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歌い手cono×ボカロP伊根による1曲『美しい? side A』――繊細な息遣いと余白を残したバンドサウンドに注目

 今回は、conoさんが2026年2月21日に投稿した「美しい? – side A」を紹介する。自身名義作品として初めて彼女が自ら作詞を、作編曲はボカロPの伊根さんが手がけた。

文/小町 碧音(こまち みお)


 <花についた値札の価値なんて 誰がmade it up?><馬鹿みたい>。余白を残したバンドサウンドによって、鋭く、生々しい肌触りを持つ言葉を紡ぐボーカルが際立ち、羽ばたきの助走へと入っていく。英語詞を織り交ぜたフレージングと、繊細なブレスコントロールから構成された息遣いが主人公の諦観、停滞、凍てついた温度を妙にリアルなものとして伝えてくる。自分を認めることができたなら、幸せになれるのだろうか?そして、世界を愛せるのだろうか?内側へ向かってループする問いかけが曲の中を泳いでいる。

 また、空気の湿度までも感じさせるほどにリアルな質感と、仄暗い色彩設計が印象的な瀬海ひろさんによるアニメーションは見応え抜群だ。曲とビジュアルが溶け合い、一人取り残された悲しみが、はっきりとした輪郭を持って現れてきた。

 本作の骨格を形作っているのは、グリム童話『白雪姫』で知られる「鏡」のモチーフだろう。サビのラストに漂う<鏡よ 僕は美しい?>というフレーズは、あの名台詞「鏡よ、鏡、この世で一番美しいのは誰?」の残響を、たしかにまとっている。鏡に映る自分と、鏡を通さない自分。その乖離が、誰もが抱えている二面性を再現しているように思う。

 ぽつりと置かれた<売れない花ならば生まれたくなかった>という言葉にフォーカスが当たるクライマックス。conoさんの歌声と、それに呼応するバンドサウンドのダイナミズムが拮抗するサビには、思わず飲み込まれていく感覚がある。

 けれど<私をまだ救えない あぁ>と物語が示すように、この曲はハッピーエンドを選ばない。変わらない日常のなかで、ただ1枚ページが捲られていくだけ。劇的な転換を知らない私たちの毎日と、差のない温度のまま曲は終わりへ向かう。一方でアニメーションの終盤、主人公のもうひとつのやわらかな顔がふと煌めき出して、私たちを次の物語の入り口へと誘っていく。

 誰しもの内面に芽生えうる感情をゆっくりと掬い上げながら、物語としての解像度も高く保たれている本作。なお今回紹介した「side A」のほかに、YouTubeのconoさんの公式アカウントには彼女自身が出演する「side R」も公開されている。身体にロープを結び“美”を追求するロープアートという身体表現を通じて、また異なる角度から「美しい?」のテーマに迫っている点は興味深い。2作品を往復することで、「美しい?」が内包する問いの深さは、より鮮明に浮かび上がってくることだろう。

■information

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