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ウォルピスカーターが今録りたいボカロ曲とは? 高音のルーツや「アスノヨゾラ哨戒班」裏話までディープな裏話を語るインタビュー

 様々なジャンルで人気の方にVOCALOID楽曲のプレイリストを作ってもらい、それを元にインタビューを行う本企画。
 今回はニコニコ動画出身のシンガー・ウォルピスカーターさんに登場してもらった。

 類稀なハイトーンボイスを持ち、“高音出したい系”男子として、実直な“高音”へのこだわりを掲げる「ウォルピス社」社長。
 彼の歌う「アスノヨゾラ哨戒班」動画再生数は、2023年11月現在驚異の1700万回越え。
 サイトの歌ってみたタグ内で最も再生された動画として、今なお大勢のファンに愛され続けている。

 そんなウォルピスさんが今回ピックアップしたのは、「今録音したい10曲」という非常に歌い手らしい視点でのボカロ楽曲たちだ。
 トレンド感ある曲が揃う中、それぞれの推しポイントや、ウォルピスさんらしい高音へのこだわりの原点。そしてこれまであまり語られてこなかった、意外なバックボーンにまつわる話まで。
 ディープなボカロ愛と共に、今回は様々な事を話してもらった。

高音へのこだわりのルーツ、そして代表作のここだけの裏話を語る

──ウォルピスさんとニコニコ動画の出会いはどのようなものでしたか?

ウォルピスカーター:
 僕は元々、高校時代の軽音楽部の友人に「今インターネットでこんなのが流行ってるよ」って教えてもらったのがきっかけでした。最初はサイトの使い方もよくわからず、友達から教えてもらったボカロ曲からリンクで飛べる動画しか見られなくて(笑)検索機能やランキングの見方もわからないので、その動画の関連曲をずっと聴いてましたね。

──ちなみに、それはどなたの曲だったんでしょう。

ウォルピスカーター:
 確かNeruさんで、最初に聴いたのは「東京テディベア」か「アブストラクト・ナンセンス」だったと思います。Neruさんの曲はゴリゴリのバンドサウンドで、普通にカッコいいな、と。自分もバンドをしていたので、近づきやすかったのもありますね。
 そんなボカロ曲の入口から徐々に「歌ってみた」に興味が向き始めて、中でも大先輩である灯油さんのアルバム「トモシビアブラ」の「幽霊屋敷の首つり少女」には衝撃を受けました。「歌ってみた」は楽曲のキー変更をする方も多いんですけど、その中でボカロ曲を原曲でかっこよく歌う灯油さんの存在はすごくインパクトがあって。実は元々、楽曲のキー変更が少し苦手なんです。でも灯油さんの歌を聴いて「自分も『歌ってみた』が出来るかも」って思って。男性の歌い手には無理だと思われていた原キーの歌唱に可能性が広がるのを感じて、より一層ボカロや「歌ってみた」にハマりました。元々軽音部時代もバンドのボーカルで、引退後に歌う機会がなくなっちゃったことも歌い手活動を始めたきっかけでしたね。

──ウォルピスさんといえば、やはり「アスノヨゾラ哨戒班」の印象が強いですよね。

ウォルピスカーター:
 あの曲のおかげでいろんな事が変わりました。あの動画があってこそ今の歌手活動があるので、非常に思い出深い曲なんですが…。ただ、あれは今はもう自分の手から完全に離れた動画だと思っていて(笑)ありがたいことにニコニコ動画でたくさん聴いて頂いて、大勢の方から「YouTubeでも聴きたい」というお声も頂くんですが、あれはニコニコ動画のモニュメント的存在というか(笑)2016年の一時代にあれだけ盛り上がった動画がここにあったんだよ、っていうオベリスク的な。そういう気持ちなので、あの動画に関しては僕自身ももう遠くから見守ってる感じですね。

──ニコニコ動画への愛も感じるお話、ありがとうございます。リストも拝見しましたが、直近のボカロ曲もかなり多彩に聴かれていますね。

ウォルピスカーター:
 普段まったく音楽を聴かないので、かなり意識的にチェックはしています。最近はボカロ関連のイベントもすごく盛んで、あと8年早くこういうのをやって欲しかったなってずっと思ってますね(笑)恵まれてる時代だな、と。

──ウォルピスさんは、いわゆるボカロ低迷期もダイレクトに文化の中にいらっしゃいましたよね。現在の状況も併せて、カルチャーの人気の波の高低を強く感じたのではないかと。

ウォルピスカーター:
 そうですね。僕ら歌い手は正直、既存の曲を歌わせて頂いているだけなんです。なので曲を創り出す方々が、いかに楽しく心地よく創作できる場を作るかが、シーン人気を取り戻すにはやっぱり必要不可欠で。どうしたら昔みたいに曲を作るボカロPさんにスポットが当たるかは、当時活動していた歌い手の間でもよく話題になっていましたね。

トレンド曲も満載のリスト!歌い手ならではの解像度の高い○○とは?

──今回リストには「歌ってみた」い曲が集まっていますが、その中でも先日、早速「愚作」を投稿されてましたね。

ウォルピスカーター:
 ピアノ1本の叩きつけるような激情的な音楽って、なかなか最近はない攻めた曲だなと思って。音楽って突き詰めるとマイナスの美学になるというか、こういう理屈っぽい話は本当はあまり好きじゃないですけど…(笑)それでもこの曲は最低限の楽器構成の中、ピアノの音数や音粒、ボーカルワークも本当に綿密に作られていて。ボーカルの帯域も幅広いですし、鍵盤が声の隙間をどう埋めるのかも非常に計算して作られていると感じて、これはすごい曲だな、と思いました。

──全曲に着手したい気持ちかとは思うのですが、次に歌いたいのはどの曲でしょう?

ウォルピスカーター:
 「悠久の宙に燦然と」かな。非常にドラマチックというか、劇伴的な曲というか。クラシカルな楽器構成なんですが、低音域をピアノやストリングスが担当して、それ以外はすべてボーカルというかなり尖った作りなんです。なのでおそらく本来は人間が歌えない曲なんですよ、これ(笑)一応、声域も今出る限界の音程の中には収まっているんです、天井ピッタリで。ただ最高音のロングトーンが頻出するので、難しそうだな…と思いつつ。とはいえ、誰も挑戦しない曲こそ挑みたいですよね。そういう曲に挑戦すると皆さん褒めてくれますから(笑)

──いわゆる古の「歌ってみろ」曲ですね。他の曲についてはいかがでしょう。

ウォルピスカーター:
 「未完成エゴイズム」はボカロ初心者もとっつきやすそうだなと。今でこそだいぶ知名度もあるものの、知らない人たちにはまだVOCALOIDって少し得体の知れない存在で、多少説明が必要じゃないですか。そういう方に聴いてもらう時は、まず王道のものがいいと思っていて。耳に馴染みやすいロック、ポップス要素のある曲的な。「未完成エゴイズム」にはそれが全部詰まってます。キャッチーでありつつ、ありきたりな構成じゃない所もオッてなりますね。あと非常に音が良い。プロの音楽に耳が慣れている人もすっと聴けて、「こんなカッコいい曲あるんだ、ボカロってすげーじゃん」ってなると思います。

──ボカコレでも健闘した曲ですね。その要素もやはり人気の理由だと思います。

ウォルピスカーター:
 あと、高校時代のバンドや今のワンマン然り、ボーカルにはライブがつきものなんですけど、回数を重ねる中でいろいろ失敗もあるわけですよ。で、「歌の入りめっちゃ間違えたのすごく恥ずかしかった」って実はすごくボーカリストあるあるで。「歌の入り何小節目だっけ」っていう瞬間、ずっと同じリフの繰り返しで、入りのタイミングの目印になる音もなくて、頭から小節を数えてないといけないフレーズ、みたいな。そこで歌の入りを間違えるのってボーカルとして本当に恥ずかしくて、一生忘れられないぐらいのトラウマなんですけど、今回この中にそういう曲があります。「ポンコツです!」ですね (笑)
 2番のサビの入りを聴いて、冷や汗かいた歌い手は多いんじゃないかな。コメントには「かわいい」って声も多いんですが、僕からしたら「怖ろしい事をするなあ」です(笑)ここの解像度の高さがとにかくすごいんですよ、間違い方がめちゃくちゃリアルで。これをライブで歌ったら、初めて見た人はきっと本当に間違えたと思いますね。それも含めて本当に怖いなって(笑)はやく録音したいですし、皆さんにもぜひ聴いて欲しい曲です。

──歌ってみたもそうですし、せっかくならぜひライブでも歌って頂いて…。

ウォルピスカーター:
 怖いので絶対にイヤです。あっはっはっは!(笑)

本来なら世の中に出て来ない曲もボカロなら出してあげられる

──長年ボカロを愛するウォルピスさんですが、中でもお好きなキャラはいたりしますか?

ウォルピスカーター:
 僕は結月ゆかりと紲星あかりですね。VOICELOIDがすごく好きなんですよ。普段はVOICELOIDの動画しか見てないぐらいで、逆に人間の肉声のゲーム実況の方が違和感があるというか。なので、昨今の配信者さんブームには全然ついていけないんです(笑)
 VOICELOIDって、動画で使われる立ち絵やイラストが有志によっていろいろ配布されていて。その中から好きな立ち絵を使うことや、声質の調整や台本によっても少しずつ、動画投稿者さんごとにキャラの性格や関係性が違うんです。その中から自分の理想のキャラ、理想の解釈の子たちを見つけるのも楽しいですね。

──VOICELOIDはVOCALOIDに比べ会話させやすい分、キャラ同士の関係性を描くことにも長けていそうですね。

ウォルピスカーター:
 先輩後輩や友達同士など、同じキャラでも人によってかなり関係性の幅がありますね。二次創作的というか。ボカロは基本楽曲ありきなので、キャラの関係性や会話もある程度補完が必要ですが、ボイロは実際にキャラ同士の会話シーンを見られるので。たくさんの動画から、必ず自分好みの子たちを見つけられますよ。

──ありがとうございます。お好きなボカロPさんはいかがでしょう。

ウォルピスカーター:
 今でもじん(自然の敵P)さんの曲は必ずチェックしますね。青春時代の象徴ですから。当時はいつ見てもランキングにじんさんの曲があって、夏になればこぞってみんなじんさんの曲を歌って、どの「歌ってみた」がいいか話題になって…。そういう時代だったので、未だに遺伝子に刻み込まれてます(笑)「NEO」もすぐ聴きました。曲自体のクオリティは当然どんどん上がってるんですけど、サビ終わりの展開がめちゃくちゃじんさんって感じで。カゲプロをずっと聴いてた方には伝わると思うんですけど、1番のサビの〆がすごくじんさんらしくて。胸に来るものがありましたね。

──ちなみに、お好きな楽曲の傾向などはありますか。

ウォルピスカーター:
 ジャンルというよりメロディの好みがある感じです。いわゆる歌モノを好みがちというか。かつ、親の影響もあって実は昭和歌謡も好きなんです。昔の懐かしい、わかりやすい歌謡曲的なメロディラインには惹かれますね。

──歌謡曲のお話は少し意外でした。他にもなにかご自身のルーツになるものはありますか?

ウォルピスカーター:
 比較的いろいろ受動的に取り入れるタイプなので、幼い頃から身の回りにあったものが気づけば僕を形成している感じですね。あまり家から出ない内向的な人間ですし…でも、昔から読書は好きでした。漫画も良いんですが、逆にタイムパフォーマンスが良すぎるというか。それがいいという人が最近は多いですけど、僕は長時間じっくり楽しみたいので活字を読む方が好きですね。
 ジャンルはミステリーやファンタジーを好んでます。小学生の頃は、当時人気だった宮部みゆきさんの「ブレイブ・ストーリー」を読んでました。そこから図書室に行って、ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」で読書に夢中になったりして。最近はよく「なろう小説」を読んでますよ。それこそまだ書籍化されてない作品もサイトでチェックしてます。なので今読むのはラノベ系作品が多いですね。おかげでずいぶん目が悪くなりましたけど(笑)

──貴重なお話をありがとうございました。最後に、ウォルピスさんの思うVOCALOIDの良さを総括としてお聞かせください。

ウォルピスカーター:
 一番は自由さだと思います。楽曲を作る時って、結局最後はボーカルに合わせなきゃいけない部分があると思ってて。キーの高さやブレスの位置、あと歌詞の発音とか。作曲家さんとお話してるとそのしがらみの中で曲を書いてる方も多いんですが、ボカロ曲はそれが一切ないので。自分の好きなキーでいいし、ブレスはなくてもいいし、歌詞は全部繋がってても良い。どんな無茶なボーカルワークでも絶対にVOCALOIDたちは歌ってくれるし、そこに無限の可能性が生まれると思うんです。
 人間がライブで歌えない曲なんか、本来は世の中に出ないんですよ。バンドならボーカルが止めるし、アイドルならプロデューサーが止める。でもボカロならそんな曲も世の中に出せるし、どんなに無茶な曲も絶対に「歌ってみた」をあげる歌い手はいるし(笑)本当なら日の目を見なかったはずの曲が市場に出て、いろんなジャンルに広がって。そういう自由さ、いい意味での無秩序さが、やっぱりVOCALOIDの大きな魅力ですね。

Information

「The VOCALOID Collection」 公式サイト

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