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『映像研には手を出すな!』原作者・大童澄瞳の「細かすぎて誰にも気づかれない」漫画づくりのこだわりがすごい

誰に向けてこの漫画を描いているのか

岡田:
 「アニ研、見学に行こうぜ」ということで、浅草と金森はアニメ研究会に見学に行きます。

 ベタなことから聞くと、なんでこの「視聴覚室」という字がこんな古いんですか? そんな時代からある学校なんですか?

大童:
 そうですね。「どのタイミングで戦争が起きたのか?」っていうのは、まだ描いてないんですけど、この学校は、戦前からある建物を建て増ししたものなんです。

 まあ、歴史が長いということで、こういう視聴覚室みたいな表札があるんですけど。あとは、天井の辺りも…。

岡田: 
 ああ、塹壕用の小さめのタイル張りになってるわけですね。

大童:
 そうですね。上の方がアーチ状のタイル張りになっていて。あとは、表札も真鍮の留め具みたいなもので板を留めてたりとか、そういうふうな感じで描いています。

 ドアとかはもう新しくなってるんですけどね。視聴覚室の内部の構造も、ちゃんと音響が上手く響くように、壁がガタガタしているやつですね。

岡田:
 この“アニメ研の作ったアニメ”って、どんなアニメだったんですか?

大童:
 これは要するに“絵を動かしたい人間”がよくやる、爆発とアクションっていうやつです。「とりあえず荒野を描いて、そこでアクションをしとけば、やりたかったことが出来て満足!」というタイプのアニメですね。

岡田:
 このアニメを見て、浅草が食いついたポイントが「音が遅れた」ということだったんですが。

大童:
 はい。これに関しては、浅草は、設定がどうのというよりは、やっぱり演出的なところに注目しているっていうことですね。

岡田:
 彼女は監督タイプ、ということなんですかね?

大童:
 そうですね、演出家タイプというか。

岡田: 
 この後、物語が進むに従って、段々と監督役を務めるのは誰になるのか、よくわからなくなってくるんですけども。

 この漫画って、すごくスピーディーに進んでるのに、ここは珍しく一つひとつの展開が丁寧になりますよね。別にこの後、アニメ研が重要な役割を果たすわけでもないのに、割と長く見せているのは、浅草の演出家っぽいところを見せたいからなんですか?

大童:
 それもあるんですけど、単に僕が「爆発とはなんぞや?」とか、「音が遅れて聞こえてくるよ」っていうことを書きたかっただけっていう(笑)。

岡田:
 読者に対して?

大童:
 そうですね。

岡田:
 この第1話の時って、何歳くらいの読者を想定してたんですか?

大童:
 僕がこれを描いたのが、23歳くらいだったと思うんですけど。当時、担当さんに「どれくらいの年齢を想定すればいいですかね?」って聞いた時に、「まあ、同年代とか、30代くらいまでだったら~」みたいに仰っていたので、これくらいなら大丈夫だろうなと思って。

岡田:
 でも、これを理解できるとなると、年齢層は高そうな気がしますね(笑)。

こだわり尽くされた背景描写

岡田:
 この「←図書室」と書かれた張り紙、「室」の字だけが潰れているんですけど、これはなぜですか?

大童:
 これはおそらく、学生が書いた張り紙だから下手くそだったんでしょう。一番下の矢印を最初に描いて、その上から字を書き始めたので、スペースが足りずに室だけが圧縮されてしまったという。

岡田: 
 じゃあ、これを書いた学生が下手くそなだけで、漫画家さんが書いてる途中で「あ、収まんねえや」ってなったわけではないんですね?

大童:
 それはないですね。

岡田:
 そりゃそうですよね。プロの漫画家さんが、そんなミスするはずありませんよね。

大童:
 あはは、結構すると思います(笑)。

岡田:
 で、隠れていたところ、いちご牛乳を手渡される水崎。ここで、お気に入りのものを出してくれるということで、「追いかけてきた人達は敵じゃない」とわかるわけですよね。

大童:
 はい、そうですね。

岡田:
 その様子を遠くから見つけた浅草は「視認した!」と言う。これも「発見した!」じゃなくて「視認した!」なんですね。

大童:
 この1コマ目って、実は双眼鏡で見た光景なので、レンズが2つあって、それぞれの“視差”を表現しているんですよ。階段の手すりのところのズレとか、若干、描いてあるんですけど。「まあ、そんなところに気づくやつは1人も居ねえだろう」という。

岡田:
 ああ、なるほど! この線とこの線の差ですよね?

大童:
 そうですね。あとは、縦のラインにも若干、弧を描くような線がうっすら入っているんです。

岡田:
 双眼鏡のように2つのレンズで見ると、こういう視差が出るんですか? 知らなかった。

大童:
 いや、両目で見た時って、脳で、見えた物を1つにまとめるので、「おそらくこうなるだろう」というところで描いてるんですけど。

 よくある、2つの影が並んでいるような双眼鏡の視点描写があるじゃないですか。『007』とかでも双眼鏡を覗き込むシーンでは、そういう影が出てきますよね? それを絶対に書きたくなかったんですよ。だから、「円をほぼ1つにまとめて、少しだけ視差が出る」という絵を描いたんです。

岡田:
 これ、誰かに伝わりました?

大童:
 いや、誰からもそんな指摘はありませんでした。

岡田:
 (笑)。

大童:
 そもそも、僕の中でいけないのが、他のコマの背景を見ていただいてもわかると思うんですけど、切れてたり真っ直ぐではなかったりする緩い線で全体を描いているので、いくらこんな視差を描いたからといって、“誤差の範囲内”になってしまうんですよ。

岡田:
 アシスタントをバンバン使う普通の漫画家だったら、背景も、ちゃんと定規で引いた線になるから、ここでのズレも強調されるんだけど、もともとがフリーハンドで線を引く人だから。

大童:
 そう。だから、まったく意味がないんですね。

岡田:
 「この漫画家のいつもの下手な感じね」ということにされるわけですね(笑)。

大童:
 そうです。そうなってしまうんですね。だからおそらく、これにはまったく意味がないです。僕が言わなければ誰も気付かないみたいな。

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