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かいりきベア「ベノム」あのマーベル映画からヒントを得た。代表曲10選をご本人ががっつり解説【はじめて聴く人のためのインタビュー】

 様々な人気ボカロPの必聴曲を集めたプレイリストを基に、ボカロP本人からも様々なこぼれ話を聴く今回のインタビュー企画。
 今回登場してくれたのは、中毒性の高い楽曲で非常に幅広いリスナーから支持を集めるかいりきベアさん!
 「ベノム」「ダーリンダンス」「バグ」といったヒットナンバーは、きっとボカロ好きであれば誰しもが一度聴いたことがあるはずの超定番曲。
 そんな楽曲の生まれた背景や、かいりきベアさんご自身の作曲ノウハウからパーソナルな情報に至るまで。幅広い話題を深掘って、今回は様々なお話を聴くことができた。
 インタビューをチェックすれば、よりプレイリストを楽しんで聴けること間違いなし!

取材・文/曽我美なつめ


ネガティブと距離を取れるボカロの匿名性の強み

──かいりきベアさんは元々、ボカロPの活動以前にバンド活動の経験もあると伺いました。

かいりきベア:
 そうですね。穴が開きつつも7年間ぐらいは活動していました。バンドではずっとギターしか弾いてなかったので、ボカロでの音楽制作で作詞作曲にはほぼ初めて挑戦した形でした。当然作曲の際は楽器全部のことを考えなきゃいけなくなるんですけど、始めた当初はそれがすごく楽しかったのをよく覚えています。

──ボカロに関してはいつ頃から知っていたんでしょう。

かいりきベア:
 2007年頃からニコニコ動画でいろんなジャンルの動画を見ていて、そのうちのひとつにVOCALOIDがあった感じです。最初の数年間はリスナーとして楽しんでましたが、初音ミクのブームが来た時に「このウェーブに乗らせて頂きたい!」と思って。そこから2011年に、ボカロPとしての活動を始めるようになりました。

──リスナー時代に聴いていた、思い出の楽曲やボカロPさんなどはいらっしゃいますか。

かいりきベア:
 今ぱっと思いつくのはOSTER projectさんでしょうか。当時はバンドでギターを弾いてましたが、ボカロでは逆にバンドっぽくない曲を聴く事の方が多かったです。
 OSTERさんは作風もすごく幅広いので、こんなのも作れるんだ!って楽しみながら聴かせて頂いていました。いわゆるボカロックも聴いてはいたんですけど、どちらかというとジャンルが離れている曲の方が耳に残っていた印象ですね。

──かれこれ10年以上多くの楽曲を作られているかと思うんですが。普段楽曲を作る際は、どういった所から着想を得られることが多いんでしょう。

かいりきベア:
 日常の生活の中で唐突に降って来る事が多いですね。なのでそのアイデアをメモ帳とかに溜めて、いざ音楽を作るぞ、となった時に引っ張り出してパーツを組み合わせるみたいに作ってます。中でも後期になるにつれて、自分の人生でも「上手くいかないこと」に焦点を当てたものが多くなりましたね。その方が気持ちを込めて書けるというのもありますし、世の中的にもそういった一面を書いた曲が増えたな、という印象もあって。

──確かに近年の音楽業界全体もそうですが、中でもボカロ曲は人間のネガな感情を惜しみなく出す曲も多いように感じます。

かいりきベア:
 生身の人間が歌うより匿名性があるというか。そういう点でもボカロに適性があるんでしょうね。誰かが言いきってしまうと、ひょっとしたら他の誰かにとってはそれが嫌味みたいに聴こえる事もあるでしょうし。ボカロが歌う事でそういったフィルターなしに聴けるというか。ネガな感情との距離感をいい意味で保ちつつ、時には風刺も利いていると感じる部分もあるんじゃないかと。

──重ねて楽曲制作の中で、こだわりとして持たれているのはどんな部分でしょう。

かいりきベア:
 やっぱり元々ギタリストだったので、ギターのフレーズはかなりこだわりのあるものを作ってきました。ただ実は、一番最近の曲はギターが入ってなかったりするので…“今までの”こだわりにはなってしまうんですが(笑)

──それはご自身にとっても、非常に大きな変化だったのではないですか。

かいりきベア:
 個人的な時代の肌感として、最近の新人のボカロPさんっておそらく楽器未経験な方もかなり増えてると思うんです。パソコンだけで曲作りもできる時代ですし、あまり生のギターをガツガツ入れるような音楽自体が、これからどんどん耳馴染みも薄くなっていくかもな、と思って。なので敢えてギターを入れずに曲を完成させてみることに最近は挑戦した感じですね。

──ギターサウンド以外の面で、他にこだわられている部分などはありますか?

かいりきベア:
 あまり全曲通してのこだわりはないかもしれないです。10年ぐらいやってるとだんだん自分の性格も変わるというか、10年前にどんな感情で作ってたか、もうまったく覚えてなかったりして。改めてその頃の曲を聴くと「よくこんな曲作れたな」って思います。「ほんとに自分の曲か?」ってなるぐらい(笑)当時の自分の人生のメモ帳を見てるような気分になりますね。過去のSNSの投稿を振り返ったりブログを漁るような、そんな感覚に近いです(笑)

──楽曲制作の中で、かいりきベアさんご自身が一番楽しい作業はどういった所でしょう。

かいりきベア:
 出来上がり直前のミックス作業とかは結構楽しいです。編曲の終わり際とか。曲の作り始めの方が腰が重いというか、「このメロディーでいいのか?」みたいに決めきれない時間がすごく多くて。細かいたった一音をすごく悩んだり、作った翌日改めて聴くと「やっぱこっちの方がいいな…」ってなったりして、なかなか最初のデモが進まないんですよ。終わり際のミックスや編曲に入るともうほぼ確定しているので楽だな~ってのと、完成が見えてきたワクワクも相まって楽しい作業になりますね。

中毒性の高さに繋がる“かいりきベア節”の秘密とは?

──今回、そんなかいりきベアさんの楽曲から10曲をピックアップさせて頂きました。

かいりきベア:
 「マネマネサイコトロピック」なんかは2013年なのでもう10年前の曲になるんですけど、結構思い入れも強いかもしれないです。最近の曲との違いも含めて、リストの中でも特に聴いてもらいたい曲でもありますね。当時のボカロシーンってすごく物語調の曲が多くて、自分もそういうのを作りたいと思って制作した曲でした。お陰様で無事小説化もして頂いて、すごく思い出に残ってます。

──かいりきベアさんの曲は、いわゆるメディアミックス楽曲も非常に多い印象ですね。

かいりきベア:
 メディアミックスだと一番有名どころの「ベノム」小説化と、あとはゲーム『#コンパス 戦闘摂理解析システム』の「アルカリレットウセイ」の小説も出てますね。「アルカリレットウセイ」はコンパスのキャラクター・魔法少女リリカのテーマソングなんですけど、確かゲームリリース前に最初に公開された楽曲で。コンセプト的にも当時こういう魔法少女モノの曲を書くことはあまりなかったので、自分の投稿としても異例の曲だったかもしれないです。

 今回のリストは全体的にかなりタイアップ曲多めですね。「アイ情劣等生」もコンパスだし、「バグ」もプロセカ提供曲ですし。完全なノンタイアップだと…「ダーリンダンス」と「マネマネサイコトロピック」、あと「失敗作少女」もか。

──依頼曲やタイアップでありつつ、単体で聴いてもかならずかいりきベアさんだとわかる曲も多くて。それがやっぱりすごいなあと思ってしまいます。

かいりきベア:
 癖がでちゃうんです。個人的には癖を取り除いたりしてるつもりなんですけど…リスナーさんの方が自分の癖を把握してくださってるかもしれません。

──ちなみに、「これは自分の癖だな」って思う所はどういった部分なんでしょう。

かいりきベア:
 作ってる途中にシャビッ!ビシッ!ってなるコード進行とか、キメのリズムなんかは決まってる気がして。ブレイク感、ノリというか。そこが自分らしさかな、とは思ったりします。

──聴いていて気持ちいい、という部分でもある気がします。かいりきベアさんの曲はいわゆる“中毒性が高い”ものも多いですが、秘密はきっとこれなのかもしれませんね。

超人気曲「ベノム」…実は世界的人気の○○とも関連性あり!

──先ほど元々はリスナーだったというお話もありましたが、直近のボカロ曲もやはりいろいろ聴かれていますか。

かいりきベア:
 最近の曲も聴いてます。ただ1曲通しでというよりは一部だけをたくさん聴くスタイルなのもあって、曲名やボカロPさんを全然覚えられなくて…。今ぱっと思いつく方だと、フロクロ(Frog96)さんでしょうか。クリエイターが聴くと、より「おおっ」て思う曲をたくさん作られている印象ですね。“ミュージシャン喜ばせな曲”というか。

──ボカコレや無色透名祭といったイベントなどもやはりチェックを?

かいりきベア:
 実はその辺はまったくなんですよ…(笑)ボカロ曲は関連動画や、おすすめに出た動画にどんどん飛んで聴いていくスタイルです。なのでイベントやSNSより、ニコニコ動画やYouTubeの動画サイトを掘って聴いてる形ですね。

──ボカロ以外のコンテンツなどで興味を持たれているもの、あるいは好きなものなどはありますか。

かいりきベア:
 趣味でいくと、自分は元々マーベル映画が好きで。アイアンマンや、最近ドラマもやってたロキなんかも好きなんですが、それこそ「ベノム」も当時マーベル作品からヒントを得て作った曲なんです。「ベノム」が出た2018年って、ボカロシーンでもマーベル関連の曲が結構ヒットしてて。最初がみきとPさんの「ロキ」で、その後が「ジャガーノート」…ジャガーノートはマーベルのX-MENに出てくるキャラなんですけど。「ベノム」もスパイダーマンに出てくる悪役からヒントを得てタイトルをつけました。

──うっすらと思ってはいましたが、やはりヴェノムとも関連性があったんですね。

かいりきベア:
 ただ、検索の時に邪魔だって思われてないかすごい心配なんです。昔は検索するとマーベル作品だけしか出て来なかったのが、今半分ぐらい自分の曲が出てくるようになってて…(笑)

──(笑)でももしかしたら、そういった部分から興味を持たれる方もいるかもしれませんよ。今日、お話の言葉の節々からとても謙虚な姿勢が伺えた印象で。これまで再生数が高い楽曲も多数ありますが、そういった部分はご自身の自信に繋がらないものなんでしょうか。

かいりきベア:
 自分の中で曲のアイデアが溜まってるときは自信あるかもしれないですね。最近は全然アイデアが溜まらなくて、それで自信がないのもあるかもしれません。今までの投稿曲も、ちゃんとアイデアがあって「これはいけるぞ!」と思えたものは大体結果が出る経験が多かったので、アイデアさえあれば、という感じです。それが終わるとまた自信を失います(笑)時間の経過と共に忘れられるんじゃないか、という…。

──「ベノム」は当初からかなり自信作だった、というお話も伺ったことがあります。

かいりきベア:
 「ベノム」はまさにさっき言った形でしたね。再生数が増えてハードルがかなり高くなってしまって、もはや他人の曲みたいに思える部分もあるんですけど。なので今後はそれをいかに乗り越えていくか、という感じですね。

──まだまだこれからの抱負、目標というところですね。

かいりきベア:
 そうですね。あとは抱負というか、“かいりきベア節”をなるべく取り除いた曲も作ってみたいです。それこそ無色透名祭じゃないですけど、それに近いものを自分で実施したりとか。10年以上やってると、どうしてもアイデアも凝り固まってしまう部分もあって。その中で、自分らしくないけどいい曲だなって思えるものを作っていきたいです。

──そのお話を聴くと、一リスナーとしてはぜひ無色透名祭などにも参加して頂きたい気持ちはありますが…。

かいりきベア:
 いや~自信がなくてできないですよ。最近の若いクリエイターさんの曲はみんなクオリティがすごく高いですし、ボコボコにやられる気しかしないので…(笑)

Information

かいりきベア プレイリスト 詳細はこちら

「The VOCALOID Collection」 公式サイト

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