なぜハリーポッターシリーズの映画化は成功したのか?「ナルニア」「ライラ」「ダレン・シャン」…頓挫したファンタジー映画との違い
『WOWOWぷらすと』では、10月7日から『ハリー・ポッター』シリーズと同じ魔法界を舞台にした『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』がWOWOWにて放送されることに合わせ、「ファンタジー映画」をテーマに取り上げました。
映画評論家の松崎健夫さんが、MCを務める落語家の立川吉笑さん、タレントの梨衣名さんに『ハリー・ポッター』の誕生秘話や、映画公開の2001年に起きた「ある出来事」と「ファンタジー映画のヒット」との関連性を解説します。
※本記事には『パンズ・ラビリンス』のネタバレが含まれます。ご了承の上でご覧ください。
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離婚、生活保護、うつ病……ハリー・ポッター作者の怒涛の人生
立川:
『ハリー・ポッター』シリーズの書籍はめちゃくちゃ売れていますよね。
松崎:
全世界で4億部以上売れています。作者のJ・K・ローリングさんの話をすると、1965年生まれの52歳なんですが、6歳で物語を書き始めたと言われています。昔から作家になりたかったと思うんですが、普通に暮らしていました。
1990年に当時の恋人とアパートを探した帰りの列車の中でひらめいたといろいろなインタビューで答えています。主人公のポッターという名字は子供のころ、彼女の隣の家の人の名前から取ったらしいです。ところが1990年にお母さんが多発性硬化症という難病になって看病をしなくてはいけなかった。
さらに翌年、お母さんが亡くなってからポルトガルに渡って英語の教師になります。そこで結婚します。しかし結婚後間もなく破たんしていまいます。しかも娘を身籠ってしまいます。娘を連れてイギリスに戻ってくるんですが、子育てで働けないから生活保護を受けていた。
インタビューでは「ほぼホームレスみたいな生活だった」と語っています。結局それで心労から、うつになってしまった。91年から94年までの三年間って、怒涛の人生だったんです。
松崎:
95年の30歳のときにやっと『ハリー・ポッター』の原稿が完成するんです。ところが出版社に送っても、読んでもいないんじゃないかなというくらいポンポン原稿が返ってきた。ところが翌年、中堅のブルームズベリーという出版社が興味を持って、翌年の97年に『ハリー・ポッターと賢者の石』が出版。
すると全世界で4億部を超える大ヒット。それまでホームレス同然の生活だった彼女が年収182億円。今では世界で二番目の金持ちになっています。
梨衣名:
私も作家になろうかな(笑)。
ハリー・ポッター映画が成功したのはJ・K・ローリングの介入?
スタッフ:
今までこの手の話の映画って、正直ヒット作がなかったんですよ。ある特定の年齢層、ファンには訴求力がある映画なんだけど、大勢の人がこぞって見に行くというジャンルの映画ではなかった。
松崎:
「魔法もの」みたいなジャンルはずっとあったんです。空を飛ぶほうきとか、動物と喋れるとか、過去いろいろな作品で描かれているんです。
梨衣名:
『メリー・ポピンズ』とかも……。
松崎:
そうですね。ただ魔法の世界だけで、8作品も描くというのは今まででなかったかもしれませんね。
立川:
中身がないと8本も描けないですもんね。
松崎:
実は映画化されるときには期待されていなかったんです。それもあって、J・K・ローリングが映画に口を挟んでもOKという契約だったんです。J・K・ローリングはインタビューで「映画と小説で違うのは分かっている」、「私からの要望は、本の登場人物に忠実であってほしい。その一つだけです」と言っています。
ここをコントロールできていることが、ハリー・ポッターシリーズの人気が維持できている秘訣じゃないかと思います。
立川:
軸がぶれないと言うか……。
松崎:
ストーリーは端折って変わってもしょうがないけれど、キャラクターを原作と同じように忠実に描けば、そこの埋め合わせができると思ったのが発端だと思うんです。一作目を見たときに思ったことがあって、離れ小島みたいなところに住んでいるときのシーンの絵図が、自分の頭の中に描いていたものと全く一緒だったんです。
おそらく、多くの観客がそうだったんじゃないのかな。だからウケたんじゃないのかなと思っていて、それはJ・K・ローリングの口出しがあったからじゃないかと僕は思っています。
スタッフ:
オーディションにJ・K・ローリングも参加したんですかね。
松崎:
本人は否定しているんですが、一番最初映画化されるとなったときに、「スティーブン・スピルバーグ監督と『シックス・センス』に出演していた少年と組むんじゃないか」って言われてました。しかしそれをイギリス人のキャストでやりたいということにこだわったんです。
最初はアメリカ人の監督が撮るんですが、途中からイギリス人になるんです。キャストもほぼほぼイギリス人。マギー・スミスとかアラン・リックマンなど、イギリスの名だたる俳優さんばかり。
松崎:
ショーン・コネリーとマイケル・ケイン、アンソニー・ホプキンス以外は全員出てるんじゃないかと言うくらい、イギリスの大物俳優がみんな出ているんです。イギリスを舞台にしたものですから、方言も重要だと考えたんでしょうね。そういうところも成功の一つじゃないかと思います。