大ヒット映画『ラ・ラ・ランド』は、どうして評価が分かれるの? 理由を3つ考えた
評価が分かれる理由3――神々へのあこがれ病――
山田:
じゃあ、チャゼルさん。実は、非常に何かと似ていました。
乙君:
何と似ていたんですか?
山田:
我々です。
乙君:
え?
山田:
我々と【※】志磨遼平でした。なぜかというと、神々へのあこがれ病という病気にかかっているんですよ。俺たちって、リアルタイムで神様見てないんだけど、過去には、すごい人がいたらしいじゃんという世代なんだよ。
どういうことかというと、ジミヘンがいたころを知らない。ビートルズを生で見たことがないみたいな。要するに、レジェンドになってしまった過去というものに、ものすごく憧れを抱きがちなの。
※志磨遼平
日本のミュージシャン、文筆家である。毛皮のマリーズとして2011年まで活動後、2012年1月ドレスコーズを結成した。ほぼすべての楽曲の作詞・作曲、そしてボーカルを務める。
乙君:
『【※】ミッドナイト・イン・パリ』みたいなの。
※ミッドナイト・イン・パリ
2011年のパリで撮影したスペイン製作によるアメリカ映画。ウディ・アレンが脚本と監督を務め、第84回アカデミー賞で脚本賞を受賞した。
山田:
まさにその通り、『ミッドナイト・イン・パリ』は、その問題の、答え合わせ。過去の何かのすごい時代に、何か神様がいたんだよ。
山田:
俺は、そこに行きたいんだよって、言っている話で、そうすると、見たこともない何かを、自分の作品に出したくなるんです。これが、『エヴァンゲリオン』もそうだし、志磨遼平がやっていることもそうだし、おまえが、太宰を語るのもそうなんだよ。
乙君:
太宰は語らないかな。
山田:
三島を語るのもそうなんだよ。今は三島は、いないんだから。だけど、今の人たちよりも、今の小説家よりも、三島の方がすごいと、どこかで思ってしまう。思っちゃいますよね。そういうのを、なんとなく作品の中で引用したくなる。要するに、俺の神様、みんな協力して~みたいな感じになるわけだよ。そうすると、補強する感じがあるんだよ。
乙君:
なるほど。自分のアイデンティティを、神々を降ろすことによって。
山田:
セロニアス・モンクが起こした革命をと、言っているんだけど、セロニアス・モンクって、ジャズの有名なピアニストなんだけど、その人が、どういう革命をしたのか? というのもまったく描かれていないわけ。
だから、これについて、すごく向かい合ってきた。 菊地成孔さんみたいな人は、おまえ、何言っているんだって、お前表出ろや! ってなるわけだよ。
それで、俺もやっていました。21歳のとき。めっちゃ、恥ずかしいですけど。告白します。僕もやっていましたね。 僕のチャゼル期です。僕が21歳のときに描いた。俺の車にはジョン・レノンが乗っていたって、書いてありますね。見えますか?
山田:
この下に、2コマ目にジョンが歌っていますね。NaNaNaって言っているから、ヘイ・ジュードですね。いいねビートルズはみたいなことを言って、あえて嬉しいよジョンとかって、思いっきり、これ、インディゴブルースという、電子書籍で出ているけど、初期作品集の中に入っている。これ、モーニングで2回めに載ったやつかもしれない。読み切り作品なんだけど。
山田:
夢を追う男が、夢からドンドン遠ざかっていって。夢の中で、車に乗って空を飛んでいる夢を見るんだよ。その車の中にいろいろな人が乗ってくる。乗ってくるのは、かつての自分の憧れだったものが出てくるんだよこれ。
山田:
この前は、乗っているのは、恐竜なんだよ。恐竜が好きだったから。その後ジョンが乗ってくる。で、ジョンあえて嬉しいよ。なんて言って。そしたら君はラッキーだったよね。
いい時代だったじゃん。今なんか酷いよな~なんて言って。俺にはどうでもいい。そしたらジョンは、何も言わずにバーイって出ていっちゃう。ジョンみたいな。で、どうでもいい女と寝ている男が起きるという。
山田:
これ、まさにチャゼルスタイルですね。だから、あのレジェンドたちと一緒にやりたい。憧れみたいな。俺もジョン・レノンに会ったこともないし。よく知らないけど、なんかそういうことをやると、ちょっと格好いい感じがするという。そういう病。
で、チャゼルは、売れる曲が良いとか、クラッシックが良いとか、あまりはっきり言ってないんだよ。で、黒人だから、白人だからというのもやってないわけ。要するにどっちのサイドにものらないの。
乙君:
ここなんですよ! それがいい。
山田:
ノーサイドなの。どっちのサイドにもつかない。で、うちの番組も右にも左にもいかないでしょ? ど真ん中じゃい! ノーサイドじゃい! 我々はノーサイド派なんですよ。
私もそうです。ノーサイド。どっちも人間ですよって、話じゃないですか? 要するに、神々あこがれからの、ノーサイドというのは、俺たちがずっとやってきたことなんだよ。もしかしたら、乙君と世代と一緒でしょ? チャゼルって。そういう空気があるのかな? って。
乙君:
28歳とかですよ。この人。
山田:
もう、30歳になっている。『セッション』のときが、そうだったもん。ということですね。
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