「VALUで“大儲け”はやりにくい仕組みになってる」『VALU』中の人・小飼弾氏にサービスの現状について色々聞いてみた
個人が株式会社のようにVAと呼ばれる疑似株式を発行し、売りに出されたVAを自由に売り買いできるVALUというサービスがネットで話題になっています。ビジネスチャンスと捉えた著名人がVALUを開始する一方で、詐欺まがいの方法でVAを扱っていると噂される参加者も発生しています。
上記を受けて8月21日に放送された『ニコ論壇時評』では、小飼弾氏と山路達也氏がVALUの現状について、わかりやすく解説を行いました。
VALUで“大儲け”はやりにくい?
山路:
VALUがニュースになったことの理由のひとつは「いきなり大金が儲かった」みたいなことだったりするんじゃないかと。「5000万円儲かりました」みたいな。
小飼:
確かにあれは見かけ上は、すごい数字が出てきますよね。時価総額、英語版だとMarket capという形で出ていて、僕のも、たしか10億を超えているんですよね。なんの優待もありませんが。
山路:
マジですか(笑)。
小飼:
VALUって入金の方は制限がないんですね。24時間受け付けていますし、1BTCでも振り込めます。振り込むっていう言い方も変ですけど、ビットコインなので。
なんですけども、VALUの外にお金を出す時には1営業日あたり2BTCという制限があるんですよ。こういうのもなんですけれども、普通の銀行口座のATMの出金リミットが確か50万円ぐらいですよね。
振込だと300万円とか。現在のVALUには一切そういったものというのはないですよね。だから仮に1千万儲けたとしたら、11営業日くらいかかるんですよ。そもそも、それほど大きなお金を入出金する必要はないんじゃないかっていうことでそういう制限にしているんですけれども。
山路:
意外にちょろちょろっとしか水は飛び出さないというか。
小飼:
出せない上に出金停止処分というのも実装されてますんで、こういうのもなんですけれども、VALUで大儲けしたという人というのは、未来永劫その価格でそのVAが売れるとまさか思ってらっしゃいませんよね? いっぱい売りまくれば、当然これは相場で取引するものですから、ダブつけば下がりますよね。
山路:
出金とか時間かかっている間にそういう発行しているVAの価格っていうのもどんどん下落していく。
小飼:
そういうことですね、いっぱい売ろうとすれば。こういうのもなんですけれども、大儲けしたように見えやすいけれども、実際の大儲けというのは、とてもしにくい仕組みなんじゃないかと、中の人の私が言うと、自分で自分のところの営業妨害をしているようなことを言うのもなんですけれども。
ただ見た目の数字というのは大きく見えてはしまいますね。特に2つ要因があって、実際に売買されるVAの数と自分が持っているVAの数というのは、大抵の場合ものすごい差があります。10%以上手放している方っていうのは、すごく少ないです。自分のVAを全部売ってしまう人というのは……。
山路:
この前もちょっと事件になりましたね。
小飼:
そういった方というのは滅多にいないんですよね。相場の仕組みというのを考えれば、これは至極当然で、そんなに大量にドカッと売ったら値段が下がるに決まっているじゃないですか。大抵の方というのは、自分の価値というのは少なくとも低くは見られたくないですから、少しずつ少しずつ売りに出すわけですよね。
だから急に売るのは誰も得しないのです。ただ、愉快犯というのはあり得ますし……。
山路:
場を混乱させること自体が目的なんですね。
法人よりも個人の経済活動は倫理的だった
小飼:
それが目的というのもあり得ますし、全くそういう知識がないけれども、ただ面白いからやったというのもあるでしょうね。
あるいは自分用に出たのだから、これは全部人に譲らなければいけないな、という風に思いこんじゃったので一旦売ったけれども、買い戻したという方もいらっしゃるでしょう。
そういう“足元が滑ること”に対して、わかりやすくする方向にシステムを徐々に変えていこうとは思います。が、常識的に考えて、自分を安く売ろうという人はやっぱり理解しにくいです、どんな理由であれ。
山路:
それは言ってみたら、そういう囚人のジレンマとか、ゲーム理論とかありますけど……要は長期的に取引するんじゃなかったら、一回相手を騙して逃げちゃうみたいな最適戦略がありえますよね。
小飼:
ところが出金制限といい、取引制限といい、「はい、今日やめた」っていうのができない仕組みになっているんですよね。
山路:
そういえばITmediaの岡田有花さんがやめるのに苦労したようですね。
小飼:
岡田さんも、まだ退会なさっているわけではないですね。
山路:
自分が発行したものを、買い戻したってことですよね。
小飼:
そうです。要するに初期状態に赤字を出してでも戻したということですね。その際もそういう事情が分かっていれば、岡田さんのVAを買った人は高く売りつけることも可能だったはずなんです。
ところが、買い戻したいので売値で譲ってくれませんかと言うと、売値で譲ってくれたわけですよね。こういうのもなんですけど、個人というのは下手すると法人よりも倫理的に動いてくれるものですね。
山路:
むしろ手数料とかで損しているんだからもうちょっと高く買い取ればよかったのに。
小飼:
むしろ、わかりにくいのは、どうやってビットコインを買って送金するかというところですが、すいません、ここの部分というのはVALUの外のことになってしまいますので、ここから先は我々のできる範囲を超えています。
けれども、そういう手間暇をかけてでもきちっと筋を通そうとしたわけですよね、岡田さんも、岡田さんのVAを買った人たちも。我々のシステムのまずい点もわかったけれども、それ以上に個人というのは……。
山路:
いい人が多いというか。
小飼:
おしなべて倫理的に振る舞うものだな、と思いました。
ビットコインで脱税はできるのか――実地の経験を重ねながらコンセンサスを作る
山路:
今コメントで「BTCって脱税できる?」と質問が来ました。
小飼:
そもそもBTCというのは日本も含めて、ほとんどの国ではお金ではないんですよね。Moneyではなくてthingなんです、“もの”なんですね。
なんですけど物々交換であっても実は、わらしべ長者というのは、課税対象になるんですよ。安いものを譲って高いものを得た場合というのは、その差額というのは税金を払いなさいというのが今の税法です。
山路:
株の売買でもそれで得た利益の20%は取られる。
小飼:
株の場合はそうです。株の場合は事実上すべての取引が電子化もされていますし、要はそういった数字というのがすごく洗いやすいようなこともあるので、特定口座を指定しておけば、その辺の納税作業というのは証券会社の方がやってくれるんですよね。
現状VALUはそういう風にはなっていません。だから、もしVALUで儲かった場合……儲かったというよりも利益を得た場合というのは、それに基づいた税金というのはそれを得た人が払う必要があるんですけども、実はそれがどの税区分になるというのかというのは、国税局はまだ何も言ってないんですよ。
山路:
以前、山田真哉先生と対談した時にそういうことをTAXアンサーにかけても、回答されるとそれが固まっちゃうから、まずいとおっしゃっていましたね。
ビットコイン 儲けたあとは 納税だ。“仮想通貨の納税”について公認会計士にいろいろ聞いてみた
小飼:
国税局の方もそれを分かっているみたいで、ビットコインという言い方ではなく一般論としてはこうですよというのを、仰っているだけなんですね。実際、そういった取引が市場に上るほどのビットコインが動いたというのは今年が初めてなので、今年分の確定申告をする来年の2月15日から3月15日にかけて、ということになってくる。
山路:
じゃあ、そこで儲けた人は税金を払わないといけないかも。
小飼:
例えば普通の物々交換で得た剰余の譲渡所得というのは、50万円以下というのは申告もいらないよと。贈与税の場合でも110万円を切っている場合というのは申告はいりませんよ。
山路:
「国税局は把握しているぜ。あとは実際に入るかどうかの話」みたいなコメントがきています。
小飼:
ただ、国税局の方というのも忙しいので、やはり大きな案件から扱うというのは、確かなんですよね。でも、それ以外にもランダムサンプリングというのはありますから、僕も税務調査を受けたことがありますし、修正申告もしたこともあります。
もしかして、払い足りてないんじゃないかなと思って、いろいろ調べていたら払い過ぎていたこともあった。いろいろ戻ってきたということもありますから(笑)。
小飼:
実は結構、税金というのは、この額が正しいではなくて、こういった場合はこうだからという、実地の経験を積み重ねながらコンセンサスを作っていくというのは、あるんですよ。
確定申告をしていると当たり前の知識なんですけれども、確定申告をしてない方というのは税金というのはもうバシッと決まっているもんだと。この額ならこの額なんだと。払わなければ脱税なんだと仰る方がいらっしゃるんですけど、実はそうなってないと。
山路:
決まっていない新しいことは、どんどん増えていったりもするわけですしね。
小飼:
ただそれはやっぱり、ここでVALUの中の人の立場で言うと、VALUに加わるにあたってそういったことが明らかでないというのは不安要素なわけですよ。だから、これに関しては、なるべく早く不安を取り除けるように、こういった場合にはこうするといいですよ、というのを出せるところまで持っていきたいです。
ですが、そのためには、やはり今度は日本国政府の中の人と、こういう場合はこうですか、ああいう場合はああですかと。実は金融庁とはすでに何回もやり取りをしているんです。
山路:
しかし、スタートしてから間もないのに日経新聞に取り上げられて……。
小飼:
このスピードの速さというのは慣れるしかないのかなと。覚悟はしていたんですけど、それでも速いです。