エディ・マーフィが黒人に嫌われている理由を評論家が解説「地位や名誉を黒人の地位向上に利用しなかった」
全米人気テレビ番組『サタデー・ナイト・ライブ』の出演をきっかけにブレイクし、数々のヒット作にも出演、今やハリウッドを代表する俳優の一人であるエディ・マーフィさん。
代表作である『ビバリーヒルズ・コップ』シリーズがWOWOWで放送されたことを受け、『WOWOWぷらすと』では映画解説者の中井圭さん、映画監督の入江悠さん、映画評論家の松崎健夫さん、ぷらすとガールズの福永マリカさんがエディ・マーフィさんの歴史を辿り、映画界にどのような影響を与えたのかを語りました。
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映画評論家が語るエディ・マーフィの特徴
松崎:
では早速ですが、エディ・マーフィの特徴を挙げていきたいと思います。一個目は『ビバリーヒルズ・コップ』で有名になったマシンガントーク。めちゃめちゃ早くしゃべるというやつです。字幕が大変だったと思うんですが、やっぱり原語を聞くと、めちゃくちゃ早くしゃべっているというのは伝わるじゃないですか。
だから吹き替えのほうがむしろ大変だったんじゃないかなと思います。あとは『ビバリーヒルズ・コップ』でもそうなのですが、詐欺師的な役というか、人をうまく騙すことによって物事をうまく進めるっていうのは、たとえば『48時間』の中でも勝手に警察手帳を借りて警察の真似をするシーンがあったりします。
『ホワイトハウス狂騒曲』という、詐欺師だったのに政治の世界にのめり込んじゃうという作品にもあるように、周りをだまくらかして状況を良くしていくという作品が多いのも特徴です。あと、特殊メイクで人種を演じわけています。『ナッティ・プロフェッサー クランプ教授の場合』、『マッド・ファット・ワイフ』などがあります。
松崎:
そして時代を彩るプロデューサーや監督と仕事をやってきているというのもあって、ほぼ毎年出演作品があるというのも特徴ですが実はここ最近は、ほとんど映画には出ていないという話ですね。
スタッフ:
『サタデー・ナイト・ライブ』も、人を騙してというキャラクターがお茶の間に根付いているから、自然とそのキャラクターのまま映画界に入って、役が定着したっていうことですよね。
松崎:
そのイメージが受け入れられたということでしょうね。次の特徴は白人の役を黒人に置き換えている作品があるということなんですけれども、たとえば『ナッティ・プロフェッサー クランプ教授の場合』は元々1963年にジェリー・ルイスが監督・主演した『底抜け大学教授』のリメイクで、元々は白人が演じていたんです。
『ドクター・ドリトル』は『ドリトル先生不思議な旅』という作品があって、そもそもイギリス人の話なんですね。白人を黒人にしちゃったっていうところがあったりして、そういうところの引き受けもあるなという感じがしています。
松崎:
『ナッティ・プロフェッサー クランプ教授の場合』に関しては、『底抜け大学教授』【※】の主演のジェリー・ルイス自身が製作総指揮に入っているので、お墨付きの上でやっているというところもポイントだと思います。
※『底抜け大学教授』
『ナッティ・プロフェッサー クランプ教授の場合』のリメイク元作品。
ピークを過ぎ、出演作もイマイチ。得た称号は「コスパの悪い俳優」
中井:
たぶん僕らの世代って、エディ・マーフィはど真ん中というか、ピークを迎えていた印象があって。でもやっぱり近年を振り返ったときに黒人スターたちが出てきている中で、エディ・マーフィって急に消えていっていうか、失速したっていう印象があります。
もちろん『ドリームガールズ』があって演技面でも再評価されてましたけれど、今までの印象通りのエディ・マーフィ像はだんだん影を潜めてきている印象があります。
スタッフ:
今までずっとコメディで4番を打ち続けてきたけど、4番を打ち続けるのは長いキャリアではなかなか難しい。
入江:
噂ですけれど業界的に少し干されたとあったんですが、あれは本当だったんですか。
松崎:
理由の一つには、『サタデー・ナイト・ライブ』もアダム・サンドラーとかいろんなスターを生み出して、その人たちの主演の映画ができたときに、目新しさでいうとエディ・マーフィというのはやっぱり経年化していくことによって、人気がなくなっていくのは当然です。
それが象徴されるのが割と近年の作品で『ペントハウス』というのがあります。エディ・マーフィが製作に入っているのですが、クレジットのトップはベン・スティラーなんです。だから自分が二番手にいくという話なんです。自分が製作をしているのに、一歩引いている位置に立っているのも特徴かなと思います。
松崎:
あとはエディ・マーフィはいろいろなトラブルがあるんですよ。一つは女性問題です。
スタッフ:
あるよね(笑)。
松崎:
一番最初の結婚は93年で2006年まで13年間結婚していたんですが、結婚する前にすでに子供が一人いるんですね。そして元奥さんと結婚する前にも長女と長男が生まれているんです。
そのあと、子供が5人できます。97年に性転換した女性の娼婦と車でイチャイチャしているところを見つかって、タブロイド紙沙汰になるんですけれど、その娼婦が自殺をして謎の死を遂げるので、何か関係あるんじゃないかっていうことで、一時期ちょっと干されるというか、見なくなった時期がありました。
それから元スパイス・ガールズのメラニー・Bとの子供ができたときに、「認知する」「しない」というので2007年に揉めたとか、いろいろありました。
エディ・マーフィ自身、出演作は選び放題だったと思うんですが、92年に『ブーメラン』という映画に出るのですが、これを最後にパラマウント社との契約が終わってしまうんです。
パラマウント社がある程度エディ・マーフィに合った作品を用意していたのが、自分で模索するようになってブレてきたんじゃないかと思われます。『ビバリーヒルズ・コップ3』は最終的に4200万ドルを売り上げたのですが、制作費が5000万ドルと下回ってしまったんです。
そのあともワーナーで『ヴァンパイア・イン・ブルックリン』という映画を作るんです。
松崎:
なぜ作ったかというと、『ドラキュラ』『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』『イノセント・ブラッド』など、ヴァンパイア映画が盛り上がっていたときに、黒人のヴァンパイア映画は面白いんじゃないか? と思って作った。
けれども1900万ドルしか入らなかったんです。
入江:
僕は『ヴァンパイア・イン・ブルックリン』でエディ・マーフィとお別れした感じがあります(笑)。
一同:
(笑)
松崎:
2007年に『マッド・ファット・ワイフ』という日本未公開の映画が出るんですが、エディ・マーフィが三役をやっていて女性や若い男性もみんな自分でやっちゃうっていう映画が出るんです。
スタッフ:
得意分野だね。
松崎:
ところがこれが制作費6000万ドルで9500万ドル売れているので、割と当たっているのですが、アカデミー賞の前日にひどかった映画に対して送られるラジー賞ってあるじゃないですか。エディ・マーフィは過去に何度もノミネートされていたんですけど、受賞には至らなかったんです。
ところがこれでついに受賞に至るのですが、どういう受賞かというと、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞の三部門獲得。しかも全部エディ・マーフィ。
スタッフ:
洒落てるね(笑)。
松崎:
その次の作品の『デイブは宇宙船』もちょっとケチがついて、この辺から日本で劇場公開されなくなっちゃうんですね。
入江:
寂しいですね。
松崎:
観ていない方も多いと思うんですが『デイブは宇宙船』というのは6000万ドルかけた制作費で回収したのは1200万ドル。しかもこの年に2度目の結婚をするんですけれども、2週間で破局しちゃうんです。
私生活でもいいことがなく、その次の年に出た『エディ・マーフィの劇的1週間』という作品も5000万ドルかけて1600万ドルしか回収していない。そのあと『シュレック フォーエバー』の声優の仕事が入って、『シュレック』シリーズは稼ぎ頭ではあるんですが、その次に出たのが、先ほど紹介した『ペントハウス』です。
一応、日本で観られる最新作としては『ジャックはしゃべれま1,000』という映画です。しゃべればしゃべるほど葉っぱが落ちていって、葉っぱが全部落ちたら命がなくなるから、しゃべれないっていう話です。これも制作費が4000万ドルで1800万ドルしか稼げませんでした。
松崎:
フォーブス誌では「ギャラをもらいすぎな俳優1位」になっています。でも実はその前の2年間、ずっと2位だったんです。「コスパの悪い俳優」といわれていたのが、ついにこの年に1位になっちゃったんですね。