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「人類の歴史はうまくいかないことの連続。だから悲観することはない」——世界的な知の巨人エマニュエル・トッド氏にひろゆきがインタビューしてみた

移民問題への向き合い方が不真面目なフランス

ひろゆき:
 トッドさんが指摘しているように、ドイツのシリア移民などは極めて高い内部婚率を持っています。このままではドイツも早晩、フランスのように内部分裂を起こすように思います。ヨーロッパでの移民の同化はどのように進められるべきだと思いますか?

トッド:
 いろんな国によってそれぞれ違います。ドイツはヨーロッパ出身の移民はうまく同化をしましたが、トルコからの移民たちとはうまくいきません。また、シリアからの人々について何か言うにはまだ早すぎるでしょう。一方でフランスはまったく別のモデルです。アラブ系移民たちの高かった外婚率が、今日低くなっている理由は、フランス社会全体の流動性が停滞していることにあります。

 ユーロという通貨統合はうまくいかないだろうと思ったのはこのような移民問題を研究していく中ででした。特に90年代初頭、イギリス、ドイツ、フランスでは移民統合モデルがそれぞれ異なっていたからです。それぞれの国の在り方というのはそこにいる移民たちがたどる運命の違いを通してみても分かるように、まったく違うわけです。

 この大統領選を理解するために大切でもあるフランス人の姿勢についてですが、それはフランス人には真面目さが欠けているという点でしょう。オランド政権下でエリートたちはみなイスラムを問題視してきましたし、イスラム原理主義者たちによるテロも実際に起きました。そしてみなその話題にとりつかれたようになっていたのにも関わらず、大統領選になったとたんにそのことを忘れたかのようになっていました。こういう人々の問題に対する一種の不真面目さがフランスをレイシズムや差別主義から救っている側面もあるのですが。

社会を停滞させる上層部にいるのは誰か

ひろゆき:
 BREXIT(英国のEU離脱)や米大統領選に続き、オランダやフランスも反グローバル化の道を進むかと思われました。ところがオランダの総選挙でも自由党(PVV)は議席が伸び悩み、フランスもルペンは敗北しました。このまま反グローバル化、反EUの流れは落ち着いていくのでしょうか?

トッド:
 このような流れを考える際に大切なのは民主主義の問題でしょう。イギリス、アメリカ、フランスというのはそれぞれの形で民主主義を生み出した国です。だからフランスという国が実はアングロサクソンの国々に比べたら民主主義の度合いが低かったということに人々は驚きました。しかしそれは私にとってそれは当たり前の話です。なぜならばフランスと言うのは歴史的に見てみると、専制的なレジームと民主主義的なそれを交互に行ってきた国だからです。逆にそんな私が驚いたのはイギリスという国が社会で起きる反乱にアメリカよりも柔軟に対処できているという事実です。

 アメリカでは大統領選後、いまだにいわゆる「市民冷戦」があります。大学、民主党、シリコンバレー、カリフォルニアなどではトランプ氏を大統領として認めたがりません。ところがイギリスでは大衆が突きつけたBREXITという決定に対して保守政党が誠実に向き合っています。本当の驚きというのはイギリスの行動というのが本当の意味でアメリカよりも民主的だったことです。

ひろゆき:
 インターネットは、”グローバル化”を推し進めてきた一方で、ネット上には外国人や社会的弱者への憎悪が書き連ねられ過激な思想を強化させているように思います。
インターネットと反グローバルリズムの関係についてはどう考えますか?

トッド:
 まず私は技術というのは中性的なものだと思っています。技術革命が起こるたびに、それが全体主義を推し進めるだとか、民主主義を強化するだとか、いろいろと言われますが、技術は物事のスピードを速めるだけなのです。

 たとえ話で思いつくのは、ガレー船です。ヨーロッパの人々、そして17世紀のフランス人にとってガレー船は奴隷が漕ぐものとされ、そこは牢獄と同じでした。ところが5世紀のアテネでは、ガレー船の漕ぎ手たちは自分から何かに向かって必死に漕いでいました。その姿から彼らは自由市民とみなされていたのです。つまり、技術というのはこのガレー船のようなもので、民主主義だとか全体主義だとかいうことに対して中性なのです。

ひろゆき:
 現在、反知性主義的なエリートに対する反感が先進国で高まっているように感じますが、これらの根底にあるものは何でしょうか?大規模な権威の破壊につながる事はあるでしょうか?

トッド:
 今の世界で起きているのは、識字率の向上のあとにくるもので、それは中等、高等教育を受ける人の割合が増加しているということです。先進諸国で高等教育を受けた人々の割合が20パーセントから40パーセントと増えていったことにより、識字率の向上が一度生み出した社会の平等性を破壊してしまったのです。

 とても不思議なことは、現在このような社会の上層部がその社会全体を停滞させているという事実です。そしてこの上層部が保守化した集団を形成しています。

 例えば、大学というのは知識を広める場ですが、それは優秀な人々を選抜することで成り立ちます。そしてこの選抜が人を分類することに繋がってしまっているのです。さらにそれがコンフォルミズム、つまり体制順応主義を押し進めます。これはフランス社会に言えることですが、社会の上層部分に、各個人としてはわりと頭が良い人物が揃っているにも関わらず全体としては愚劣な集団を形成してしまっているのです。これは一見矛盾しているようですが、この矛盾こそがフランスの民主主義を脅かしています。

人口が増加する社会にこそある希望

ひろゆき:
 日本のみならず、世界各国で少子高齢化が更に進むことが予想されます。長期的に見て、食糧やエネルギーなどの資源が枯渇していく中、必ずしも少子化は悪いとはいえないのではないでしょうか。人口減少のスピードに合わせた、縮小というかたちの国のあり方というのは考えられますか?

トッド:
 考えられません。アフリカのようなところでは、少子化が多少は効果的なのかもしれませんが、ドイツや日本のように少子化が進むところでは、高い出生率を問題として捉えてしまうのは大きな間違いです。

 残念ながら人口が増えるイコール食糧難という見方がなされるばかりで、これらの生まれてくる人々が読み書きをおぼえ、やがて自ら考えるようになるのだ、とは捉えられません。しかし実際は人口が増えるということは発明する力や創造力が高まり続けるということなのです。そして先進諸国のこれまでの発展の加速要因の多くは人口の増加だったのです。

 もうお分かりかと思いますが、私は出産奨励派です。単純に、人口が減って衰退に向かうことが、社会にとっていいこととは思えません。

人類の歴史とはうまくいかないことの連続

ひろゆき:
 お金もなければ、恋人もいない、仕事も不安定で未来に希望が持てない30代の方から質問です。

 トッドさんもフランスについての嘆きが多く、あまり希望が持てないのかなと思いました。世界の状況も日本の状況も、ましてや自分の生活状況も今後良くなる気がしません。僕はどんな希望を描いて生きればいいのでしょうか?この先の世界に希望を持っていますか?

トッド:
 この方が誤解している点があるとしたら、それは私が実は楽観主義者だということです。世界を見てみれば楽観させてくれる要素がたくさんあります。

 これから数年、あるいはもうすでに世界中の若者は読み書きができるようになるでしょう。人口動態を見ても少子化という傾向は深刻なレベルではありません。また実は世界の暴力は減ってきています。中東などを見るとそうは思えないかもしれませんが、実は違うのです。長い歴史からみると戦争での死亡率がこんなに低かったことは今までないのです。このように前向きな要素を見つけることは実はとっても簡単なことなんです。

 もちろん問題は山積しています。中東の問題もありますし、先進諸国では経済への対処がうまくいっていません。若者の問題もあります。もし人類の歴史の中ですべてがうまくいっていた時代が一度でもあったとしたら今の世界は悲惨でしかありません。しかしそんな時代は一度もなかったのです。

 人類の歴史というのはうまくいかないことの連続でしかないのです。だからいつだって解決しなければいけない問題はたくさんあったのです。悲観する必要はありません。

ひろゆき:
 モテないというのは、けっこう大変だと思うのですが…トッドさんはモテつづけた人生だったのではないですか?

トッド:
 とんでもない。そういう意味では若かった頃の私は本当に悲惨だったんですよ。本当に全く、うまくいかなかったのです。私の言葉を信じるべきです。そんな私がそこから抜け出せたのだから、絶対に誰でも抜け出すことはできます(笑)

 私は家族のプライバシーもあるしそこまでナルシストではないので実際にはありえませんが…もし自分史を書くとしたら、ウッディー・アレン調で恋愛について壊滅的だった時代を、同じことで悩んでいる人たちを元気づけるために書くでしょう。

(訳・文:大野舞)

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