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『聲の形』は加害者の再生を描いた物語だ――『ゼブラーマン』漫画家・山田玲司が絶賛したストーリーの核心

 今、世間で話題のニュース、エンタメ、サブカル情報を斬っていくワイドショー番組『ニコ論壇時評』。11月9日放送分では公開直後から各方面に大きな反響を呼んだ映画『聲の形』について取り上げました。

 障害者を扱ったその内容から、これはいわゆる「感動ポルノ」ではないのかという議論も一部で巻き起こった本作について、山田玲司が熱く語ります。


加害者と被害者が抱える、異なる地獄

山田:
 先月「『聲の形』は感動ポルノなのか?」と聞かれたものの、「『聲の形』って何ですか?」と言ってしまった山田玲司です、こんにちは(笑)。でも乙君もご存じないでしょ?

乙君:
 まぁ作品名は知ってますけど、そんなに興味はないですね。

山田:
 あのね、マクガイヤーさんって方がね、原作のマンガをお読みになって「これは天才の所業だ」と言うんですよ。この漫画家は、マクガイヤーさんに言わせると天才だと。

 それを聞くと、読まない訳にはいかないでしょ? で、映画はいいから、とりあえずそのマンガを読んでみようと思ったわけですよ。で、これがどういうマンガかというと、非常につらい内容なんですね。

 耳の聞こえない転校生の女の子を小学生のときにいじめてしまった男が主人公なんですけど、いじめぬいてしまった結果、女の子が学校にいられなくなってしまって、そのせいで今度は「あいついじめっ子だ」ってことで、自分がいじめられっ子になってしまうんです。

 友達もひとりもいなくなった地獄の日々が1巻にわたってずっと描かれていて、しかも最初の地獄から、さらに次の地獄へのリレーが延々続くんですよ。まぁつらい。まぁつらいんだけど、それが実に上手く描かれている。「マジか、天才だ!」って読みながら思ってしまったくらい。

一同:
 え〜!

山田:
 すごかった。すごいポイントはいっぱいあるんだけど、一部では「この作品は感動ポルノなんじゃないか?」という議論も巻き起こっていまして。要するに「耳が聞こえない」ということをエサに、それを面白がって楽しんでいるんじゃないかという見方もあるんですね。

 ただ、俺はこれ、実はいじめた側の回復の物語なんじゃないかと思うんですよ。一方でね。だからこそ、「ふざけるな、いじめられた側の気持ちを考えてみろ、いじめた側は死ねばいいんだよ」って思っている人間にとっては、いじめた奴がちょっとでも幸せになったら「ふざけんなよ」って感じるでしょうから、その見方・批判は当然あるよなとも思うんだけど。

 でも、俺の知り合いにもいるんだよね。かつてイジメをしてしまったせいで、ずーっと苦しんでいる奴。いじめられた側も相当つらいけど「あいつが許せない」って気持ちは外に向けられる。でも「自分が許せない」っていう、内にしか向けられない地獄ってものもあるんだよね。

 これはどっちが辛いってことじゃなく、地獄には2種類あるってこと。で、そのうち片方の地獄を描くことによって、実は周囲の人間や傍観者も傷ついたしひどかったってことや、当事者にもいろいろな気持ちがあったということが徐々に浮かび出てくるんです。

 あと、「言葉が上手く言えない女の子」というところから物語が始まっているから、言葉を手話にすることによって気持ちを形にする、つまり可視化するってこともテーマになっているんだよね。

乙君:
 なるほど、それで『聲の形』ね。

マンガの強みを最大限活かした「感情を可視化する」という手法

山田:
 『聲の形』の作者は大今良時さん。実は27歳の女性です。

乙君:
 え!? 荒川弘的な感じですか。

山田:
 そう。『聲の形』の、もうひとりの主人公である転校生の女の子には妹がいて、この妹は耳が聞こえない主人公をずっと支えるんだけど、その視点がなかなか生々しいんだよ。

 作者である大今さんのお姉さんとお母さんは、手話の指導者をやっている方らしいんだよね。だからなのか、作品にも自分自身の体験が入っていて、嘘になっていない。「この人はこういう現場のすごく近くに居たんだな」と強く感じさせられる。

 大今さんは、元々デビュー作として『聲の形』で勝負しようとしていたんだよね。2008年には読み切りが載って、これも大好評だったんだけど、そのまま連載にいくかと思ったら「障がい者をいじめるような描写がくるのはよくないんじゃないか」って話になってしまって、1回流されて。

 でも、彼女はその後付けられた原作モノをちゃんとヒット作にして、満を持して2013年から『聲の形』をスタートさせたって経緯があるんだよ。

 だから、魂込められて当然なんだよね。「私はこれを伝えたいんだ」ってものがキチンとあって、でもそれを「待てよ」って言われて。その後、「まさにこのタイミングじゃないといけないんだ」ってタイミングでバンと出してきてるわけだから、これはちょっとヤバいよね。

 あと、いちばん上手いなって思ったのが、主人公の置き方。いじめる側の少年がいかにその娘を迫害したかという流れが、まぁとにかくすごくリアルに描かれているんだけど、彼は「この世は退屈だ」ってずっと言っているんですよね。だから友達に「一緒に川に飛び込もうぜ」って言ってみたりとか、いろいろな無茶のギリギリをチョイスして、自分自身をつまらなくするさまざまな勢力、つまり退屈と戦っていたわけ。

乙君:
 なるほどね。

山田:
 そこに転校生として彼女がやってきたから、「今度はこいつが面白くしてくれんじゃねえか」っていじり方をするんだけど、面白くならなかったんだよ。傷つけてしまうだけだった。だからそこで、世の中との戦いに彼は敗北するわけです。

 そこから先は、敗北して世の中から排除されてしまった彼が回復していく過程が描かれていくんだけど、これは実にうまい視点だなと。罪人が主人公の作品というのは、なかなか新鮮だなって思うんです。俺の時代にもいじめとかリンチとかあったけど、ここまでのディスコミュニケーションはない。

 いじめられた主人公は新しい学校に行くんだけど、友達がひとりもいないんだよ。それは彼自身が、「こいつ駄目だな」「こいつもねぇな」って、ひとりずつにバッテンをつけていくから。で、「こいつは友達じゃねえな」「こいつも違うな」ってやっていくうち、クラスの全員がバッテンになって。

乙君:
 寂しいな(笑)。

山田:
 全員バッテンになって、で、「そんな自分もバッテンだ」って自分にもバツをつけて。

一同:
 えー! なるほど。

山田:
 名作だよ、やっぱり。でも、「しょうもねえなこいつ」ってバッテン付けてたやつが友達になってくれたりした瞬間に、そのバツがとれて……。ちなみにそのバツは全編通してずっと出てくるんだよ。主人公の彼がバツだと思ったやつには、画面の中にバツで出てくるわけ。これこそが、漫画の強さだよね。

乙君:
 そうですね、凄く特殊な、ユニークな手法ですね。

山田:
 これこそ、「可視化させられている」というか。

乙君:
 それ、映画だと普通に人物の上にバッテン付けるんですかね。

山田:
 映画見てないんでわかんないですけどね。……でもここまでの話だけだとね、ただ「面白い漫画でした」っていう話になっちゃうよね(笑)。

乙君:
 いや、でも別にそれでもいいんですけどね。玲司さんが「面白かった!」って人の漫画を褒めるなんて、なかなか無いことなんで。

「夢を見たい」がみんなの答えだった

山田:
 本質的な話をすると、これって異質なものが世界に入ってきて、世界をぶっ壊すっていう話じゃない?

 要するに、なんでも「やばくなーい?」って言ってるような女子の世界や、「やべーっしょ」「マジで!? 」みたいなノリだけで繋がっている虚構の友達関係みたいなものを、耳が聞こえない子が入ってきたことによって完全にぶっ壊される。みんな「なんで壊したの!? 」って狼狽するけど、でも「それって虚構じゃねえか」って話でさ。

 そして、そこからスタートした主人公が手話を覚えて、徐々に回復していく過程が描かれるという……。まさにスクラップアンドビルドな話なんだよね。

 で、2016年、これがどういうことかわかりますか、乙君?

乙君:
 …え、どういうこと?

山田:
 主人公の耳の聞こえないかわいいヒロインの西宮さん。……なぜか西宮って名前なんですけど。

乙君:
 ほんまや!

山田:
 因果だね〜。つまりこれ、『シン・ゴジラ』にも通じるわけですよ。虚構の幸せ・平和でごまかされていた東京を粉砕するゴジラは、イコール彼女にもあてはまる。

 スクラップアンドビルドのゴジラから始まって、ファンタジーの「君の名は。」を挟んで、最終的にリアリズムの『聲の形』にいったっていうのがこの夏から秋の流れだったんだ!っていう。

 で、その中でも数字として大きな結果を出したのは、やっぱりファンタジーだった。「夢を見させてよ」っていうのがゴール、つまりみんなの想いだったわけですね。

 だけど、気持ちのうえではスクラップアンドビルドに向かっているんだよってことを如実に示したのが『シン・ゴジラ』『聲の形』の2作品だったっていうところでいうと……!

 イエーイ!『聲の形』イエーイ!!!
 …って気持ちですよ(笑)。

一同:
 (笑)

山田:
 大今さん、最近新連載が始まったそうで、こちらもなかなか評判が良さそうですね。なんだか火の鳥と戦うなんていう噂も聞いていますけども。

乙君:
 いやいや、この夏から秋がファンタジーで終わったかどうか、答えをだすのはまだ早いですよ。だってまだ『この世界の片隅に』が待っていますから。アニメとか漫画とかのコンテンツって流れでいくと、こうの史代さんの『この世界の片隅に』、これはちょっと玲司さんに見てもらいたいですね。

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