「昔は他の週刊誌だって結構取材してたんだよ」田原総一朗が『週刊文春』一強時代に喝を入れる
2016年世間を大いに騒がせ、流行語にもなった「文春砲」。そんな『週刊文春』の編集部に徹底取材し、数々のスクープの知られざる裏側を明かそうという企画が、ニコニコドキュメンタリー総力特集「文春砲」だ。
特集にあわせ、ジャーナリストの田原総一朗氏に「私は『週刊文春』をこう思う」というテーマで語っていただいた。
自らもスクープを連発した辣腕ジャーナリストである田原氏。『週刊文春』がスクープを生み出せる体制、勢いがなくなった他メディア、そして昨今のジャーナリズムについてどのように見ているのだろうか。
――2016年は『週刊文春』が日本全土で社会現象化しましたが、田原さんは「文春」をここ1年くらいどう見てらっしゃいますか。
田原総一朗氏(以下、田原氏):
よく頑張っていると思う。とても面白い。逆に言うとほかの週刊誌がだらしないね。取材をやめちゃって、病気特集や薬特集とかそういうものにいっちゃってね。『週刊文春』は頑張ってると思う。
――それは相対的に周りが落ちたということでしょうか。
田原氏:
そう。ほかの週刊誌へネタを持っていっても取り上げてくれないから『週刊文春』にネタが集まってくるんだよ。「文春」なら取り上げてくれると。
――ベッキーさんの不倫に始まり、宮崎謙介議員や中村橋之助さんなど、『週刊文春』といえば不倫ネタというようなイメージもあったと思います。
田原氏:
芸能人の不倫にはまったく関心がない。読んでない。興味ないもん。不倫がいいとは言わないけど、芸能人が不倫してどうってことないじゃん。そりゃあ安倍総理が不倫したら面白いね。安倍さんや菅官房長官の不倫なら面白い。
――2016年『週刊文春』が出した中で印象に残ったスクープはありますか。
田原氏:
やっぱり東京都の問題だね。相当まともにやっている。東京都が大変なブラックボックスだった。内田利権の問題とかね。それから五輪組織委員会がもめる問題とか、ずいぶんやってるのはいいと思う。
――そもそもは出発点は舛添さんだったわけですもんね。舛添さんのスクープはどうでしたか。
田原氏:
僕は舛添にはちょっと同情的なんだよ。ワイドショーが舛添問題やると視聴率が上がるんで毎日毎日やったんだよね。で、どんどん報道されていかにも舛添が悪いっていう話になって、ついに辞任になっちゃった。本人もまさかあれで辞任するとは思ってなかったんじゃないかな。
――1つのスクープがどれだけ世の中を変えるかといういい例だったんですね。
田原氏:
甘利さんの問題も検察があまりよく動いてないけど、面白い問題だったと思う。
――半年近く粘って取材を重ねたようです。やはり他の週刊誌と比べて時間とお金の掛け方が違うんですかね。
田原氏:
取材に記者たちが全力投球してるんじゃない。取材をすればそれが記事になるという期待感は強いんじゃないですか。昔は他の週刊誌だって結構取材したんだよ。僕は『週刊ポスト』の取材で海外へずいぶん行ったもん。
――なぜほかの週刊誌のパワーが落ちてきたんですかね。
田原氏:
それはやっぱりクレームが怖いからじゃない? 訴えられたときの損害賠償の金額が高くなってるよね。『週刊文春』もずいぶん訴えられてると思うけど。
テレビの番組も最近つまんなくなったのはコンプライアンスだと思う。昔はクレームは電話で来た。するとプロデューサーなりディレクターが電話に出て、こういうことはもう二度としませんから申し訳ありませんと言えばそれで終わった。今はクレームはネットで来る。管理部門、スポンサー、あっちこっちに広がる、大騒ぎになる。なるべくクレームの来ない番組を作ろうとするからテレビがつまんない。
――そういう意味で、『週刊文春』は怖くないんですかね。
田原氏:
それは自信があるとこまで取材をするからじゃない? 取材って金掛かるんだよね。
――クレームに対して腰が引けてなかったり、お金を使うところには使ったり、それ以外に『週刊文春』がほかの雑誌と違うところって何か思いつきますか?
田原氏:
やっぱり編集長じゃないかな。新谷(学)さんになってから面白くなったんだもん。花田紀凱編集長のころは『週刊現代』も『週刊ポスト』も頑張ってたのよ。
――昔『噂の眞相』なんかがあったときはスキャンダリズムを標榜して、節操なしにいろんな記事を載せてたじゃないですか。スキャンダリズムイコール正義だ、みたいな。
田原氏:
僕は週刊誌というのはスキャンダルジャーナリズムだと思う。スキャンダルをやるのが週刊誌の一番の目標だと思う。正義かどうかは分かんないけど、面白いじゃない。正義って僕はあんまり好きじゃないんだよ。面白いかどうかがいいんですよ。正義って怖いからね。
――正義は怖いと。
田原氏:
僕はロッキード事件、リクルート事件、ホリエモン事件、あるいは鈴木宗男事件、ずっと取材してる。検察は正義で悪を叩くんだと思われてるけど、見当違いだってこともある。正義って怖いと思う。太平洋戦争だって国は正義だと思ってたんですよ。正義の名のもとに間違った戦争をしちゃったんだよね。正義は怖いよ。
――時代と世の中が変われば、何が正義かという物差しも変わりますもんね。
田原氏:
新谷さんも基本は面白いか面白くないかっていうことをよりどころにしていると思う。
――現在の週刊誌というメディア、ジャーナリズムに対して何か望むことはありますか。
田原氏:
どんどん頑張ってほしい。新聞もつまんない、テレビもつまんない、ラジオも面白くない。そういう中で週刊誌が頑張ってほしいと思う。自分と違う意見を尊重するのが民主主義。だから『週刊文春』のやったことは間違ってるというなら、ほかの週刊誌が叩けばいい。そういうものですよ。正しいとか間違ってるなんてことはないのよ。
――ありがとうございました。
『週刊文春』編集部に取材を重ねて制作した、「文春砲」の裏側に迫るニコニコオリジナルドキュメンタリードラマ『直撃せよ!~2016年文春砲の裏側~』。
2月4日(土)20時~の放映に向け、田原氏に続いてデーブ・スペクター氏、水道橋博士氏へのインタビューを連日掲載していきます。