コミケに集結した“海外オタクイベント代表者”たちに、国外オタク事情を聞いてみた! ロシアはコスプレ中心、香港では未だ『アクセル・ワールド』が大人気【C94】
国内外から53万人ものオタクが大集結した、2018年夏コミ。
では参加者の中に、実は海外のオタクイベントの運営を司る「国外首脳オタ」たちが視察に訪れていたことに気づいた方は、どれくらいいるだろうか?
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事の発端は、先日ニコニコニュースオリジナルで掲載した、上記の国際オタクイベント協会(I.O.E.A.)の佐藤代表のインタビューに至る。インタビュー中我々は、「世界各国から、海外イベントの重要関係者たちが今年のコミケにやって来る」と言う情報をキャッチしたのだ。
早速取材を行うことにした記者は、視察で多忙なスケジュールをこなす彼らをひたすら待ち伏せし、1人、また1人と代表者たちを捕まえ、5〜10分程度の取材を決行した。
「そんな短い時間で何が聞けたの?」と侮ることなかれ。取材を通して、「放送から6年経った2018年現在でも、香港にはアクセル・ワールド難民がさまよっている」「マレーシアのオタクたちは、Netfixで日本の最新アニメを常時チェックする」など、SNSやインターネットを介するだけではなかなか知る事のできない、現地オタたちの様子も明らかになったのだ。
そして、海外のイベントと日本のコミックマーケットでは実際にどのような違いがあるのか、そもそも同人文化は存在するのかなど、今回の視察を踏まえた上で、彼らが感じたことをストレートに伺った。
英語と日本語のみでの取材であったため、会話の粒度にこそ差はあるものの、本稿に記されているのは、日本のネットではまだ広くは知られていない証言や、オタク文化新興国の熱意そのものである。
取材、文/レオ・ハリス
取材協力/I.O.E.A.
香港:未だ冷めぬアクセル・ワールド熱
名前:Sam Yip
イベント:Creative Paradise(日本語ページ)
思い出の作品:ラブひな
自国の流行:アクセル・ワールド、ソードアート・オンライン、デート・ア・ライブ
日本のレイヤーに一言:細部へのこだわりがすごい。ネタ系レイヤーも最高!
「コミケは私たちの親なんです」
――流行のコンテンツ、アクセル・ワールドですか!? アニメも2012年ですよね、未だに流行ってるなんて思いもしませんでした。
Samさん:
そうでしょう? 香港では未だにとても人気の作品なんですよ。今でも、たまにメディアのトップ記事ランキングで名前を見かけますが、それはどんな記事だと思いますか?
――うーん……二次創作系の話題とかでしょうか? 全然わからないです。
Samさん:
実は、「アニメ二期はまだか?」という記事なんです(笑)。
――えええ(笑)。香港を彷徨うアクセル・ワールド難民たちの受け皿になっているわけですね。さて、そんな香港ですが、同人文化の盛り上がりってどんなものなのでしょうか?
Samさん:
Creative Paradiseは「ACGHK」と共同開催している香港最大規模の即売会で、今年で5年目になるのですが、初年度で9万人の動員がありました。
また、香港国内だけでなく、アジア諸国や、もちろん日本のサークルも参加しており、インターナショナルな雰囲気も帯びています。
――同人誌は、日本のようにいわゆる18禁なものがやはり多いんでしょうか?
Samさん:
Creative Paradiseでは、コミケほど多くは見かけないです。もちろんイベントによってカラーが異なりますし、香港にも熱量のあるコミュニティああるのですが、Creative Paradiseでは同人文化がより広く受容されることも意識しているので、ファミリー層や子供が来ても楽しめるイベントかどうかを重視しているんです。
――素晴らしいですね。同人誌以外にはどんなものが頒布されているんですか?
Samさん:
アクセサリーなどの小物から抱き枕、タペストリーなどのグッズや、絵師さんが多いので、イラストもかなり人気ですね。
香港では18禁系の表現に対してかなり厳しい規制があるのですが、有名絵師さんの中には、それをうまく逆手に取ってる方もいるんですよ。
香港の中では規制に違反しない範囲で、そして国外の比較的規制が緩い国では思いっきり描くことで、国内外の両方で活躍している方もいらっしゃいます。
――「海外進出」ではなく、自由に描くために、結果的に国外での活動に行き着いたと。すごい! ちなみに即売会の他にも、何か催しがあったりするんですか?
Samさん:
音楽ステージや、トークショウ、サイン会なんかがあります。日本からもアーティストやクリエイターを招いていますよ。
――より多くの層を動員させるために、様々なコンテンツを用意しているんですね。コスプレイヤーなんかもいたりするんですか?
Samさん:
もちろんです! ビリビリ動画で日本のアニメも配信されているので、いまだと血小板ちゃんのコスプレをしている方もいらっしゃいます。他には、『王者栄耀』という、WeChat(微信)を運営する騰訊(テンセント)という中国企業の作ったゲームのコスプレもかなり人気です。
――2億人もの人がプレイしていると言われているあのゲームですね。最後に、総合して、コミケとCreative Paradiseの共通点と相違点を教えてください。
Samさん:
相違点は、ステージなどのエンタメ性の違いですね。現在のコミケは即売会に特化していますが、それはCreative Paradiseではイベントの魅力の一つです。
共通点は、人です。Creative Paradiseも7月末に開催されるんですが、こういったイベントに足を運ぶ人たちの熱量は、共通していると思います。実は運営の体制も似ていて、私たちのイベントでボランティアを募っているのも、コミケを参考にしているんです。精神的に、コミケは親のような存在だと思っています。
マレーシア:Netflixで日本の最新アニメをチェック
名前: Edo
イベント:Comic Fiesta
思い出の作品:赤ずきんチャチャ
自国の流行:Waifu War
日本のレイヤーに一言:地球上で一番かわいいです
「みんな“俺の嫁”を競ってる」
――これは……ちょっと型破りな回答が出てしまいました(笑)。マレーシアではどんなコンテンツが流行っているのか、という質問だったのですが、Waifu Warとは?
Edoさん:
ごめんごめん(笑)。ただマレーシアではみんなが一つの流行に熱中するというよりも、それぞれに愛するWaifu【※】がいて、みんな「俺の嫁こそナンバーワンだ」と戦争をしているんだ。
※Waifu
Wife(嫁)を、日本人が話す英語っぽいアクセントに聞こえるようスペルし直したギャグで、欧米ではじまったポピュラーな表現。
――俺の嫁戦争、死人が出てしまいますね……っと、いきなり脱線してしまいすみません。本題に戻りたいのですが、マレーシアにも同人文化ってあるんですか?
Edoさん:
あるよ! 僕が関わっているComic Fiestaは、実はマレーシアでも最大クラスの同人誌コミュニティでもあるんだ。東南アジアでも随一の規模だよ。とはいえ、コミケの規模にはまだまだ及ばないけどね。日本と比べると、宗教や規制などの環境が異なっているから、18禁コンテンツは少ないね。
その代わりに、ステージなんかもあったりして、日本からもいろんなゲストを招待しているんだ。有名なクリエイターのトークショウとかね。
――イラストやアクセサリー、アパレルなんかが主流の欧米に比べて、実際に「同人誌」があるのは面白いですね! 続いて、コスプレイヤーについて質問です。日本とマレーシアでは、コスプレイヤーが選ぶキャラクターに違いってあるんですか?
Edoさん:
まずマレーシアでのコスプレについて説明すると、キャラ系とネタ系がだいたい半々くらいなんだ。ネタ系は日本と同じように、時事的な事柄やネットミームがメインだね。キャラ系は、ナルト、ブリーチ、ドラゴンボール、初音ミクなんかのクラシックなものから、進撃の巨人や、最新の日本アニメのキャラクターまで様々だよ。
――最新のキャラクターまで網羅されているんですね。しかしマレーシアで日本のアニメを見るとなると、やはりちょっと違法なサイトに行ったり……?
Edoさん:
いや、みんなNetflixで観ているよ! マレーシアでは、吹き替えより字幕が好まれるのも特徴的かもね。
――確かに、2016年にマレーシアでもサービスインしていますよね。最後に、総合して、コミケとComic Fiestaの共通点と相違点を教えてください。
Edoさん:
違いとしては、やはりエンタメ性かな。Comic Fiestaには即売エリアだけでなく、ステージやトーク、ファンミーティングのエリアなんかもあって、それは大きな違いだと思う。日本でいうと、ニコニコ超会議に似てるかも。
共通点はボランティアスタッフの頑張りと、あとは徹夜組の存在かな(笑)。それ自体の善悪は別として、イベントを始めた当初はそんなに熱心なオーディエンスが集まるだなんて思いもしなかった。熱は毎年高まってるよ。
オーストラリア:子どもが親を連れてやって来る
名前:Andrew Qiu
イベント:SMASH!
思い出のキャラ:成瀬川なる(ラブひな)、ルルーシュ(コードギアス)
自国の流行:僕のヒーローアカデミア、Fateシリーズ、ソードアート・オンライン
日本のレイヤーに一言:カメラマンと協力しあって作品を作っているのがすごく面白い
「イベントは友達の輪を広げるんです」
――まずは、オーストラリアの同人文化事情についてお聞かせください。
Andrewさん:
オーストラリアでも、徐々に盛り上がりを見せていますよ。特に、クリエイターたちが、デジタルアート市場でキャリアをスタートするのは最適の場所だと気づいて以降、熱量は増しています。
そして“クリエイター”ではなくとも、1人のファンとして、自分が愛する作品やキャラクターを広めたいという思い出創作活動をしている層も分厚いです。イラストが全体の6割強を占めていて、あとはアクセサリーを作っている人もいます。「同人誌」自体の数は、日本ほど多くはないですね。
――「同人誌」は中でも特にニッチなジャンルということですが、内容としては、やはり18禁コンテンツが多いんでしょうか?
Andrewさん:
SMASH!に限った話で言えば、そういったコンテンツをおおっぴらに広げることは規制しています。キャラクターでも、18歳以下と見られるものをアダルトに描くことは、国が規制しているんです。
とはいえ、公的な場では慎まれていますが、熱のあるコミュニティは存在しています。
――特に欧米では、ロリ系作品なんかへの規制は日本と比べて厳しい地域が多いですよね。続いてコスプレイヤーについてですが、日本とオーストラリアでは、コスプレの流行は似ていますか?
Andrewさん:
もちろんです! シドニーに限った話ではないと思いますが、日本以外のコスプレイヤーは、コミケなどのイベント後に上がってくる写真からコスプレのインスピレーションを受けているんですよ。
日本と同じように、きちんとフォトグラファーやロケーションを決めて、ガチガチの撮影をしているコスプレイヤーもいるんですよ。
――おー! それは日本のレイヤーさんたちが聞いたら嬉しいでしょうね! こうしたイベントに来る客層に違いはありますか? 18禁コンテンツが規制されているということは、子ども連れの家族にとってもハードルが低いように感じます。
Andrewさん:
そうですね、18歳以下の子ども達が親と一緒に来場している光景はよく見かけます。男女比も、女性が55%くらいを占めているんですよ。
――子どもが親を連れてこれるのは、とても良い環境ですね。それでは最後に、総合して、コミケとSMASH! の共通点と相違点を教えてください。
Andrewさん:
まず相違点から言うと、来場者同士のコミュニケーションが挙げられると思います。オーストラリアはいちおうアジア圏に属していますが、文化は欧米なので、趣味嗜好が似た人たち同士が集まるこうしたイベントでは、知らない人とも積極的に友達になろうとする人がとても多いです。コミケでは、そういったコミュニケーションは少ないように見えますね。
共通点は、やはりファンとコミュニティーによるイベントである、という点ですね。あとはボランティアスタッフに助けられていることも挙げられます!
カナダ:HENATAIビデオルーム…?
名前:Chris
イベント:Anime North
思い出の作品:機動警察パトレイバー
自国の流行:オーバーウォッチ
日本のレイヤーに一言:☆(アンケート記入ママ)
「45時間ぶっ通しのイベントだよ」
――カナダでは同人誌って人気があるんですか?
Chrisさん:
力を入れてるコミュニティはあるんけど、日本と比べたらかなり少ないね。カナダでは、異なる作品のキャラクターをひとつの作品に登場させるクロスオーバー系のイラストがポピュラーかな。
代わりと言ってはなんだけど、ゲームショウやコスプレコンテスト、有名クリエイターを招いてのパネルトークもあって、総合的なエンタメイベントになってるんだ。
――ということは、かなり客層の幅も広いのでしょうか? 18禁コンテンツがどのように扱われているのかも気になります。
Chrisさん:
Anime Northは全年齢対象のイベントだから、幅広い年齢層がいるよ。だからキッズプレイエリアがあったりもしてね。18禁コンテンツもあるんだけど……Anime Northは、金曜の夕方に始まって日曜日の夜まで、約45時間ぶっ通しのイベントなんだ。だからそういうものは深夜に集約されてるよ。
深夜になると、“それ系”のパネルディスカッションがあったり……あとはHENTAIビデオルームでの鑑賞会もある。
――すごい鑑賞会だ……。コスプレも盛んだと思うんですが、いまカナダではどんなキャラクターが人気なんですか?
Chrisさん:
オーバーウォッチなんかのゲームのキャラクターとか、ナルトや初音ミクもまだまだ人気だね。あとはセーラームーン! トロントはセーラームーンの英語吹き替えが制作された場所でもあるから、トロントの人にとってセーラームーンはいつも特別な作品なんだ。
ちなみにAnime Northではコスプレのコンテストもあるよ。30秒〜60秒の中で自由なパフォーマンスをして、審査員がそれをジャッジするんだよ。
――そういうストーリーがあると、作品への愛着も一層高まりますよね。それでは最後に、総合して、コミケとSMASH! の共通点と相違点を教えてください。
Chrisさん:
コミケでは“即売”にフォーカスされているけど、Anime Northでは、フィギュアやアパレル、文房具まで、キッズが好きそうなグッズなら大抵なんでも売ってるんだ。あとは、コミケでは日によってブースが入れ替わるけど、Anime Northでは入れ替わらないのも違いかな。
共通点はボランティアによって運営されていることだね。運営のノウハウは昔のSF大会から始まったものがスタートレック大会を経て、今のAnime Northに受け継がれているんだ。結果的にコミケと似た方式になったのは面白いよね。
あとはやっぱり、エキサイトしてるお客さんや、暑さとか。コミケにいると、Anime Northにいるときのようなホーム感を感じるよ。