大ヒット映画『ラ・ラ・ランド』は、どうして評価が分かれるの? 理由を3つ考えた
評価が分かれる理由2――アメリカ文学にありがちな“不条理”が描かれていない――
山田:
『ラ・ラ・ランド』というのは……アメリカ文学というのがのあるじゃん。アメリカ文学には、不条理な死というのが、良く出てくるんだよ。よく映画で出てくるでしょ? 上手くいっているのに、いきなり交通事故で死んだりするじゃん。
ああいう、唐突な何かというさ。いきなり穴に落ちる、みたいな『ガープの世界』とか、『イカとクジラ』とか、『華麗なるギャツビー』なんかもそうなんだよ。そういう、アメリカの文学の歴史みたいなものには、必ず、車に乗ったら事故るかもしれないっていう怖さがあるわけよ、常に。
山田:
だから、幸せそうだな~と思ったら、事故るんじゃないかな? うわ! やっぱり対向車にトラック来ちゃったよ。ドン! みたいなやつが来るというのが、アメリカなんだけど、これは、完全に消していますから。アメリカン文学のマナーを完全に消しているんだよ。
で、俺なら、どんな映画がの売れるのか? と言ったら。同じ業界者だとしたら、圧倒的に『【※】バードマン』のほうがのれるわけだよ。なんでかというと、『バードマン』は、のっぴきならないの。俺にとっては、夢というものを追いかけているときは、基本的に、夢を追うんだ! というときには、サンゴ礁の中にいるんですよ。
※バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
2014年のアメリカ合衆国のドラマ映画。監督は『バベル』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、主演はマイケル・キートン。 第87回アカデミー賞作品賞をはじめとする数々の映画賞を受賞している。
浅瀬で「やったね~!」ってしていたい
山田:
ラグーンなんですよ。ラグーンで、「ウニ踏んだ。痛い」とか、「ナマコ踏んだ気持ち悪い」とか言っているレベルの話。で、これは、良いんです。
みんなここで夢を育んで、いずれ大海に出ていくと、鮫はいるし、寒いし、海流はあるし、地獄が待っているわけですよ。これ、いつ浅瀬から大海に出ると思います? 売れたときなんです。怖い怖い。結婚した後なんです。怖い怖い。そういうやつなんです。
山田:
だから、浅瀬の話をしているの。だから、大海で鮫に食われた人は、浅瀬のころを思い出すんですよ。あのころは……、あのまんまでずっといたかった。疑うこともなく知り合う人たちを友達と呼びたかったとか、そういうヤツなんですよ。それを話が浅いと言っているわけではないんですよ。浅瀬の時代なんですよ。
で、これって、浅瀬で終わってしまうということは、ここから先の人生を描くということを放棄している。イコール人生を描くことを放棄しているんじゃないかと、思う人は、この外に行ったことがある人だったら、感じてしまうわけ。だから、本格的に行っちゃった人はヤバイちょっと待てよと思う。少女漫画じゃないか? って。
ラ・ラ・ランドは少女マンガ?
山田:
少女漫画メソッドが、めちゃくちゃ入ってる。少女漫画というのは、まさに浅瀬の世界を描いていい世界なの。少女が読むから。だから壁ドン男子や、雨の中で犬拾っている、あんなムカつくやつなのに……ドキドキ! みたいな。というやつが、許される世界だから、少女漫画とすごく近い世界だなと思って。
これは、どういうことかというと。見た人はわかるけど、女が欲しいと思ったことは、すべて手に入る世界なんだよ。入っちゃうんですよ。で、ピュアな自分がいて、そこには、必ず助けてくれる男が現れる。で、勇気を出して、自分を出すと幸せになれるという構造が、少女漫画目線なんだよ。
素直になったら伝わった。みたいなやつですよ。最後、主人公のメアが行動するんですけど、そういうエッセンスですね。まさに、彼女たちがそこを言っている。で、殻を破って未来に行くという、少女漫画のメソッドが入っているという話ですよね。
山田:
そうすると、同時に起こるのが、視界が狭いんです。半径5メートルって言われるわけ、それでいいんだよ。日常を描く。女の人たちは、見たいものしか見ない。それをアートにしているのが、少女漫画なので、だから、背景をしっかり描かなくていいんだよ。
大事なのは、彼の表情、肩幅とか、キャラの角度、キュンてくるセリフみたいな、そういうやつが描けていればよくて、あとは、後ろにいるおっさんとかいらないしみたいな。路上で困っている人いらないし、知らないし、みたいなそういうことなんだよね。だから、そういう意味では、ノイズカットするという部分で少女漫画と、すごくリンクするということですね。キリないな。
いま浅瀬の話の中で、あえて言うならば。このときにいるときに感じている気分というのは、穴には落ちたくないと思っているわけだよ。今までは、穴に落ちるのが人生だ。さあどうする? という映画をアメリカは作ってきたんだけど、穴には落ちたくないんです。お金を払ってまで、穴に落ちる話を見たくないんです。というところのチューニングが行われているという。
乙君:
つまりは、エンターテイメントってことでしょ?
山田:
エンターテイメントです。浅瀬に戻りたいけど、戻れないんだよ。わかっているけど、戻りたいなという気分が。浅瀬の人も深瀬の人も、みんなわかっちゃったというので、『ラ・ラ・ランド』はこんな騒ぎになっているんじゃないか?