昔「盗んだバイク走りだす」←カッコイイ! 最近「盗んだバイクで走り出す」← やめてください。 “不良に対する庶民の評価”今昔物語
『「不良だけど根はいい奴」という風潮は一体何なの? ろくでなしがちょっと善行を積んだだけで許されていいのか』というコラムがネットで話題になっています。コラムでは「マトモな人間だったら、世間様に不良だとか、反社会的な人物という評価を下されていない。問題のある言動をやっているから不良と呼ばれる、そういう連中が実は善人だったなんてあるわけがない」と語られています。
これを受けて、『ニコ論壇時評』では、漫画家の山田玲司氏がアシスタントの乙君氏、しみちゃん氏に、「不良に見えるけど優しい人だ」と思いたくなるのはなぜか、不良の価値観と存在が時代の流れとともにどのように変化してきたのかを解説しました。
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時代の流れとともに変化してきた不良
乙君:
映画版ジャイアンみたいな普段悪ぶってる奴が、たまに猫を助けるとものすごく良いことをしているように見える。普段お年寄りに席を譲っている地味な奴は全然褒められないのに、悪い奴がちょっとお年寄りに席を譲ったりすると、「なんかあの人、本当はいい人なんだね」みたいなギャップで得をしている。
山田:
アンフェアだと思う。たぶん、80年代には不良という文化がギリギリ残っているんだよ。80年代に不良がストリートギャングになって、そしてDQNになるんだ。要するにルールなき暴徒と化すんだよ(笑)。
それまでは社会のルールに適応できない奴は、そちら側のルールに寄り添うというのがあったんだよ。いわゆる任侠の世界だね。これは、どこか武士道なんだよ。「おやじの言うことだったら、俺行きますわ」というようなノリが、ヤンキーの世界でもあったから、「あの先輩のためだったら、俺は体を張る」みたいなのがギリギリ成立してたんだよ。
そうすると「お前筋通せよ」という話になってくる。筋を通さなければいけないのが、そもそもの不良だったんだけれども、こういうのが無理になってくる時代になる。要するに、「そういうのうぜえよな」となった。先輩から助けてもらったら、テキ屋を手伝わなきゃいけないみたいな、そういう流れがあるんだけど、今は「舎弟とかなりたくないし」みたいな。それはただの乱暴者と言うの(笑)。 仁義なきDQNの登場。
乙君:
なるほどね。今はもう仁義のなくなった不良、つまり「DQN」がいると。
「不良だけど根はいい奴」は一般庶民の願望だった?
山田:
で、不良に関して言うと「悪そうに見える人は、本当はいい人なんだ」って思いたいっていう一般庶民の夢があるんだよ。清水次郎長とか、石川五右衛門とか。 要するに、民のためにやっているんだと。例えば『天使なんかじゃない』みたいな少女漫画になると、主人公が好きになる元不良の須藤君は、ああ見えて実は雨に濡れた猫を助けるっていう女子の夢だね。
山田:
俺、格好いいヤンキーは「デビルマン幻想」ということだと思う。デビルマンは悪魔に魂を売っているけれど心の中では誰よりもヒューマンだ、という話。だから、一見悪そうで暴力的な奴だけど一番心が純粋なんだと思いたい、という気持ちです。ただしDQNは、それを受け入れる度量がないんですよ。
それは、愛情もしくは理想や助けてくれた人がいて……そういう人間的に豊かな社会だからこそ生まれる不良というのがあったんだけど、そういうものが全くない世界から登場するのは難しい。ひとことで言うと「盗んだバイクで走りだすっていうのは格好いい!」という時代から、「お前のエモい気持ちで俺のバイクを盗むなよ!」という時代に変化してしまった(笑)。
山田:
つまりバイクを盗まれる側というのは、基本的に幸せな一般人だったんだよ。幸せな一般人になれない不幸なアウトローだから、バイクを盗んじゃうわけだよ。はぐれた羊だから、「社会の犠牲者だし、生贄だから、みんなにもそういう気持ちあるよね」と言って、まあ盗まれてもしょうがないかなみたいな、余裕があった。
乙君:
そんなこと思ってたかな?
山田:
余裕があったんですよ。
今の時代に“尾崎豊”のような存在はどうするのか
山田:
だけど「ちょっと待てよ」と。「お前の気持ちひとつでバイクを盗むなよ! ガラスを割るなよ」「学校のガラスを割ったあとに、誰が掃除すんだよ?」みたいな話になってくるくらい、普通の暮らしをしている人が増えた。でも、もう普通じゃないんだよ、苦しくなっちゃった。だから、アンフェアな気持ちになるんだ。
乙君:
つまり、こう思うということは、受け取る側に余裕がなくなっている証拠だと。
山田:
許せないんだよね。だからアンフェアと言う。
山田:
だから今は「尾崎豊をどうしたらいいのか」という時代になってくるわけですよ。
乙君:
今の時代に尾崎がいたら、ひきこもってますよ!
山田:
じゃあ俺、慰めに行きます。
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