雑居ビルで火災が発生も避難経路を塞がれ44名が亡くなる地獄絵図… 消防法改正につながる契機となった「歌舞伎町ビル火災」を解説
今回紹介するのは、事故と災害を解説するところさんが投稿した『【ゆっくり解説】繁華街にある狭い雑居ビルで発生し未だに出火原因が不明な歌舞伎町ビル火災』という動画では、音声読み上げソフトを使用して、2001年9月1日未明に発生した「歌舞伎町ビル火災」について解説します。
ビル所有者、テナント業者のずさんな管理で被害が拡大
霊夢:
今日は歌舞伎町ビル火災事件について解説していくわ。
魔理沙:
歌舞伎町というと、都内でも屈指の繁華街だよな。
霊夢:
ええ。歌舞伎町は東京都新宿区にあって、飲食店や遊戯施設、映画館などが集中する歓楽街ね。札幌のすすきの、福岡の中洲と並んで日本三大歓楽街と称されるほどなの。
魔理沙:
すべて聞いたことがある街だ。夜でも賑やかなところだ。
霊夢:
そうね。キャバクラやホストクラブ、ガールズバー、ラブホテル、パチンコ店などが立ち並び、「眠らない街」とも呼ばれているわね。深夜でもネオンが明るく、人通りや客引きも多いわ。
魔理沙:
うんうん。ちょっと怖いところってイメージもあるよな。
霊夢:
そのためか、2000年代に入ってから生活安全条例が制定されたり、パトロールを強化してたりと対策が打たれているわ。2002年2月には防犯カメラが50台も設置され、その後は犯罪がかなり減少したと言われているのよ。
魔理沙:
へえ。自治体側もきちんと対策をしているのか。
霊夢:
反社会的勢力の拠点もあるとされているから、そういう点も考慮されたのかも知れないわね。
魔理沙:
ううむ。そういう事情もあるのか。じゃあ事故のことを詳しく教えてくれないか?
霊夢:
OKよ。この火災があったのは2001年9月1日未明のことなの。出火地点はビル3階のゲーム麻雀店「一休」の近くのエレベーター付近ね。
魔理沙:
ふむふむ。通報されたのは何時くらいのことだったんだろう。
霊夢:
119番が入ったのは、午前1時1分よ。このときは金曜日の深夜ということもあり、現場付近はたくさんの人で賑わっていたそうよ。
魔理沙:
金曜日の夜の歌舞伎町か。かなりの人出があったんだろうな
霊夢:
ええ。隊員らが現場に駆けつけると、地下2階、地上4階建てビルの4階から黒煙が上がっていたわ。当時隊長だった菊池さんは当初、「たいした火事じゃなさそうだ」と思ったそうよ。
魔理沙:
ほう。じゃあ、そんなに大きな規模の火事ではなかったのかな。
霊夢:
黒煙が小さなものだったからそう感じたらしいわ。だけど、「3階に逃げ遅れた人が20人いる」という情報が入ったことで、事態は一変したの。
魔理沙:
それは大変だ。無事に救助はできたのか?
霊夢:
それが、このビルの階段には段ボール箱などの荷物がたくさん積み重なっていて、激しく炎を上げていたの。そのため階段の隙間は障害物で埋められていて、30センチくらいしかなかったわ。救助隊は熱さで前に進めないほどだったのよ。
魔理沙:
うむ。なんとかして残っている人を助けないと。
霊夢:
菊池さんたちは防火服の中に水を入れ、熱さを堪えて進んでいったそうなの。15分かけて3階の出火元である麻雀店に辿り着くと、排煙口付近の床に10人ほどが折り重なっているのを発見したわ。
魔理沙:
うわ。なんて光景なんだ。
霊夢:
逃げられなかったのね。そこには窓が無かったため、彼らは床から高さ2メートルの壁にある排煙口から逃げ出そうとしたとみられているわ。手を伸ばすようにして亡くなっていた方もいるそうよ。
魔理沙:
そんな……。苦しかっただろうな。
霊夢:
また、4階の飲食店は燃えた跡はほとんどなかったの。「本当に火事現場なのか」と目を疑うほどだったと言われているわ。
魔理沙:
燃えた跡がなかった? じゃあ、4階に火事の犠牲者はいなかったのか。
霊夢:
ところがそうじゃないの。
魔理沙:
えっ? どういうことだ?
霊夢:
フロアには一酸化炭素中毒によって倒れたと思われる大勢の客や従業員が溢れていたの。
魔理沙:
一酸化炭素中毒か! それならば納得がいくぜ。
霊夢:
菊池さんと同様に救助に来た黒木さんによると「部屋中の携帯電話が鳴りやまなかった。心配した人からの電話に持ち主はもう出ることができなかった」と語っているわ。
魔理沙:
悲しすぎるぜ。それぞれの犠牲者に身の安全を心配してくれた家族や知人がいたんだろうな。
霊夢:
本当ね。最終的に3階の麻雀店で17人、4階の飲食店で27人もの人たちが命を落としたわ。さらに、3階から飛び降りた男性3人が重軽傷を負っているの。
魔理沙:
44人も亡くなってしまったのか。それに、けがをした人も3階から飛び降りる、怖かっただろうな。
霊夢:
考えただけで恐ろしいわよね。
魔理沙:
うむ。でも、この火災の原因が何だったのか気になる。
霊夢:
警察や消防が検証したところ、出火点は3階階段踊り場にあるガスメーターボックスの近くであることが特定されたわ。実は、このガスメーターの状態が問題だったの。
魔理沙:
ガスメーターの状態? どういうことだ?
霊夢:
ガスメーター本体はガス管から外れていて、ボックス内の底面に直立した状態で見つかったの。炎の勢いによって配管を繋ぐアルミ合金製の接合部分が溶けて落下したという説が有力よ。
魔理沙:
むむ? それの何が問題なのか、まだちょっと良くわからない。
霊夢:
アルミ合金が溶けるほどの温度に達するかという点に疑問があるのよ。放火犯が故意に外したのではという説を唱える人まで現れ、連日メディアを賑わせることになったわ。
魔理沙:
なるほど。考えられないこともないな。
霊夢:
さらに、出火時刻の前後にビルから立ち去る不審な人物がいたという目撃情報もあったそうよ。でもこれは確証がないの。
魔理沙:
うーん。じゃあ、結局出火原因は明らかになっていないということか。
霊夢:
そうなの。2021年8月30日の報道によると、3階エレベーターホールは階段への出入りを塞ぐようにつるし看板が設置されていたわ。
魔理沙:
だからお客さんは避難できなかったのか!
霊夢:
階段はビルに1つしかなかった上、幅が70センチしかなかったのよ。当時3階から4階の階段にはゴミが詰まった袋が5つ、衣装ケース3箱、店の制服計約150着、ジュースタンク、ビールケースなどがほぼ隙間なく置かれていたそうよ。
魔理沙:
ひええ。まさに閉じ込められていたんだな。
霊夢:
3階から2階へ降りる階段も同様だったわ。各階のエレベーターホールと階段の仕切りには防火扉が設置されていたけど、荷物や看板などのために閉じられない状態であったことが判明しているの。
魔理沙:
ここまで犠牲者が増えたのは、逃げ道がなかったことが大きいということか。
霊夢:
その他にも、ビル3階と4階にあったパブの防火扉が開いていたため、炎と煙の回りが早かったことが挙げられるわ。その証拠に、亡くなった44名全員の死因が急性一酸化炭素中毒だったの。
魔理沙:
なるほど。煙が外に逃げることなくビルに充満してしまったのか。
霊夢:
そういうことね。ビルの内部で火災が起きたところに、何も知らない従業員が扉を開けてしまい、空気が入ってきたことでバックドラフトが起きたわ。
魔理沙:
バックドラフト?
霊夢:
密閉された室内空間などで火災が生じてしまった際、不完全燃焼によって火の勢いは一度衰えるの。
魔理沙:
酸素が少ないから、あまりものが燃えることがないってことか。
霊夢:
そうそう。このように可燃性の一酸化炭素ガスが溜まった状態で窓やドアを開くと、熱された一酸化炭素は急速に酸素と結びつくわ。そして二酸化炭素への化学反応が急激に進み、爆発を引き起こす。これがバックドラフトよ。
魔理沙:
うわあ。まさに今回のような状態だ。それで、扉を開けた従業員はどうしたんだ?
霊夢:
その従業員はそのまま道路側の非常口から飛び降り、通報したわ。他の従業員2人は別の窓から屋根を伝って脱出することができたの。
魔理沙:
屋根を伝うのは怖いけど、助かって良かった。でも、従業員だったら避難誘導をしてほしかったという気持ちもあるな。
霊夢:
ええ。3階の麻雀店で助かった3名は、全員が事務所の窓から脱出していたのよ。当時避難誘導をしなかったことについてはもちろん指摘されているわ。
魔理沙:
うーん。パニックになったら自分のことしか考えられなくなってしまうぜ。他人を助けられるか自信がないな。
霊夢:
そうね。さらに、この時の目撃証言から4人目の生存者がいたとされているの。この人物の行方についてはわかっていないわ。
魔理沙:
うーむ。非難されたり、報道されたりするのが嫌だったのかも知れないな。
霊夢:
それもあると思うわ。
魔理沙:
むむ。この火災の規模が大きくなってしまった原因は他にもあるのか?
霊夢:
このビルには自動火災報知設備が設置されていたんだけど、誤作動が多いという理由で電源が切られていたの。
魔理沙:
なんだって? 火災報知器の意味がないじゃないか。
霊夢:
それに、4階は内装材で天井を火災報知機ごと覆い隠してしまっていたわ。
魔理沙:
火災が起きないなんて保証はないのに、そんなことをしていたんだな。でも避難器具のようなものもなかったのか?
霊夢:
さすが魔理沙。避難についてもちゃんと考えているわね。3階には避難器具が未設置だったわ。4階には設置されていたんだけど、実質的に使用できない状態だったの。
魔理沙:
使う時が来るなんて思わなかったんだろうな。管理者側の怠慢だと思うぜ。
霊夢:
私もそう思うわ。同じような雑居ビル火災として、1973年5月28日に発生した第6ポールスタービル火災があるわ。現場は同じ歌舞伎町で、東京消防庁から違法な内装や防火管理の不備を指摘、警告されていた点が似ているわね。
魔理沙:
ううむ。そのときにきちんと対策がされていれば、今回のような事故にはならなかったんじゃないか。
霊夢:
報道についても少し触れるわね。火災発生時、午前2時10分からNHKが臨時ニュースを報じ、現場からの生中継をしたわ。けれどこれは通常番組に5分程度カットインするくらいだったの。
魔理沙:
そんな遅い時間にテレビを見ている人はあまりいないよな。
霊夢:
ええ。被害がわかりつつあった2時23分から臨時ニュースによる深夜放送として、『NHKニュースおはよう日本』開始まで現場の状況を伝えていたわ。
魔理沙:
時間的にも、新しい情報を得るのは難しそうだ。
霊夢:
さまざまな放送局が中継や臨時放送などの対応をとったわ。翌日の土曜早朝も、通常の生情報番組内で内容を変更する放送局や、レギュラー番組を休止して報道特別番組を編成する放送局もあったほどね。
魔理沙:
それだけ大きな火事だったということだな。このあとはどうなったんだ?
霊夢:
この火災を契機にして、2002年10月25日、消防法が大幅に改正されることとなったわ。これにより、ビルのオーナーなどの管理者は、より重大な法的責任を負うこととなったの。
魔理沙:
防災意識を高めるきっかけになったのか。
霊夢:
ええ。自動火災報知設備の設置義務対象がより小規模なビルにまで拡大されたのよ。機器の設置基準も強化されたわ。
魔理沙:
火災の早期発見や放置対策を強化したんだな。まず、初動が大切だと思うから、当然の流れだと思う。
霊夢:
それだけじゃないわよ。消防署の立入検査の時間制限撤廃や、措置命令発動時の公表、建物の使用停止命令、刑事告発などの積極発動によっ て、これらの違反是正を徹底することにもなったわ。
魔理沙:
うむ。違反しているものを放っておいたらまた同じ事故を繰り返してしまうな。それなら、刑罰の強化をしないといけないんじゃないか?
霊夢:
魔理沙の言う通りよ。違反者の罰則は従来、「懲役1年以下・罰金50万円以下」だったんだけど、「懲役3年以下・罰金300万円以下」に 引き上げられたわ。
魔理沙:
ふんふん。他には何かないのか?
霊夢:
法人の罰則についても同様よ。「罰金50万円以下」から200倍もの「罰金1億円以下」に引き上げられたの。
魔理沙:
200倍か! それならばさすがにきちんと対応しようという気持ちになるぜ。
霊夢:
さらに、防火対象物定期点検報告制度が創設され、年1回の有資格者による点検と報告が義務付けられることとなったわ。
魔理沙:
防災についてきちんと理解している人が判断するのはとても重要なことだな。
霊夢:
まずは事故を防ぐこと、もし事故が起こった際に被害を最小限にできるように対策していかなければいけないわね。
管理側の意識の低さにより、44名が亡くなってしまう痛ましい事件でした。解説をノーカットで聞きたい方はぜひ動画を視聴してみてください。
『【ゆっくり解説】繁華街にある狭い雑居ビルで発生し未だに出火原因が不明な歌舞伎町ビル火災』
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