ニコニコ動画を原点とするワールドワイドシンガー・ナノが選ぶ「モザイクロール」「GALLOWS BELL」「KING」などお気に入りボカロ曲10選
多彩な分野で活躍する有名人の方々に、お気に入りのボカロ曲を10曲選んだプレイリストを制作してもらい、それを元に様々な話を聞く本企画。
今回はシンガーとして、現在もワールドワイドな活躍をするナノさんに登場してもらった。
アニメ・ゲームなど多岐に渡る作品の主題歌担当に加え、ドイツやシンガポール、台湾やジャカルタといった世界各地でのライブ公演実績を持つナノさん。バイリンガルシンガーとして確かな歌唱力を誇るナノだが、その原点はニコニコ動画に投稿された一本の「モザイクロール」歌ってみた動画だった。
彗星の如くニコニコ動画に現れ、怒涛の勢いでメジャーデビューへの道を駆け上がっていったナノ。
「VOCALOIDに出会わなければ、今“ナノ”という歌手はいない」という言葉とも併せて、これまでのシンガー人生とボカロにまつわる多数のエピソードを今回語ってもらった。楽曲と併せて、ぜひ最後まで楽しんで欲しい。
ニコニコ動画&VOCALOIDに与えられた“カルチャーショック”
──ナノさんがニコニコやボカロの存在を知ったのはいつ頃でしたか?
ナノ:
初めての歌ってみた投稿が2010年末頃なので、ニコニコ動画を見始めたのがそれより1年ぐらい前だったかな。当時はGeroさんやよっぺいさんの歌ってみた動画なんかをよく見ていました。こういった文化がそれまで住んでいたアメリカにはなかったので、すごく新鮮で面白かったんです。
特に独特だと思ったのは映像の部分ですね。音楽と併せてここまでのクオリティの映像を出す文化が、アメリカにいた頃YouTubeで見ていた動画にはなかったので「これは面白い!」と思って。動画にコメントが流れるシステムも新鮮でしたし、目から鱗ポイントが満載でしたね。
──まさに“カルチャーショック”を受けたんですね。
ナノ:
あと、「歌い手が顔を出さずに歌唱動画を投稿する」という点もすごく刺さりました。海外だと顔出しで動画をアップするのが当たり前で、顔を伏せて投稿する概念すらなかったので。でも逆に顔を隠すことで面白味が出るというか、イラストを使ってキャラクターを作る、キャラクターになりきるっている概念がすごく日本らしいな、と感じていて。
──改めて考えると不思議ですよね。歌い手さんのビジュアルイラストも、あれは本人の似顔絵でもないですし。
ナノ:
むしろ声の雰囲気にあったイラストを被る、というか。でもそれは別に隠したり嘘をつくわけじゃなくて、声優さんがアニメのキャラになるのと一緒で。ある意味そのおかげでより大勢に自分の声を届けられる文化は、やっぱり日本独特でとても魅力的だと思ってました。
──ナノさんの中には今までなかった価値観に、ニコニコ動画やボカロを介して触れたわけですね。
ナノ:
小学校の頃から歌手を目指してはいたんですが、それまでは実写アーティストとして普通に活動する、アヴリル・ラヴィーンみたいな道しかないと思っていたんです。ただそういう道を手探りでやる中で、自分の声の居場所を上手く見つけられていない実感はあって。でもニコニコ動画や「歌ってみた」と出会った事で、もしかしたらここでなら自分の居場所を見つけられるかも、と思ったんです。それで好きだった曲を英訳歌唱して実際に投稿してみたら大勢の人に喜んでもらえて、いろんなものが急に開花したような気持ちになりました。顔と声だけじゃない、自分の個性や強みを混ぜ合わせて歌として届けられる、と思えてすごく嬉しかったですね。
シンガー・ナノの出発点や海外と日本のリスナーの違いも?
──豊富な海外経験ならではのお話、大変興味深いです。一方でナノさんといえば、やはり「モザイクロール」の印象が強い方も多いのではないかと思いまして。
ナノ:
この曲に関しては本当に特別で、初めて聴いた時に心を鷲掴みにされたことを今でもよく覚えています。同時に、「英語にしたらもっとカッコいいだろうな」とも直感的に思ったんですよ。海外の人たちが好む曲だろうなって。歌詞を英訳してよりリズム感を洋楽っぽくしたら、外国の方もより馴染みやすくなって曲の良さがもっと広まるかも、と感じたんです。もちろん日本語が理解できる方も大勢いますが、やっぱり翻訳を一度通す人が大半で。そういう人たちでも歌を聴いた瞬間、曲の世界観を直に理解できたら最高だと思って、やるだけやってみよう!という感じでしたね。
──楽曲を歌唱・投稿される際にこだわったのはどういった所でしたか?
ナノ:
ただ英訳して英語で歌ってみた、ではなく「洋楽っぽく歌ってみた」所です。初めて聴いた人にも「これ洋楽だよね?」って思われるレベルを目指しました。当時も英語でボカロ曲を歌った方は他にもいたと思うんですが、よりネイティブ感を追求した部分を新しいと思ってもらえたのが、あの反響の理由だったんじゃないかと感じています。
あんなにもバズるなんて当然思ってなかったので、投稿した翌日朝見たら通知がやばくて(笑)本当に5度見したと思います。意味わかんない、って思ったのをよく覚えてますね(笑)
──まさしく人生を変えた1曲になった、と。
ナノ:
それと、同じぐらい「GALLOWS BELL」も自分にとって大切な曲です。当時この曲の洋楽風カバー動画をアップした後すぐに、buzzGさんご本人から連絡を頂いたんですよ。その頃ちょうどbuzzGさんがボカロアルバムを制作中で、有難いことに1曲そこでカバー曲を収録しませんか、って誘って下さって。そのご縁でレコード会社の方から、自分にも「アルバムを作らないか」とお声がけを頂いたんです。それがきっかけですべてが変わりましたね。
──まさに人生の分岐点になった、特別な楽曲ですね。
ナノ:
自分にとって特別な曲を作ってくださったDeco*27さんとBuzzGさんは、やっぱり今でも特別な存在です。特にBuzzGさんは今は個人的にも仲良くさせて頂いてるんですが、常に新曲を出したり、各所で活躍されていてすごいなって。BuzzGさんって自分のサウンドを貫く人なんですよね。変に流行にあわせたりしないし、そういった部分も人としてカッコいいな、と。一方でDeco*27さんは常に時代の最先端でキラキラしている印象があって、でもそれをカッコいいな、と思う方です。いろんな方と提供やコラボをしていろんな色に染まれるのに、VOCALOIDを大事にしている部分は変わらないとひしひし感じますね。
──真逆の活動形式のように思えるお二人ですが、それぞれしっかりと芯のある活動をされている印象です。またナノさんは海外でのライブ活動も多い印象ですが、その際もボカロ曲は歌ってらっしゃいますか?
ナノ:
自分でも目から鱗だったんですけど、実際に海外ライブの機会が増える中で、日本以外にもVOCALOID文化を愛している国ってたくさんあると知って。中にはアニソン以上にボカロ曲がリクエストされる国もあるぐらいなんです。そんな中で「この曲を自分が歌うことに意味がある」って感じるのは、クワガタPさんの「ヒステリ」ですね。国内より海外のファンの人気が高いんです。元の曲もカッコいいんですけど、英訳が刺さるって言って下さるリスナーさんが多くて。この曲に救われた、人生が変わった、って言って下さる方もいるぐらい。海外では大体アコースティックバージョンで歌うんですけど、この曲は絶対セットリストから外せないですね。
──海外と日本のリスナーで、支持される楽曲の傾向はやはり違うものですか。
ナノ:
違う部分もある気がしています。バンドサウンド曲の支持が高かったり、歌詞も結構しっかり聴いている方も多くて…人間味のある曲の人気が出やすいんですよね。人間が歌う方がより深みの出るような楽曲とか。「ヒステリ」や「Black Board」、あとは「Calc.」なんかも好評ですね。
ワールドワイドな活躍で経験を積み、今改めて原点回帰へ
──シンガーとして活動する中で、VOCALOIDとの関わり方の変化はありましたか?
ナノ:
一視聴者から発信側になって、曲の聴き方や探し方が変わったのは正直ありました。自分の声を活かせる曲を探す思考になるというか。自分の場合、当時は自信を持って歌える曲のジャンルが他の人より限られていると感じていて。声のレンジも低くて高音が出辛かったり、あとは英語で歌って映えるかどうかだったり。なのでいわゆる人気曲や流行の曲を即カバーすることがなかなかできなくて、それはひとつコンプレックスでしたね。
でも、それ以上に自分が好きで洋楽っぽく聴かせられる方が優先順位として大事だと思ったので。そう思えるようになってからは、いい意味で諦めがついた部分もありました。
──そういった表現の幅が許されるのも、カルチャーのひとつ大きな魅力でしょうね。
ナノ:
私、自分の事をあまり“歌い手”だと思った事がなくて。ニコニコへの投稿期間も短いですし、当時って歌い手さん同士の横の繋がりも多かったんですけど、人見知りなのでそういったコミュニティにも全然入れなくて…(笑)メジャーデビュー以降はアニメ主題歌のお仕事が増えたこともあり、結果VOCALOIDからはしばらく足が遠のいてしまったんです。
有難い一方で、本音を言えばそれにモヤモヤした時期もありました。即完した初ワンマンも、客席の大半がやっぱりニコニコ動画から来てくれた方で。その人たちのおかげで自分はデビューできて今この場に立てているので、そこは一生忘れちゃいけないと思って。今は少し離れてしまってもいつか必ずその人たちへ感謝を伝えられるように、今いる場所で頑張って自分の色を確立して、もしチャンスを頂けることがあれば戻れると良いな、ともずっと思っていましたね。
──そんな機会が、結果2020年前後に縁として巡ってきた、と。
ナノ:
一番大きかったのは、2020年にご一緒させて頂いた__(アンダーバー)さんとのイベントでしょうか。ニコニコ動画時代も__(アンダーバー)さんとのコラボでリスナーさんが増えたりしたんですけど、まさかまた10年越しにお誘い頂けるとは思ってなくて。あの機会は自分にとってもルーツを思い出すひとつのきっかけになりましたね。
──様々な縁で、現在VOCALOIDとの再会を果たせているんですね。
ナノ:
直近で初めてブラジルでライブをする機会があったんですが、その時も10年経った今でも自分のボカロカバーを愛してくれている方が大勢現地にいて。本当にVOCALOIDと出会ってよかった、出会わなければブラジルに来ることもなかったと強く感じました。
ここ数年のコロナで、ボカロ文化の熱がまたすごく復活してきてますよね。前よりもさらに進化して火がついているというか。これからのVOCALOIDの世界がすごく楽しみですし、自分も今まで以上にたくさんの愛情を込めて、日本から世界にもっともっとこのVOCALOIDという音楽を広めていきたいなと思います。
Information
「The VOCALOID Collection」 公式サイト
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