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NVIDIA騒動は何が問題だったのか。 プログラマー小飼弾氏が解説「もうずっと昔から渋チン」

制約はメーカーの権利だから仕方ない?

山路:
 じゃあ、そういうふうにユーザーの使い方を制約するのは、メーカーとしての権利だからしょうがないということになっちゃう?

小飼:
 しょうがないということにはならない。どの国でもなりえないというのは、そこで無茶は言えないからですよね。
 じゃあ無茶とはなにかというと、例えばせっかく買ったGPUをただの熱源として使っちゃうような、要はそのドライバを使えないようにするというやり方で。それは無茶なわけですよね。

小飼:
 だから、その辺の境界がどこにあるのかというのはケースバイケースです。でもNVIDIAの場合、例えばこれを司法当局に訴えたときにわかってもらえますかね? Windowsのときはわかってくれたわけですよ、みんな目に触れていたわけですから。

 確かにNVIDIAをつかまえて、知る人ぞ知る会社なんて紹介した例もありますけれども、今のところは依然GPGPUとして使うユーザーというのは、知る人ぞ知るという程度の範囲なんですよね。

山路:
 しかしまあ単純に考えたら、NVIDIA以外の企業も、GPGPUの用途でいろいろチップを出してきているわけだから、同クラスの性能を持ってライセンスを緩くしたものだったら……。

小飼:
 同クラスの性能を持っているだけではダメというのも、x86の時の教訓だったんですよ。

 それよりも性能がいい石【※】というのは、過去にいくらでもあったわけです。でもなんで、x86が生き残ったかと言ったら、みんなx86を使いたがったからです。なんで使いたがったかと言ったら、過去に書いたソフトウェアがどっさりあったからですよ。

※石
ここではCPUを指す。

山路:
 じゃあ、それを例えばAMDが作ってるGPUなんかに乗り換えようと思っても……。

小飼:
 まだ間に合うかもしれない。x86はこういうのもなんですけども、MacにIntelの石が入るようになるのは、20年近くかかっているわけです。

 まだGPGPUの歴史というのは長くはありませんから、もっといいアプリケーション、例えばOpenCLで動くアプリケーションが出てくれば、ひっくり返される可能性はまだある。
 NVIDIAもかつて苦しんでいた時代というのがあるんですよね。今みたいにどこもかしこもTeslaとなる時代の前に。

山路:
 Voodooを出していたのはNVIDIAでしたっけ? ビデオカードを出していましたよね。

小飼:
 だからモバイルに行こうとしたこともあるわけです。みなさん、Tegraって覚えてらっしゃいます?

山路:
 かすかな記憶があるというぐらいなんですけど、かすかな記憶っていうことは失敗してるということですよね。

小飼:
 鳴かず飛ばずでしたね【※】。だけど、結構いろんなタブレットにも入りましたよ。でも懐かしいといってもたかだか数年前の話ですよ。

※小飼氏による解説
ただしゲーム用としては、Nintendo Switchが当たっていると言える。同社の本年度の決算資料によると、Tegraの売り上げは$419 million(約460億円)とされている。これは全体の売り上げ$2,626 million(約2,900億円)の約16%を占める金額だ。

山路:
 このNVIDIAの規約変更の問題は、良いか悪いかというよりも、それがどういうふうな市場の中で優位性を占めるかどうかと。

小飼:
 僕はまだちょっと早いと思う。まだちょっと早いと思うというのか、AMDとかにしてみれば千載一遇のチャンスではないかと。

Googleが作りつつある「文句を言うことすら許されない世界」

山路:
 そこのところでゲームチェンジが起こるかもしれないということを、ちょっと注目してみたほうがいいかな。

小飼:
 しかも、もう起きかけているんですよね。Googleは自分でTPU【※】作って、クラスタ作ってやっているわけですから。

※TPU
Tensor Processing Unit。AlphaGoなどさまざまなサービスで利用されているプロセッサの名称で、Googleにより開発された。その処理速度は、GPUやCPUの数十倍ともいわれている。

山路:
 機械学習というか、ディープラーニングのための専用チップ・TPUを、自社で開発していると。

小飼:
 ディープラーニングがほとんどクラウド化されたあかつきというのは、EULAに文句を言うことすら許されない世界ですよ。

山路:
 完全にサービス規約になっちゃう。これ使っていいですか、はい、いいえみたいな。

小飼:
 サービス規約というよりは、もう言い値で買わざるを得ないわけですよ。例えば、われわれは普通にGoogleを使えていますけれども、使えるようにするためにわざわざEULAなんかにサインしないでしょ、ググるときに。だから雲の向こうに行っちゃったらもう文句もつけられないわけです。

小飼:
 今のところはまだ、いろんな制約があって、全部クラウド化するわけにはいきません。特に研究者のみなさんは、膨大なデータが手元にあるわけですから、これをクラウドにアップロードしたらアップロード代と時間だけで、えらいことになっちゃうわけですよ。

 でも、そこまで握られちゃう時代というのは、そんなに遠くないわけですよ。GoogleはTPUとかやっているわけですし。

山路:
 分野によっては、もう完全に握られている分野もあるわけで。もしかしたらGPUとかもその流れにあるかもしれないし、あるいはゲームチェンジが起こるかもしれない過渡期というか、戦国時代的なところなのかもしれないわけですよね。

NVIDIAの勝負はまだ終わったわけではない

小飼:
 今の段階でユーザーに対して高飛車な態度だと見られるのは、企業戦略としてはどうなのかなとは思います。

 TegraのころのNVIDIAというのは、今でもそうなんですけど、無料のカンファレンスをバンバンやって、パーティーというパーティーに食べ物を提供してというやり方。だからハイテク中のハイテク会社でもあるんですけれども、わりと営業もしっかりやっているなというのが印象でしたね。

山路:
 とにかくNVIDIAは、良いか悪いかの問題でジャッジできるわけではなくて、本当にそれがプラスになる手を打ったのかどうなのか、というところがまだわからんということなわけですね。

小飼:
 ちょっと早まった感がある。まだ勝負がつききったわけではないので。

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