「誰ともやり取りをしなければ通貨は不要」。 “コインチェック騒動”のような仮想通貨被害の回避方法をプログラマー小飼弾がレクチャー
ビットコインと財務諸表について
山路:
じゃあ本当にコインチェックについてわかっていることは、意外なほど少ないのかもしれないですね。
小飼:
とても不十分なんですけれども、一番不十分というのか、これがわかんなくちゃ話にならないというのは、財務諸表なんですよね。それさえ出ていれば、「実際に460億円弁済できるの?」とかというのも、一発で決着なんですけれど。
山路:
もうすべては、財務諸表の公開をどうするかにかかっているというような。
小飼:
基本的に銀行や証券会社、上場企業であれば、財務諸表を絶対に出さなければいけないでしょ? ちゃんとやらないと、監査法人が「これでOK」というふうに言ってくれないですしね。
山路:
コインチェックは非上場の企業なわけですよね。
財務諸表が公開されていないという落とし穴
小飼:
今のところは。非上場ですけれども、例えば非上場の金融サービスというのは当然あり得るわけですけれども、そういったところも、財務諸表の公開とかを求められるのは、わりと普通のことですよ。
だから、上場していないから、なにも見せなくてもOKではないです。上場していない企業でも、例えば年間の決済というのは、官報に乗せなければいけないですよね。官報に出さなければいけないんですよ。
山路:
それは金融庁の命令があるなしにということですか?
小飼:
ではなくて、「に関わらず」。それは出さなければいけないんですよね。なんですけれども、1年ですよ。仮想通貨における1年というのは、とんでもない長さじゃないですか? 預かり資産がなんぼで、自己資本がなんぼでということを、われわれは一切知らないのですよ。外から見ていて、これくらいはあるだろうと予測するしかないんですよね。
山路:
そうですね、2017年1年間でビットコインが10倍になるとかの相場の変化がありました。そういう財務諸表はあるのでしょうか?
小飼:
財務諸表はあります。ですが、あるというのと、赤の他人が知り得るか? というのは別です。金融庁は持っているはずなんですよ。あるいは「これは古いからもっと新しいのだせや」と言っている最中のはずなんですよ。
山路:
なんかそういう財務諸表とか今までの企業会計の仕組みは、仮想通貨を取引するような、あるいは取引所じゃないにしても、今後企業とかが仮想通貨を扱うようになってきたら、そのスピードで、もう今までの企業会計のやり方ではついていけなくなる可能性もありますか?
高速取引化と共に来るべき高速決算時代の幕明け
小飼:
基本は一緒なんですよ。違うのは速度だけ。
山路:
今までだったら1年単位で監査とかそういうものをやっていたのが、もっと短いスパンとかでやらないと、その実態を掴みきれなくなるということがあったりするんですか?
例えば、それこそメルカリとか、LINEなんかも、どんどん仮想通貨を取引に利用していたりしますけれども、そういうことが広まってきたら企業会計のあり方は、変わらざるを得ないのかなと思ったりして。
小飼:
変わらざるを得ないというよりも、より基本に忠実になるでしょうね。あるいは公開する速度を上げなければいけないかもしれない。今、日本だって上場企業は、4半期年4回が義務付けられていますが、かつては、半期年2回でよかったんです。
山路:
しかも、今後IT化やデジタル化というのは進んでいくわけだから、スピード的にはドンドン速くやろうと思えばできるわけですよね?
小飼:
例えば、やろうと思えば、リアルタイムでできなくもないわけですよ。なんですけれども、じゃあ、なぜリアルタイムにしていないのかと言ったら、仕分けの問題というのがありますよね?
山路:
それは売掛金とか買掛金とか、支払いサイトの違うものが混ざっているからということですか?
小飼:
そう、お金が動いたことは、リアルタイムで乗せられますけれども。それがどう目的を持ってるんですか? というのは、すぐに出てこなかったりもしますよね。
山路:
そうか、あんまり短いスパンでやっても結局、人間がそのお金の動きの意味を理解できなくなってしまう。
小飼:
人間の解釈の余地があるし、それが許されてる。
ビットコインはギャンブルなのか? 損をしない方法は?
山路:
そもそも、仮想通貨は今回のコインチェックの騒動のお陰で大分ビットコインなんか、全般的に仮想通貨下落したりとかして、みんな売りに走ってるみたいなこともあったり、相場が全体的に下がって、かなり世間的に仮想通貨を見る目が冷たくなったところもあるんじゃないか? という気がするんですけれど。
小飼:
まあ、でもそれはゴックス(Mt.Gox)の時だってそうでしたからね。ゴックスの後、1BTC1円まで下がりましたからね。
山路:
そんなに下がったんですね。「仮想通貨って結局ギャンブルなんですか?」みたいな質問が来てるんですけれど。
小飼:
これは、質問に質問で答えてしまうようで申し訳ないんですけども、逆にギャンブルでないものって何ですか?
山路:
買い物にしても、あらゆるものは、将来がわからないものを予測して、なにかするものだろうと。
小飼:
まあ、そうなんですけれども、だからこれは、ギャンブルというのをどう定義するかによりますよね。例えば国債を買うというのはギャンブルですか? それすら、負ける可能性は少ないけれどもゼロではない。ギャンブルでもあるんですよね。
山路:
国債は、それこそ日本が。
小飼:
この国はあれですよ、1945年だから72年ですね。たった72年前に踏み倒してますから! それを覚えている方も結構存命のはずなんですよ。
山路:
そうか、別にリアルとか言っても、別に法定通貨だからと言ってそれが無価値にならないとは限らないという。
小飼:
ここで定性的にギャンブルでないものっていうのは、何ですか? って言いましたけども、もう少し加えると、ギャンブルかギャンブルでないかというよりも、要はどれくらい乱高下するか? ボラティリティがどれくらいあるかですよね。
最も volatile (ボラタイル)な商品ではありますよね。1番時価総額が大きくて安定しているはずのBTCですら乱高下してますからね。
山路:
チャートで見るとすごい値動きしてますね。これも質問で来ているのが、「仮想通貨で今回のコインチェック騒動のような被害に遭わないためにはどうすればいいですか?」と。
被害に合わない極端な選択肢は無人島で自給自足?
小飼:
もう自給自足でしょう。そもそも自分以外に誰もいなければ、法定通貨であろうが仮想通貨だろうが必要ないわけですよ。
山路:
人との交流とも絶ち、無人島に行き、みたいなノリでの自給自足ですか? 人とやり取りや取引をするために通貨は必要なんですね。本当に根本的な意味で被害をゼロにするんだったら、自給自足かもしれないですけど。
小飼:
コメントで「自前でウォレットを持てばいい」とありましたけれども、じゃあその人は、そのウォレットに入っているお金をどこで使いますか?
山路:
結局どこかで使おうと思ったら、それを必ずホット(オンライン)状態にしなければいけないという。
小飼:
そうそう。
山路:
それはビットコインのまま、支払いを行うにしても、どこかでネットに繋がざるを得ないという。
小飼:
だから誰からも受け取らず、誰からももらわなければ、通貨そのものがいらないんですよ。
山路:
そうですね、仮想通貨は、やりつつも被害に合わない、被害を減らせる方法として弾さん自身が心がけていることというのは何かありますか?
小飼:
特にはないです。でも、一番楽な方法というのは、これは別に仮想通貨に限った話ではないですけれども、投資だと思って出したものは忘れちゃう。
山路:
それが元からなかったなら、価値が上がって儲かったらラッキーだし。本当に記録からも消しちゃうとマズイですけど、自分の記憶からは消しちゃうという。
小飼:
そうそう。記録にはキチッととった上で忘れちゃうと。結構ありますよ、僕こんなもん持ってたっけ? という(笑)。
山路:
「だから貯金突っ込んではいかんなー」(コメント)本当に生活するのに必要な金を突っ込むものではないですよね。
小飼:
その意味では仮想通貨というのを、仮にギャンブルだとすると、わりと入りやすいギャンブルなんじゃないかなと思うのは、コインチェックの場合は、ウォレット1本でやってましたというのが、業界人的には1番の唖然です。
でも、1番のニュースというのは、そのXEMが少しでも入っていた口座が26万口座もあったということですよね。
山路:
凄い数ですよね?26万。
小飼:
いやこれはオルトコインだけでそうで。確かコインチェックって、XEMの販売と買い取りはしてても、XEMイーターは持ってなかったはず。
山路:
XEMイーター?
小飼:
要するにオルトコインに関しては、売買はしていたけども取引所ではなかったということですね。