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『映像研には手を出すな!』原作者・大童澄瞳の「細かすぎて誰にも気づかれない」漫画づくりのこだわりがすごい

 毎週日曜日、夜8時から生放送中の『岡田斗司夫ゼミ』。6月24日の放送では、パーソナリティの岡田斗司夫氏が、漫画家の大童澄瞳氏をゲストに迎え、小学館『月刊!スピリッツ』にて連載中の漫画『映像研には手を出すな!』を作者と共に1ページ毎に解説する、特別対談が行われました。

 今回はその内容の一部を抜粋して掲載します。

左から岡田斗司夫氏大童澄瞳氏

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連載第1回目の原稿は編集部に直される

岡田:
 ここから連載がスタートしたわけですね。「学校へ繋がる橋! 経緯不明の高低差!」というセリフから始まります。まあ、この辺はわりと“普通の漫画っぽい描き方”をしてますよね?

大童:
 ああ、そうですね。

岡田:
 連載の第1話って、よく編集部の人に何回も直されるって言われてますけど?

大童:
 何回も直されましたね。

岡田:
 やっぱりそうなんですか。ここへ至るまで、初期案とかはどういう構成だったんですか?

大童:
 いや、もう、何パターンもあって覚えてないですね。保存してはいるので、あるにはあるんですけど。そうですね、初期案では、水崎がもうちょっとクールなタイプというか、口数が少ない女の子だったみたいな、というのは覚えてるんですけど。

岡田:
 で、ページをめくると、この見開きの表紙絵がドーンと出るわけですね。これは1話を描き終わってから描いたんですか?

大童:
 どうだったかな? それも全然覚えてないですね。でも、そうだったと思います。面倒臭そうなページっていうのは、僕、結構、後回しにしたりするので。

岡田:
 この飛行機は、後に出てくる映像研の女の子たちのデビュー作のアニメに出てくる飛行機ですか? なぜここに飛行機を描こうと思ったのでしょうか? この漫画の世界というのは、こういう飛行機が存在する世界ということですか?

大童:
 いや、この飛行機が『映像研』の世界に実際に出てくるというよりは、“空想の世界”のようなイメージを出すために描いたんです。

岡田:
 3人がいる場所の中に、彼女たちの妄想の世界がちょっとだけ混ざっているみたいなイメージ?

大童:
 そうですね。実は、その後ろの方にも、ちょっと幻想的なビル群みたいなものがあるんですよ。

岡田:
 こういうふうに、自分の漫画を解説させられるのは大丈夫ですか? 恥ずかしくない?

大童:
 わりと大丈夫ですね、今のところは。

岡田: 
 メンタル強いなあ(笑)。

物描写のリアリズム

岡田:
 この第1話は「浅草と金森のキャラを立てる」というのを第一にしてるんですか?

大童:
 そうですね。なので、1ページ目でああやって浅草をドーンと出したので、今度は金森を出しています。

 やっぱり、ページ数にも制限があるので、早目に出した方がいいだろうということもあるんですけど。いろいろと調べてみたりとか、編集さんから聞いたりすると、キャラクターというのは、最初の方で一覧のように登場させた方が良いみたいなことがわかったので。これはもう、1ページ目と同じような感じで作っています。

岡田:
 この漫画の主役って誰なんですか?

大童:
 僕としては、浅草が主役だと理解してはいるんですけど、「構成上、主役になっているか?」と言われると、どうなんだろうっていうのは、僕自身も思いますね。 

岡田:
 僕も、単行本の1巻を読んだ時には、「浅草が主役」っていうイメージが強くあったんですけど、1巻の後半くらいからは「なんだかんだいって、金森が“ツッコミ役”になってるよな」って思ったんですよね。

大童:
 そうですね。そこが鋭くなっていくというのはありますね。

岡田:
 つまり、金森中心で見たほうが、実は、お話を追いかけやすい。

大童: 
 僕も、別にそうしたいからやっているというんではないんですけど、なんとなくそういう方向に傾いて行っているところはありますかね。

岡田: 
 この頃から“アクロバティックな構図”が出てきますね。見ている人間を悩ませるような、「今、俺は何を見ているんだろう?」という構図(笑)。

大童:
 やっぱり「映像的な絵作りにしたい」というのがあるので。このページも、1コマ目から若干の俯瞰で描いていたりしてるんです。吹き出しにも、もうここからパースが掛かってるんですよね。

岡田:
 ということで、次のページに行きます。「時に金森さんよ。牛乳おごるからアニメ研の見学、一緒に行こうぜ。1人が心細いんだよ」ということで、ここでようやく浅草というキャラクターの内面が見えてきましたね。

大童: 
 初っ端から、主人公が「良い高校に入った!」って言って。

岡田: 
 で、4ページ目ですぐに「1人が心細い」と言う(笑)。

大童: 
 要するに、1ページ目は「主人公的な浅草というキャラクターは、どんな人物なのか?」ということと、あとは物語の概要みたいなものを、なるべく少ないセリフで説明するべきであるという考えに基づいて作っていて。その後に“キャラ付け”として、こういう小心者らしい台詞みたいなものが出てくるということですね。

 これは、僕が考えたというよりは、「その他の例に倣った」というだけなんですけど。僕は本当に、そういう描き方を全然知らなかったので。

岡田:
 でも、ここで「やる気に燃えているのかと思えば、1人が心細い」ということで、長所と短所をきちんと見せることでキャラが立ってるじゃないですか。

大童: 
 そうですね、結果的に立ってるかな。

岡田: 
 それに対して、取引きを要求したり、「イヤですよ面倒臭い」というセリフを言わせることで、金森のキャラも立てているわけですよね。

大童:
 そうですね。ただ、この辺は全部、僕のリアリズムというか、「人間の等身大というのは、この辺りにあるんじゃないかな?」という視点を使ってます。

 金森の言う「連れション文化圏の人間」というワードとかは、僕が連れションとかの意味がよくわからんタイプの人間だから、なんですよ。

岡田:
 つまり、友達と一緒に行動するという普通の人たちを、あえて“連れション文化圏”というふうにラベリングするという、中学・高校の時に一緒だったやつらへ対しての復讐行為なわけですよね(笑)?

大童:
 はい、そうですね(笑)。

岡田:
 あと、金森の「なんでアニメ研にこだわるんです? 家で1人で作りゃいいじゃないですか。今時簡単でしょう」というのは、これ、大童さんの本音ですよね?

大童:
 はい。これは僕の本音です。「そんなものは1人で家で作ればいいんであって、誰か他の人間とやる必要なんてないだろ? そんなことしても、バカなヤツらとのいろんなしがらみに巻き込まれて、ようわからんものが出来上がるハメになるだけなんだから、そんなものは1人でやればいいんだ!」っていう。

岡田:
 このセリフの裏には、ものすごい含みがあるんですよね。今、大童さんが言ったことも、ネームに直すと5ページ分くらいになりますよ(笑)。

大童:
 そうです。だから、漫画化すると、やっぱりそういうところは省略しなければいけないなというのがありますね。

岡田:
 なるほど。それをグッと省略すると、「今どき簡単でしょう」という一言になるんですね。

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