初音ミクが「萌え」とトランスミュージックの融合を引き起こした!? 鼻そうめんPこと『エロマンガ先生』『俺妹』原作イラストレーター・かんざきひろさんに聞く初音ミク・ボカロ文化
TVアニメが放映中の『エロマンガ先生』や大ヒットアニメ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』の原作イラストを手がけるプロイラストレーターのかんざきひろさんだが、実は、世界的に有名なトランスミュージックのアーティストでもある(Hiroyuki ODA名義で活動)。加えて、アニメーターとしてもアニメスタジオ ボンズに所属。こちらは本名の「織田広之」名義で原画や作画監督を務めるなど、多忙を極めるマルチクリエイターとして知られている。
そんなかんざきひろさんが、ニコニコ動画で名高い伝説のクソゲー「チーターマン」のBGMをトランス風にアレンジした動画を投稿したのは2007年の10月。さらに、続いて投稿したボカロ動画「インカーネイション」がランキング入りし、その時に「思わず鼻からそうめん出ました」とコメントしたことから、以後「鼻そうめんP」と呼ばれることに。一躍、ニコニコ動画のスターダムに上り詰めたのは、ファンならご存じの通りだろう。
初音ミク誕生から10年を迎えて、ボカロ曲の歴史を彩ってきた絵師の方々へのインタビュー第3弾は、自身の楽曲のほか、八王子Pが制作した楽曲のリミックス曲「Little Scarlet Bad Girl (HSP Remix)」などのボカロ動画を今でも投稿し続けている 「鼻そうめんP=Hiroyuki_ODA=かんざきひろ」さんが登場。イラスト制作の裏側、初音ミク、同人カルチャーなどについて語ってもらった。
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ニコ動への投稿が引き起こした相乗効果
——最初の作品「チーターマンをTranceにしてみた」を投稿する以前からニコニコ動画は見ていらっしゃいましたか?
ニコニコ動画は出来た頃から気になっていて、レッツゴー陰陽師とかきしめんとかを見ていましたが、初音ミクなどが出てくる以前はあまり深くハマっていた訳ではありませんでした。
——「チーターマン」に続いて、最初の初音ミクをfeatureした曲「インカーネイション」などをニコニコ動画に投稿して注目を集めることになりますが、そのことで変化はありましたか?
それまで音楽に関しては海外に向けて作っていたのがメインでしたので、ニコニコではあくまでそういうものが好きな人向けに細々とやっていこうと考えて投稿していました。ここまで注目されるとは思っていなかったので嬉しかったですね。曲を聴いてくれた人が絵に興味を持ってくれたり、逆もあったりと相乗効果がありました。
新鮮な体験だった共同制作、イラスト制作秘話
——ボカロ曲のイラストの制作秘話、裏話などあれば教えてください。
作詞を除いて殆ど1人で作業しているので、あまり面白い話は無いんですよね。イラストは毎回頭を悩ませています。曲のストックはあるけど絵が思い浮かばずにずっと寝かせてしまう事もあります。
——その唯一手がけていない部分である歌詞を、初期の作品ではピアプロ【※】で募集されていましたが、そうしたCGM的な共同制作の形は以前から経験はありましたか?
【※】ピアプロ
クリプトン・フューチャー・メディアが運営するコンテンツ投稿サイト。インカーネイションは「タイトル未定(歌詞募集中)」という形でまず楽曲が投稿され、複数のユーザーから歌詞を募る形をとった。
それまで共同制作の経験はありませんでしたし、不安もありましたが結果的に新鮮な体験でした。当時は動画投稿の敷居も低かったですし、みんなで気軽に作れる雰囲気がありました。
——「初音ミク」のイラストを描くときにはどんなことを意識していますか?
ミクに関しては今ではセンスも良くかわいい絵が描ける方が沢山居るので、いかに差別化をするか……でしょうか(笑)
——イラストレーターとして影響を受けた方や作品(マンガ、アニメ)を教えてください。
挙げるとかなりの数になってしまうのですが、中でも結城信輝さんや鈴木典孝さん、ことぶきつかささん、貞本義行さん、ファルコム時代の田中久仁彦さんなど、仕事をするようになってからは自分の師匠でもある入江泰浩さん、お世話になったボンズの先輩方の影響もあると思います。好きなアニメ作品は一つだけ挙げるならパトレイバーですかね、大好きでした。
——制作環境やツールへのこだわりはありますか?
実はあまりこだわってないというか…… ラフは紙またはiPad ProのProcreateで、彩色はPhotoshopのみです。ブラシも特にカスタマイズなどせずredjuiceさん作のものを使わせて貰っています。
コミケなどの同人カルチャー・二次創作の面白さ
——他の方が作曲したボカロ曲にイラストを描こうと思ったことはありますか。
個人的な趣味の範囲であれば八王子Pの曲などに勝手にファンアートとして描いた事はあります(笑)。なかなかそういう機会はありませんでしたが、興味のある方には是非依頼して欲しいと思っていました。
——昨年もコミケに出展されていますが、最初にコミケに参加されたのはいつ頃でしょうか? また、どんなきっかけでしたか?
高校生の頃だったかと思います。当時はインターネット黎明期でしたが、既に同人活動をしている知り合いが周りに何人も居たので自然と自分も、という風になりました。
——今でもコミケに出展し続けている理由は何でしょう?
仕事とは違ったスタンスで自由に作品を作ることが出来るためです。ネット越しではなく反応もダイレクトに貰えます。また、二次創作の面白さというものもあります。これが仕事にも良い形でフィードバックされるので大事な機会だと思っています。
——ボカロ動画の二次創作的な広がり(ボカロPの曲に絵師が絵を描いたり、歌い手が歌ってみたり)について、当時どのような印象を持っていましたか? ご自身の曲の「歌ってみた動画」はご覧になったりしましたか?
一応チェックはしてるんですが、自分の曲は歌いづらいのかあまり数は多くないようです(笑)。誰でも気軽に創作活動に参加出来るというのは面白い事だと思いました。
登場して10年、初音ミクについて思うこと
——他の方の初音ミクの楽曲で特に印象に残っているものはありますか?
kzさんの「ストロボナイツ」、bakerさんの「Celluloid」、maloさん「ハジメテノオト」、ryoさんの「メルト」は勿論ですが「ブラック★ロックシューター」が凄く好きでした。デッドボールPの一連のアレな曲も笑わせて貰った記憶があります。Trance的な曲といえばmikuru396さんの「melody…」、うたたP「ストラトスフィア」あたりでしょうか。
——ご自身の代表作と思う作品、あるいは特に印象に残っている作品は何でしょうか?
プラグアウト、Unfragmentあたりでしょうか。色んな方に評価して頂ける機会も多かったです。
——最後に、初音ミクが登場してから10年。大きな広がりを見せる初音ミクについて思うことを教えてください。
一過性のブームかと思いましたが、ジャンルとして定着して、今でも好きでいてくれる方が沢山いるのは非情に嬉しいことですね。あの頃知り合った方とは今でも何かしらの縁で繋がっていたりするので感慨深いです。
——お忙しいところ、貴重なお話をありがとうございました!