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自社制作のアニメはどれも「なぜ感動するのかわからなかった」ガイナックス元代表取締役・岡田斗司夫が語る制作現場の裏話

 3月4日に放送された「岡田斗司夫ゼミ」にて、『新世紀エヴァンゲリオン』や『ふしぎの海のナディア』などを手掛けた、アニメ制作会社ガイナックス元代表取締役の岡田斗司夫氏が、在籍当時に制作したアニメ作品について言及。

 アニメを制作する中で、「作品内に意図的に感動を作り出そうとしていた」など、当時のアニメの知られざる制作秘話について語りました。

岡田斗司夫氏

なぜ感動するのかわからなかった

岡田:
 ガイナックスの歴史というのは、DAICON3のオープニングアニメから始まるんですけども。このDAICON3のオープニングアニメを見ると、なんとなく感動するんです。だけど、その感動の正体が何なのか、正直な話、作った人間には誰一人わかっていなかったんですよ。

 「ラストの、音楽が盛り上がって新天地に向けて宇宙船がバーンと飛び立つシーンを見て、なぜ感動するのか?」っていうのは僕にも説明できない。もちろん、庵野秀明にも、赤井孝美にも、山賀博之にも説明できない。

 それを見たみんなは「感動した!」って言うし、楽しんでもらえたのはわかったんですけど、なぜそうなるのかがよくわからなかったんですね。

DAICON 3&4 女の子(画像はAmazonより)

 次のDAICON4のオープニングアニメも、感動みたいなあやふやなことは考えずに、とにかくクライマックスで庵野のすさまじい作画を見せようとして作ったんです。本当に、音楽に合わせたハイテンポでノリの良い映像作品という、いわゆる当時のMTVみたいなものをやろうということだけを考えて作ったんですけど。やっぱりこれも、見た人から「感動した!」っていうふうに言われたんです。

 つまり、ガイナックスというのは、デビュー前のインディーズだったDAICONフィルムの時代から、自分達の中に「作ったはいいけど、なんで感動したのかわからん」という暗部を抱えていたわけですね。

 これ、一見いい話に見えるんですけど、全然よくないんですよ。つまり、これは再現性がないということだからです。なので、『八岐之大蛇の逆襲』とか、『早撃ちケンの大冒険』とか、『怪傑のーてんき』とか、『愛國戰隊大日本』みたいに、「あれ? 同じフォーマットで作っているはずなのに、ちっとも感動しねえよ」っていう作品も、いっぱいあるわけなんですよ(笑)。

『王立宇宙軍』完成後に始まった“感動を作るプロジェクト”

 『王立宇宙軍 オネアミスの翼』という、ガイナックスのデビュー作にあたる2時間くらいある劇場映画があるんですけど。これを作った時に目指したのは、言葉にできない感動だったんですよ。

 山賀くんの「感動というのは言葉にならないものなんです! 見た後で、なんかわからないけど、すごかったって思ってもらえれば、映画はそれでいいんです! なぜ感動したのかがわかるように作った映画なんて安物です!」という発案もあって、すごくわかりにくい作品を作ったんですね。

 ところが、出来上がった『オネアミスの翼』というのは、確かに、そういった映画的なテイストもあるんだけど、普通のアニメっぽいテイストもかなりあるという、なんというか、中途半端で微妙な作品になってしまいました。

 ……あの、これは岡田斗司夫だから言えることですよ? こんなこと、俺以外のヤツが言ったら絶対に許さんのですけど(笑)。

王立宇宙軍 オネアミスの翼(画像はAmazonより)

 そこで、「もっとわかりやすく感動させなきゃいけない!」ということで、ガイナックスの“感動を作るプロジェクト”というのがスタートしたんです。

 これは、僕自身が主催者として始めたんですけど。とにかく、『オネアミスの翼』の時に、みんなが感動してくれたのかどうかすらわからなかったし、返ってくる感想もモヤっとしていたことに懲りたので、ちゃんと実験して、検証して、繰り返し作り出せるようにしようという目的のもとにプロジェクトが開始されました。その第1弾が『トップをねらえ!』なんですよ。

『トップをねらえ!』の最終話が生まれた理由

 『トップをねらえ!』というアニメは全6話構成なんですけど、これについて、当初、僕は普通の6話アニメ以上のボリュームをつけることにしようと言ったんです。

 物語の後半で、宇宙怪獣というのが我々の銀河を滅ぼそうとしているというのがわかった。そこで、自分たちだけではとても対抗できないことがわかった人類は、主人公が乗っている宇宙船を銀河の反対側に送って、そこに暮らしていた別の文明とコンタクトを取ることになるんです。

 すると、その文明も宇宙怪獣に侵略されて星が滅びかけていたことがわかるんです。この銀河系の中心に場所にあった数百の文明が、既に滅ぼされている上に、まだ滅ぼされずに済んでいるいくつかの文明というのも、宇宙怪獣と戦っていて、地球以上に苦戦している宇宙文明がいっぱいあることがわかったんですね。

 その結果、主人公たちは、そういった滅ぼされかけている文明と連合を組んで、宇宙怪獣を包囲し、最後の最後に、ブラックホールに押し込めるという大作戦を決行することになるんです。これが僕のアイデアだったんですけども。

トップをねらえ!(画像はAmazonより)

 この話を聞いていた山賀くんは、腕を組んで考え込んでから「岡田さん、それは無理です。6話では入り切りません」って言ったんですよ。「じゃあ、6話に収めるためにはどうすればいいの?」と僕が言うと、「最後の、ブラックホールに宇宙怪獣を押し込めるという部分だけを使いましょう」、「じゃあ、他の宇宙人達との連合は?」、「それは全部ナシです」、「でも、そんな大規模な作戦を、人類だけでどうやって準備するの? この時点での地球人の力だけではどう考えても不可能じゃん」、「そうですね……だったら、5話と6話の間に10年の歳月が経ったことにしましょう!」と言うんですよ。

 「えーっ!そんなのアリ?」って言ったら、「うーん。アリです!」って(笑)。そんなふうに山賀が言ったもんだから、銀河中の大連合という設定だけがスポーンと抜けて、あのラストというのが出来上がったんです。

第2話で完成したフォーマット

 でも、それが決まった後でも、僕にも山賀にも、話のラストが、まったく見えてなかったんですよ。確定していたのは第2話ラストだけ。

 では、第2話のラストがどういうものかというと。第1話の冒頭で、宇宙怪獣と戦っていた、主人公タカヤ・ノリコのお父さんが、自分1人を宇宙船に残して、他の人間を全部脱出させるというシーンがあるんですね。「ノリコ、お前の誕生日には帰ると言ったのに、約束は守れそうにない。ごめんな」と言いながら、お父さんは消えて行くというシーン。

 だけど、実はお父さんの乗った船は宇宙怪獣に完全に破壊されてはおらず、宇宙空間で亜光速まで加速され続け、楕円軌道を描いて、ついに5年後の第2話の時点で、主人公のいる太陽系内に戻ってくるんです。

 宇宙空間からものすごい勢いで飛んで来るものを見つけたノリコが、何かと思って追跡すると、それは、かつて破壊されたかと思われていた父親の宇宙船だった。「ああ!」と思ったノリコが宇宙船のブリッジに向かうと、ブリッジは破壊されていて、誰もいなかった、というのが第2話のストーリーなんですけれども。

 亜光速まで加速した船内では、時間の流れ方が地球とは変わっていて、お父さんが死んでから15分くらいしか経っていなかったんですよ。それを知ったノリコは「ああ、お父さん、私の誕生日にちゃんと帰って来てくれたんだ」と言う。そんな、SF的にもドラマ的にも、すごく綺麗にまとまっている話なんですよ。

GX-34R ガンバスター(画像はAmazonより)

 とりあえず、これを『トップをねらえ!』のお話のスタンダードにしようということで、1話と2話、3話と4話、5話と6話を1つのユニットとして考えて、これと同じ形でまとめていけば間違いないと思って作ったんです。

 その5話と6話のラストを考えあぐねていたんですけど、その頃から、庵野が「ちょっと僕にも脚本に口を出させてください」と言い出したんです。

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