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対局は意外な結末 久保九段―豊島七段:第2期 叡王戦本戦観戦記

プロ棋士とコンピュータ将棋の頂上決戦「電王戦」への出場権を賭けた棋戦「叡王(えいおう)戦」。2期目となる今回は、羽生善治九段も参戦し、ますます注目が集まっています。

ニコニコでは、初代叡王・山崎隆之八段と段位別予選を勝ち抜いた精鋭たち16名による本戦トーナメントの様子を、生放送および観戦記を通じてお届けします。

叡王戦公式サイト

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久保九段を待つ豊島七段(左)

思わぬ出来事

 日曜日の対局。14時からの対局は本局しかない。にもかかわらず、将棋会館5階の空気がざわついている。不思議に思いながら対局室へ向かうと、ちょうど豊島将之七段の姿が見えた。「今日はよろしくお願いします」と声をかけると、硬い表情で「久保先生が……」。様子がおかしい。

 事情を日本将棋連盟の職員に聞くと、久保利明九段が14時開始なのを19時開始と勘違いしたため、到着がかなり遅れるという。思わぬ出来事があったものだ。スタッフが方々に連絡を取っていてあわただしい。対局室に入ると、記録係がとまどいながら「こんなことは初めてです」といった。

 しばらくして職員が「振り駒して、駒を並べてください」と告げた。普段の対局では、駒を出さず対局相手を待つ。だが、叡王戦は生放送だ。久保が到着次第すぐ対局できるよう、形を整えたほうがよいだろう。

 振り駒はと金が4枚で豊島の先手に。豊島は駒を盤上に散らし、自分の分を並べる。そして、久保の駒も並べていく。駒を反対側に向けていても、きちんとマス目の中央に置かれていく。40枚の駒を並べると(図)、背筋を伸ばし、あごを引いて久保を待った。

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豊島の集中力

 その間、ニコニコ生放送では中村太地六段と竹部さゆり女流三段が場をつなぐ。特に中村六段はNHKのニュース番組に出演していた経験も大きいのだろう、的確に対応していく。生放送とは思えない見事さだ。

 竹部女流三段「先生、本当にソツがないですよね」

 中村六段「ここはソツがあってはいけないんですよ」

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 佐藤紳哉七段がテレビ対局のインタビューで、豊島のことを「序盤、中盤、終盤、隙がない」と述べたのが知られているが、中村六段もまた隙がない。さすがだ。

 対局者を待つにあたって、途中で席を外したりあぐらになったりしても問題はないが、豊島はほとんど身動きせずに正座のままでいた。「きちんとしておきたいと思っていた」という。叡王戦は早指し戦なので、前もってギアを上げておく必要がある。そこで豊島は集中力を切らさぬように努めていたのだ。盤面は初形のままでも、対局中のように感じられる。

 本局の1週間前に、豊島は将棋日本シリーズ JTプロ公式戦で優勝した。この棋戦は公開対局で筆者も観戦したが、盤面に没頭する豊島の姿が印象的だった。その姿と、いまこうして久保を待ち続ける姿が重なって見えた。

不戦敗が決まる

 放送に穴が開くことになるので、不戦敗にするのでなく久保が到着次第対局する案もあったが、協議の末に(将棋連盟の)規程通りの対局とすることが決まり、15時にこられなかった場合は不戦敗になると決まった。そして、久保が乗れた飛行機は14時30分。もう、どうやっても間に合わない。

 15時に職員が「時間になりましたので、豊島先生の不戦勝となります」と告げ、久保は空の上で不戦敗が決まった。生放送での不戦敗はインパクトが強く、あとでテレビなどでも報じられた。

 豊島はペコリと一礼して、駒を玉飛角金銀桂香歩の順番でしまってから足を崩す。ただ、それも数秒ふくらはぎをもんだだけで、すっと立ち上がる。「何かできることがあればしたい」といい、ニコニコ生放送に出演して、深浦康市九段との対局を自戦解説した。

友人の嘆き

 この日、将棋会館ではアマチュアの大会が開かれ、中村修九段や北浜健介八段らが審判を務めていた。北浜八段は久保と同じ1975年生まれで、20年前に久保が関東に在籍していたころから親交がある。大会後に話を聞くと、本局の前日に久保から映画『聖の青春』の試写会にいく誘いを受け、そのときに「明日(対局日)の夜に対局がある」といわれたそうだ。

 北浜八段は久保の対局は知っていたが、開始時刻までは把握していなかった。我がことのように顔をしかめて「あのときに対局時間に気づいてあげられたらなぁ」としきりに嘆いた。

久保の謝罪

 久保はトップ棋士であるだけでなく、棋士会の副会長という要職にもある。将棋会館で会った久保は落胆し、土気色の顔をしていた。対局は棋士にとって命のようなもの。それを不戦敗でふいにしてしまって平静でいられる棋士はいない。

 18時30分から行われた佐々木勇気五段-千田翔太五段戦の生放送の冒頭に出席。「14時からの対局を不戦敗にしてしまいすみませんでした。主催のドワンゴさまには本当に申し訳なく思います。並びに対局を楽しみにしてくださっていました、将棋ファンの皆さまにもお詫び申し上げます。対戦相手の豊島七段にも申し訳ないことをしたと思います」と謝罪した。

 後日、久保から「自分に何ができるのかはわかりませんが、何か少しでもお返しができればと考えています」とメールが寄せられた。

 対局者のふたりはともに関西所属。豊島は前日に東京入りしていた。だが、久保は当日に移動したうえで、開始時刻を19時と思い込んでいたため今回のアクシデントが起きた。その昔、関西将棋会館での対局を東京で指すものと勘違いして不戦敗になった例もある。

 人間は往々にして間違えてしまう。豊島は「勘違いは自分もありえることなので、気をつけないといけません」と気を引き締めるようにして話した。

(観戦記者:君島俊介)

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