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『シン・ゴジラ』の「無人在来線爆弾」をゴジラ愛に溢れたアマチュア鉄道好きが徹底検証! 脱線せずに最高速度で突撃する作戦の全貌が明らかに

東京駅付近での高速運転は想定外!? 脱線危険速度を計算

 なお「ヤシオリ作戦」開始直前にこんな台詞がありますが、これは「新橋」辺りまで、有人運転の車両で(「無人新幹線爆弾」を)押していたのでしょうか? さすがに「無人新幹線爆弾」を「新橋」付近で切り離してから惰性走行をさせるのは効率が悪いので、互いが力行して運転士が微調整をしたのかもしれません。問題は、切り離し後に有人車両が安全な場所で停まれるか?

 「新橋」付近での通過速度は約160km/h。有人運転車両が「N700系」なら、爆破地点から1.3kmほど離れた場所で停まれます。ここなら何とか安全でしょうか? ただこの台詞は、後に登場する「無人在来線爆弾」の方を指しているとも考えられます。しかし、実際にこの区間で200km/h近く出すと、途中で脱線します

 なぜなら「東京駅」付近には、最少半径400mの急カーブが断続するからです

 実際の列車は水色線のように「浜松町」付近で100km/h前後、あとは70~80km/h走行です。そもそも終着駅である「東京駅」付近での高速運転自体がまったく想定外すぎます。

 そこで、この区間の脱線危険速度を計算します。

 この速度を決める要素は、主にカーブの半径とカントです。他にも緩和曲線、風圧、車両の重心、車体の振動、気象条件による車輪とレール間の摩擦変化などもありますが、ここでは端折ります。

 今回はカーブの半径とカントの情報を新幹線車両内から線路脇にある表示板を読み取って集計し、

 それでも不明な半径は空中写真、カントは周囲の傾向から推定しました。脱線の速度を求める計算方式も転覆、車輪の乗りあがり、滑りあがりを基準としたものなど複数あります。

 ここでは車輪のフランジ角度と線路・車輪間の摩擦係数を基準とする「ナダルの式」を使用します。「ナダルの式」は、他の計算式よりも安全率が高く、提唱から100年以上たった今でもよく使われます。

 この式から得られた脱線係数の8割を脱線危険値とし、以下の式から脱線危険速度を求めます。ただし、この値はカントが0の場合。

 そこでカントを入れた状態を含めた釣り合い式を作成。この式に各カーブの半径とカントを代入して、それぞれの脱線危険速度を計算。

 危険速度はグラフのようになりました。結果「新橋」~「東京」間では、140~150km/hで脱線する危険が高いと分かりました。一方合流地点~「新橋」間は、比較的カーブが緩く、脱線危険速度は177~250km/h台。「無人新幹線爆弾」は、この区間ではまだ低速なため、何とか通過できます。

 しかし肝心の「新橋」から先が急カーブで脱線するため、劇中のような200km/h突撃は不可能。可能な突撃速度は140km/hほどです。

 「無人新幹線爆弾」は、恐らく16両の車両全てに爆薬を満載して突撃しています。後ろの車両に積まれている爆弾を「ゴジラ」の近くで爆発させるにはできるだけ高速で突撃させたいものです。

 「東京駅」まで無事にフル加速するには、「新橋」~「東京」間の線形改造が必要になります。

 カントを上げる方法が考えられますが、計算ではこの区間のカントを最大450まで上げる必要があります。実際の新幹線の最大カントは200。これは、そこで停車した車両が風で転覆する危険を考えて設定しています。カント450は、傾斜角で言う18.28°と、もはやジェットコースターです。

 これだけ車両を傾けさせたら、パンダグラフがあたるよう架線の位置を調整したり、「東京駅」プラットホームに(傾いた)車両が接触しないようホームを撤去(削る)したり、

 カーブ付近の緩和曲線を長大化する必要もでます。しかし、劇中でのカントは実物どおりのため、速度描写はリアル無視です。

 脱線防止ガードをつければ車体のブレが修正され、気休めにはなりそうですが、恐らく200km/hではその効果もいまいちそうなうえ、設置自体が大変なため、現実的でないです。

 カーブの半径を緩める作戦は、大規模すぎて収拾がつかなくなります。「ヤシオリ作戦」の準備期間である2週間前後では、大規模な線形改造は無理がでるため、可能なのはカントを少し上げることくらいでしょう。

 「東京駅」のカントは、車両がホームにあたらなさそうな100前後にすれば、突撃速度を150~160km/hまでは上げられます。

 140~150km/hで脱線する危険が高いことが分かりました。東京駅まで無事にフル加速するために可能なのはカントを少し上げることくらいです。視聴者からは「それでも日本人なら何とかしそうではある」「だからこそのロマン兵器か」といったコメントが寄せられました。

『シン・ゴジラ』に登場する東京駅の配線を検証

 次に、「東京駅」の配線を検証します。

 「無人新幹線爆弾」は、それぞれ「東京駅」の16番線と18番線に突入しました。そして18番線突入のために、2つの分岐器の形が変えられています

 こちらは“実際”の「東京駅」の配線です。「東京駅」には発着番線が6線あり、上下線から、それぞれ3線に分岐しています。「無人新幹線爆弾」の進路は、この赤線のとおりになります。ここで問題となるのが、車両が時速200kmで突入するために分岐器の直線方向に進んでいるかです。

 16番線へ突入する車両は、直線方向を通過するため問題ありません。

 しかし、18番線へ突入する車両は、2ヶ所とも分岐器の曲線部を通過しています

 「東京駅」構内の分岐器曲線部の通過制限速度は60km/h

 絵になる速度で通過したら、間違いなく脱線します。そうなると、隣の17番線へ入るのが妥当です。劇中では、18番線への高速突入を実現するために、分岐器が2ヶ所とも、18番線へ向けて直線になるよう改造されました

 実際と劇中の配線を比較すると、こうなります。

 「東海道新幹線 東京駅」の配線は、開業当初から現在まで数回変化しましたが、

 18番線への分岐器が直線になったことはありません。

 これは100%架空の配線です。

 ちなみに、200km/hで曲線部を通過させるには、「日本」の鉄道最大の38番分岐器に匹敵する、全長150m前後の分岐器が必要になります。

 そんな巨大分岐器を2本も用地が限られる「東京駅」に置くのは、かなり無理があります。

 また、最初の速度計算で話した最初の分岐器~ホーム間の距離が、劇中では実際よりも30mほど短い件ですが、18番線へ突入する分岐器を改造した際に、短くなったともこじつけられます。ただしその考えでは、上り線側の分岐器の位置までをそれに合わせる必要がありません。

 100%架空の配線で、劇中では、18番線への高速突入を実現するために、分岐器が2ヶ所とも、18番線へ向けて直線になるよう改造されました。視聴者からは「寝ているとはいえこんなに近い場所で工事するのは怖い」「ちゃんといじってるとかすげえな」といったコメントが寄せられました。

18番線へ突入する描写になった2つの理由とは?

 そもそも何故18番線へ突入する描写になったのか? 考えられる理由はこの2つです。

 ①まずは「ゴジラ」へのダメージについて。現実的に高速突入しやすい、16番線と17番線は、ホームを介しているとはいえ、線路が隣り合っています。

 18番線へ突入させれば、互いの車両は、さらに4.2m離れ、より広範囲から爆発の威力を「ゴジラ」へ伝えられるでしょう。

 逆に19番線突入ではかえって離れすぎたり、後述の演出面の問題から断念したのでしょう。

 ②次に演出面によるもの。結論を言えば、この理由が大きいです。「無人新幹線爆弾」突撃シーンは、18番線に突入した方の先頭車両左側からのアングルで撮られています

 このアングルでは、16番線に突入する列車が、ホーム越しにも程よい距離でよく見えます。更には、「東京駅」構内で線路が左にカーブしているため、自身の先頭部分や線路の先、

 ホーム屋根の隙間から「ゴジラ」をも一気に見れる、絶妙なアングルです。

 一方、現実の配線に倣い、17番線突入にしたら、景色が悪くなります。17番線の左側には、プラットホームとホームドアが並び、景色の下半分がホームドアで遮られます。

 そして隣の16番線を走る列車もほとんど見えなくなります。

 19番線突入からの景色は尚更悪いです。18番線から左側を見ると、17番線分のスペース越しに眺めるために、16番線の車両や前方もよく見えます。

 2編成の「無人新幹線爆弾」が、並走突入する進路パターンは全部で9通りありますが、16・18番線突入が、(駅構内の)左カーブ、ホーム、ホームドア、隣の車両、前方の景色等と絡めても、(疾走感が)一番いいパターンと言えます。

 ただし「ゴジラ」を俯瞰するシーンでは、現実通りの配線でした。

 徹底的なリアルを追及している『シン・ゴジラ』ですが、

 実際よりも高頻度に自衛隊最新兵器を積極的に出したり、

 まだ建っていない超高層ビルを完成状態にしたり、

 車両並びのコントラストをよくするためか? 「無人在来線爆弾」に流用した車両と使用路線が、「上野」側のシーンでは、実際と微妙に違っていたりしています。最高の突入シーンを撮るために、本来なら脱線する速度で突撃させたり、分岐器の方向を2ヶ所変えることくらい、造作もないというのが真相でしょう

 はっきり言えるのは、『シン・ゴジラ』は鉄道愛を非常に感じられる映画だということです。

 徹底的なリアルを追及している『シン・ゴジラ』ですが、18番線へ突入する描写になったのは、最高の突入シーンを撮るための演出だったと考えられます。視聴者からは「フィクションだけどここまでガチで考えさせるってもうドキュメント超えてるよ」「「虚構と現実」がだんだん「現実と虚構」に置き換わるんだよな シンゴジはここがすごいと思う」「格好良く嘘をついたんですね」といったコメントが寄せられました。

 また、製作期間4ヵ月、制作時間約200時間をかけて検証した投稿者の太郎さんにも、「すごい……」「この動画のおかげで更に深くシンゴジラ知れて良かったよ」「この検証もシン・ゴジラ愛に溢れるいいものだった」「あなたのシン・ゴジラ愛も感じたよ!」といったコメントが多く寄せられました。

▼動画はこちらから視聴できます▼

「シン・ゴジラ」に登場した「無人新幹線爆弾」を検証してみた

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