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初音ミクが「萌え」とトランスミュージックの融合を引き起こした!? 鼻そうめんPこと『エロマンガ先生』『俺妹』原作イラストレーター・かんざきひろさんに聞く初音ミク・ボカロ文化

三輪士郎さん、redjuiceさん、かんざきひろさんへのインタビューを終えて

執筆/森祐介(三輪士郎さん、redjuiceさん記事を担当)

 初音ミク10周年という節目に、ボカロ絵師3名を取材した本企画。最初に話をお伺いした三輪士郎さんをインタビューする中で、印象的な言葉があった。

「ボカロに限ったことじゃなく、遊ぶ余地があると思ったものに食いついていくと、楽しいことが起こる」
「ただ『面白そうだな』と思って眺めるんじゃなくて、飛び込んでみたらより面白いことが起こるし、出会いも増えて可能性が広がる」

 これは、ニコニコ動画やボカロ文化にとどまらず、同人活動全般、いや創作活動すべてにおいて通じる精神なのではないか。

 三輪士郎さんはこの言葉通り、古くはゲームセンターのコミュニケーションノートにお絵かきチャットなど、過去にさまざまな界隈でイラストを発表し続けてきた。二人目に話を聞いたredjuiceさんも同じく、お絵かきチャットやpixivで活動。三人目のかんざきひろさんは、先のふたりとは違う分野だが、自作の曲をパソコン通信で「東京BBS」「ゆいNET」などのBBS局にアップロードしていた過去を持つ。

 この3人に共通しているのは、仕事ではなく趣味として作品を投稿し、イラストを見た人、曲を聞いた人からのフィードバックという交流を楽しんでいた、ということ。実際に、3人ともがこう語っている。

「息抜きで遊ぶ余地は残したかったんですよ。同じ方向を向いた仕事ばかりしてしまうと、息が詰まってしまうので、どうしても何か息抜きをする遊び場所を残しておきたくて。別の絵柄で全然別の人と組んでみたり、すでに発表されてる曲にPVをつけたり、色々やってましたね」(三輪士郎さん)

「個人的には、メジャーだ、同人だっていう線引きはないですね」
「ボカロPとコラボして絵を描くのは楽しそうだな、そのうち自分もやりたいとは思っていたんですよ。ただ、イラストレーターのことを、それだけで生活できる仕事だと認識していなかった」(redjuiceさん)

「仕事とは違ったスタンスで自由に作品を作ることが出来るためです。ネット越しではなく反応もダイレクトに貰えます。また、二次創作の面白さというものもあります。これが仕事にも良い形でフィードバックされるので大事な機会だと思っています」
(かんざきひろさん)

 彼らには、趣味としてのアウトプットを継続していることのほかに、あと2つ共通点がある。

 まず1つは、初音ミクが生まれた10年前、創作の連鎖が無数に起こっていたボカロシーンの大きな盛り上がりの中心で活動していたということ。
 このムーブメントを語る上で外せない、大きな影響力を持ったユニットが二つある。コンポーザーのryoさんを中心としたクリエイター集団「supercell」と、ミュージシャンのkzさんによる音楽ユニット「livetune」だ。
 そして、三輪士郎さんとredjuiceさんは、イラストレーターとしてsupercell・livetune双方で活動し、かんざきひろさんはトランスミュージックのアーティストとして(Hiroyuki ODA名義で)livetuneのアルバム「Re:MIKUS」に参加していたのだ。

 2つめの共通点は、マンガ「DOGS/BULLETS&CARNAGE」や「ジョーカー・ゲーム」、「虐殺器官」など伊藤計劃作品、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない。」……それぞれが超人気作品に関わるトップクリエイターであることだ。つまり、その時代ごとの新しいものへ飛びつき、全力で楽しむという姿勢こそが、トップクリエイターたるゆえんなのだろう。そう考えると、全てが一本の線でつながる。

 常に遊び場をさがし続けていたクリエイターたちが、10年前、ボカロ動画という新しいフィールドで出会い、ジャンルを越えた大きなムーブメントを作った。そして、その人たちがそれぞれの分野で羽ばたいていき、のちに大きな仕事を成し遂げたのだと。

 今回のインタビューで驚きだったのは、メジャーデビューまで果たしたsupercellも、実は常に手探り状態、手弁当で活動をしていたとうこと。

「supercellで動画担当のマクーさんも、実は当時全くの初心者で、『フリーで使える動画ソフト探してみます』って手探りで始めてくれたんです。アフターエフェクト体験無料版を使って」「外からはプロフェッショナル集団と思われてたかもしれないですけど、その場その場をなんとかしのいできたって感じです」(三輪さん)

 コンポーザーのryoさんも、もともとプロのミュージシャンではない。大学を卒業後、電気関係の営業の仕事を派遣で6年経験。その後に転職活動をする中で、効果音を作る会社の募集要項にあったオリジナル曲を作成にあたって、名曲「メルト」を生み出したのだ。

 三輪さんのインタビュー記事を公開した際に、ryoさんは当時の状況をこうツイートした。

「新宿で終電逃してそのまま小学校の時の机みたいな席の漫画喫茶から投稿した記憶。そして翌日普通に働いてたわたし」

 多くの人からスーパークリエイター集団だと思われていたsupercellだが、実際は水面下で足をばたつかせていた白鳥だったのだ。

 ネット上の創作活動の輪に入りたいと思う人は多いが、実際に創作活動をするにあたって、自分の言葉で自分を縛ってしまう場合がある。
「忙しくて時間が足りない」「創作するためのツールが無い」「人に見せるにはまだスキルが低い」————これらの呪縛から解き放ってくれるのは、アウトプットを投稿した際に、ユーザーから寄せられるフィードバックなのだろう。そしてその声が次の創作活動の後押しになる。
 卵が先か鶏が先かではないが、かつてsupercellですら手弁当だったことを思い出し、一歩前へ進むことで、より楽しい未来が拓けるのだろう。そんなことを感じさせてくれた、インタビュー3本だった。(了)

参考文献
これぞ「プロの犯行」 鼻そうめんPが初音ミクで遊ぶワケ
BOOM BOOM SATELLITES × supercell対談


ニコニコ超会議2017 ボカロ絵師作品展」で展示を行った三輪士郎さんredjuiceさんかんざきひろさんのインタビュー記事全文を下記よりご覧いただけます。

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