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オウム信者が体感した“神秘体験”の正体を宮台真司が解説「人間の心は本人が想像しない方向に暴走する」

事件の最大のポイントは「誰でも加害者になりえた」こと

ジョー横溝:
 宮台さん、きょう7人の執行があったわけです。基本的には今までの執行の歴史を見てみますと、最大で4人までが同時執行ということですので、7人というのはかなり大量の執行だったようにも思いますし、安倍内閣では第1次内閣で10人、そして2次、3次、4次内閣で28人。

 計38人の執行が行われているということなんですけれども、考えてみましたら執行に向けてのカウントダウンというのは着々と進んでいたようにも思います。と言いますのは、昨年には再審請求中の執行が3件ありました。今年に入って死刑囚の移送があったということで、いつかいつか……ということで我々も番組などを通して議論してきたんですけれども。

 やはりその問題となってきたのは、なぜこうした事件が起きたのか。裁判の審理とは別のところで、社会のシステムとしてこうした事件が起きてしまった背景が、まだ解明されていないと。

宮台:
 そうですね。

ジョー横溝:
 宮台さんとしては、この事件の背景、端的に述べるのであればどんなところにあるというふうにお考えなんでしょうか。

宮台:
 オウム真理教の元になるオウム神仙の会。誕生が84年なんですが、その3、4年前からアウェアネストレーニングにかかわっているんですね。これはオウム真理教の教団幹部たちが受けていたトレーニングと同じようなものです。

 僕はそこに行って非常に驚いたことは、クリエイター、広告屋、映画を撮るようなクリエイター、プロのミュージシャンもいました。それと並んで若い霞が関の官僚が大勢いたということなんですね。

 アウェアネストレーニングとは何か言うと、元々はベトナムの帰還兵を社会に着地させるために、言わばジャングルに送り込む時に行った心のフレームの書き換えと、逆のプロセスで、普通の社会を生きるために必要なフレーム。これは取り戻しというセッションなんですが、ポイントは戦争の話を除くと、フレームの書き換えということがあるわけです。

 これはメッセージを洗脳するということとちょっと違っていて、フレームというのは枠組みというふうに言い換えてもいいんだけれども、基本的に自分自身を何を参照しながら価値づけるのかという枠組みを変えてしまうということだといふうに考えていいです。

 例えば自己啓発セミナーあるいはアウェアネスレーニングというのは、それ自体は宗教ではありません。しかし驚くような体験を様々にさせられます。例えばこういうコミュニケーションを通じて、3分間で人に泡を吹かせたり、吐かせたり、気絶させたりすることができるんですね。

 さらにものすごい短い時間で、同じような状態に陥った人を回復させることもできる。何か装置とか機械とかを使っていない。ただ言葉だけでそこまでできるということが、まず驚きなんですね。

 その時に私がトレーナー、あるいはファシリテーターから言われたことは、人間の心はある種の自動機械であって、適切な順番でボタンを押すことによって鍵が外れ、本人が想像しないような方向に暴走するわけです。あるいは生じなかったはずの体験が生じるわけです。

 だからそこではまさに様々な神秘体験、クンダリーニヨガ的な体験が生じたりとか、自分の体が燃えているというふうに感じたりとか、神の言葉が聞こえたりするというふうに持っていくことが可能。言い換えれば、どんな人間でもそういう自動機械としての側面を持っているので、そこにつけ込んでいけばいろいろな神秘体験を与えられるんです。

 カール・グスタフ・ユングという人は、「神秘体験の存在は神秘現象の存在を意味しない」というふうに言っています。これは僕が以前、最初に上祐史浩さんに会った時に申し上げました。「上祐さん、神秘体験が麻原によって引き起こされた時に、これは誰にでも生じる。言い換えれば誰でも訓練すれば引き起こせるものだということは知らなかったんですか」と。

 「残念ながらその時は知りませんでした。今は知っていますが」というふうにおっしゃったんですね。上祐さんがおっしゃったように、このような事件が二度と起こらないために、例えばひとつ重要な手がかりというのはそこにあったりすると思います。今回の死刑に値する犯罪を犯した教団幹部たちは、実は誰でもこのような存在でありうる。

 オウム真理教の話題になると、ある種被害妄想的になって、またいつこういうカルトが生じるかもしれないっていうふうに思われがちだけれど、きょう僕とラジオご一緒した木村晋介弁護士。坂本弁護士一家の事件が起こる前から坂本弁護士もかかわっていらっしゃった弁護士の方でいらっしゃるけれども、誰でもこの加害者になりうると。

 誰でも麻原のような男の前で、本人が知らないような隠れたボタンを一定の順番で押されれば、神秘体験が生じ、自分が体験したことがない世界を見させてくれたこの麻原という男は神通力が使えるんだというふうに、これは上祐史浩氏の言葉だけどね、思い込んでしまう。

 神通力が使えるような存在はおそらく誰よりも偉いんだろうなということで、彼に帰依するということが起こるんですね。ぐちゃぐちゃコメントを書いているような人だって、実は逆に頭が良ければ、頭が悪ければまた別ですけれど、頭が良ければそういうふうにひっかかりうるんです。

ジョー横溝:
 つまり誰でも我々はこの加害者になった可能性があったと。

宮台:
 誰でも加害者になりえたということが、この事件の最大のポイント。

ジョー横溝:
 そこをきちんと踏まえないとこの事件を見誤ってしまうというのが宮台さんの見立てということだと思います。ですが、だからどうだ? という質問も来ております。誰でも加害者になりうる事件だったら、だから何なんだと。

宮台:
 ここにコメントを書いているようなトンマはならないんだけれどね、オウム真理教の教団幹部ってエリートの卵がすごく多かったよね。化学や物理学や医学やその他を専攻している。ただ上祐史浩も宇宙開発事業団で働いていたわけだよね。なんでこういう人間たちが、そういうフックにひっかかるのかと言えば、むしろ頭が良くて真面目だからだよね。

 自分の中に今まで生じないような体験が起こった。それがある人間によって引き起こされた。仕掛けが分からないので、自分が知らない力がそこにあるんだろうというふうに思うわけだよね。そこから先はいろんな因果論がそこには機能しているんだろうというふうに推測していくわけだね。実際にはいろいろなエスパー実験とかあったりするけれどね。

 実験的には実証されているある種の影響力が、科学的な因果論としてはまだ理論的に説明できていないということがいくつかあったりするんですね。そういうものを彼らは思い出して、おそらく今の水準では説明できないようなコーザリティ【※】がそこにはあるんだろうなと考えたりするわけですよね。

※コーザリティ
因果性。

 そのようにしてその科学的な頭脳を使って自分の体験を正当化しながら、しかし逆にそれで帰依してしまうということが起こるということだよね。 

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