ナユタン星人 SF描写は歌詞を書くことへの照れ隠し? 『ダンスロボットダンス』はゲーム「スペースチャンネル5」、小説「ロボット三原則」をモチーフに作られた。ナユタン式作詞法を本人が解説
2016年3月に投稿されたVOCALOID楽曲『ダンスロボットダンス』。
本作は当時すでに『アンドロメダアンドロメダ』『エイリアンエイリアン』等で大きな人気を獲得していた、ナユタン星人さんの9作目となる曲だ。
2023年3月現在、本曲は彼の投稿作の中でも最も再生された楽曲となる。新旧問わず幅広いリスナーに愛される、まさに定番曲のひとつと言って差し支えないだろう。
これまでにkzさん『Tell Your World』、かいりきベアさん『ダーリンダンス』などの人気ボカロ曲の歌詞にフォーカスし、ご本人から直接楽曲や作詞の様々なエピソードを掘ってきたシリーズ企画・ボカロPの言葉。
第4回はナユタン星人さんに登場いただき、『ダンスロボットダンス』の歌詞解説を始め、ご自身の作詞や歌詞についてのこだわりをうかがった。
「ナユタン星からの侵略」をコンセプトに掲げ、現在も多くの地球人ボカロリスナーを楽曲で魅了し、精力的に「侵略」を続けるナユタン星人。
貴重なインタビューの中で聴くことのできた、作詞に関して彼が最も伝えたいこととは?
ぜひ楽曲を聴いて歌詞を追いつつ、本記事を一読してもらえれば幸いだ。
取材・文/曽我美なつめ
踊りながら楽曲制作
──まずは早速ですが、『ダンスロボットダンス』楽曲制作の経緯について伺えればと思います。
ナユタン星人:
きっかけはアプリゲーム『#コンパス 【戦闘摂理解析システム】』からの依頼ですね。ゲームのキャラクター・Voidollのキャラクターソング的な位置づけの曲として制作した曲です。ただ実は僕、この時期書き下ろしの仕事は本来断ってたんですよ。
──あれ、そうなんですか?
ナユタン星人:
当時自分にとっても勝負の時期だと感じていて、自分の世界観を作ることに注力したいと考えてたんです。ただでも、元々普段の系統とは違うロボットやAIがテーマの曲も作りたいとは思っていて。
しかもお話を頂いた際どちらかといえばキャラソン風な楽曲ではなく、あくまでナユタン星人の曲として作った上でゲームを想起させる作品で大丈夫です、と言ってもらって。それであれば自分の作風でも大丈夫だと思ったので引き受けた次第です。
──ご自身の方向性との合致があったんですね。制作の際は歌詞と楽曲どちらを先行で作られたんですか?
ナユタン星人:
同時進行ですかね。僕、楽曲を作る時って踊りながら作るんですよ。
──踊りながらですか?(笑)
ナユタン星人:
はい(笑)。踊りながら歌詞をフニャフニャ歌うんですけど、そこでとっさに出てきたメロディと言葉を拾って広げて曲を作るんです。だから人がいると作れないのが難点ですね。ナユタン星の実家にいた時期は、親が帰ってきたら作曲を中断してましたから(笑)。
歌詞には好きな作品のオマージュを盛り込みたい
──今回の楽曲で、歌詞の中でのこだわりなどはありますか?
ナユタン星人:
これはどの曲にも共通なんですが、普段から僕、日常で触れた作品でいいなって思った言葉や考えをネタとして自分の中にいっぱい溜めてるんです。それを作曲の際に盛り込むんですけど、今回は宇宙ではなくロボットの曲なので、今回しか使えないような引用をたくさん入れられたのは印象的でしたね。
──例えばどういった作品からの要素があるんでしょう。
ナユタン星人:
Bメロの「Up side Up side down~」の英語歌詞は、僕がめっちゃ好きな『スペースチャンネル5』っていうゲームの曲のノリを入れてます。あと2番のAメロの歌詞は、SF作家アイザック・アシモフの「ロボット三原則」がモチーフになってたりとか。
──なるほど!歌詞全体を見た時も、確かにここは印象的なフレーズだと感じていました。
ナユタン星人:
あとこの曲で特に好きと言ってもらえるのが、「恋とは心のバグなのさ」っていうフレーズなんですけど。これも僕が1から生み出したわけじゃなくて、P-MODELの『2D OR NOT 2D』という大好きな曲の一節を自分なりに落とし込んだものです。なのでここの歌詞が好きと思ったら、P-MODELを崇めてください。
──元作品のすばらしさありき、ということですね。
ナユタン星人:
同時に最近面白いな、と思ってるんですが、近頃『ダンスロボットダンス』を引用してくれる人も増えたと感じていて。同じ『#コンパス』のOmoiさんの『スティールユー』とか、kanariaさんの『アイデンティティ』にも「恋とは真逆のプログラム」っていう歌詞がありますよね。それも「合理とは真逆のプログラム」の引用なのかな、って思ってたんですけど。
──気配を感じる、と言いますか。
ナユタン星人:
たまにクリエイターって無意識に頭に残っているものを使ってることがあるので、そのパターンかもしれませんが(笑)。でも僕自身がいろんなものから影響を受けて作った曲が、また誰かに引用されているのを見るとやっぱり嬉しいですね。
──ご自身が創作の引用や影響の流れの中にいるからこそ、余計に嬉しく感じるんじゃないでしょうか。
ナユタン星人:
僕自身、自分が吸収してきた好きなものを詰めた作品を作りたい部分があるので。もし見つけた人がその元ネタまで好きになってくれたら、さらに嬉しいなと思いますね。
自分の「スキ」に共感してもらえる歌詞を
──お話を聞いていると、音楽に限らず様々な作品のインプットを大事にしていることがよく伝わります。
ナユタン星人:
ありがとうございます。でも逆に言うと僕の場合、自分の内面を引っ張り出して歌詞を作るのはすごく苦手なんですよ。恥ずかしくて照れちゃうというか。なのでいろんな引用や好きなものを紡いで実験的に歌詞を作っています。
──初投稿の『アンドロメダアンドロメダ』からSF的な色があったのも、そういった照れ隠しの部分もあるんですか?
ナユタン星人:
それもあるかもしれませんね。SFっていうテーマで作ることで、感情をぼかしたり無機質な歌詞でもマッチするというか。
──以前インタビューさせて頂いたカンザキイオリさんとはまったく別のスタイルで興味深いです。
ナユタン星人:
内面を出して作詞するタイプの方って、おそらくその人の気持ちや心情に聞く人が共感する場合が多いと思うんです。僕はどちらかと言うと自分のスキと思ったものに対して同じように良いと思ってもらいたい、という共感でしょうか。
──感情ではなく「スキ」への共感が欲しい、的な。共感の方向性が少し違うんですね。
ナユタン星人:
とは言え一方でちゃんと深い歌詞を書きたい欲求もあるので、双方のいいトコ取りができる所を常に探ってます。一聴した時は頭空っぽにしてノれる曲だけど、何度も聴くうちにいろんな解釈が出てくるような歌詞を書きたいですね。
「センスや経験が少なくても良い歌詞は書ける」と伝えたい
──同じ曲でもリスナーの深度によって何層もの楽しみ方がある、と。非常にテクニカルな曲作りをされている印象です。
ナユタン星人:
ただ、ここからが今日一番伝えたかった話なんですけど、結構皆さん、センスとか人生経験がないと良い歌詞は書けないっていうじゃないですか。全然そんなことないっていうのを言いたくて。
──と言いますと?
ナユタン星人:
作曲の技術や音楽理論を勉強するみたいに、歌詞も「こうするといい歌詞に感じるな」っていう自分なりの発見を蓄積すれば書けると思ってるんです。
──特別な経験がなくてもいい歌詞は書ける、作詞のハードルはそんなに高いものじゃない、ということですね。
ナユタン星人:
僕自身もたくさん曲を聴いてきて、「ここ良い歌詞に感じるな」「そう感じる原因はこの要素かもな」みたいな法則を100個ぐらい見つけて趣味で貯めてたんですけど。それを元に書いた部分の歌詞は、やっぱり好きといってもらえることが多いですね。
──もしよければ、ナユタン星人さんなりの作詞理論もいくつか教えて欲しいです。
ナユタン星人:
そうですね……「矛盾する言葉同士を1つの文章に収めると良い歌詞に感じる」というのがあって。これは以前テレビを見ていたら川谷絵音さんも全く同じことを仰っていて、「やっぱり人それぞれ作詞の法則をもってるんだ!」と感動した記憶があります。
──ギャップでインパクトを残すんですね。
ナユタン星人:
自分のセンスや経験を度外視して作詞するメリットは、一つの考えや方向性にとらわれず多彩なジャンルの作詞に挑戦できることだと思うんです。僕自身、いろんなタイプの作詞を楽しんでみたいと常々思っています。
──多彩な曲作りができるのは、やっぱり大きな武器になりますもんね。
ナユタン星人:
その中で僕の場合は宇宙・SFを共通テーマにすることで、いろんな作詞を試しても統一性が保たれていて助かってます。「ダンスロボットダンス」と同時期に出した「太陽系デスコ」や「惑星ループ」を比べても、実は宇宙というテーマ抜きだと例えば著者が違うくらい、作詞的には全然違うことをしています。
──そもそもの宇宙・SFテーマから外れたいと思ったことはないんですか?
ナユタン星人:
ありますあります。そういった欲は書き下ろしや曲提供のお仕事で満たされてますよ。最近だと悩める女の子の曲や、忍者の曲なんかも書かせてもらったりして。そういう時は「宇宙以外の引き出しが使える!」ってテンションも上がったりしますしね(笑)。
ボカロP人生でもっとも嬉しかったことのひとつ
──あわせて今回、楽曲のサウンド面や曲全体についても少しだけ触れられたら、と。こだわりなどはなにかあるんですか?
ナユタン星人:
普段曲を作る時って、「ボカロが歌って映える曲」と「人が歌って映える曲」の割合をそれぞれどのぐらいにしようか考えるんですよ。いつもはどちらも両立できるバランスを意識するんですが、この曲に関しては楽曲のロボットというテーマ的にも、圧倒的に初音ミク優先のバランスで制作しましたね。
──楽曲のコンセプトに沿う形に、ということですね。
ナユタン星人:
人が歌いこなすのは難しいかな、という感覚で作ったんですが、結果蓋を開けてみたらいろんな方が「歌ってみた」でしっかり歌いこなしていて、びっくりしました。
──またこの曲といえば、昨年リリースされたアルバム『キメラ』にも収録された大勢のボカロPによるリレーカバーも話題になりました。
ナユタン星人:
これ、ちょっとこの場で誤解を解いておきたいんですけど、動画を僕が投稿したことで「この面々を集めたナユタン星人の人望すごい」みたいなコメントがついてるんですが、僕何もしてないんですよ(笑)。
あれは企画者のはるまきごはんさんと煮ル果実さんがすごく頑張ってくださった結果実現したコラボなので……。実際のコミュ力も人望もない僕がそう思われるには荷が重すぎるので、しっかりこの機会に伝えさせてください(笑)。
──お二人の人望もそうですし、とはいえもちろんですが、楽曲自体の魅力もありきでの企画だったとも思いますよ。
ナユタン星人:
この曲を選んで頂けたことは本当に光栄でしたね。当時コロナ禍の中で「シーンを少しでも元気にしたい」というお話で、一番最初にショートバージョンが作られたんです。その段階でも完成度が高くて「奇跡が起きたな…」と思ってたんですが、『キメラ』収録のフルバージョンやMVで絵師さん動画師さんが集まったバージョンでもそれを越える奇跡が起きてて。
──奇跡の上書き更新がどんどんされていったんですね。
ナユタン星人:
何重にも奇跡が重なったんですけど、そこで自分の曲が使われていることが本当に嬉しかったですね。ボカロやっててよかったと思った時はこれまで何度もあったんですけど、その中でも上位を争う出来事だったと思います。
──1リスナーから見ても、特にMVは文字通り奇跡のコラボでした。
ナユタン星人:
それとあの企画でよかったのは、ボカロPの影の努力がとてもわかりやすく提示された部分というか。
──影の努力、ですか。
ナユタン星人:
曲調や歌詞といった目立ちやすい個性の裏で、後ろの音作りやボカロの調声なんかも実はみんなかなりこだわって差別化してるんです。でもそれって雰囲気の部分なので、よっぽどボカロを聴いている人や音楽を作る側の人じゃないと努力に気づきにくいじゃないですか。それがああやって同じ曲をアレンジして並べられると、ボカロPごとの努力がすごくわかりやすいなと思ったんです。
──音楽やボカロに詳しくなくても明らかに違いを感じられますよね。
ナユタン星人:
あそこまではっきりわかるとすごくいいな、と感じましたね。コメントを見ても「同じソフトを歌わせてもこんなに違うんだ」って気づいてもらえたりして。
すごいことですよね。同じソフトなのに聴いただけで「これはこの人の初音ミクだ」ってわかるのって。そういったボカロPの影のすごさみたいなものが伝わるのもよかったと思います。
ボカロシーンは変化の時…新たな曲を作り出したい
──最後に、今後の活動でやりたいことや挑戦したいことなどがあれば教えて下さい。
ナユタン星人:
「こういう曲があればいいのに作ってる人がいない!」っていう思いが僕の活動のモチベーションなんですが、今のボカロシーンは僕が求めてた自分の好きな曲調が増えてきてて、近頃はそれ聴いて満足しちゃって明らかに活動ペースが落ちてるんですよね(笑)。最近は逆に「もっと違うのも流行ってほしいな」って贅沢なことを思うようになっちゃって……。
その中で今までとは少し違う「こんな曲があればいいのに」という思いも沸々と湧いてきているので、それを形にしたいという漠然とした思いがありますね。
──ないなら作ればいいじゃない、と。
ナユタン星人:
そうですね(笑)。具体的にこう、というのが上手く表現できないんですが…曲を作る人だけでなくリスナーの中にもある種マンネリを感じている人もいるみたいなので、ここからまたボカロ全体の雰囲気が徐々に変わっていくんじゃないかと思います。
──まもなくボカコレも開催ですし、ここから新しいムードが出来ていくと面白くなりそうですね。
ナユタン星人:
ボカコレ、僕もいつも楽しみにしてるので。最近はルーキー部門も盛り上がってますし、先ほどの話ではないんですが、いろんな人がどんどん新たに作詞・作曲にも気軽に挑戦していって欲しいですね。
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