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連載「超歌舞伎 その軌跡(キセキ)と、これから」第十四回

 2016年の初演より「超歌舞伎」の脚本を担当している松岡亮氏が制作の裏側や秘話をお届けする連載の第十四回です。(第十三回はこちら
 
 「超歌舞伎」をご覧頂いたことがある方も、聞いたことはあるけれどまだ観たことはない! という方も、本連載を通じて、伝統と最新技術が融合した作品「超歌舞伎」に興味を持っていただければと思います。

 京都・南座にて9月3日(金)〜9月26日(日)に「九月南座超歌舞伎」の上演が決定! チケットは電話・Webにて受付中!

・九月南座超歌舞伎公式サイト
https://chokabuki.jp/minamiza/

超歌舞伎を彩る“花びら屋”

文/松岡亮

 八月南座超歌舞伎のために新たに作られた『當世流歌舞伎踊(いまようかぶきおどり)』は、歌舞伎発祥の地である京都で、初音ミクさんに歌舞伎の祖である出雲のお国を演じてもらいたいという発想から生まれました。
 そして、お国の恋人であったという名古屋山三(なごやさんざ)を、中村獅童さんが演じれば、超歌舞伎にふさわしい舞踊になるであろうという構想を、超歌舞伎のプロジェクトチームに提案したところ、各セクションの快諾を得ることができ、2018年の晩秋には執筆にとりかかりました。

小林清親「教導立志基 三十四」明治19(1886)年
出雲のお国を描いた作品で『當世流歌舞伎踊』の参考資料のひとつ。
徳川家康の子でありながら、豊臣秀吉の養子となった豊臣秀康(のちの結城秀康)が女性でありながら天下一の名声を得ているお国と、自身の境遇を比較して涙したという逸話をもとに描かれた作品。

 ミクさんのお国、獅童さんの山三に加え、お国が率いる一座の人々として、男歌舞伎、女歌舞伎が登場するレビュー風の華やかな舞踊にという考えのもと、台本が具現化していくなかで、男歌舞伎には中村蝶紫さん、澤村國矢さん、女歌舞伎には、女流の日本舞踊家さんに出演をお願いすることになりました。ちなみに、この〝男歌舞伎〟〝女歌舞伎〟という役名は、男の歌舞伎役者、女の歌舞伎役者という意味です。

八月南座超歌舞伎『當世流歌舞伎踊』 (ⒸNTT・松竹P/Ⓒ超歌舞伎)

 ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、南座の超歌舞伎公演以前に、藤間勘十郎師が演出、振付を担当している歌舞伎公演には、女流の日本舞踊家さんがたびたび出演して下さっていました。
 こうしたこれまでの流れがあって、超歌舞伎への出演に結びついていったわけですが、せっかく出ていただくのであれば舞踊の演目だけでなく、『今昔饗宴千本桜』にもぜひということで、〝千本桜の精霊〟という役が誕生しました。

『夏祭版 今昔饗宴千本桜』(2020年)
『夏祭版 今昔饗宴千本桜』(2020年)

ファンに愛される花びら屋

 南座超歌舞伎公演の初日が開いてしばらくのちのこと。超歌舞伎ファンの皆さんのSNSでの交流のなかで、女流の日本舞踊家さんにも屋号をという声があがり、いくつかのアイデアのなかから「花びら屋」という屋号に定まりました。
 舞台をご覧いただいたお客様から自発的にこうした動きが生まれるところが、超歌舞伎の特色であり、そんなファンの皆さんに支えられている超歌舞伎だと、いつも痛感させられています。
 南座に出演して下さったのは、花柳まり草さん、藤蔭静寿さん、坂東はつ花さん、花柳女雛さん、若柳弥天さん、藤間勘知恵さんですが、所属する流儀の異なる皆さんが、勘十郎師の厳しくも愛のある指導のもと一致団結し、ミクさんとはまた趣きのことなる華やかさを超歌舞伎に加えてくださいました。
 昨年の『夏祭版 今昔饗宴千本桜』、今年の幕張超歌舞伎と、2019年の南座公演以降、花びら屋の皆さんの出演は定着し、踊りの場面のみならず、立廻りにも加わっていただくなど、活躍の場を広げ、いまではすっかり超歌舞伎に欠くことのできない存在になっています。

八月南座超歌舞伎『當世流歌舞伎踊』 (ⒸNTT・松竹P/Ⓒ超歌舞伎)

 この花びら屋の皆さんの活躍をみるにつけ、思い起こされるのは、江戸時代に女性でありながら、歌舞伎を演じていた人々の存在です。いわゆる〝御狂言師(おきょうげんし)〟と呼ばれた人々がそれで、江戸城の大奥を始め、大名屋敷に出入りして、気軽に芝居見物に出かけることのできない人々のために、仮設の舞台で歌舞伎を演じていました。
 この御狂言師たちは、いずれも当時活躍していた歌舞伎役者の弟子であり、普段は踊りの師匠としても活躍しました。たとえば、江戸後期に活躍した名優で、舞踊も得意とした三代目坂東三津五郎(1775~1831)の弟子であった二代目坂東三津江(1821~1919)は、『京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)』の伝承で大きな役割を果たし、三代目三津五郎の『道成寺』を現代へと繋げました。
 御狂言師のように、歌舞伎の伝承に大きな役割を果たした女性たちが存在したことは、もう少し注目されても良いかと思います。そしてまた、花びら屋さんの皆さんが現代の御狂言師のような存在になってくれればと願うばかりです。

歌川国貞「江戸花見尽 飛鳥山 山桜八重一重」天保中期頃(1834~1836)
江戸の桜の名所と美人を描いたシリーズのひとつで、鬘下地(かつらしたじ)とよばれる、鬘をかけやすい独特の髪型を結っていることから、この美人が御狂言師であることがわかる。御狂言師が稽古をしているのは、後ろにならぶ小道具類から『娘道成寺』と推測される。

花びら屋の皆さんが語る「超歌舞伎」

 さて、今年の幕張超歌舞伎公演のあい間をぬって、坂東はつ花さん、藤蔭静寿さん、藤間勘知恵さん、藤間勘松音さんに、超歌舞伎に出演しての感想を伺いました。

『御伽草紙戀姿絵』(2021年)

 南座に出演された、はつ花さん、静寿さん、勘知恵さんの皆さんは、「とにかく楽しかったです」というのが共通しての感想で、「獅童さんを始めとした一座の皆さんがやさしく気をつかって下さって、気持ちよく舞台を勤めることができました」と語ってくれました。
 また、はつ花さん、静寿さんは、歌舞伎俳優の皆さんが短期間のお稽古で、振りや動きを覚えていく集中力の凄さと、歌舞伎俳優と日本舞踊家の違いを実際の舞台で共演することによって感じることができたと、振り返ってくださいました。
 一方、勘知恵さんは、自分の至らない点が多く落ち込むことも多かったものの、経験豊かな先輩たちから的確なアドバイスと励ましを受けて、千穐楽まで無事に勤めることができたと語ると、はつ花さん、静寿さんは、勘知恵さんのひと月の成長ぶりを賞賛していました。
 その上で、勘十郎宗家の直弟子ではないにもかかわらず、お稽古をつけていただき、千穐楽には「成長したね。」と優しい言葉をかけていただいたことが何よりも嬉しかったですと、にこやかに語ってくれました。
 昨年の『夏祭版 今昔饗宴千本桜』が、超歌舞伎の初出演となった勘松音さんは、初めての経験することばかりで、同じ宗家藤間流の勘知恵さんからアドバイスを貰いながら、舞台にのぞみましたと語り、配信で数多くの友人たちに観てもらうことができ、反響も大きかったですと明かしてくれました。
 そして、幕張メッセイベントホールのような大きな会場で踊ることは少ないだけに、超歌舞伎への出演が本当に身になる貴重な体験になっていますというのが、この四人の皆さんの一致した言葉でした。
 今年の『御伽草紙戀姿絵』の前半では九條の廓の美しい新造として、後半では妖艶な女郎蜘蛛の眷属(けんぞく)として、皆さん奮闘して下さいましたが、本編での活躍はもとより、カーテンコールで晴れやかな表情で踊られる姿に感銘を受けた方も多いかと思います。

『御伽草紙戀姿絵』(2021年)

 勿論、〝九月南座超歌舞伎〟にも花びら屋の皆さんにご出演いただきます。『御伽草紙戀姿絵』はもとより、『都染戯場彩(みやこぞめかぶきのいろどり)』でも、存分に活躍していただきますので、乞うご期待ください。
 また、女流舞踊家の皆さんの超歌舞伎での活躍はもとより、日本舞踊の世界で活躍されている様子にも注目していただければと思います。

執筆者プロフィール

松岡 亮(まつおか りょう)

松竹株式会社歌舞伎製作部芸文室所属。2016年から始まった超歌舞伎の全作品の脚本を担当。また、『壽三升景清』で、優れた新作歌舞伎にあたえられる第43回大谷竹次郎賞を受賞。NHKワールドTVで放映中の海外向け歌舞伎紹介番組「KABUKI KOOL」の監修も担う。


■超歌舞伎連載の記事一覧
https://originalnews.nico/tag/超歌舞伎連載


 

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