです。このスタイルは、supercellの活動で培ったものですね。ひとりで作業すると、黙々と考えてしまうので。
——別の名義で絵柄を変えたことについてはいかがでしょうか。
自分の絵柄にバリエーションをつけられたので、よかったですね。あとは、ひとつの仕事にのめりこんでしまうと、息苦しくなってしまうので、息抜きとしても重要だったかもしれません。
——最後に、ここしばらくは、supercellとしての活動がありませんが、休止したわけではないんですよね?
時間さえあれば、今でも何かやりたいんですよ。ryoさんもたびたび「ボーマス出たいな」って言ってるんで、「いいじゃん! いつでもスガのスペース貸すよ」なんて話をして。特に節目とかこだわりもないので、またやりたい時に何かできれば、って気がします。
——またsupercellの活動が見られる日を楽しみにしています!
(了)
取材終了後の雑談中に、三輪氏が「最近のiPad Proはスゴい」という話をしてくれたのだが、なんと、その説明をしながら、絵を描き始めたのだ。
みるみるうちに描き上がっていく。しかも、他愛もない雑談をしながらだ。三輪氏いわく、「絵を描いて、色を塗って、動画編集もできる。簡単な動画ならこの一台でアップロードまで完結するので、ニコニコで活動してた当時これがあったら、もっと動画をあげまくってただろうな」とのこと。
そして、出来上がったイラストがこちら。
ここまでわずか約15分弱。このスピード・ハイクオリティが息抜きなのだというから恐ろしい。絵を描く仕事の息抜きが絵を描くことだという、ナチュラルボーン絵師であること、そして常に新しいツールにもチャレンジする姿勢が、改めて証明されたインタビューとなった。
「ニコニコ超会議2017 ボカロ絵師作品展」で展示を行った三輪士郎さん、redjuiceさん、かんざきひろさんのインタビュー記事全文を下記よりご覧いただけます。