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“異世界系”のリアリティは文字から!? 『王立宇宙軍』プロデューサーが追求した異世界文字の作り方「母国語に対応させる形で作るのが鉄板」

 毎週日曜日、夜8時から生放送中の『岡田斗司夫ゼミ』。10月7日の放送では、ガイナックス制作の往年のSFアニメ『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の特集が行われました。

 本作の制作にも深く関わったパーソナリティの岡田斗司夫氏は、この作品について「完璧な異世界感の構築を目指した」と語り、その一例として作品内に登場するオリジナルの文字について解説しました。

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』
画像はAmazon『王立宇宙軍 オネアミスの翼 [DVD]』より

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“完璧な異世界”を目指して作られた『王立宇宙軍』

岡田:
 『王立宇宙軍 オネアミスの翼』という映画を作るに当たって、僕らは“完璧な異世界感の構築”というのを目指しました。では、そんな完璧な異世界感というのはどういうことか? 例えば“文字”です。

 これは、『メアリと魔女の花』に出てくる文字です。ファンタジー映画の多くには、その物語世界の中でのみ使われる“異世界文字”というのが出てきます。『メアリと魔女の花』では、メアリが偶然手にした魔法の本の表紙に、模様みたいに独自の文字が書いてありますが、これが異世界文字なわけですね。

 他にも、大学に行った時に先生が黒板に板書している文字だったり、図鑑のような本の説明文っぽいところにもグニャグニャっと異世界文字が描いてあります。これらは、かなり絵の上手い人が描いているので“それっぽい文字”に見えるんですけども。異世界文字というのは、こういうパターンで作られるものが多いです。

リアリティのある異世界文字を作りたければ「母国語を置き換える」ようにする

 『王立宇宙軍』でも、同じように「あいうえお」と「ABC」の両方に対応した文字を独自にデザインしているんですけど。これには理由があるんです。まあ、とりあえず見てみましょう。

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の「あいうえお」の表

 これが『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の中に出てくる文字を「あいうえお」に対応させた表です。なぜ「あいうえお」に対応するように作るのかというと、『メアリと魔女の花』みたいに、グニャグニャとそれっぽく続けて書くだけでもいいんですけど、あれをやると長い文章とかを見せた時に段々とボロが出てきちゃうからなんです。

 日本語が持っているような“文節の区切り”や、英語にあるような“単語の区切り”。そういうものがないと、文章としてギッシリ書いた時に、異世界文字って、すごい嘘くさくなっちゃうんですよ。

 なので、無理矢理でもいいから、アルファベットとか平仮名に対応させて、現実の世界にすでに存在している文章を書き換えるようにする。そうするとリアリティが出るんです。異世界文字にリアリティを出そうと思ったら、基本的には自分の母国語に対応させる形で作る方が良いんです。

 僕らの場合は母国語は日本語ですから、日本語にあるような“平仮名”から“漢字”までを異世界文字で作って、現実にある日本語の文章を忠実に置き換えるというのが、鉄板のやり方です。

 ちなみに、この表に描いてある異世界文字は上下2段の2種類の表記があります。これは上の段が“毛筆文字”で、下の段が“活字”になっています。こういうふうに作っているんですね。

岡田斗司夫氏

数字1つでも世界設定を表現できる

 次に見せるのは『王立宇宙軍』で使われている数字です。『王立』という作品に出てくる数字は、十進法ではなくて“十二進法”で作られています。この表の中には「0」が描かれていませんが、この「0」に対応した数字も、後で「丸の中に点がある」というデザインを考えて、追加しています。

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の数字の表

 なぜ、十二進法にしたのかというと『王立』の舞台となる国が合理性より歴史性を重んじる国だからですね。

 現実の歴史でも、自分たちを先進的で合理的だと思っていたフランスがナポレオンの時代から十進法を採用したのに対して、自分たちを保守的で歴史的であると思っていたイギリス人は、かなり長い間、十二進法に拘っていました。

 ポンドとペンスの関係が十進法になったのは、僕が中学か高校くらいの時期ですし、それまでは、結構いろんなことを十二進法でやっていて、すごくややこしかったんです。なので、かつてのイギリスのような伝統に拘る国というのは、いまだに十二進法を採用しているんじゃないかと思って、十二進法の数字を作りました。

 ちなみに、この表の下の段に描いてあるのは“古代装飾文字の数字”です。これはどういう時に使うのかというと、例えば「ルイ十二世」みたいな王位を表す時とか、大きな宗教的な事件があった年号を表記する時には、この古代の象形文字の飾り文字で表記するというルールを作りました。

 その下には、こういった数字を使って賞品の値札を書くとこんな感じになる、とか、時計に数字を書く時はこんなふうになる、というパターンが描かれています。

“歴史の厚み”まで加えて完成された『王立宇宙軍』の文字

 と、まあ、ここまでは、いわゆる“普通のこと”なんですよ。他所のファンタジー系作品でも大体やってる、いわゆる異世界モノを作る際の普通のやり方なんですね。さっき「『王立』では“完璧な異世界”を作ろうとした」と言いました。

 完璧な異世界というのは、これら普通のやり方と何が違うのかというと、ここにさらに“歴史の厚み”というのを足したんです。では、歴史の厚みとは何か?

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の文字の原型となった象形文字

 これは、さっき紹介した文字や数字が、その形になる前の象形文字です。例えば、「三匹のサンショウウオ」とか、もしくは「彗星」とか、この他にも「神殿を作る場所を教えてくれた蟹」みたいなものもあります。

 このような、言い伝えや伝承に由来する紋章が、それぞれの文字の原型になっているといった由来を、ほとんど全ての文字に対して考えたわけです。つまり、これらの文字には「もともとは象形文字だったものが簡略化されて筆文字になって、その筆文字を更に簡単に書きやすくするために活字になった」という歴史があるんです。 

 なぜ、筆文字を活字にする必要があるのかというと、筆文字というのは“タッチ”とか“線の伸び”とか“太さの差”があるので、あまり印刷に向いていない。こういうものを印刷しようとすると高く付くんですね。なので、楽に活版印刷に載るように活字化されたんです。

 このあたりについても、「この世界の貴族たちは、こういった活字を“庶民の文字”として軽蔑していて、あくまで手書きの筆文字、または象形文字そのものを読み書きすることを好む」といったような階級文化というのが生まれていると設定しています。

 『王立』に登場する異世界文字には、こうやって歴史性という厚みを加えているんです。

言語の持つ多様性まで表現することで生まれる完璧な異世界感

 『王立宇宙軍』に登場する文字というのは、まず最初に、言い伝えを図案化した紋章があり、その紋章から象形文字が生まれ、その象形文字から毛筆文字が生まれて、次に活字が生まれた、といった時代ごとの変化まで考えたんです。これを更に応用するとどうなるのかというと。

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』のデジタル文字

 これは『王立』に出てきた“デジタル文字”の表です。更にデジタル機器が再現するためにドットに起こされた文字まで考えたんです。

 ロケット発射直前の風景として“ニキシー管”という真空管の中に細いネオンが入っていて、これの一部が光ったりすることで数字を表すデジタル機器を見たことがある人もいるでしょう。これらはそういう部分に使いました。

 あとは、白黒の丸いモニターにロケットが映ってて、発射までのカウントダウンの数字が表示されているんですけど、こういう部分での数字として、このようなデジタル数字を使っています。

 こんなふうに、異世界の文字を考える時というのは、1つの言語やパターンを作り込んだだけで安心するのは甘いんですよね。日本語でも、漢字、平仮名、カタカナ、数字、アルファベットと、最低でも5つのパターンがあるんです。

 僕らの言語体系では「カタカナを使って表されるものは外来語である」とか、もしくは「アルファベットそのものを使って表現すると、ネイティブなニュアンスが強めである」というような隠れた意味がありますよね。『王立』という映画の世界の文字というのは、こういった、言語というものが本質的に持っている“多様さ”まで含めて作られているんです。

 「1つの文字体系が千年くらいの歴史の中で、象形文字から毛筆文字、活字、さらにはデジタル文字というふうに移り変わっていった」ということを、1つの画面内、1つのシーン内で、色々なパターンで見せることで表現しようとしてるんですね。

 だけど、実はこの文字についての話って、『王立』を作る時に考えた設定全体から見れば数百分の1なんですよね。

▼記事化の箇所は13:25からご視聴できます▼

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