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「人類の歴史はうまくいかないことの連続。だから悲観することはない」——世界的な知の巨人エマニュエル・トッド氏にひろゆきがインタビューしてみた

 マクロン氏が勝利したフランス大統領選の決選投票から一夜明けた5月8日、パリ市内にあるエマニュエル・トッド氏の自宅で、西村ひろゆき氏によるインタビューが実現した。

 トッド氏はこれまでにソビエトの崩壊や、アラブの春、イギリスのEU離脱などを次々と予言。“2050年までにアメリカの覇権が崩壊する”と予測した書籍『帝国以後』は、約30ヶ国で翻訳され、国際的なベストセラーとなっている。

 そんな、世界中から発言が注目されるトッド氏は我々に何を語ったのか。フランス大統領選やヨーロッパの動向、今後の世界情勢について“知の巨人”から見解を聞いた。


大統領選?何も起こらなかったと同じ

ひろゆき:
 決選投票の結果マクロン氏が勝利しました。今回のフランス大統領選を振り返って、どのような感想をお持ちになりましたか?

トッド:
 何も起こらなかったと言えますね。この大統領選自体が茶番でしかなかった。オランド前政権下で経済大臣をやった人物がマクロン氏です。今までの政権と同様、欧州統合そして自由貿易推進派です。

 何かを変えるとしたら、労働市場の規制を厳しくするかもしれないという点くらい。ご存じのようにフランスはユーロ圏に属している国です。それはつまりドイツに従属しているということです。だからフランスの大統領は実質的に意味がないのです。

 皮肉を言うと今回の大統領選ではドイツのアンゲラ・メルケル首相がフランスの大統領に再当選したというわけです(笑)。

ひろゆき:
 今はメルケル首相主導の欧州ということですが、マクロン新大統領が主導権を握って変えることは可能でしょうか。

トッド:
 不可能でしょう。というのもそれには客観的な事実があります。ドイツは8000万の人口を抱える大国です。世界でトップを争う輸出国です。輸出超過が国内総生産の8パーセントもある。つまりドイツは経済をコントロールする手段を持っている国なのです。オランド大統領が弱かったのでもメルケル首相が強いわけでもないんです。

 フランスにできることがあるとしたら、自分たちの自由を取り戻すために欧州連合(EU)から出る、と決めることです。そして他国と個別にパートナーシップを築けばよいのです。そうでなければ、いつまでたってもドイツの従属国にしかなれないのですから。

ひろゆき:
 そして今回の棄権率は、1969年以来、最も高くなりました。ご自身も予め決選投票は棄権すると表明していました。そのような状況で誕生したマクロン新大統領は果たしてフランスをうまくまとめることはできるのでしょうか?

トッド:
 フランスをまとめることはできないでしょうが、国を治めることは問題ないでしょう。オランド前大統領は非常に不人気の大統領でしたが、それでも社会に大きな反乱などは起きなかったのですから。

 ただマクロン大統領について新しい点もあります。

 もちろんマクロン大統領のやろうとしている政治はオランド前大統領やサルコジ前大統領のそれと何も変わりません。しかし、オランド前大統領やサルコジ前大統領はそれぞれこのような政治を押し通すために、いろいろな手を使ってごまかしてきたのです。例えばサルコジ前大統領はイスラム教徒やアラブ人というスケープゴートを使い彼らを非難することで推し進めました。オランド前大統領は金融や金が私の敵だ、私は左派だ、と嘘をつくことで進めました。

 一方でマクロン大統領は、私はEU推進派でこれから自由主義を推し進めます、嘘はつきませんと堂々と言っているのです。これは一種の新しいジャンルの粗暴さで、これに対してフランス社会がどのように反応するのかはまだ不透明です。

 あえてマクロンを擁護するとしたら、英語が分かるということです。グローバリゼーションの時代に英語が分からないというのはもはや耳が聞こえないというのと同義です。マクロンは新しいことはなにひとつ提示できていないですが、英語のメディアに直接アクセスできちゃうんですよ(笑)。

 まあフランスもようやく英語が分からない世代から英語が分かる世代へ移行しているのかもしれません。これはフランスにとって非常にいいことです。

ひろゆき:
 この5年間でマクロン大統領の支持率は下がると考えますか?

トッド:
 それは大した問題ではありません。オランド前大統領は本当に嫌われましたが、5年間、安定した権力を維持できたわけです。フランスの大統領は自由な経済政策を進めることはできませんが、そこに特に抵抗勢力があるわけでもないのです。フランスの政治システムがあまりにも安定しているということが問題のひとつだというわけです。

 また、マクロン政権になって懸念している点があるとしたら、アイデンティティと絡む若者たちの暴力性がさらに高まってしまうのではないかという点です。

ひろゆき:
 大統領選に引き続き、今年の6月には国民議会選挙がありますが予測をしてみてください。

トッド:
 何もわかりませんし、全く重要ではありません。ドイツが主導権を握っているので、フランスの大統領が誰になるかなんてこともすでに大した問題ではなくなっているのですから。大統領の方が議会よりも権限を持っている中で、議会選挙は本当に意味がないわけです。ただの茶番です。

 フランスで何が大切かというと、その景色、ワイン、チーズ、エアバス、核兵器の所有国であることなど他にいろいろありますが、EUに所属している限り議会選挙は全く重要ではないわけです。

フランスに生まれつつある、新しい抵抗勢力とは

ひろゆき:
 ルペン氏が約34%の得票率を獲得したと報じられています。これは多いと見ますか、少ないと見ますか?

トッド: 
 多いとも少ないとも言えます。ルペン氏が今後フランスの大統領選で当選することはほぼなくなっただろうという意味では少ないです。特にテレビ討論ではルペン氏はマクロン氏と比べて散々な体たらくでした。しかし一方で、彼女の得票率はフランスの下層に属する人々、労働者や一部の若者たちがどれだけ不幸なのかということを明らかにしたわけで、そういう意味では多いとみることができます。

 もちろん、政治的な観点から私はレイシストのルペン氏には個人的に嫌悪感を抱いています。しかし、今回の65%対35%という数字はつまり3分の2のフランスが残りの3分の1を押しつぶしたということでもあります。そしてこれはこの大統領選の反道徳性を露わにしたと言えます。

 私は、【※】FN(国民戦線)をレイシストだと思っています。しかし大切なのは、私たちはどうして彼らを狂わせてしまったのかということです。平均的な労働者を考えてみて下さい。彼らから仕事を奪ったり、収入を下げ続けたりしたあげくにフランスというアイデンティティすらも奪うのです。こういう状況の中で、彼らがルペン氏に投票したことに驚く人がいるというほうがとても滑稽です。

※FN
フランスの政党。 党首は、マリーヌ・ル・ペン。 反EU、移民排斥を掲げている。 反EUというよりも、EU離脱を問う国民投票を実施すべきだと主張している。

 私は世界のあちこちに友人がいますし、外国籍を有している子供もいるくらいグローバル化された人間です。だから私のような人間にとってはフランス人であることを奪われるのは大した問題ではない。しかし、ごく平均的な労働者にとってみればその点こそが重要なよりどころのひとつなのです。むごい話ではないですか。

ひろゆき:
 日本も同じような社会的な状況があります。

トッド:
 しかしこんな状況の中でも、今回の大統領選で新しい現象もありました。それは第1回の投票でメランション氏が非常に良い結果を出したことです。前回の選挙から8ポイントも伸ばしました。一方でFN(国民戦線)は3ポイントだけでした。もしかしたらフランスに新しい抵抗の形が出てきていると言えるかもしれません。メランション氏には若者から高級官僚まで様々な人々が票を投じました。これこそが新しい独立した勢力としてフランスを再びまとめる力となりうるかもしれないのです。

 フランスのメディアは、マクロン氏は中道で、ルペン氏は極右、メランション氏は極左だと言います。しかし、社会的な力に注目すると、ルペン氏とマクロン氏こそが急進的な勢力であると言えます。マクロン氏が上層、ルペン氏が下層のフランスを表しているとすると、メランション氏は急進的などではなく、社会的に中道派であると言えます。なぜならば彼は社会の様々な立ち位置の人間を惹きつけることができたからです。


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